2017年7月19日水曜日

社会学PhD出願の記録(4)-出願に必要なもの(CV、志望動機書、推薦状、論文編)


1. 前置き

このブログではアメリカの社会学PhD課程への出願に関する情報を私の経験を基に執筆している。私のプロフールはこちらを参照のこと。前回の記事では、出願に必要な書類のうち、TOEFL、GRE、GPAについて書いた。本日は、Curriculum Vitae (CV/履歴書)、Statement of Purpose(SoP/志望動機書)、Letter of Reference(LoR/推薦状)、Writing Sample(WS/論文)、Personal History Statement (パーソナルヒストリー)について書きたい。

長い記事に写真がないと寂しいので米大学のロゴ一覧
選考プロセスについては前回の記事に目を通してほしい。前回紹介したTOEFL、GRE、GPAが出願者を落とす足切りのために存在するとすれば、本日紹介する書類は出願者を合格させるために存在すると思えば良いだろう。特にSoPとLoRとWSはとても重要だ。なお、本記事の諸前提や注意書きについてはこの記事の前置きを読んでほしい。

2. 出願に必要な書類-Part 2-

(4)Curriculum Vitae (CV/履歴書)

これは日本でいうと履歴書に当たり、内容としては学歴、職歴、発表論文歴、学会発表歴、獲得研究費・賞、所属学会等のアピールポイント書く。日本のように様式が画一的に指定されているわけではないので、自分で作成しなければならない。米国の各大学院の社会学研究科の大学院生のページでは、大学院生のCVがダウンロードできるところが多いので、そこでいくつかのCVをダウンロードして参考にすると良い。日本のように顔写真を載せることはしない。

(5)Statement of Purpose(SoP/志望動機書)

Statement of PurposeはSoPと略されることもある。この書類は通常レターサイズ(アメリカではA4は使わないので注意すること!!!)のシングルスペースで1-2枚程度としている大学が多い。合格を決める、最重要書類の一つだ

内容はこれまでの勉強・研究の経験社会学の下位分野の研究関心志望大学の社会学研究科を志望する理由指導教員の希望個人の経歴等を書くことが求められる。通常、選考委員会は200人以上の応募者の中から20人以下の合格者を絞り混む過程でこの書類に目を通す。選考委員によって評価の仕方は違うと思うので一概に言うのは難しいが、少しでも覚えてもらえるように印象的に書くのが重要だろう。また、事実の羅列にとどまらず、関連づけられたストーリーとして一貫性をもって書くことが重要だとも思う参考になるのはウィスコンシン大学マディソン校社会学研究科のこのページや、UCバークレーのこのページなどだ。また、身近に合格経験者がいたら、SoPのサンプルを参考にお願いしてみるのが良いと思う(剽窃ソフトを使っている大学院もあるらしい。当たり前だが、コピペは厳禁)。

以前の記事で述べたように、アメリカのPhDへの出願では、5-10校程度に出願するのが一般的である。SoPの研究経験や研究関心等の部分は使い回しで良いだろうが、それぞれの大学院社会学研究科について、個別になぜ自分が志望するのか固有の理由を書くのは大変で時間がかかるので覚悟が必要だ。例えば、私が進学するブラウン大学の場合、私の研究関心である移民研究(Migration studies)が強いことや、PhD在学中に他の分野の修士号を自由に取れる等の大学固有の特徴があるため、それらを述べた。その他の出願大学についても色々と調べた。指導教員希望に関しても同様で、事前に十分なリサーチが必要だ。

なお、大学によってはStatement of Purposeの他にPersonal StatementやPersonal History Statementが求められる場合もある(e.g. ミシガン大学アナーバー校やUCバークレー)。志望大学がPersonal History Statementを求めてきている場合は、Statement of PurposeとPersonal History Statementの内容をある程度棲み分けするという戦略も考えられる(*)。

*ただし、Statement of PurposeのことをPersonal Statementと呼ぶ大学院もあるようだ(e.g. ブラウン大学)。よって、それぞれの書類で何が求められているかをAdmissionのページでよく確認する必要がある。

(6)Letter of Reference(LoR/推薦状)3通以上


LoRと略されることがある。ほとんどすべての大学院で、三人または三人以上からの推薦状が求められる。時折、二人しか求めないところ(e.g. コーネル)がある。私は四人に頼んだが、基本的には三人で良いと思う。誰に頼むか?(a)指導教員等、研究者としての自分のことをよく知っており、(b)アメリカで評価される推薦状がどういうものなのかを知っている人で、(c)アメリカの社会学者にも知られている先生にお願いするのが良い。アメリカでは、日本とは推薦状の意味合いが大きく異なり、推薦状は選考においてとても重要な意味をもつ推薦状で合否が決まることもあると聞く。日本の大学にいる場合、(c)の要件を満たす先生を見つけるのは相当大変だと思うが、最低限(a)と(b)の要件を満たしておきたい。


何らかの事情で断る先生がいるかもしれないので、少なくとも2ヶ月以上前には推薦状をお願いすることをおすすめする。推薦者候補の先生にはCV、Statement of PurposeやWriting Sampleのドラフトとともに、自分のアピールポイントを箇条書きにしたメモを渡すと良いだろう(推薦状本文を自分で書くのはやめた方が良い(下記参照))。


私の場合、学部指導教員(所属:東大)、大学院指導教員(所属:東大)、大学院で授業をとった先生(所属:東大)、長期海外研究インターンの上司(所属:スイス連邦工科大)の計4名にお願いをした。スイスの上司を除く全員が米英で博士号を取っており、全員が社会学系の英文ジャーナルに論文を掲載したことがあった。スイスでの研究インターンは社会調査系だったが、上司はドイツで生物学の博士号を取っている方だった。社会学のPhD課程への出願で、社会科学外の分野での研究者の推薦状がどの程度有効かは不明だが、少なくともマイナスにはならなかったであろうと考えている。強くプラスには働くと思われるのは米国トップ大学で教えている現役教員(Associate Prof以上)の推薦状だ。そういう先生が日本にサバティカルで来ていて日本の大学で演習などを持っていた場合、演習を履修・聴講し、コネクションを作っておくと良いかもしれない。ただし、いくら有名な先生でも、平凡な内容の推薦状だと意味がないので、自分が優秀であることを予めその先生に証明しておかなければならない。


なお、推薦状は推薦者から大学に対して直接uploadされる。よって、私は自分の推薦状の文面を見たことがない。日本の大学院を出ている先生の中には、推薦状を頼まれると、被推薦者に対して自ら推薦状文面を書いてくるように伝え、その内容をほぼ変えずに署名する先生がいるということを聞く。これはアメリカでは不正行為とみなされることがありうるので注意した方が良い。またこのような推薦状理解の先生は、アメリカでの推薦状の意味や、アメリカで良いとされる推薦状の文面を理解していない可能性があるので、避けた方が良いかもしれない。

(7)Writing Sample(WS/論文)1本以上

社会学分野で論文を書いて提出することが求められる。ほぼ全ての大学で必須。分量は大学によるが、レターサイズにダブルスペースで20-30枚程度のところが多い。日本の社会学系専攻の場合、卒論や修論で無駄に長いものを求める傾向にある(私は卒論で8万字以上、修論で10万字以上という規定だった)ので、そのまま英語に訳して提出することはできない。なお、2本以上の論文を提出して良い大学や、長さに制限のない大学もある。

私は修士論文と同時並行で出願した(M2の冬に出願)ので、修論の実証分析のうち一番自信のあるものを先に英語で書き、それを提出した。M2の夏にドイツの大学での研究発表大会や、日本の学会で発表を経て、いろいろな方のアドバイスを既に得ているものだったので書き始めるとスムーズに書けた。Writing Sampleはとても時間がかかるので、出願前の夏には構想し始めた方が良い。

(8)Personal History Statement (パーソナルヒストリー)

この書類を求める大学は少数派で、私が出願した大学の中ではUCバークレー、UCLA、ミシガン大学アナーバー校だけだった。分量はレターサイズのシングルスペースで1-2枚程度。パーソナルな経歴や家庭背景がいかに社会学PhD出願にまで至ったか、といった内容を書くことが求められるようだ。参考となるのはUCバークレーのこのリンクやミシガンのこのリンク。社会的に不利な家庭背景で育った場合(e.g. エスニックマイノリティ、貧困家庭)、いかに自分がそれらを乗り越えて大学で勉学に励んだか、というようなことを詳しく書けば良いと思う。またそのような家庭背景と研究テーマとの繋がりも書けると良いだろう。ただし、Statement of Purposeでも同じようなことを書いている場合、棲み分けが必要となる。
私はPersonal History Statementは他の書類(Statement of Purpose、Letter of Reference、Writing Sample)と比べると重要性は低いのではないかと思っている。私の推測になるが、このPersonal History Statementが州立大学のみで求められていたのは偶然ではないかもしれない。基本的に、米国の州立大学は私立と違って多様なBackgroundの人に教育機会を提供することを目的としている。だからこのような書類で、特に不利な家庭背景を持つ出願者の経験を少しでも汲み取ろうとしているのかもしれない。
以上、出願に必要な書類をレビューした。特に、Statement of PurposeとLoRとWriting Sampleは重要と思われるので丁寧に準備した方が良いだろう。

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