2017年7月14日金曜日

社会学PhD出願の記録(3)-出願に必要なもの(TOEFL・GRE・GPA編)


1. 前置き

このブログではアメリカの社会学PhD課程への出願に関する情報を、私の経験を基に執筆している。私のプロフールはこちらを参照してほしい。これまでの投稿では、アメリカにおける(1)PhD課程とMA課程の違い(2)出願校の選び方について書いてきた。本日は出願に必要な書類のうち、TOEFL、GRE、GPAについて中心に書きたいと思う。なお、本記事の諸前提や注意書きについてはここの前置きを読んでほしい。

2. 大学院の選考プロセス


アメリカの大学院入試では、日本のように「試験」はなく、提出する様々な書類が、各大学院の社会学研究科でその年に組織されるAdmission Committee(教員+PhDの院生が入ることもある)によって総合的に判断されて、合否が決まる。面接が行われる場合もあるが、社会学PhDでは行われないことが多いようだ(私が出願した12校ではどこもなかった。有名大だとEmoryやNotre Dameなどで面接があると聞いたことがある。また普通は面接をしない大学でも、個別に面接をするところもあるらしい。もちろん、留学生の場合はSkype面接だろう)。

Posselt(2016)
選考プロセスについて、オンラインでも手に入る情報として大変参考になるのはコーネル大学社会学研究科の選考方法のページ、インディアナ大学のFabio Rogers教授がPhDの選考委員にあたった場合に何を重視するかを書いたこのページ、どこかの社会学PhD課程の入試委員会のメンバーだった院生が匿名で選考プロセスを暴露したこのスレッドである。より総合的な視点が欲しい方のためには、様々な分野のPhD課程のAdmission Committeeの選考過程の場に出席してエスノグラフィー調査を行ったまじめな教育社会学の研究書(Posselt 2016)がハーバード大学出版より出ている(How to本ではなく、水準のかなり高い学術書である)。この本はアカデミアへのゲートキーピングの過程を明らかにしたものとして大変貴重だと思う。社会学PhD課程を考えている方なら、社会学的視点でアメリカPhDの選考プロセスを考えられる良い本になりそうだ。

社会学PhD課程への出願で主な選考の対象となるのは下記の7~8点の書類であり、これを締め切りまでに準備する必要がある(想像以上に大変である)。実際の出願は、11月ごろから始まり、各大学のHPからアプリケーションページを作成し、個人情報を入力したり、下記書類をアップロードしていく作業となる。留学を補助する名目で出願を代行する業者があるようである。下記の出願書類を出願者自ら作成する場合は倫理的な問題は少ないと思うのだが、かかるコストやその後の大学との交渉のことを考えると、海外大学院出願に業者を使うのはお勧めしない。私は使っていないし、周りの経済学PhDや政治学PhDの出願者でもこのような業者を使っている人を聞いたことがない。使うとしたら英語論文校正サービスくらいだろうか。

(1)TOEFL ibt Score
(2)GRE General Test Score
(3)GPA(成績証明書)
(4)Curriculum Vitae (CV/履歴書)
(5)Statement of Purpose(SoP/志望動機書)
(6)Letter of Reference(LoR/推薦状)3通以上
(7)Writing Sample(論文)1本
[(8)Personal History Statement (パーソナルヒストリー)→14校中、3校のみで求められた]

このうち、(1)は留学生向け。(2)から(8)は全員必要である。先のコーネルのページやPhD院生の暴露サイトにも書かれているが、選考プロセスは二段階になっていると考えられ、第一段階は主にGREやGPA(+TOEFL)などの客観的指標を使った足切りでショートリスト(Short list)がつくられ、第二段階で選考委員がSoP、LoR、WSをじっくり読んで合格者を決定する。本日はショートリストに載るまでに重要な客観的指標について書きたい。次回の投稿でSoP等についても書く予定だ。

3. 出願に必要な書類-Part1-


(1)TOEFL ibtのスコア


参考(私の提出スコア):TOEFL ibt 114/120点(Reading:Listening:Speaking:Writing=30:30:26:28)

アメリカの大学で学位をとっていない場合は英語力を証明するためにTOEFLを提出する必要がある。イギリス、カナダ、シンガポール等の英語圏大学出身でもTOEFLを求められる場合があるようなので、個別大学の要件を確認した方がいい。IELTSは認めている大学と認めていない大学に分かれるが、認めていないところが多い。

何点必要か?出願に必要な最低スコアは各大学院によって違ったり、各大学院の各研究科によるが、TOEFL ibtで90-110点以上に設定しているところが多い。また特定技能のサブスコアで個別に要件を課しているところが多く、特にスピーキングで26/30以上を要求してくるところが多くあった(特に州立大学)。私は総合スコアはクリアしていているにもかかわらず、スピーキング26/30に到達するために2016年に3回TOEFLを受けるはめになった。日本語を母語とするTOEFL受験者のスピーキングスコアは低い傾向にあるようで、要注意だ(ざっとデータをみたかんじだと、他の言語を母語とする受験者ではスピーキング平均>他技能平均が多いのに対し、日本では他技能平均>スピーキング平均と逆だ)。

各大学院の求めるスコアをクリアすることはもちろんだが、私としては最低でもTOEFL ibtで100点以上とれる実力がないと出願は相当苦しい戦いになるのではないかと思っている。もちろん、各大学院が定める最低ラインを超えてさえいれば、TOEFL自体が合否に響くことはない(= TOEFLはあくまで出願を可能にするものでありそれ以上の意味はないだろう)が、TOEFL ibtで100点がとれないような英語力では、GREのVerbalが相当低い点数となるであろうし、出願の際の大学とのやりとりや合格後の大学との交渉で苦労することが考えられるからである。ただし、社会学でも研究手法が計量や数理系の場合などでは、90点台でもなんとかなることもあるだろう。実際に経済学ではTOEFL 90点台で上位R1大学に合格し、成功している方の話をたくさん聞く。ただ、社会学は経済学に比べて言語力が重視される傾向にあることは容易に想像される(エスノグラフィーや歴史社会学的アプローチをとる同期と一緒にコースワークを受ける可能性濃厚だ)

最後に。たまに、TOEFLの基準がプログラムの入学難易度を反映しているというような大きな勘違いをしている人がいるが、これは間違いである。強いていうと少しレベルが低めの州立大学社会学大学院の方がTOEFL要件が厳しいことさえある印象だ。このような大学院ではTAと財政サポートが完全に一体化しており、特にTOEFLのスピーキングが重視されているように感じた(26/30というのが多い)。

(2)GREのGeneralのスコア


参考(私の提出スコア):Quantitative+Verbal 326/340点(Q:V=166:160)/ Writing 4.0/6.0点

各大学院の社会学PhDプログラムではほとんどすべての社会学PhD課程がGRE Generalのスコアを要求してくるが、TOEFLと違って、GREに関する最低ラインを設定している大学は少ない。ゆるい基準を示しているところだと、例えばウィスコンシン-マディソン校の社会学PhDの出願要項のページがそれぞれの技能で75パーセンタイル以上(=この換算表だとVerbal157点以上、Quantitative160点以上、Writing4.5点以上。なおパーセンタイルは数ヶ月ごとに変動する)あることがGood(「望ましい」程度の意味?)としている。

多くの大学の公式ホームページでは足切りは否定されているが、QuantitativeとVerbalの合計で300-310点くらいのところでゆるい足切り(300点に達していなければ原則落とすが、推薦状や論文で突出していれば合格させる)が行なわれており、逆に言うとGREは足切り以外の目的のためには積極的には用いられてないのではないかと私は推測している。つまり、GREのVerbalとQuantitativeが両方とも140点だったりしたら合格確率はかなり低いであろうが、かといって両方とも170点(満点)でも落ちる人は落ちるということだ。実際にとても高い点数でダメだった人を数人知っている。

私は運良くGREが初回受験でまあまあ良い点数がとれてしまったので他の人に比べると苦労していない。一応、二回目も受けて、二回目はVerbalとWritingは上がったのだが、Quantitativeが下がってしまい、Quantitative重視で初回のものを提出した。GREについてのより詳しい記事は去年ここに書いたので関心のある方はみてほしい。正直なところ、日本での受験教育を経験した方ならQuantititativeで160点台を出すことは難しくないと思う(中学生レベルの数学が中心である)。Verbalは人によるが、頑張って150点台に到達しておいた方が良い気はする。Writingはどの程度みられているかについては最後まで謎だった。

(3)GPA(成績証明書)


参考(私が提出したもの):
学部GPA:3.73/4.00(Major GPA:3.93/4.00)
大学院(修士)GPA: 4.00/4.00

GPAはアメリカの大学の出身の場合は、その大学の評価とともに大きな意味を持つだろうが、日本の大学出身の場合には、特に大きな意味をもたないかもしれない。なぜならアメリカの大学の先生には日本のそれぞれの大学のレベルがわからないので、日本のA大学とアメリカのX大学のGPAを比べようがないからだ。ただ、もちろん、良いことに越したことはなく、悪すぎると印象は良いであろう。この資料をみる限りだと、合格者の平均GPAは低くても3.7以上のところが多く、時折最低ラインを設定しているところもある。

GPA情報を記入するのは出願のウェブサイト上である。東大では厳密にはGPAは導入されていない(少なくとも2015卒&2017修了の私に対しては適応されない)。そういう場合には、優=4、良=3、可=2など大学の指示にあわせて計算するか、何も計算しないで空白にしておくかのどちらかにしておくのが良いだろう(注1)。実際にアメリカ国外の大学出身で計算方法がわからない場合には空白のままにしておくように指示されることもある。どちらにしろ成績表は提出するので、もし必要であれば、大学側は独自に計算すると思う。

以上、ショートリストに人を残す際に使われるであろう客観的スコア(TOEFL、GRE、GPA)について書いた。このような客観的スコアは高い方が良いが、高くても受かることは保証しない。また低過ぎる場合、合格は遠のくと思っておいた方が良いだろうが、諦めない方がよい。低すぎる場合、志望理由書(SoP)で低スコアのExcuseを書くことや、推薦状(LoR)を書いてくれる先生に頭を下げて、特定のスコアが低いことのExcuseと、それをカバーする力があることを書いてもらうなどの方法を検討してもよいだろう。

注1・・・難しいのは優上の扱いなどである。私の場合、学部4年の時に優上が導入されたので、そもそも上限が授業をとった年度によって違った。

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