2017年7月12日水曜日

社会学PhD出願の記録(2)-出願校の数と選定基準-


1. 前置き


前回の記事はアメリカにおけるPhD課程とMA課程の違いが日本とは大きく異なり、研究者を目指す場合、基本的にはPhD課程を選んだ方が良い(合格が難しい場合にPhD課程へのステップとしてMA課程を経由した方が良い)ことを書いた。本日は出願校の選び方について自分の経験を書きたいと思う。なお、私の留学に関する記述の諸注意や前提(アメリカへ社会学のPhD留学を目指している人のためのもので他の分野に当てはまるかはわからない)に関しては前回の記事を参照してほしい。

2. 何校に出願するか?


アメリカPhD出願が日本と大きく違うと思うのは、出身大学(BA課程)とは違う大学のPhD課程に進学することが推奨されること、ほとんどの人が6-10程度の大学院に出願することだと思う。私もまだ現地にいる身ではないので実情はよくわからないのだが、出身大学が推奨されない理由は、色々な組織(大学)を経験していた方が良いことや、教員と学生の馴れ合いのような関係を防ぐ目的もあるのだろうと思っている。複数出願することは、PhDの倍率に関係しているように思う。日本では大抵の場合、出身大学と同じ大学院に出願し、倍率も高くて3-4倍程度で、複数の大学院を受験するということはそれほど想定されていない。一方、アメリカの上位R1大学の社会学PhDの場合、倍率は10-20倍で、よく落ちる。私の場合、アメリカの12校とイギリスとカナダ1校ずつに出願して、全額給費生としての最終合格をもらえたのはアメリカ2校とイギリス1校だけだった(ただの自分の実力不足かもしれないが)アドバイスをくださった方々や、合格校を訪問した際に出会った他の合格者の話を聞いているかんじでは、アメリカ国内からの出願者で6-8校程度、留学生で8-10校程度が平均的な出願校数な気がしている(留学生の方が様々な理由から明らかに不利であるから留学生が出願校数を多くするのは合理的である)。中国トップ大学の友人経由の情報だと20校出願するようなケースも珍しくないようであるが、出願にかかるコストを考えると多くても15校が限度な気はする。ちなみに有名なフルブライト奨学金に受かっていた場合、最低5校以上の大学院に出願することがルール上求められる。アメリカPhD出願においては落ちることが前提とされていることの裏返しだろう。出願時点で社会学の有名国際ジャーナルに第一著者で掲載した論文があるような超優秀な方なら別だが、1校や2校に絞るということは現実的な観点からあまりお勧めできない。

複数の大学院へ出願した方が良いもう一つの大きな理由として、合格後に実際に訪問して条件を比較・交渉しつつ進学先を選定できる利点があげられる。アメリカの大学院は合格させた大学院生にはなんとか来てもらおうと努力する。合格した場合、指導教員候補の先生から自分が提出したアプリケーション書類がいかに素晴らしかったかをメールやスカイプで褒められ(もちろんお世辞であろう)、Recruitment weekと呼ばれる日に大学への直接の訪問を要請される。もちろん、航空券代の一部(大学によるが400-500ドル程度まで)やホテル代(全額)も負担してもらえる。実際に大学を訪問してみて、先生や院生と話をし、街の感覚を掴んで、比較をしながら進学先を選ぶのが良いと思う。また、A大学院とB大学院で生活費の条件が異なり、Bの方が良い場合、Aに対して、Bと近い条件にするように交渉できる場合もあるようである(合格すると他にどこに受かったのか、どういうオファーをもらっているのかを聞かれ、向こうはより良い条件を出そうとしてくる。これをどこまで聞いていいのかに関しては正直私もまだわからないが、私はTA/RA負担を3年から1年にまでに軽減してもらえたので、契約期間の5年のうち4年間はTA/RA義務なしで生活費を受給できることになる)。

3. 何を基準に出願校を絞るか?


アメリカでは社会学の博士号を授与する大学はたくさんある。日本では無名だが、アメリカでは有名な大学院もあるだろう。何を基準に10校程度に絞ればいいのだろうか?私が出願校選定の際に重視したのは以下の5つである。

(1)US News World Reportの社会学Rankingで上位30位に入っているか?


US News & World Reportが4年おきに出している全米社会学大学院ランキングが社会学プログラムのランキングとして広く参照されており、大学院側も出願者もこのランキングを大変気にしているようである。このランキングは全米の社会学研究科の研究科長の主観的評価(1-5の5件法)の平均に基づくもののようであるが、多くの大学院出願者の出願校・進学先決定に強い影響力を持っているらしい(このランキングの学部版なども凄まじい影響力を持っているようであり、各大学はランキング向上にかなり力を入れているようである)。日本でよく取り上げられるTimes(英)やQS(英)の世界ランキングはあまり認知されていないようだった。

私がこれまでに先生・先輩・友人から聞いてきたことや、調べる中で得た情報だと、US News & World Reportのランキングがより上位の大学院のPhDを持っていた方が有利であることは確かなようだった。社会学ではないが、全米の政治学研究科に関するRobert Opriskoの研究よると、US News & World Reportの政治学大学院ランキングの上位4校が全米の終身教授職の20%程度、上位11校が50%程度の終身教授職を輩出しているとのことであった。

もちろん、年毎の変動もあり、分野ごと(社会階層論、人口学、歴史社会学、ジェンダー etc.)に大学の強みは違うので、ランキングの細かい違いを気にすることは馬鹿馬鹿しいが、このランキングは一定程度参考になることは確かだろう。私は色々考えた結果、US News & World Reportのランキングの上位30校に絞って出願校を検討することにした。

(2)入学するPhD課程の大学院生全員に5年間の継続した学費全額免除と生活費を約束しているか?


アメリカの私立大学大学院だと学費が年間500万円程度で、それに生活費、各種保険も合わせると一年で800-1000万円程度必要となる。5年間だと4000-5000万円必要という計算だ(州立でも留学生の場合学費は300万円程度する)。いくらなんでも5000万円を親にお願いすることも、誰かにかりることも不可能である。よって、この(2)の要件は必須であった。

幸いなことに、US News & World Reportのランキングの上位30校の多くがこの基準を満たしているのでほとんどの場合問題なかった。ただし、時々、州立大学で、サポート対象を"All admitted students"とは言わないで、"Almost all admitted students"というような表現をしている大学院や、出願できる英語要件と入学後大学からサポートされるための英語要件を分けているところなどがあった(TAの関係で)。いくら合格してもお金が5年間約束されないと進学できないので、できる限り全入学生に対して学費・生活費・保険の全額給費(返還不要)が確約されているところのみに出願するようにした。

(3)専門としたいテーマと研究手法(移民研究と計量分析)に強いか?


博士課程に行くのならこれは当たり前で言うまでもないかもしれない。いくらランキングが高い社会学大学院に入っても、自分の専門分野を研究できないと意味がない。私の場合、国際移住の社会学(sociology of migration)に強い関心があるので、移民研究(Migration studies)に強く、なおかつ計量分析(Quantitative Methods)のトレーニングがしっかりしているところを選ぶことにした。

(4)指導教員にしても良いと思える先生がいるか?何人いるか?


基本的には自分が指導教員にしたい先生がいるところから選ぶのが重要なことは間違いない。私の場合、留学したいと思ったのも、アメリカの大学の特定大学の特定研究者の論文や本を読んでいたからだったし、そういう志望動機の方がほとんどだと思う。ただ、アメリカでの社会学PhDに出願する際の心得として、自分が指導教員にしたい一人の教員ではなく、プログラム全体の強みと自分のやりたいこととのマッチングを考えるようにすすめられることが多かった。これは前項で述べたように、特定の教員目的で出願しても落ちることがあるかもしれないことや、アメリカの大学の社会学プログラムが標準的で体系的なトレーニングを重視すること、先生が退職や異動する可能性があることがあるだろう(これとは逆に、イギリスの博士課程は個人指導が主体で、プログラムベースではなく、教員ベースで選ぶべきらしいことを言われた。なので要注意である!)。

私の場合、教員の専門分野や論文を読んで、必ず最低3人は指導教員になってもらっても良い教員がいるところを受けるようにした。この(4)のプロセスは(3)と一緒に進めるべきだろう。なお、アメリカの社会学PhDへの出願にあたっては教員への事前の連絡は不要なことが多いし、私も事前に先生を知っていた場合を除いて行わなかった(UNCのような一部の大学プログラムを除く。またイギリスや大陸欧州では必要らしいので要注意!!)。

(5)出願大学院がある場所に5年間住む自分を想像できるか?


合格プログラムへの訪問で他の合格者や現地の学生と話していると、気候や、恋人が住んでいる街からの近さなど、日本ではあまり大学院選びに用いられないような指標を大切にしている人が目立った。アメリカの大学は極端な田舎にある場合がある。5年もいるので、田舎が苦手な場合や逆に大都会が苦手な場合はいくら大学院が良くてもよくよく考えた方がいいであろう。私は都会っ子なので、田舎での生活に耐えられないだろうと判断し、大都市や大都市近郊の大学を優先した。結局、かなり小さい街の大学に進学することになって、この点、少々不安である。

4. 実際にどこに出願したか?


下図が出願校とその結果である。出願時の志望順位は明確にあったわけではなく、以下のような緩い順序で、詳しくは受かってから考えようと思っていた(とらぬ狸の皮算用をしたくなかった)。ただ、一応、UCバークレーが長らく第一志望として想定されており、それに標準はあわせていた(落ちてしまったが)。

出願校と出願結果(合格は全て全額給付奨学金付)

出願結果詳細については別の機会に詳しく書くが、やはりなかなか厳しいものがある。引っかかって本当にラッキーだった。ワシントン大学とブラウン大学とオックスフォード大学に合格し、最後は後者二つで悩むことになった。オックスフォード大学はアメリカが全部ダメだった場合に備えて当初から修士課程(MPhil)で出願したことや、グローバルマーケットではアメリカの博士号の方が評価されるという話を聞いていたので、本来は迷わずブラウン大学のPhD課程を選ぶところなのだが、社会学者の間で有名なオックスフォード大学のナフィールドカレッジから授業料、寮費、生活費付きで合格を貰え、そのまま博士課程への進学も条件付きで可能というようなことだったため、締め切りギリギリまで悩み抜くこととなった。合格してから入学先を選ぶまでに何が起こるかについてはまた別の機会に記録しておきたいと思う。



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