2020年11月6日金曜日

移民研究ジャーナルに関するウェビナーの参加メモ

本日、アメリカ社会学会(ASA)の国際移民セクション主催の移民研究ジャーナルに関するウェビナーにオンライン参加した。パネリストはASA次期会長のメンジバー教授(UCLA社会学部)、IMR編集長のウィンダーズ教授(シラキュース地理学部)、ブロームラード教授(バークレー社会学部)、アサド教授(スタンフォード社会学部)である。かなり豪華なパネリストで、開始10分前にtwitterで知って5分前に申し込みしたのだが、とても嬉しかった。

セミナーの要旨はいつかASA会員向けに公開されるらしいが、フランクな意見交換を促進するために録画はあえてされていなかった。日本でASA会員の方は少ないだろうし(ちなみに、自分も会費負担が嫌でASA会員を抜けている)、活字にされにくいtipsも含まれているので、メモとして残しておく。

移民研究は学際的、かつ(研究者数的な意味で)急成長中のフィールドで、移民研究の学術ジャーナルも(無名のものも含めると)100以上あると思われるが、社会学/人口学系の移民研究者の間では、いわゆる「トップフィールド」ジャーナルはInternational Migration Review(IMR)Journal of Ethnic and Migration Studies (JEMS)の2誌だというコンセンサスが研究者間で緩く存在しているように思う。また、(世界移住機関IOMの機関誌)であるInternational Migration(IM)もステータスがあり、この3誌どれかへの掲載を目指して研究をしている人が多い。以下のメモにも出てくるが、この3誌の中ではIMRがアメリカ系、IMJEMSは欧州系のジャーナルである(といってもどのジャーナルにもアメリカ、欧州、その他の地域の研究は登場する)。

今回のウェビナーでは2017年11月からIMRの編集長をつとめているウィンダーズ教授が、前半、IMRについてレクチャーをし、その後はIMRを離れて、パネリスト間で移民研究のジャーナル一般や移民研究の動向についてディスカッションと質疑応答があった。以下はメモ。

まずはIMRについてのレクチャーのメモ。

1. 掲載率、査読期間、査読プロセスなど
  • 2017年以降のIMRの掲載率は6-8%を推移
  • デスクリジェクト率は70-80%*(下記の私の追記も参照のこと)
  • デスクリジェクトの場合でも、エディターコメントを丁寧に返すため6週間程度を目標としている
  • 査読に回された場合、ファーストレスポンス(1回目の査読結果)までは6ヶ月を目標としている
  • R&R(修正再査読)は、最大で4回程度まで繰り返すことがある
  • 過去には4回のR&Rの後、研究論文から研究ノートに変更して掲載した事例もあるので、諦めないこと
  • R&Rで新しいレビュワーが追加されるかは、1st Roundでレビュワーがしっかりとしたレビューをしてきたかと、1st Round後にレビュワーが2nd Roundのレビューをすることを承諾しているかによる
  • 編集部はレビュワーも評価してて、適当なレビュワーには次は頼まない

2. 内容に関して
  • IMRでは、国際移民に関係ない国内移動(internal migration)の研究はデスクリジェクト(国際移動の研究を掲載することにリソースを割くため)している
  • 研究方法(量・質)による掲載率の違いはないが、圧倒的に量的な手法の投稿が多い。
  • 編集長のウィンダーズ教授自身は批判的人種理論を軸としたエスノグラフィー(質的手法)が専門
  • 副編集長4人は量的手法が専門で、量的手法については4人のアドバイスに従っている
  • 1964年に、当時ヨーロッパの内容中心だったInternational Migration誌に対抗して、アメリカ中心のジャーナルを作るためにInternational Migration Review誌が生まれたという背景があり、歴史的にアメリカの研究の投稿自体が多かった
  • ただし、最近はヨーロッパからの投稿が激増し、ヨーロッパの副編集長を1名追加した
  • 地域アンバランスをなくすために、フィールドからの知見をレポートの形で掲載できる新しい投稿形態を作った(非欧米地域の投稿を特に歓迎)
  • 非欧米地域の研究論文の掲載をさらに増やそうとしている
  • アメリカの研究でも「なぜアメリカの事例を持ってくる必要があるのか?」を明確に述べる必要がある(他の地域も同じ)

3. 投稿のtips
  • R&Rのコメントで不明瞭なことがあったら、エディターに連絡して、質問しても良い
  • ディシプリン(社会学、地理学、政治学、経済学)を超えた移民研究に対する理論的貢献が重要
  • 成績優秀で、かつ批判的な学部生を説得するように論文を書け
  • Potential Reviewerの名前をカバーレターに書いたものも考慮するが、編集長としての経験上、投稿者から推薦された人も編集部側で選んだ人も、あまり査読の厳しさは変わらない。マイナーな地域の研究の際には名前があると編集部的に助かることもある。

次に、パネルディスカッションと質疑応答だが、あまり印象に残った議論はなかった。あえて一つ挙げるとすれば、ジョブマーケット前の博士院生・ポスドクや、テニュア審査前の助教授(Assistant Professor)の方がたくさん参加しているためか、業績評価時のディシプリンベースのジャーナル(社会学、政治学、経済学)との比較に関する質問がいくつかあった。パネリストの方々の回答としては以下のようなものだった。


4. 業績評価時のIMRと他のジャーナルの相対的評価
  • 研究者の所属ディシプリンによって学際的な移民研究ジャーナルがどう評価されるかは大きく違う
  • IMRに載せることができた場合、社会学部ではGender&Society等、ディシプリンベースの「トップフィールド」ジャーナルと同程度の評価を受けることができる(逆にいうとAJSやASRよりは評価は低くなる)
  • 一方、政治学部や経済学部にいる場合、同じ論文をディシプリンベースのジャーナルに掲載した場合と比べると業績評価で低く評価される可能性が高い
  • テニュア審査が済んで、ジャーナルランクを気にする必要がない場合、純粋な移民研究フィールドへのインパクトという観点からは、ディシプリンベースの総合ジャーナルよりも、移民研究のジャーナルに載せた方が高インパクトのことが多い

以上、参加した際にとったメモをまとめたものである。一つ気になったは、デスクリジェクト70-80%は流石に高すぎで、「1st Roundでのレビューでリジェクトする率」の言い間違えではないかということだ。よって、あくまでこの数字は参考程度にしておいて欲しいが、IMR編集部の1回目の査読期間の「目標」が約半年と長いこと、年間掲載論文数は50本程度に対し投稿が600件前後(今年はコロナで増えて800件らしい)もあることを考えると、大半をレビュワーに回さずにデスクするという戦略も本当なのかもしれない。

また、R&Rのコメントの意味が分からなくて困ったら、エディターに連絡して良い、というのはとても重要な知見だった。最近IMRに載せたブラウンの先生も何度もR&Rが続いた後にエディターに電話して、詳しくコメントの意図を聞いたと言っていたが、偉い先生だからできることのように思っていた。自分も次回以降は積極的にエディターに連絡をとろうと思った。

なお、国内移動の研究をIMRがデスクするという噂は、国内移動研究で有名な副指導教員の先生からも聞いていた。もちろん雑誌名からして国際移動に強調点があるのはわかるのだが、国内移動と国際移動は理論的には同じフレームで考えられることが多く、少し残念に思った。ちなみに、インパクトのある国内移動研究が多く掲載されている移民研究雑誌はPopulation, Space and Placeだと思う。




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