薦められて読んだ岩波文庫の一冊。心に残る一冊となった。中学校(旧制)に上がったコペル君を主人公にした物語で、コペル君のおじさん(コペル君のお父さんは病没)がコペル君を手紙で諭して人生について教えていく形式となっている。コペル君の本名は本田潤一だが、おじさんが「コペル君」と名付けた。コペルニクス由来で、詳しい経緯は最初の章で説明されている。
コペル君が日常生活や学校の友人との関係で経験したことに対して、できるだけ子どもの言葉を使って社会学的・経済学的なものの見方を提示しつつ、「どう生きれば良いか」という指針を示すという構成となっている。著者の上手い点は、難しい社会学や経済学の言葉はほとんど出さないで、平易な言葉で説明し、それを子供に読み聞かせできそうな物語に仕立てている点だろう。巻末には丸山真男の吉野源三郎への追悼文兼解説が載っていて、同様の趣旨のことが述べてあった。
少し残念、かつ興味深い点は、この年代(旧制中学1年の設定なので12-13歳だろう)から直面するであろう性的なことがらに関する言及がほとんどない点である。当時中学校は男子校であることや、下記に示す当時の政治的状況が性的な話題の欠如に影響しているのかもしれないし、著者自身が関心がなかったのかもしれない。
現代の私たちには「どう生きるか」というタイトルがついた本はとても胡散臭いものに思えるかもしれないが、この本は日本で軍国主義的な風潮が強まる1937年に左派系の知識人吉野源三郎により出版されているという歴史的文脈を踏まえる必要がある。吉野は治安維持法で逮捕されたことなどもあり、戦後はリベラル系雑誌『世界』の初代編集長も務めた人物である。ところどころに当時の風潮への批判だと思われる箇所もある。戦前のリベラルな教養主義者たちが目指した人格主義教育の流れの中に位置付けられる本であろう。
私個人の感覚としては、とても大切なことを教えてくれる本であると感じたし、偉そうなタイトルではあるが内容にネガティブな印象は受けなかった。小学校高学年以上から大人まで全てにおすすめできる本だと思う。
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