2020年12月20日日曜日

今年面白かった社会学論文10選(2020)

昨年も 2019年に出会った論文で面白かったものの10選を載せたが、今年も独断と偏見で選んだ2020年版の10選を紹介することにした。2020年に出版されたものではなく、あくまで私が今年読んだものの中で、「面白い!」と思った論文である。なお、10選の中には最後に一冊だけ本が入っている。紹介の順番に特に大きな意味はない。

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Legewie, J. (2018). Living on the edge: neighborhood boundaries and the spatial dynamics of violent crime. Demography, 55(5), 1957-1977.

地理空間における社会的境界 (e.g., 黒人が多く住んでいる近隣と白人が多く住んでいる近隣の境)は物理的境界(e.g. 幹線道路)や政治的境界(e.g., 州境)とは異なることがしばしばある。エスノグラファーたちの数々の調査では社会的境界が存在し、社会的境界線上での生活が社会的境界の中での生活と比較して特殊な可能性を示唆してきた。にも関わらず、これまでの社会人口学研究では近隣(neighborhood)を独立した個々のユニットとみなし、近隣と近隣との社会的境界の特殊性について考えることは稀だった。

社会的境界を定義(測定)することは可能だろうか?また社会的境界上では争いごとや犯罪が起きやすいのだろうか?論文ではアメリカの大都市における人種・エスニシティごとの住み分け現象を事例に、地理空間上での人種・エスニシティ間の社会的境界の測定をし、社会的境界上では犯罪が起きやすいことを実証する。具体的にはAreal Wombingという地理空間分析の手法を用いて、シカゴの約4万の国勢調査細分区(Census block)と隣接細分区との人種・エスニシティ比率の差から、細分区レベルでの社会的境界値(Boundary likelihood value)を算出する。細分区レベルでの2011年の犯罪発生件数データを従属変数とし、社会的境界値を独立変数として、負の二項回帰モデルを推定する。分析結果として、社会的境界値は犯罪件数に正に関連することがわかった。またこの犯罪との正の関連は黒人と白人の社会的境界で最も強く、黒人とヒスパニックの社会的境界では弱く、白人とヒスパニックの社会的境界では確認されなかった。

この論文はイントロと先行研究レビューが素晴らしくうまく書けていて、惚れてしまった。ちょっと私の紹介の仕方では面白さが伝わらなかったと思うので、是非上記リンクをクリックして読んでいただきたい(論文はオープンアクセス)。

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Skopek, J., & Passaretta, G. Forthcoming. Socioeconomic Inequality in Children’s Achievement from Infancy to Adolescence: The Case of Germany. Social Forces.

親の社会経済的地位に基づく学力格差(SES学力格差)はいつ生じるのであろうか?この論文では、ドイツの教育パネルデータを組み合わせて擬似コホートを作成することで、生後6ヶ月から15歳までのSES学力格差の推移を推定している。もちろん、全ての発達段階で同じテストをしても意味はないので、例えば生後6ヶ月のwaveでは感覚運動機能の発達を測定し、小学校以降のwaveではより高度な学力テストをし、各waveでスコアを標準化する方法をとっている(論文のほとんどが方法論に割かれている)。分析結果として、SES学力格差は幼稚園に入学する5歳までの間に開き、幼稚園に入学してからは安定して推移することがわかった。著者らは幼稚園を含む学校が、学力格差拡大を抑制しているという解釈をしている。

米国と英国を中心にSESに基づく学力格差の推移に関してはたくさん論文が出ている。私も一本米国のデータを使った研究を投稿中(セカンドラウンドの査読中)である。ただ、私の論文も含め、ほとんどの研究が幼稚園入学以降(5歳以降)の学力格差の推移の研究となっており、幼稚園入学以前とをカバーする研究は少ない。この論文の一押しポイントは幼稚園入学以前も射程に入れて、学校教育開始以前に学力格差が開くことを明らかにしたことだ。

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近年は「環境難民」などの用語がセンセーショナルにメディアで語られるが、地球温暖化と移住はどうリンクしているのだろうか?著者らはタイ北東部のナンロン地域における51の集落の住民の移住パターンを、同地域の気候データや土地利用のデータと紐付け、気候変動、土地利用、移住、帰還移住の関係に関するAgent Based Modelをたててシミュレーションする。分析の結果として、気候変動による干魃、洪水等の環境変化は移住(out-migration)自体には大きな影響を与えないが、移住後の帰還移住(return-migration)を低減させることで人口減(depopulation)につながることを明らかにした。

この論文は移住を研究することを主目的とした調査としては最大規模のナンロンプロジェクト(Nang Rong Project)の研究代表チームの論文である。ナンロンプロジェクトは1984年から2000年まで続いたナンロン地域の51の集落の5万人を超える住民の悉皆調査・縦断調査で、家族ネットワークに関する情報も集められ、住民が移住した場合、移住先でのフォローアップ調査も行われている。さらには、衛生写真を利用した農地利用の地理情報、気候に関する情報とも結び付けられているので、気候変動と移住に関する様々な研究が可能となっている。

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Catron, P. (2016). Made in America? Immigrant occupational mobility in the first half of the twentieth century. American Journal of Sociology, 122(2), 325-378.

20世紀初頭に米国に移住した南欧・東欧系移民のサクセスストーリーを説明するにあたっては、当時拡大しつつあった製造業の内部労働市場での上昇が暗黙の前提とされてきた。論文では、この暗黙の前提を検証するため、20世紀前半に東欧・南欧系の移民を多く雇っていた3つの大・中小の製造業企業(その一つはあのフォード社)で20世紀前半に雇用されていた従業員の企業内で職歴データが分析され、東欧・南欧系の移民の内部労働市場での上昇は実はほとんどなかったことが示されている。

20世紀の前半に米国に移住した低スキルの移民の「同化」には製造業の拡大という時代効果(period effect)が強く想定されてきており、逆に現代の低スキルの移民の「同化」の失敗を説明する際には20世紀前半との産業構造の違いが挙げられることが多いが、これらのストーリー自体が正しくない可能性を検討するべき時にきている。

この論文で一番気に入ったポイントは既存の移民統合の理論(特に「新しい同化理論」と「分節化された同化理論」)の暗黙の前提を明らかにし、その前提が成り立たないことをデータを用いて批判していることである。また、たった3つの製造業系の企業のケーススタディーから、このような理論的インプリケーションを引き出すのは、とても深い先行研究の理解が必要だと思った。

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Connor, D. S. (2019). The Cream of the Crop? Geography, Networks, and Irish Migrant Selection in the Age of Mass Migration. The Journal of Economic History, 79(1), 139–175. 

19世紀半ばから20世紀初頭にかけてアイルランドから米国へは400万人ほどが移住したとされ、この間にアイルランドの人口は大幅に減少した。米国へ渡ったアイルランド人はどういう人たちだったのか?この疑問に答えるため、著者は1901年のアイルランド国勢調査を、1910年の米国国勢調査および1911年のアイルランド国勢調査にフルネームと年齢を使ってリンクし、アイルランドから米国への移住における社会経済的セレクションを分析した。分析結果として、1901年の時点で父職農業、農業生産性の低い地域に居住、父が非識字者、アメリカに既に移住がそれまでに多かった地域に居住していた者がアメリカに移住しやすいことを示してある。

この論文のすごいところはやはりアイルランド国勢調査と米国国勢調査をリンクして国をまたぐパネルデータを構築したことだろう。10年ほど前から、技術的な革新(OCR、機械学習的マッチング手法の導入 etc.)で、デジタル化されておらず、かつスペルや年齢で誤差が多い国勢調査、税金の記録、船の乗客名簿をデジタル化し、名前や年齢の情報を使ってリンクして、パネルデータを構築する試みが急速に増加していて、この論文も数あるそういう論文の一つではある。とはいうのものの、国をまたぐデータの構築は珍しく、おそらくデータ構築だけで死ぬほどの努力が必要だったものと想像される。

なお、この論文の著者は地理学者(地理学PhD)で、ジャーナルは経済学である。なので社会学の論文ではないが、著者の方は社会学系のジャーナルにも出していて、とても尊敬しているので、ここで紹介することにした。

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Lu, Y., Liang, Z., & Chunyu, M. D. (2013). Emigration from China in Comparative Perspective. Social Forces, 92(2), 631–658. 

中華人民共和国福建省は歴史的に大量の移民を世界各地に送り出している地域として知られる。本論文は1970年代後半から2000年代前半の福建省からの国際移住における移民のセレクションを調査・分析している。特筆するべきは欧州への移住が主流の福建省明渓県と、米国への移住が主流の福建省福州市という同じ福建省の二つの異なる地域からの移住を比較していることである。分析結果として、移住に関する理論が指摘するように、欧州と米国どちらへの移住でも家族や村の移住ネットワークが重要なこと、政治的資源(村や家族での地方共産党幹部との繋がり)へのアクセスが正に効くことが示されている。また、移住への制約が小さい明渓県からヨーロッパへの移住では学歴によるセレクションが皆無なのに対して、移住への制約が大きい福建省福州市から米国への移住では逆U字型の学歴選抜(中学歴が最も移住しやすく、低学歴者と高学歴者の移住確率は低いこと)があることが示された。

この研究の貢献は移民送り出し地域を世帯レベルでサンプリングし、移住した家族について聞きとるMexican Migration Project調査(ここでは詳しく説明しないが、移民研究界隈では最も有名な、メキシコからの移民に関する調査)と同じ設計の調査を中国で実施したことにある。また米国への移住だけでなく、欧州への移住に関しても調査していることも大きな貢献だろう。いつか日本への移住も対象にいれた中国での調査を誰か企画してほしい。
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感染症の発生源からの人口移動は、感染症の拡大をうまく予測できるか?論文では、コロナウイルス発生地とされる武漢を2019年の12月から2020年の2月までに経由して、他省・県へ移動した人口を携帯電話の位置情報データから計算し、その後の移動先の省・県での感染者数を予測できるかを検討した。分析結果として「とても綺麗に予測できました」という結論になっている。

「面白い!」というわけではなかったものの、2020年はコロナ抜きには語ることはできないので、10選の中に入れてみた。移民研究の端くれとしての理解だと、通常、このようなタイムセンシティブな研究では、データが揃っていないため、データが整備されている数年前の同年同時期の人口移動(例:1年前の同月の武漢から他地域への人口移動)の情報が現在にも当てはまると仮定して、感染症の拡散を予測するモデルを作るのが普通であろう。この研究がすごいのは、ほとんどリアルタイムで、しかも個人レベルの情報を用いて、人口移動とコロナウイルスの拡散をモデリングしていることだと思う。もちろん、中国のデータということで、プライバシー関連は少し気になる。

なお、自然科学系のNatureに載っているということで、「社会学なの?」と思われる方もいるかもしれない。この論文チームの責任者(いわゆるラストオーサー)は社会ネットワーク論のニコラ・クリスタキス氏で、社会学PhDを持ち、イェールの社会学部で教えていることから、社会学論文とカウントすることにした。クリスタキス氏は社会学者としての顔とともに、医師でもあり、かつ公衆衛生学でも有名であるスーパーマンである。

なお、社会科学系のジャーナルは生命科学系に比べると査読が長い(1−2年ほど)ので、まだコロナ関連論文は社会学の主要ジャーナル(AJS、ASR、Demography、SF)にはほとんど出ていない。来年、再来年はコロナに関する論文がとてつもなく増える予想をしている。

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Berger, T., & Engzell, P. (2019). American geography of opportunity reveals European origins. Proceedings of the National Academy of Sciences, 116(13), 6045-6050.

米国の世代間社会移動の開放性(親から子へ社会的地位が継承される度合い)には地域差がある。その地域差はどこに由来するのだろうか?著者らが出した答えはヨーロッパである。

欧州から米国へは19世紀から20世紀初頭にかけて大量に移民が渡った。著者らは722のCommuting Zone(CZ)レベルのデータを用いて、歴史上の移民の出身国別の米国内の定住先と、現在の米国内の社会移動の地域差には関連があることを明らかにした。例えば、北欧やドイツ出身の移民が多く定住した中西部のCZは社会移動の開放性が高く、イタリア系が多く定住した東海岸のCZでは開放性が低いという具合だ。なお、この関連は人種エスニシティに関係なく成り立つため、「人」に起因するのではなく、移民が地域ごとに作った「社会制度」の違いによると著者らは主張している。

この論文の面白いところは「巷」(=非学術的な文脈)では受容されているが、学術的な文脈では検証が難しくなかなか認められづらいストーリーをうまく実証したことにあると思う。論文中でもイントロでジャーナリスト兼作家のコリン・ウッダードが提唱する、現代アメリカを11の下位文化に地域区分する議論が引用されている。

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Gerhards, J., & Hans, S. (2009). From Hasan to Herbert: Name-giving patterns of immigrant parents between acculturation and ethnic maintenance. American Journal of Sociology, 114(4), 1102-1128.

移民が受け入れ国で自分の子供(移民二世)につける名前にはどういうパターンがあるのだろうか?著者らは移民の名前のドイツ化の指標(後述)を作り、南西欧(イタリア、スペイン、ポルトガル)、旧ユーゴスラビア、トルコ出身でドイツに居住する移民が、子供につける名前がドイツ社会への統合とどう関連しているかを分析した。分析結果としてはドイツ社会に統合(ドイツ人とのネットワークや社会経済的地位達成)されていればいるほど、ドイツ化された名前をつけるという結果になっている。

10年以上前の研究というのもあって、2020年の今から見返すと細かい分析の方法論では少し残念な点があるものの、Stanley Liebersonが1990年代に勢力的にやっていたファーストネームの研究を、移民統合研究の文脈に拡張したことが大きな貢献である。なお、私が一番感銘を受けたのは膨大な名前に関する情報を(1)ドイツでしか通用しない名前、(2)ドイツと出身国言語両方で通用する名前、(3)出身国でしか通用しない名前に分類した努力にある。論文中の注記によると固有名詞学(onomatology)という学問があるらしく、その研究者との共同作業らしい。

私も、戦前生まれの日系人の数万人のファーストネームに関する論文を書こうとしていて、(1)アメリカでしか通用しない名前(例: Theodore)、(2)アメリカでも日本でも通用する名前(George/貞治/丈治)、(3)日本でしか通用しない名前(例:Mitsuo)というような形で名前を3分類にしたいのだが、この作業をシステマチックにやる方法を思いつかずにいる。もしどなたか良い方法思いつく方いたら連絡をいただけると飛んで喜ぶ。

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Mohr, J. W., Bail, C. A., Frye, M., Lena, J. C., Lizardo, O., McDonnell, T. E., Mische, A., Tavory, I., & Wherry, F. F. (2020). Measuring Culture. Columbia University Press.

これは論文ではなくて本。文化の測定に関して、社会人口学者、文化社会学者、政治社会学者、社会ネットワーク研究者が共同で書いた本である。共著なのに全体にとてもまとまりがあって、おそらくこれまで読んだ社会学の本の中でも「面白さ」トップ20には入ると思う。イントロの章での社会学における文化の測定の歴史があるが、とてもよくまとまったレビューである。

ASR編集長のリザルド氏や、私がとても尊敬している若手人口学者のフライ氏(去年のこの記事で論文を紹介した人)なども執筆陣に入っている。なお、「測定」という言葉が使われていることで、日本でいうところの「計量」社会学の人のための本なのか?と聞かれたことがある。「計量」の人にも、「質」の人にも同じくらい有益だと思うし、執筆陣にもどちらもいる。特に文化社会学の領域は、計算機社会科学の台頭もあり、「計量」と「質」という区分は意味がないように思う。著者らもイントロでそういうことを述べている。

もっと紹介を書いてもいいのだが、私は文化社会学はど素人で、あまり変なことを書いてこの本の価値を損ねたくないので、これ以上は書かないでおく。

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以上である。見返すと、博論の先行研究となる移民研究(migration studies)関連の論文が多い。指導教員の先生にはもっと広く先行研究を読むように言われ、特に社会的不平等(social inequality)の先行研究(literature)のフレームワークを博論に取り込むように言われるのだが、どうしても移民研究の先行研究に引っ張られる気がする。元々の自分の関心なのだと思う。

2020年11月6日金曜日

移民研究ジャーナルに関するウェビナーの参加メモ

本日、アメリカ社会学会(ASA)の国際移民セクション主催の移民研究ジャーナルに関するウェビナーにオンライン参加した。パネリストはASA次期会長のメンジバー教授(UCLA社会学部)、IMR編集長のウィンダーズ教授(シラキュース地理学部)、ブロームラード教授(バークレー社会学部)、アサド教授(スタンフォード社会学部)である。かなり豪華なパネリストで、開始10分前にtwitterで知って5分前に申し込みしたのだが、とても嬉しかった。

セミナーの要旨はいつかASA会員向けに公開されるらしいが、フランクな意見交換を促進するために録画はあえてされていなかった。日本でASA会員の方は少ないだろうし(ちなみに、自分も会費負担が嫌でASA会員を抜けている)、活字にされにくいtipsも含まれているので、メモとして残しておく。

移民研究は学際的、かつ(研究者数的な意味で)急成長中のフィールドで、移民研究の学術ジャーナルも(無名のものも含めると)100以上あると思われるが、社会学/人口学系の移民研究者の間では、いわゆる「トップフィールド」ジャーナルはInternational Migration Review(IMR)Journal of Ethnic and Migration Studies (JEMS)の2誌だというコンセンサスが研究者間で緩く存在しているように思う。また、(世界移住機関IOMの機関誌)であるInternational Migration(IM)もステータスがあり、この3誌どれかへの掲載を目指して研究をしている人が多い。以下のメモにも出てくるが、この3誌の中ではIMRがアメリカ系、IMJEMSは欧州系のジャーナルである(といってもどのジャーナルにもアメリカ、欧州、その他の地域の研究は登場する)。

今回のウェビナーでは2017年11月からIMRの編集長をつとめているウィンダーズ教授が、前半、IMRについてレクチャーをし、その後はIMRを離れて、パネリスト間で移民研究のジャーナル一般や移民研究の動向についてディスカッションと質疑応答があった。以下はメモ。

まずはIMRについてのレクチャーのメモ。

1. 掲載率、査読期間、査読プロセスなど
  • 2017年以降のIMRの掲載率は6-8%を推移
  • デスクリジェクト率は70-80%*(下記の私の追記も参照のこと)
  • デスクリジェクトの場合でも、エディターコメントを丁寧に返すため6週間程度を目標としている
  • 査読に回された場合、ファーストレスポンス(1回目の査読結果)までは6ヶ月を目標としている
  • R&R(修正再査読)は、最大で4回程度まで繰り返すことがある
  • 過去には4回のR&Rの後、研究論文から研究ノートに変更して掲載した事例もあるので、諦めないこと
  • R&Rで新しいレビュワーが追加されるかは、1st Roundでレビュワーがしっかりとしたレビューをしてきたかと、1st Round後にレビュワーが2nd Roundのレビューをすることを承諾しているかによる
  • 編集部はレビュワーも評価してて、適当なレビュワーには次は頼まない

2. 内容に関して
  • IMRでは、国際移民に関係ない国内移動(internal migration)の研究はデスクリジェクト(国際移動の研究を掲載することにリソースを割くため)している
  • 研究方法(量・質)による掲載率の違いはないが、圧倒的に量的な手法の投稿が多い。
  • 編集長のウィンダーズ教授自身は批判的人種理論を軸としたエスノグラフィー(質的手法)が専門
  • 副編集長4人は量的手法が専門で、量的手法については4人のアドバイスに従っている
  • 1964年に、当時ヨーロッパの内容中心だったInternational Migration誌に対抗して、アメリカ中心のジャーナルを作るためにInternational Migration Review誌が生まれたという背景があり、歴史的にアメリカの研究の投稿自体が多かった
  • ただし、最近はヨーロッパからの投稿が激増し、ヨーロッパの副編集長を1名追加した
  • 地域アンバランスをなくすために、フィールドからの知見をレポートの形で掲載できる新しい投稿形態を作った(非欧米地域の投稿を特に歓迎)
  • 非欧米地域の研究論文の掲載をさらに増やそうとしている
  • アメリカの研究でも「なぜアメリカの事例を持ってくる必要があるのか?」を明確に述べる必要がある(他の地域も同じ)

3. 投稿のtips
  • R&Rのコメントで不明瞭なことがあったら、エディターに連絡して、質問しても良い
  • ディシプリン(社会学、地理学、政治学、経済学)を超えた移民研究に対する理論的貢献が重要
  • 成績優秀で、かつ批判的な学部生を説得するように論文を書け
  • Potential Reviewerの名前をカバーレターに書いたものも考慮するが、編集長としての経験上、投稿者から推薦された人も編集部側で選んだ人も、あまり査読の厳しさは変わらない。マイナーな地域の研究の際には名前があると編集部的に助かることもある。

次に、パネルディスカッションと質疑応答だが、あまり印象に残った議論はなかった。あえて一つ挙げるとすれば、ジョブマーケット前の博士院生・ポスドクや、テニュア審査前の助教授(Assistant Professor)の方がたくさん参加しているためか、業績評価時のディシプリンベースのジャーナル(社会学、政治学、経済学)との比較に関する質問がいくつかあった。パネリストの方々の回答としては以下のようなものだった。


4. 業績評価時のIMRと他のジャーナルの相対的評価
  • 研究者の所属ディシプリンによって学際的な移民研究ジャーナルがどう評価されるかは大きく違う
  • IMRに載せることができた場合、社会学部ではGender&Society等、ディシプリンベースの「トップフィールド」ジャーナルと同程度の評価を受けることができる(逆にいうとAJSやASRよりは評価は低くなる)
  • 一方、政治学部や経済学部にいる場合、同じ論文をディシプリンベースのジャーナルに掲載した場合と比べると業績評価で低く評価される可能性が高い
  • テニュア審査が済んで、ジャーナルランクを気にする必要がない場合、純粋な移民研究フィールドへのインパクトという観点からは、ディシプリンベースの総合ジャーナルよりも、移民研究のジャーナルに載せた方が高インパクトのことが多い

以上、参加した際にとったメモをまとめたものである。一つ気になったは、デスクリジェクト70-80%は流石に高すぎで、「1st Roundでのレビューでリジェクトする率」の言い間違えではないかということだ。よって、あくまでこの数字は参考程度にしておいて欲しいが、IMR編集部の1回目の査読期間の「目標」が約半年と長いこと、年間掲載論文数は50本程度に対し投稿が600件前後(今年はコロナで増えて800件らしい)もあることを考えると、大半をレビュワーに回さずにデスクするという戦略も本当なのかもしれない。

また、R&Rのコメントの意味が分からなくて困ったら、エディターに連絡して良い、というのはとても重要な知見だった。最近IMRに載せたブラウンの先生も何度もR&Rが続いた後にエディターに電話して、詳しくコメントの意図を聞いたと言っていたが、偉い先生だからできることのように思っていた。自分も次回以降は積極的にエディターに連絡をとろうと思った。

なお、国内移動の研究をIMRがデスクするという噂は、国内移動研究で有名な副指導教員の先生からも聞いていた。もちろん雑誌名からして国際移動に強調点があるのはわかるのだが、国内移動と国際移動は理論的には同じフレームで考えられることが多く、少し残念に思った。ちなみに、インパクトのある国内移動研究が多く掲載されている移民研究雑誌はPopulation, Space and Placeだと思う。




2020年10月7日水曜日

近況1007:大学のコロナ対応、博論テーマ、R&Rなどなど

昨日(米国では本日)で29歳になりました。メールやFBでメッセージを下さった方々ありがとうございます。最近はブログを書くのが億劫になって更新していませんでしたが、読んで下さっている方もいるようで久々に更新したいと思います。ちなみに、夏は1.5ヶ月ほど日本に帰国していましたが、現在は再びアメリカに戻ってきています。以下、(1)大学のコロナ対応、(2)研究、(3)ウィズコロナライフについて書きます。

(1)ブラウン大のコロナ対応

コロナ検査

コロナは大丈夫か?という質問をよくいただきます。日本のように落ち着いてはおらず、国レベルでみると毎日4万人ほどの感染者が出ていますが、僕が住んでいるプロビデンスは比較的落ち着いております。ちなみに、私の所属するブラウン大学では、普段大学に来る全教員・職員・大学院生・学部生に対して、毎日アプリで大学に健康を報告し、さらには最低週2回コロナの検査をすることを義務付けており、3日に1度大学の体育館でコロナ検査を受けています。綿棒で鼻の粘膜をとる簡易なもので2分程度で終わり、検査キャパはかなりあるので、並んだりする必要もありません。検査会場入場から退出までだいたい5分くらいです。

以下の写真は私のiPhoneのスクショですが、このような感じで検査結果は12時間後くらいに出て、今後半年ほどは検査結果をスタンプのように集める日々が続きそうです。ちなみに検査していないと大学から個別メールがきて、場合によっては処分されます。大学のコロナ対策ホームページでは日々の検査結果がアップデートされており、情報収集と情報公開のあり方には関心させられます。ちなみにホームページによると、大学では8月24日から無症状者延べ51851人の検査を行い、陽性は26件(陽性率は0.4%)、ここ1週間に限ると延べ9363人の検査を行い、陽性は9件(陽性率は0.1%)だそうです。



博士課程の新規募集一時停止

仕方ないことなのですが、大学のコロナ対応で悲しかったのは、ブラウンの人文・社会科学系の大多数の博士課程プログラムの来年9月に入学する新入生の募集が全面的に停止され、社会学部でも募集が停止されたことです(恒久的なものではなく、再来年再開予定)。なお、これはブラウンだけでなく、全米の博士課程で同じような対応をとるところがチラホラみられます(社会学だと、プリンストン、ペンシルヴァニア、コロンビア大など)。

アメリカの人文・社会科学系の博士課程は基本的に大学院が学費と給料を支給するのですが、コロナで大学の財政が圧迫されていることと、博論の研究(特にフィールドワークをしている人に多大な影響が出ています)がコロナで中断してしまった院生に博士課程7年目への延長を認める動きがあり、「既に在学している院生にお金を回す」という大学経営側の判断のようです。理工系に関しては、教授や学部が外部資金を獲得し、その外部資金で博士課程の院生に給料を払っているところが多いこともあり、人文・社会科学系ほどには影響は出ていないようです。

なお、体系的に調べたわけではないですが、一時募集停止措置をとっているのはお金に余裕があるはずの私立大学に多い気がします(特にアイビーリーグ)。私の予想ですが、有力私立大学の人文・社会科学系は博士課程の院生の労働力への依存度が低く(例えば、私は6年間で1年だけTAをすれば良い契約で、中には1度もTAをせずに修了する人もいます)、自分の研究だけしながらフェローシップの形で給料を支給される人が多いことに起因すると思います。逆にいうと、大学側からすると、人文・社会科学系の院生は金銭面では最も負担が大きい存在で、不況時には切りたくなる存在なのかもしれません。

(2)研究

日系アメリカ人の社会移動:多分、博論

博論プロポーザルディフェンスの日程が決まり、2021年4月6日(火)EST12:00になりました。これにパスすると、晴れて博士候補(Ph.D. Candidate)になれ、博士5年目への進級(?)が認められます。まだ正式なOKは出ていないのですが、博論は19世紀末から20世紀初頭に米国に移住した日本人(aka 日系アメリカ人)と世代内&世代間社会移動について3ペーパーを組み合わせる形で書きたいと思っています。このテーマに関する研究は歴史学では多いのですが、社会人口学的な視点からのものは少なく、また学部生の頃から関心のあったことなので今のところは博論のテーマとしてしっくりきています。

メインのデータは強制収容所に収容された日系人全員の行政データと1960年代に行われた日系アメリカ人のサーベイで、特に前者を氏名と年齢と性別と居住地などを使って1910、1920、1930、1940年の米国国勢調査個票にリンクし、数万から十万人のパネルデータを構築しようとしています。いわゆる"Historical Census Linking"で、この夏にRAとしてやっていたことなので理論上はできるはずなのですが、当時の日系人の国勢調査上のスペリングはかなりいい加減で、これをアルファベット文字列の順番の近さ、発音した時の音声などでマッチングして、(1)どれだけのマッチング率が得られるか、(2)マッチングはどれだけ正確か?ということを丁寧に検証する作業をする必要があります。これがあまりにも残念な結果であれば、博論のメインデータ(=ジョブマーケットペーパー)には使えないことになります。

ここにさらっと書くと簡単に思えるのですが、Census Linkingは少しだけ高度なプログラミングや機械学習の知識が要求され、「伝統的な」社会人口学のトレーニングを受けていた身としては少し辛いです。現在以下のR&Rに対応中で、まだ手をつけられていません。。

なお、博論に入れるかはわからないですが、日本のデータとも組み合わせる形で、20世紀初頭にアメリカに渡った日本人の選抜性(セレクティビティ)に関しても論文を書いています。これは先日プリンストン大を中心にした若手の某研究会で発表させていただいたのですが、来年1月末までには人口学系の雑誌に投稿したいと考えています。


現代米国移民の社会移動研究:R&R対応中

現代米国の移民二世の子どもの間の学力格差をライフコース論と社会移動の観点から扱っている論文(昨年提出した修士論文)、トップジャーナル2誌(ASRとD)にリジェクトされた後、某トップフィールドジャーナルに投稿していました。投稿から半年ほど経って忘れかけていた頃、査読結果が届き、R&R(=査読者の要求にあわせて修正したら掲載できるかもしれない、というお知らせ)がもらえました。このジャーナルの掲載率は10%程度なのですが、おそらくR&Rがもらえた時点でこれを50%前後にできているという認識です。このジャーナルはフィールドジャーナルにしては査読が丁寧なことで特に有名で、エディターコメントとレビューワーコメントあわせると3600単語あり、コメントを25に細分化して対応しています。コメントの質も高く、特にエディターと副エディターには感心しました。エディターはどういうモチベーションでやるのか気になりますが、他の人の研究のための無償労働にとても感謝してます。

一応、再分析と原稿の修正は終わり、査読者へのレスポンスレターを書いています。レスポンスレターだけでシングルスペース13ページを越えていて、新しい別の論文を書いている感覚を覚えます。もちろん、どんなに頑張っても、掲載される保証はないわけで、小手先な対策ではなく(もちろん小手先の対応もしますが)、落とされて別のところに投稿しても掲載されるようにペーパーをよりよくするつもりで頑張っています。ただ、少しこの研究には「飽き」がきていて、早く手放したいです。

なお、おそらく次に来る連絡も、リジェクトか、2nd R&R(=2回目のR&Rが貰えると、掲載確率は80%くらいに上がる印象です)だと思います。ここによく載せる教員によるとR&Rが連続3回以上あることもあるらしく、今の目標では2021年12月までのアクセプトを目指したいと思います。


現代日本の移民の研究

こちらは細々と続けていて、もし将来日本に(研究者として)戻れることになったらメインの研究になるのではないかと考えています。現在は主に3年前からメンバーとして関わっている「くらしと仕事に関する外国籍調査」を基にいくつかの論文を書いています。今のところは移民研究の中でも古典的(だけど最近はあまりされていないテーマ)の(1)永住意図、(2)帰化希望に関する論文と、共著で(3)職業達成に関する論文を書いています。ほとんど英語で書いているのですが、永住意図に関しては日本語で書いており、来年中には世に出てくれるのではないかと期待しています。


(3)ウィズコロナライフ

今年のルームメイトは全員ブラウンの院生で、中国(比較文学)、韓国(経済学)、インド(計算機科学)、ペルー(生物学)、日本(社会学)とアジアからの留学生中心になっています。コロナで家にいる時間は長いので、ルームメイトは大事です。比較的仲がよく、テニスをしに行ったり、日曜の午後は毎週3時間の散歩をしてコロナ太りを抑制しようとしていて、大変ながらも、楽しいです。あと、時々一緒に天体観測をしています。


ある日撮った月
ある日撮影した月

散歩中に出会ったカミツキガメ

大学のマスコット(ブラウンベアー)










2020年7月1日水曜日

近況0630:ロックダウン後、初の更新

久々の更新になった。最後にブログに投稿した時にはまだ日本の方がコロナで騒いでいる頃で、シンポジウムでの研究発表のための一時帰国が無期限延期になり、残念がっていた頃だった。その後アメリカがコロナで大変なことになり、さらに黒人男性が警察に殺害された事件を巡って国が混乱し、今に至る。この間、ずっとアメリカにいて、この国の激変・激震を肌で感じることができた。プロビデンスでは、「暴動」を鎮めることを目的とした戒厳令(夜間外出禁止令)までの経験した。この3ヶ月は一生忘れないと思う。ちなみに、現在私が住むロードアイランド州はPhase 3の段階におり、レストランの店内飲食等も制限付きで可能になっている。

更新しようと思っていたのだが、コロナ中にtwitterを再開したことや、TAでのコロナ対応とプレリム試験の準備でとても忙しかったこともあり、更新が止まってしまっていた。今日までに色々としなければならないことを終わらせたので、近況を軽く記しておく。また徐々にtwitterではなく、ブログに戻ろうと思う。

1. 全てのコースワーク&全てのプレリム試験を終えた(博士課程前半戦3年間を終える)
Ph.D.課程修了に必要な24のコースワークを選択科目含めて全て履修し終わった。なお、24科目というのは米国の他の社会学Ph.D.課程と比べても多く、理論上は3年の終わりまでフルにコースワークに費やさなければならない量であるものの、私の場合、東大の修士でとったメソッド系の科目が認定されたため、7科目分は免除になり、最初から17科目をとれば良かったので少し楽だった。

以前も何度か書いたが、博士課程3年の終わりまでに2科目の専門分野の試験(プレリム試験)に合格しなければならず、2つ目の社会的不平等論(Social Inequality)の試験を先週受検した。試験はテイクホームで、月曜朝9時に4問の問題が送付され、そこから2問選んで、水曜の5時までに20-30ページの答案を作って返信しなければならない。落ちたら退学なのでプレッシャーである(1度は再受検できる)。とりあえず時間がなく、3日間休むことなくひたすら書いていた(新たな論文を読む時間的余裕はほぼない)。

勉強は試験3ヶ月くらい前から徐々にした。去年受けた社会人口学は明確なサブフィールドで、必読文献リストは人口学二大雑誌(DemographyPopulation and Development Review)に掲載された150本ほどの論文が中心となっており、勉強もしやすかった。

一方、社会学のほぼどんな研究も何らかの意味で「不平等」に関わるという意味で、社会的不平等論は明確なサブフィールドではなく、結構苦労した。他の大学では社会階層・社会移動論分野(social stratification and mobility)としてこの分野の試験をするところが多数派のようだが、ブラウンの試験は狭義の階層論より意図的に広く浅い範囲設定になっていた。

必読文献リストは120本程度で少なく、ASRAJSSocial Forcesに掲載されたものが中心だったが、本も10冊程度指定されていて、本を読むのに時間がかかった。また、過去問をみたところ、どう考えても文献リストからだけでは対応できそうになかったので、リスト外の重要な論文・本を+150本程度読んで頭に入れた(おかげでかなり勉強にはなった)。まだ結果は発表されていないが、「風の噂」によると合格したらしいのでとりあえず安心している。

コースワークとプレリム試験を無事に終わらせたことで博士課程6年間のうちの前半戦3年間をコンプリートしたことになる。素直に喜びたい。残りは後半戦2.5-3.5年間だ。

2. ティーチングアシスタント業務
コロナ前までは週に1時間、教室で学生の顔を見ながら授業をしており、ある程度うまく行き始めていた矢先(主観)、コロナでオンラインになり、とても苦労した。Zoomでは、学生のほとんどは顔が隠れるので表情が見えず、英語の非ネイティブがいかに顔の表情や身振り手振りなど非言語コミュニケーションに頼っているかということを実感させられた。もちろん、学生にビデオをつけるように頼むこともできるが、経済的な問題からオンライン環境が整っていない学生もいると考えられ、それは控えることとした。

Zoomで授業をするにあたり、iPad Proと高さ調節可能のデスクが役にたった。立っていると気合いを入れて教えられ、i Pad ProはZoomと連動させてホワイトボード代わりになる。また、i Pad Proを使えば、学生の課題を紙感覚で採点でき、そのままPDFとして返却すれば良いのでそういう意味でも役にたった。

スタンディングデスクとiPad Pro
オンライン化でもう一つ苦労したのが試験作成である。中間試験と期末試験ともに、オンラインで試験をするためのプラットフォームを作るように依頼された。試験問題を教授が作成し、それが僕に送られてきて、なんとかそれをオンラインで実行できるように僕が「工夫」する、というわけだ。ちなみに、授業は一般化線形モデル全般を扱う応用社会統計のコースなので、計算と表の解釈問題が中心である。

色々検討して、採用したのがQualtricsというオンラインサーベイ用のサービスだ。テスト用に作られたソフトではないが、様々な機能がついているので、試験用にカスタマイズしやすかった。採点も学生を行、各設問を列にする形式で出力できるので、採点は楽だった。ただ、やはりこの試験のオンライン化で4-5月のかなりの時間はもって行かれた。

嬉しかったのは、事後匿名アンケートの学生の評価がとても高く、平均が5.0点満点中5.0点だったことと、教授からTAのお礼にお菓子が送られてきたことだ(お菓子はどういうわけか日本のヨックモッククッキーだった)。次にいつ教えることになるかわからないが、教育の面もっと磨いていかなければならないと思った。

アメリカでも購入可能だと判明したヨックモッククッキー

3. ファンディング
来年9月から始まるPhD課程4年目はブラウンの人口学センターからFellowshipという形で給与をいただけることになった。Fellowshipの何が良いかというと、TAやRAをしなくてもお金が入ってくることだ。5年目と6年目は学部からFellowshipをいただけることが、入学時点の契約で決まっていた(はず)なので、修了までの残り3年間は研究に集中できることになる。人口学センターは基本的にNIHからのお金で運営しており、留学生へのFellowshipは毎年2名と限られている。結構ラッキーだったと思う。

4. 夏の予定と今後
基本的には夏は博論計画書と、博論とは別に書いている論文2本を進める予定である。また、夏の収入源として、ペンシルヴァニア州の100年ほど前の各種アドミンデータを国勢調査の個票にリンクする作業のRAをしている。72年経つと国勢調査データが公開される米国のルールは素晴らしいと思う。

2月に投稿した論文はまだ返ってきていない。デスクリジェクト、レフェリーリジェクト、RRのいずれにしろ、再分析をすることになるだろうと見込んで、機密データ室へのアクセスを申請したところ、定期的に大学でコロナの検査を受け、毎日大学の健康管理アプリに体調を入力することになり、少しめんどくさいことになっている。

庭でバーベキュー中に出現したブルージェイ
日本に一時帰国する予定をたてている。できれば7月中旬-8月上旬には帰国したい。アメリカは毎日3万人-4万人感染者が出ているので、2週間の自宅待機が日本政府から要請されることはやむを得ないと思われる。

現時点での最大の障壁は、帰国者は公共交通機関の利用が禁止(国内便乗り継ぎ含む)されているので、京都市にある実家に帰るには、アメリカから関空か伊丹への直行便を予約しなければならないことである。関西への直行便はコロナ前は毎日西海岸からあったのだが、5月以降は基本的にキャンセルになっており、数少ない特別便は5000ドルを超えている。なんとか安く日本に辿りつきたい。

2020年3月3日火曜日

近況0303:MA州セーラム、帰国キャンセル、TA、スタートレックなどなど

数週間ぶりに近況報告。トピックに分けてざっと書いた。

(1)マサチューセッツ州セーラムへの旅行
ブラウン大学の国際オフィスでは、学期に数回、留学生のための日帰り旅行を企画しており、土曜日に3年目にして初めて参加してきた。今回の行き先はマサチューセッツ州のセーラムで、一度は行ってみたかった場所なのでちょうどよかった。


合衆国史に詳しい方ならピンとくると思うが、1692-93年にかけて、魔女狩りが起こったことで有名な町である。ちなみに、魔女狩りは同時期のヨーロッパでは既に衰退しており、なおかつそもそも北米大陸ではほとんど起こらなかったので、セーラムの魔女狩りはかなり特殊なケースである。

写真1:セーラム魔女博物館

車があればプロビデンスから北に2時間なのだが、直通の電車やバスがあるわけでもなく、車の免許も持っていないので、これまでずっと行くのを躊躇していた。今回の旅は大学があの黄色いスクールバス(写真2)を貸し切り、現地到着後は自由行動という快適なものだった。

写真2:黄色いスクールバス


(2)帰国キャンセルと某アメリカの航空会社への怒り
数年前から日本の外国籍者の全国調査に関わらせていただいており、その報告を行うシンポジウムに出席するために3月末に一時帰国する予定だったのだが、新型コロナウイルスの影響でシンポジウムが延期となり、帰国をキャンセルすることとなってしまった。

今回のキャンセルはドタバタだった。これまで、一番安いnon-refundableの航空券の購入経験しかなかったのだが、今回はキャンセルの可能性を見込み、予約前に電話で確認して、人生で初めてキャンセル料が一切とられないはずのrefundableのチケットを購入していた。しかし、いざキャンセルをしようとすると全額が請求されてしまい、流石に某アメリカの航空会社に対して怒りの感情が湧いて来て、その夜はよく寝れなかった。

後に電話がかかってきて、全額請求は向こうの間違い(なぜこういう間違いが起きるのかは本当に理解不能)で、変更手数料300ドルだけがかかるということを告げられた。予約前に電話で確認したときは、変更手数料さえかからないと言われたことをほぼ確信している(二回確認した)のだが、証拠を残していなかった(録音しておくべきだった!!)ので、今回は引き下がることにした。まだ交渉中なのだが、ブラウン大学が変更手数料を負担してくれることになりそうで、コロナによる経済的損失は回避されそうである。ただ、この経験で怖くなり、4月のPAAと5月のRC28の航空券はもう少し様子を見てから購入することにした。


(3)TA
先週から授業参観に来た方のアドバイスに基づいて、学生を2名ずつのチームに分け、私の作ったデータ分析課題をStataを使ってこなしてもらうグループワークを授業に取り入れ始めた。これは上手く言っている気がする。

講義中、英語文法や表現が乱れ、それを意識しすぎてさらに崩れていくという悪循環が時々起こってしまう。あと、発音を意識しすぎている気もする。これは英語の問題というよりは、パブリックスピーキング能力の問題な気がしており、なんとか大学院生の間に改善をしたい。パブリックスピーキングがうまくいかない原因は色々あろうが、高校の時に大観衆を前にしたスピーチで大きな失敗をしたことがトラウマになって、大勢の前で話すと過度に緊張してしまうことが主要な原因な気がしている。あと、準備に時間がかかりすぎている気がするが、準備にかけた時間はその日の講義のクオリティに比例する気がするので、手は抜けない。

わかりやすい説明の模範探しにネットの動画を検索することもあるのだが、英語では素晴らしくわかりやすい動画がたくさん出回っている。特に、一般化線形モデル(GLM)のように理工系から社会科学系まで広く需要のあるテーマはたくさんの動画がある。もし英語で教える必要があれば、とりあえずググることをお勧めする(信頼性の低いものもあるので注意)。


(4)お別れ会
お世話になった日本人の先輩が無事にPh.D.を取得されて、就職されるということで金曜は夜遅くまでお祝いのために飲み会をしていた。経済学Ph.D.課程の先輩なのだが、3年間人口学センターでオフィススペースをシェアしていた。ブラウンから合格をもらった3年前の今頃、ネット検索で先輩のHPに辿り着き、一切面識のない私の進学相談に親身にのっていただいたり、契約しようと思っている家を下見していただいた。Ph.D.取得&就職おめでとうございます。

(5)研究
リジェクトの続いている論文は某フィールドトップ誌に投稿した。デスクでも3ヶ月はかかるとの噂の遅いところなので、気長に待ちたい。博論構想も進めており、初期段階のものをゼミで発表したところ、悪くはない反応だった。まだこう相談会で、ここで具体的に書く段階ではないのだが、どんどん進めたいと思う。

(6)スタートレック
Star Trek: The Next Generation(TNG)は全て観終わり、TNGに続く映画3部作も観て、最近はCBSで放映され始めたStar Trek: Picardを毎週楽しみにしつつ、Deep Space Nineシリーズに入った。Star Trek: DiscoveryとEnterpriseシリーズは視聴済みである。ハマりすぎて、Enterprise NCC-1701-D(TNGのEnterprise)の模型を購入してしまった。少し罪悪感があったのだが、大統領候補(だった)ブティジェッジも同じ趣味を持っているようで嬉しかった。

2020年2月18日火曜日

博士課程修了者の就職先の把握

私の所属する博士課程に合格したという方とSkypeで話す機会があって、その時に少し思ったことを、2年前に書いた大学院出願に関する諸々の記事に追加という形で記しておく。出願校を選択する前または入学先を迷っている時には、直近のプレースメント情報(博士号取得者の就職先)「も」調べた方が良いと思う。なぜか私は3年前にそんなに気にしてなかったが、今だったら絶対に調べる。

どうやってこの情報を探すか?大学名+学部名+Placementでネット検索すれば出てくるはずである。なお、東海岸のHやPや、西海岸のSのようなほとんどどの分野でもトップ・オブ・ザ・トップの大学以外の大学で、この情報がどこにも見つからないとか、非公開の場合は、少し慎重になった方が良い気がする。ただ、もちろん、単純に更新してないだけかもしれないのでまずはメールで問い合わせるのがいいだろう。

大雑把な指標だが、このプレースメント情報を調べることで、出願先の大学から博士号をとったあとに自分が行き着く初職のイメージがつくはずである。例えばブラウン社会学部の過去10年のプレースメント情報はこのリンクに載っており、直近10年の全ての博士号取得者の名前と初職(注1)が公開されている。もちろん、民間就職した人の名前と就職先も載っている。過去10年の博士号取得者の初職は、40%程度がAP(助教授)、40%程度がポスドクやその他研究職、残りが民間(世界銀行等の国際機関含む)といったところで、それぞれの就職先もわかる。さらに名前をググりさえすればそれぞれのその後のキャリアもわかる。

もちろん、最終的には自分の実績と空いているポジション次第なことは確かだ。ただ、進学予定の学部のプレースメント情報はプログラムの雰囲気や教員が院生に抱く期待も反映していると思われるので、知っておいて損はないはずである。

プレースメント情報からもう一つ推測できるのはPhDプログラムの規模である(注2)。例えば、私の所属学部は毎年5-10名受け入れている小規模な学部なので、毎年の修了生もそんなに多くない(私のコホートはたまたま15名ととても大きかったが、私の前後のコホートは5-6名である)。規模が小さいPhDプログラムと大きいPhDプログラムにはそれぞれの良し悪しがある。小さいプログラムは研究分野にかかわらず同期の結束がかなり強いと思う。また、内部でのリソースをめぐる競争が激しくなく、かつ、先輩・後輩をも含め、全員と知り合いになることが標準であろう。一方、研究関心がぴったりの同僚は見つけにくいかもしれず、かつ、大きなプロジェクトはそんなに大学内で走っていないかもしれない。自分の性格にあうのがどういうプログラムかをしっかり考えるのをオススメする。

(注1)なお、ポスドクとAP(助教授)が併記してある場合は、ポスドクとAPのオファーを両方受けた上で、APになるのを送らせて、ポスドクを先にやっているものと思われる。こういう人たちはいわゆる完全な「勝ち組」である。
(注2)もちろん、途中でやめる人が多いために、修了生が少なくなっているということも考えられる。こういう内部情報は各大学院の大学院生にメールして聞こう。

2020年2月17日月曜日

TAのトレーニング(ファカルティ・ディベロップメント)

日本でも大学院生のファカルティディベロップメントが流行りであるが、アメリカの大学(注1)でもTAのスキルアップを目的として様々なプログラムが組まれている。私が所属するブラウン大学社会学部博士課程の大学院生が最低限しなければならないのは、Ph.D.取得までに大学が運営する1学期分のトレーニングプログラムに参加して、Teaching Certificate Ⅰ を取得することである。なお、ブラウンでは、この資格は社会学部を含む多くの学部で「必修」(但し、罰則なし)扱いとなっている。

ブラウンのTeaching Certificate Ⅰ を修了するためには、(1)4回のオンライン講義の受講、(2)4回の課題の提出、(3)4回のセミナー(1回1.5時間程度)への参加、(4)TAとして授業をしているところを1回「授業参観」されてフィードバックを受ける必要がある。オンライン講義、課題、セミナーは毎回テーマが決まっており、テーマに合わせた論文等も読まされて、割と気合いを入れてプログラムが練られていた。特に印象に残ったことの一つが、大学における教育実践事例の報告サイトから、他分野(e.g., 物理学)の教育実践で、自らの分野(e.g., 社会学)の授業に取り入れたいアクティビティを選んで、授業への組み込み方をチームで検討するというものであった。上記サイトはアイデアの宝庫なので、大学関係者の方は参考になるアクティビティを探してみると良いと思う。

私は、先学期に(1)オンライン講義、(2)課題、(3)セミナー参加は既に終わらせてあり、残りの(4)TAとして講義しているところを「授業参観」されてフィードバックを受ける、というのも最近終わらせた。今学期は大学院生の多変量解析のコースのTAを担当しており、担当教授の3時間の授業とは別に、TAとして週1.5時間程度の授業(主に実習)を担当しているので、その私の1.5時間の授業を「授業参観」され、フィードバックを受けた。フィードバックはとても丁寧で、具体的には以下のプロセスで行われた。

2週間前:シラバスを送付(TAでも1人で毎週セクション等を担当する場合はシラバスを独自に作成している)
1週間前:事前面談(フィードバックが欲しい点を事前に申告できる)
当日: 授業参観される(かなりじっくり「参観」され、希望があればビデオ撮影もされる)
翌日: 良かった点 &悪かった点のフィードバック

授業翌日のフィードバックの際には図1と図2のようなメモ(エスノグラファーのフィールドノーツのようだった)を基に、次のTA講義での改善点を指摘された。特に有り難かったのは質問に答えるのが一部の学生に限定されていたことを指摘された上で、全員の発言を促すための具体的アドバイス(案)を複数いただけたことだった。

図1:クラスの座席配置と発言回数に関するフィードバック

図2:フィードバックフォーム
(何時何分に私が何をして、その行動のどこが良かったかor悪かったかが記されている)

丁寧なフィードバックはとても役にたった。特に人前で話すことに苦手意識を持って生きてきたので、今回のフィードバックをきちんと生かしてさらにより上手く教えることができるようにしたい。

なお、TAにフィードバックをする仕事をしているのは特別なトレーニングを受けた大学院生であった(これをすることで大学から給料を支給されているらしい)。私の担当の方は某外国文学の専攻のD6の方で、博士号取得後は大学のファカルティディベロップメントに関わる仕事につくことを検討しているらしかった。私もさらにトレーニングを受けてこの仕事をするのも良いかもしれないと思った。

(注1)ほとんどの大学で何らかの形でのTAトレーニングは行われているであろうが、大学によって事情は大きく異なる。ここに書かれているのはあくまでブラウン大学というアメリカの一大学の事例で、過度な一般化はしないで欲しい。

2020年2月4日火曜日

近況報告0204:生活、差別、TA、研究、コースワーク

アメリカに戻ってきて3週間ほどがたった。ちょっと想像以上に忙しく全く更新できていなかったが、今日は第一回目のTAも終わって、少し落ち着いたので記録を残しておく。

生活
3年もいると、どんどんプロビデンスのような中規模都市(日本基準では「地方都市」)に慣れてきて、東京は人が多すぎると感じるようになった。車の免許さえとれ、かつご飯が美味しければ、もっと田舎町もいけるかもしれない。食事だけは日本が恋しく、最近は写真のような品々をよく食べている。冷凍が多く、東京の水準には達しないものの、NYCやボストンやシアトルに住んでいないのに、これら食材を定期的に確保できるのは上出来な気がする(自画自賛)。特に牛丼の味は全く日本と変わらず、並・汁だくの吉野家牛丼である。自分は松屋派なのだが、そこは我慢しておく。

今川焼(あんこ)(冷凍)

吉野家牛丼(冷凍)

炊き込みご飯

明太子スパゲッティ

差別経験
先日ワシントンDCにいた時に、大柄の男性二人から"Coronavirus!!"(意味:「コロナウイルス 野郎!」) "Your name is Wuhan!!"(「お前の名前は武漢だ!」)と執拗に絡まれた。NYCなどの大都市を歩いている時に"Go back to North Korea"(「北朝鮮へ帰れ!」)とか"Go back to China"「中国へ帰れ!」とか言われたことはあるのだが、罵声を浴びせながら歩く後をついてこられたのは初の経験だった。夜道で、一人で、かつ大きな荷物を持っていたので少し怖かったが、英語がわからないふりをしてポーカーフェースを保っていたら去って行った。いつもは全く何も思わないのだが、今回は少し疲れていたのと、罵声が長時間にわたったので少しだけ言い返すことを考えたのも、冷静に対処して正解だった。

ちなみに日本人として「正しく」差別されたのはハワイで"Fucking Jap!"(くそジャップ!)的なことを言われた時("Jap"が入ってきたのは覚えているのだが、正確には覚えていない)だけである。なお、大学の周辺では一度もこういう経験はないのは嬉しい。

ちなみに、これは特殊な経験である可能性があるので、過度な一般化はしないで欲しい。実際にアジアからの留学生の友人で、二年半でまだ一度もこういうことを言われたことがないという友人もいた。


ティーチングアシスタント(TA)
今学期は大学院博士課程1年生の必修の多変量解析のコースのTAになった。アメリカの社会学部の博士課程では、1年生秋学期にOLSの基礎を徹底的に叩き込み、1年生春学期に一般化線形モデルに拡張をする。

僕の仕事は週1時間半のレクチャー、週2時間のオフィスアワー、提出物の採点である。人数は20名以下と少ないものの、博士課程の院生を相手に1時間半話すことを用意するのは結構大変で、準備は丸一日かかった。来週はTAに対してfeedbackする専門の委員が自分の授業参観をしにくるらしく、それも少し緊張している)。

研究
Dからリジェクトされた。しかも、1ヶ月半経ってのデスクリジェクトで少しびっくりしたが、仕方ない。次に出すジャーナルを検討中。指導教員には(6年生でジョブマーケットに出ると仮定して)「4年の秋が終わるまで」は「強気」でより評価の高いジャーナルにいくようにアドバイスされたのだが、少し疲れてきたので、どうしようか考えている。

今年は日本にいる外国人移民の研究も徐々に研究を始めていく予定で、先行研究とかを集め始めた。今年中に一本論文を書きたい。

博論は(1)ローリスクローリターンなテーマと(2)ハイリスクハイリターンなテーマ(主観)で迷っている。まだ決められない。。

コースワーク
今学期は先学期から履修している(1)論文執筆法のコースと(2)GISのメソッドコースの2つだけである。あとは自分の研究を進めるのとプレリム試験の勉強に時間を割こうと思う。