2019年12月26日木曜日

『海外で研究者になる』を読んだ

大学院生の間で話題になっていた以下の本を読んだ。




著者の増田先生は東大情報理工学系研究科の准教授を経て(博士号も海外ではなく東大)、イギリスの大学へ移られた方で、海外で研究者として働くことについてご自身の経験を中心に、他に海外で働く十数名の日本人研究者へのインタビューも交えて、解説されている(先生は2019年夏からはイギリスからアメリカの大学に移籍されたようである)。

私が気に入った点は以下3点である。

(1)アメリカ・ヨーロッパに偏っておらず、中国、香港、韓国、シンガポール等の大学で働く日本人研究者の事情も詳しく取材されていること。今後の日本人研究者の活躍場所が日本以外のアジアとなると増田先生がお考えになっているかららしい。

(2)理工系に限らず、人文・社会科学系の研究者の事例も紹介してあること。最初この本が出たときには「理工系だけの事例を集めた本」だという勘違いをしてしまったが、実際に読むと経済学、社会心理学、考古学、演劇学等の社会科学や人文学系の研究者の事例もきちんと取り上げてあった。

(3)日本で博士号を取ってから、ポスドク以降に海外に移り、そのまま現地就職した事例も取り上げていること(そもそも、この本ではこのルートがメインに考えられている)。

私がアメリカの博士課程に出願する前には可能性を考えなかったのだが、この本に取り上げられている諸先輩方のように、日本国内の大学で博士号を取得した後に、ポスドクから日本国外に出るという選択肢もあり得たのかもしれない。もちろん、社会科学系の場合は理工系に比べると研究そのものや博士の学位に地域性がある気がするので壁はより高いかもしれないが、この本でとりあげられている諸事例のように成功例も一定数あり、不可能ではないのだろう。

2019年12月25日水曜日

近況1226:今学期の振り返りとスタートレック

学生のレポート採点と自分のレポート提出を完了し、とうとう冬休みに入った。といっても、この休みの間に終わらなせないといけない仕事がまだあるので完全に休むことはできなさそうだが。。。今学期を振り返る。

1. コースワーク

前にも書いたが、今学期は(1) Migration、(2) Spatial Thinking in Social Science、(3) Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data、(4)  Sociology Paper Writing の4つのコースを履修した。特にSpatial Thinkingのコース(メソッドではなく、サブスタンスのコースだったのが良かった)は強く印象に残ったので、すぐに(=博論に)に空間的視点を取り入れられるかは別として、この分野は開拓して行きたいと思う。

6月に2つ目のプレリム試験を受けなければならない。来学期は1つしかコースを履修しない予定なので、残りは研究とプレリム試験準備に使いたい。


2. 研究

ジャーナルDへ投稿して3週間以上過ぎた。掲載率10%程度のトップジャーナルで、万が一これに載せられたらアメリカのアカデミアでの就職も夢ではなくなる(くらいには掲載されるのが夢なジャーナルである)。これまでDはデスクリジェクト率が20%弱だったらしいのだが、それをさらにupさせていくことを新編集長がTwitterにて示唆していたのでここ数日はメールを見るのが少し怖かった。査読されるまでに辿りつければ、2月下旬ごろに結果が返って来る。致命的なミス等が指摘されずにリジェクトされた場合、3月下旬までにIMRに投稿するつもりである。

ワシントンDCで4月にあるアメリカ人口学会(PAA)は二つ出していたのだが、どちらともポスターで通った(オーラルは落ちた)。フィンランドである社会階層論研究会(RC28)はオーラルで通った。発表内容的にはどちらかというと完成しているPAAの方をオーラルで、新しく始めたRC28の方をポスターでやりたかったので逆の結果になって少し残念。

ここ3年間で学会について思うことは、該当学会参加者に認知されているジャーナルに論文がないとネットワーキングしようと思っても相手にしてもらえないということだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、とりあえず出せるように頑張りたい。

博論については前にも書いた気がするが二択まで絞った。どちらにするかによってコミティーの選択が変わってくる。再来年(2021年)の4月までにプロポーザルを書いてディフェンスする必要があり、自分の中の目標としては来年(2020年)の夏までにコミティーを確定させ、12月までにディフェンスを終わらせたい。

3. スタートレック

今年に入ってからだが、NetflixでStart Trek Discovery(2017-)を観てから、Star Trek: Enterprise(2001-2005)を全シーズン観て、今はStar Trek: The Next Generation(1987-94)をちょびちょび観ている。Star Trek: The Original Series(1966-69)もシーズン1の途中まで観たのだが、古いこともあって陳腐に感じる設定が多く、途中でやめてしまった(いつか再挑戦するかもしれない)。Star TrekはSFとして面白いだけではなく、ドラマ中のジェンダー・人種の表象や、植民地主義的発想に基づく設定などがシーズンごとに変化していくのはドラマが放映された時代ごとのアメリカ社会を反映しており、アメリカという「帝国」の勉強にもなる。

Big Bang Theoryシリーズの影響もあって元々興味はあった(シェルダンは時々クリンゴン語で話したり、ヴァルカン星人の"Live long and prosper!"という挨拶をしたりする)のだが、自分がここまでハマるのは意外だった。健康なのか不健康なのかわからないが、一日のうち30分くらい現実逃避できるSFやファンタジー世界があることで随分とメンタルが保たれることにも気づいた。

もし興味ある方がいれば最新のDiscoveryからみるのがおすすめ。時代設定ではEnterprise(22世紀)→Discovery(23世紀)→Original Series(23世紀)→New Generation(24世紀)、Deep Space Nine (24世紀)、Voyager(24世紀)となっているようだが、Discoveryからみるのがおすすめ。

4. 本

冬休み中に読もうといくつか研究とは全く関係ない本を買った。一つ目は『岩倉使節団『米欧回覧実記』』(田中彰著)、二つ目は『トマス・アクィナス――理性と神秘』(山本芳久著)。できるだけ積ん読にならないように日本にいる間に読み切りたい。

2019年12月16日月曜日

今年面白かった社会学論文10選(2019)

学生のレポートの採点が残っていてこんなことをしている場合ではないのだが、クリスマス前には終わらせたかったジャーナルDへの投稿も完了し、自分の期末レポート(D3にもなって、3本も書かないといけなかった、、)も終わりが見えてき、明後日から一時帰国に入るので、その前に今年一年で読んで面白かった論文を10選あげておく(順不同)。一年といっても、昔読んだものほど印象が薄れてしまうので、ここ二ヶ月くらいで読んだ論文にバイアスがかかっている。なお、今年僕が読んだ論文で、今年出た論文ということではない。

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Rissing, B. A., & Castilla, E. J. (2014). House of green cards: Statistical or preference-based inequality in the employment of foreign nationals. American Sociological Review, 79(6), 1226-1255.

Auditデータをとてもうまく使って、米国のグリーンカードの審査で起こっている「差別」が「選好による差別」ではなく、「統計的差別」であることをとてもわかりやすく示している。今年になるまでこの論文を知らなかったことは勉強不足としかいいようがない。この論文は移民研究してない人でも絶対面白いので是非読んで欲しい。分析もシンプル。
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Brinton, M. C., & Oh, E. (2019). Babies, Work, or Both? Highly Educated Women’s Employment and Fertility in East Asia. American Journal of Sociology, 125(1), 105-140.

東アジア(日本と韓国)で出産/育児と女性の就労継続が難しいとされる背景を、160人以上のインタビューデータを基に明らかにした社会人口学の論文。人口学で質的データを使った論文は相対的に少ないので貴重な気がする。
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Torche, F. (2018). Prenatal exposure to an acute stressor and children’s cognitive outcomes. Demography, 55(5), 1611-1639.

胎児期に母親が受けるストレスがどのように子どもの出生後の発達に影響を与えるかというのはよく知られていない。この論文ではチリで2005年に発生した地震による母親の被災と、どの胎児期に母親が被災したかのバリエーション(第一、第二胎児期は子どもの発達に大きな影響があるが、第三胎児期は影響が少ないことが知られているらしい)を利用してストレスの影響を分析している。分析の結果、貧困家庭の子どもにおいては第一、第二胎児期に母親がストレスを受けることが7歳時点の学力に負の影響を与えることが示されている。Torcheは日本でも教育社会学界隈ではよく知られているチリ人社会学者である(スタンフォード大教授)。この論文に限らないが、文章をわかりやすく書くのがとてもうまいと思う。
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Catron, P. (2019). The Melting-Pot Problem? The Persistence and Convergence of Premigration Socioeconomic Status During the Age of Mass Migration. Social Forces.

移民の移住前のSES(社会経済的地位)は移住後の移民(1世)とその子ども(2世)の社会経済的地位達成にどう影響するのか?移民の移住前のSES関するデータはなかなか見つけるのが大変だが、Catronは19世紀後半のヨーロッパからアメリカに来た移民(1世)の船の乗客リストの名簿の名前と職業を1910年の国勢調査データの名前にマッチし、さらに1910年に0-18歳だった移民の子ども(2世)の名前を1940年の国勢調査の名前にマッチすることで、この問いに答えられるデータを作成した(Note:当時はヨーロッパからは船でしか来ることができない)。結果、移住前のSESは移住後の移民1世のSESと関連するものの、その子どもの世代にはほぼ関連がなくなるという結論を出している。これは19世紀後半に移住したヨーロッパ移民の「同化」が速く進んだという既存の研究の知見と一致する。この論文は以前に発表を聞いたのだが、最終稿はOnline Firstで出たばかりでちゃんと読めてないので冬休みに熟読したい。
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Logan, J. R., & Martinez, M. J. (2018). The spatial scale and spatial configuration of residential settlement: Measuring segregation in the postbellum South. American Journal of Sociology, 123(4), 1161-1203.

南北戦争後の米南部においては、「白人」と「黒人」のResidential Segregation(居住分離)は北部に比べてとても低かったとされてきた。しかし、これで北部よりも南部の方が「白人」と「黒人」の社会的距離が近かったと結論づけるには問題がある。なぜなら、分離を測るスケールの設定で分離指数は高くもなりし、低くもなるからだ。この研究では1880年の米国の国勢調査の100%データ(ピンポイントで誰がどこに住んでいたかを地図上に再現できる)を用いて家レベルでの居住分離のパターンを明らかにし、最小のスケールで居住分離を測ると先行研究とは全く違うパターンが見えてくることを示している。また居住分離の空間形態(e.g.,「白人」は大通りに面して住み、「黒人」は路地に面して住む)の諸パターンも示されている。とても記述的な論文で、空間分析におけるスケールの大切さを知るためにはとても良い勉強材料だと思う。なお、今学期は筆頭著者のSpatial Thinking in the Social Sciencesという授業を受けて、とても色々考えさせられた。筆頭著者のこのAnnual Review論文は空間分析における空間(space)と場所(place)の違いを考えるのにとても役立つので関心のある方はおすすめである。
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Song, X., Massey, C. G., Rolf, K. A., Ferrie, J. P., Rothbaum, J. L., & Xie, Y. (2019). Long-term decline in intergenerational mobility in the United States since the 1850s. Proceedings of the National Academy of Sciences.

米国の国勢調査と各種社会調査データをマッチさせて、1830年から1980年の出生コホートの世代間職業移動の長期トレンドを示している。農業からの転出を除いて分析すると、相対移動率は150年間で安定しており、いわゆる「FJH仮説」(論文中ではLZ仮説の方が引用されている)を支持している。絶対移動をみると、上昇移動は1900年出生コホートまでは増加するものの、1940年以降は下降している。この論文は、2年前に米国における世代間所得移動の長期トレンドを示してScienceに載ったChetty, Grusky, Hell, Hendren, Manduca and Narang (2017)(あえてet al.を使わない!)の職業版と言えると思う。筆頭著者と最終著者は両者とも大学院からの留学組としてアメリカに来て、様々なハンデを乗り越えながら今のポジションを手に入れて、米国の長期トレンドをクリアに示す重要な論文を、社会学を超えて影響力のあるPNASに載せている。留学生の鏡である。
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Tolnay, S. E., Deane, G., & Beck, E. M. (1996). Vicarious violence: Spatial effects on southern lynchings, 1890-1919. American Journal of Sociology, 102(3), 788-815.

米国では、19世紀末から20世紀初頭にかけて南部でたくさんの黒人がリンチによって殺害された。群(county)レベルの時系列データを使い、リンチが起きると、その後、その郡の近くの郡ではリンチが減少することを示している。推定された「負の効果」はリンチが「熱狂」によるものではなく、社会経済的な目的を持って「計算」されたものだったからだ、と解釈している(この解釈は若干飛躍しているように私は感じている)。1996年の論文で空間ラグモデルを用いているのはアメリカ社会学のすごいところだと思う。
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Legewie, J., & Fagan, J. (2019). Aggressive policing and the educational performance of minority youth. American Sociological Review, 84(2), 220-247.

NYCではOperation Impactという犯罪が起きやすい地区(ビルなどのかなり細かい単位の場合もある)を指定し、その指定地区(Impact Zone)に警察を集中配備する政策を2000年代初頭に実施した。Impact Zone指定地区の指定期間中、警察は職務質問を積極的にすると共に、かなりマイナーな犯罪でも逮捕を積極的にしたとされる。米国に住んでいれば想像はつくが、当然、Central Cityの「黒人」の青少年は警察に差別的に扱われたことが推察される。当論文では、地区間で警察が集中的に配備されたタイミングが異なる(Impact Zoneはかなり頻繁に移動されたようだ)ことを利用して、警察の配備と子どものテストスコアの因果関係を分析している。ちなみにデータは住所と紐づいたNYCの9-15歳(25万人分!)のテストスコアのデータである。分析の結果、Operation ImpactはImpact Zone指定エリアに指定期間中に住んでいる「黒人」の子どもの学力に負の効果があることが示されている。子どもの年齢が高ければ高いほど強い負の効果がある。マルチレベル/パネルデータの授業で文献指定されたのだが、結果が綺麗すぎて少しびっくりした。もう一つびっくりしたのはこの政策の雛形となる政策を実施したのが2001年までNYC市長をつとめたRudy Giuliani氏(現在トランプ大統領の顧問弁護士でウクライナ疑惑の中心人物)であることだった。
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Frye, M. (2017). Cultural meanings and the aggregation of actions: The case of sex and schooling in Malawi. American Sociological Review, 82(5), 945-976.

マラウィにおいて混合研究(高校生のパネル調査&生徒と教師へのインタビュー)を行い、性的関係をもつことと高校中退の関係を「文化」概念を通して明らかにしている。パネルデータからは性的関係の開始と高校中退は関連は認められるものの、高校中退の重要な要因となるはずの欠席、成績、非行はなんら関連が認められない。筆者は生徒や教師との綿密なインタビューやフィールドワークを通して高校教師や生徒の間で性的行為と高校退学が強く結びついて理解されていることを示し、こうした性的関係の開始と高校中退を結びつける「文化」そのものが高校中退の原因になっていると結論づける。この論文は「文化人類学の人口学」(Anthropological Demography)の「文化」(Hammel 1990, Population and Development Review)を量的&質的データ両方を用いて検証可能な形に落とすことに成功した論文のように思う。論文の著者は人口学若手のスター的存在で、「文化」を人口学に取り入れる点では来年夏頃にASRのエディターのOmar Lizardo等と共著でMeasuring Cultureという本が出すらしい。
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Baum-Snow, N. (2007). Did highways cause suburbanization?. The Quarterly Journal of Economics, 122(2), 775-805.

タイトルの通り高速道路の建設が郊外化の原因となったことを示した論文。実際の高速道路の操作変数に国防省が国土防衛のために作成していた高速道路の計画を持ってくるアイデアが斬新だった。なお、これは社会学ではなく、経済学の論文である。Spatial Thinkingのコースワークの課題文献だった。
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Calarco, J. M. (2014). Coached for the classroom: Parents’ cultural transmission and children’s reproduction of educational inequalities. American Sociological Review, 79(5), 1015-1037.

東海岸大都市近郊の小学校のとあるコホート(4学級)を3から5年生までの3年間、学級と家庭で継時的に観察したエスノグラフィ。親が子に教える「クラス内で困った時の適切な振る舞い」が白人労働者階級と白人中産階級で異なることを論じている。前者の親は教師を権威ある存在とみなし、問題があっても教師を煩わせずに自分で解決することを求める。一方、後者の親は教師よりも学歴があることも多く、積極的に教師に助けを求めて解決を目指すように助言する。基本的に教師は中産階級の子がとる行動を肯定的に受け止め、対応をする。著者はペンシルヴァニア大のラローの弟子(現在は既にインディアナ大で教えている)。



以上。2017年に渡米した頃はESR(European Sociological Review)の方がASR、AJS、SFよりも面白く感じていたのだが、最近はASR、AJS、SFの方が面白いと感じるようになってきたので、アメリカに染まってきたんだと思う。

2019年11月24日日曜日

ティーチングアシスタント業務で学んでること

久々の更新。相変わらずかなり忙しく、全く更新できなかった。

今日は今学期のティーチングアシスタント業務(TA業務)についてまとめる。担当しているコースは東大でいうところの初等統計の講義(駒場の「基礎統計」や本郷の社会学の「社会調査法」)にあたり、OLSの初歩的なところまでを一通りカバーして、来学期の実習コース(東大でいう「社会調査実習」的なサムシング)に繋ぐものである。履修しているのは主に学部2年生だ。

週に2回担当教員による講義(1回につき1.5時間)があり、そのクラス(50人)を3分割して、TAによるセクションが週に3回ある。

僕の仕事はオフィスアワーを持つこと(週1時間)、セクションを教えること(週1時間)、宿題、中間・期末テスト、レポートを採点すること、学生からのメールへの対応である。もう1人学部生のTAがおり、そのTAはオフィスアワーを週2時間、セクションを週2時間教える(学部生TAは採点できないというブラウン独自のルールがある)。

セクションを毎週教えるのはそんなに負担ではないし、オフィスアワーは予想以上に学生がやってきて自己肯定感が上がる(笑)。ただ、採点(ただ点数つけるだけでなく、細かいコメントも必要)は学期中に統計の練習問題の宿題9回、中間テスト2回、期末テスト1回、レポート提出4回あり、なかなか大変である。

大変だが、学生の側からみるととても勉強になると思う。最終レポートはACS(American Community Survey)か GSS(General Social Survey)かATUS(American Time Use Survey)を使って二次分析をするというものだが、最終提出までに3回ドラフトを提出する仕組みになっている。提出の度に10程度のGrading Rubricごとのコメントを(教員と僕が)して、学生は改稿・再分析していく。50人と受講者が多めなので担当教授も部分的にやってくれるのだが、なかなか時間のかかる仕事だ。今週末はそれでほぼ時間がなくなった。ただ、学生のプロジェクトが進化するのをみるのもはやりがいを感じる。

教え方は学ぶところが多い。いつか自分が教えるときに使おうと思った点をまとめると以下のようなものだ。

(1)最終レポートの模範例とStataコードを教員が事前に配布することにより、学生が最終レポートをイメージしやすくする。
(2)学生が分析しなければならないデータを指定する(特別な許可があれば他のデータも可能)。
(3)リサーチクエスチョンを出した時点で第一回目の提出をさせて適切な「介入」を行う。
(4)レポート提出の数日前の授業で、レポートを相互に交換させて見せ合い、相互にフィードバックさせて改善させる。
(5)レポートの細かい採点基準(Grading Rubric)を作って、それを公開する。

(4)と(5)に関しては、今学期受講しているファカルティディベロップメントのコース(博士課程修了までに全員必修)でも取り上げられている方法だが、実際に自分がTAしている文脈でやるのはいつか教員になった場合のための学びにとても効果的だった。

とりあえず、残り数週間、頑張りたい。

2019年10月23日水曜日

近況10月前半:28歳になった。

久しぶりの近況報告。とりあえず、とてもとても忙しい。ここ2週間平日は午前2-4時の間に寝て、8時に起きて大学に行っている。日本から栄養ドリンクやサプリメントを持参して正解だった(アメリカのはなぜか気持ち的に飲みたくない)。金曜に重めのペーパーの提出があるが、今日はゆっくり寝るつもりである。

10月7日で28歳になった。大きな心境の変化などはない気がする。「加齢した感覚」というのは誕生日を重ねるごとに線型的に増加するわけではなく、非線形的に増加するものだと思う。過去数年を振り返ると26、27、28歳は、誕生日を迎えることによって歳をとった感覚は薄かったし、29歳も薄い気がする。逆に、30歳になった時にいろいろと感じるものがありそうだ。直近で「とても歳をとった」と感じた誕生日は23歳になった5年前と、25歳になった3年前だった。

誕生日は授業についていけていない学生相手に中間テスト対策の特別補習講義(中心極限定理)をしたあと、中国人の友人数人とプロビデンスで自分がおきに入りの中華に行った。

コースワークは順調だが、研究と同時並行でやるのはかなり大変である。ただ、Ph.D.の修了までに空間分析のシークエンスを終わらせてGraduate Certificate in Spatial Analysisを取得しようと決めたので、そのためには仕方ない。今学期のMigration、Hierarchical Data Analysis、Spatial Thinkingのコースは全てSpatialシークエンスの一部である。

先週の人口学センターのトークはハーバードからMario Small教授がきて、Neighborhood effectに関するビッグデータを使った壮大な新プロジェクトの構想を発表していた。とても面白く、Spatial Analysisはもっと深めたいと思った。ブラウンには経済学部/人口学センターにJohn Friedman教授(アルファベット順的な理由からか?、"et al."に吸収されてあまり知られていないが、ハーバードのChettyのプロジェクトのCo-Directorである)がいて、経済学でもNeighborhood effectに関心を持っている人が多いので、昨日は教室に人が入りきらなくなった。

Migrationのコースはブラウンに来てからとった授業の中で1番刺激になっている。Migrationのコースを開講している社会学大学院は多いと思うが、Race&Ethnicityとセットのところが多い気がする。Migrationの社会人口学的側面に特化したコースワークを、Race&Ethnicityとは別に単独で用意しているプログラムは少数派なのではないか。担当教員は国内移民(Internal Migrant)/都市化(urbanization)の研究から、国際移民(International Migrant)の研究に移り、最近はまた国内移民の研究に戻っている移民の専門家だ。人口の空間的分布の変動という観点から「国内移民」と「国際移民」を同じ理論的枠組みで考えようとすることにはとても新鮮さを感じている。


先々週の土曜から月曜まではNYCに行っていた。初めてのAmtrak(高速列車)でのNYCだったのだが(1ヶ月前に予約したため片道39ドルと安かった)、電車が1時間遅れて到着し、さらに途中でエンジンが故障したためニューヘブンでエンジンを修理していて、さらに2時間遅れた。アメリカクオリティ?である。

NYCのSushidenというとても美味しい日本料理はあいにく潰れてしまったみたいなのだが、代わりに遅い自分への誕生日プレゼントとして、Nare Sushiというマンハッタンの高級寿司を堪能してきた。チップいれて100ドルだったので、月曜以降はひたすら節約をしている。ただ、とても美味しかった。



Nare Sushiのセット

M論を基にした論文が先週ASRからRejectされた。レフェリーレポートは3通で、書き方的には、1st ReviewerがReject、2nd Reviewerと3rd ReviewerがR&Rだったのではないかと思う。ありがちだと思うが、「理論的貢献が少ない」「移民研究の外に対するインプリケーションがない」というのがRejectの理由だった。ASRはレフェリー全員がR&RやAcceptを進言しても落ちる可能性があるようなところ(Rejection Letterによると最新の掲載率は6%らしい)なので、自分の論文はR&Rのレベルにはほど遠かった=実力不足としかいいようがない。ただ、レフェリーは3人とも丁寧で、合わせて3500単語分の細かい修正ポイントも頂けた。1st Reviewerはもっと"demography-oriented"なDemographyIMRに再投稿するようにと、わざわざジャーナルも紹介してくれた。どちらかを次の目標に、11月中に再投稿できるようにしたい。

指導教員との共著論文が人口学系のフィールドジャーナルPRPRに掲載された。移民の子どもの健康(=母親による主観的健康評価)の学歴格差のライフコース上の推移に関する内容である。個人的には論述や分析などが、全体的にわかりにくいと思っており、満足していない。ただ、この論文を通して得たものはいろいろあったと思うので、良かったと思っている。

今後の研究に関して。当初はアメリカにおける帰化(=市民権の取得)について研究したいと思っていたのだが、アメリカにきてからアメリカでは全くhotなトピックではないということを半年で悟り研究を封印してきた(例えば、PAAのアブストをnaturalizationやcitizenshipで検索しても大学所属の研究者の研究はほぼ出てこなく、ASAでも質的研究がほとんどである)。これは、アメリカでは1千万程度いるとされる非正規移民(=不法滞在者)の問題が大きく、正規移民が帰化しようがするまいがsocial inequalityにはそんなに大きな問題ではない、と考えられているという背景がある。しかし、最近AJSにCatron(2019)が出て、フレームワークをうまく工夫すればむしろ競争相手が少ない未開拓分野に思えてきた。これまでは考えていなかったフレームワークでデータを探し始め、いくつかpreliminaryな分析をしてみている。もしうまく行けば、11月締め切りのRC28に出そうか迷っている(フィンランド遠いので未定)。ただ、博論に関してはこれとは別の形で進めようと思っている。

以上、2週間でちょびちょび書いた文章なので時系列等におかしいところがあるかもしれないが、近況である。更新してなくて心配してくださった方、ありがとうございました。



2019年9月29日日曜日

近況0929:色々

今学期は想像以上に忙しい。コースワークの他に、TA、TAトレーニング(全大学院博士課程の院生が3年生までに必修の教授法に関するトレーニング)等々がある。近況を簡単にまとめる。

コースワーク
今学期のコースワークは全て自分の関心に直結しており、とても楽しい。特にMigrationのコースを履修できたのはよかった。まだ3週目が終わったところだが、かなり勉強になっているし、最終課題はliterature reviewなので、博論プロポーザルを始めようと思っている。Hierachical/Panel Data Analysisコースも既に知っていることは多いが、知らないことも結構あり、知識を埋めるのにとても役立っている。今週も、ランダム係数モデルについての自分の誤理解が訂正できた。Spatial Thinkingもとても面白い。今週はneighborhood effectsについて読んでいる。

TA&TAトレーニング
先週書いた通り、急遽仕事が変更になり、社会統計学(学部1-2年生中心)入門を教えている。グレーディング中心なので、体系化されたレクチャーはする必要ないが、毎週火曜に1時間学生の前に立って質問に答える+1時間オフィスアワーをする必要がある。

ブラウンは博士課程の院生全員にTAトレーニングを実施している。修了までにonlineでのレクチャー&学期に5回程度のin classの演習があるのだが、課題をこなしているうちに、教員の観点から、効果的な教え方や、学生がつまずくポイントをよく考えるようになった。

例えば、社会統計学の入り口で学生がつまずく初歩的ポイントの一つに、"population distribution"、"sample distribution"、"sampling distribution"の違いがあるのではないかと思う。この違いを理解していない学生が多い。"sampling distribution"という理論的な分布を仮定する必要性を「体感」してもらう(=レクチャーじゃなくて、実際にコンピュータ等で自ら実験させてみる)ことが重要だと思った。これがしっかりわかっていると標準誤差とか検定とかもかなりスムーズに頭に入ってくるんだと思う。

研究
博論:また来年詳しく書くが、博論計画書を来年の9月から再来年の5月(学部の期限)の間に提出&公開ディフェンドせねばならない。とりあえずMigrationのコースで具体化させて行こうと考えている。

学会:日本における移民の労働市場への統合について研究(共著)をPAAのAnnual Meetingにサブミットした(今日の午前3時くらいまでかかった)。ちょっと色々手続きがあって見送ろうと思っていたのだが、アメリカの移民の研究を単著でもサブミットした。流石にどちらかはポスターには通ると思うのだが、もしかしたら新しく博論用に始めた研究も出した方が良かったかもしれない。

論文:M論を基にしたアメリカの移民二世の子どもに関する研究を某トップジャーナル(掲載率7%程度) に投稿して1ヶ月以上経った。まだAwaiting Reviewer Scoresになっているので、デスクリジェクト(全投稿の25%ほど)にはならなかったということだと思う(←喜ぶところが違う)。指導教員のすすめで「回転が速い方」に出しているので、あと2-3週間以内には結果がくると思われる。レビュワーに徹底的に論文を壊されたら諦めるのも考えるが、レビュワーコメントの建設的な部分を取り入れて大幅修正して1月半ばまでには別のところに再投稿するのが目標だ。論文執筆法のクラスを教えてくれている先生は、「はっきり言って、この論文は某サブフィールドに対して害悪である」というレビュワーコメントを最近もらったと言って学生に見せてくれた。気にせず別のところに再投稿するらしかった。こういう不屈の精神が必要なのかもしれない。

昨年調査に関わった日本のデータを使って、1月末までに永住・帰化に関する論文を書き上げることを目標としている。資料がこちらでは手に入らないものも多いので、12月は早めに帰国して少し執筆に時間を割きたい。

節約と節制
かなりうまくいっている。昼はセミナーのランチを食べるか、チャイニーズスーパーマーケットで安く仕入れた豚バラ肉/牛スライスを使った料理(もやし塩豚、キムチ豚、牛丼、肉うどん)を弁当として持参、夜はズッキーニ、ナス、ミニトマト、ホワイトマッシュルームをお椀にもり、そこにモッツェレラチーズ、塩、トリュフオイルをかけた上で圧力鍋で蒸してそれを食べている(下の写真)。

圧力鍋で蒸す前

圧力鍋で蒸した後

運動(=水泳)は学期が始まる前は毎日できていたが、忙しくなってまた全然行けなくなった。なんとか時間を作りたい。家と大学の中間地点(どちらからも徒歩7.5分ほど)に大学のジムがあり、その地下に温水プールがある。

その他
予定では2020年1月に2つ目のプレリム試験を受験予定だったのを、2020年6月に回すことを検討し始めた。これは自分の当初の計画からは遅れてしまうのだが、博士課程の標準からは遅れているわけではなく、2つ目のプレリム試験は6月に受験する設定になっている。社会階層論のプレリム試験を受けようと思うのだが、プレリム試験の前提となる社会階層論のコースワークが来学期あるので、それと一緒に勉強するのが効率が良いと感じているためだ。

冬は1ヶ月くらい帰省しようと思い始めた。来年の3月で高校を卒業して10年になるにあたり、クラス同窓会が開かれるらしい。とりあえず冬休みを楽しみにして駆け抜ける。

2019年9月22日日曜日

頑張ってイベントに参加するべし

今年度は学部やセンターで開催されるトークやソーシャルイベントに積極的に顔を出することを心がけいる。またプロセミランチの委員にも就任した。5月に、院生として渡米して今に至るとある教授に、留学生として米で成功するアドバイスを求めにいったところ、ソーシャルイベント、各種トーク、勉強会にあまり顔を出していないのを指摘されて、もっと積極的に参加する必要を指摘されたことがきっかけだ。

思い返せば、昨年は、毎週木曜昼の人口学センターのコロキアム(他大学の教授を招いて講演)には毎週参加していたが、社会学部のコロキアム(火曜昼)、ジョブトーク(不定期)、ワトソン研究所(開発学センター)のコロキアム(木曜夕方)には時々しか参加していなかった。入学した頃は何もかもが新しくてどのイベントも律儀に参加していたのだが、だんだん疲れてきて参加しなくなってしまったというのが正しいかもしれない。

今学期から再び全イベントに参加していて改めて驚くのは、各センターのコロキアムや各種イベントへの教授陣の出席率の高さだ。週に何度もあるのに、社会学部の教授陣はほぼみんな出席して、発表が終わると一斉に手をあげて質問したり、意見を述べている。そもそも、アドバイスを下さった教授も、全てに参加しているからこそ私があまり出席しなくなったのを把握できているのだ。

土曜は社会学部の恒例のピクニックがあり、1時間半かけてロードアイランド州南のColt State Parkという国立公園まで教員・職員・院生等々とサイクリングをして、そこでBBQをした。East Bay Bike Pathというロードアイランド州のプロビデンスからブリストルまでを走る25kmほどのサイクリングロードがあり、海岸線沿いなので、とても気持ちよかった。道路沿いにはレモネードのスタンドが時々あり、それも美味しかった。新品で買ったのに100ドルだった安物のマウンテンバイクで出かけたのでスピードが出ず、周りに少し迷惑をかけてしまった。次は間違いなくもっと良いのを買う。


East Bay Bike Path

East Bay Bike Path

East Bay Bike Path

2019年9月18日水曜日

ティーチングアシスタントが足りない問題

今学期は大学院の多変量解析のコースのティーチングアシスタント(TA)に割り当てられ、レクチャーを火曜にしたことを先週の投稿で記したが、なんと2回目のレクチャーの昨日がそのコースのTAとしての最後の日になった。明日からは学部の社会統計学のコースのTAになる。大学院の多変量解析のコースはTAがいなくなるらしい。

突然変更になった理由は、TAを雇う予算がないということではなく、社会学部の提供する学部向けの諸々のコースの履修者数の当初の予想が外れ、一部の授業でTA不足が発生しているからだ。TA不足の背景には、ブラウンの社会学部の関連センターのFellowshipが毎年充実してきており、社会学部の院生がそれを獲得してTAを避けてしまうという問題がある(研究に集中できるということなので、良いことなのだが)(注)。ちなみに、今年は大学院1-6年生60余名中、TAとして生活している人は11名しかいない。

変更になったTAの講義のための資料等を一学期分、全て用意していなくて良かった、、というのが正直な感想だ。全部用意していて、学期途中で突然変更になったら、ショックだった。明日からの学部の授業は履修人数が50名と大学院の講義の3倍の数で、さらには学部生は成績を気にすると思うので、より大変かもしれないが、とりあえず臨機応変に頑張りたい。


注)アメリカの大学院の人文・社会科学系の大学院生はTeaching Assistantship (TA)、Research Assitantship (RA)、Fellowshipのいずれかの形で生活費を支給されてサバイバルしている。Fellowというのは要するに何もしなくても自分の研究だけしていればお金をもらえる状態で、一番理想なので、みんなこの状態になりたがる。大抵の場合、学年(または学期)ごとにステータスが推移するのが普通である。例えば、1年目(Fellow)→2年目(RA)→3年目(Fellow)→4年目(TA)→5年目(Fellow)→6年目(Fellow)という具合だ。なお、社会学部では1年生と5年生はデフォルトで全員Fellowshipが確約されている。Fellowshipには外部の財団から支給を受けるExternal(外部)と、大学内のリサーチセンターや所属する学部から支給を受けるInternal(内部)の二種類がある。日本の例でいうと学振が前者で、リーディング大学院が後者だ。同期で一度も教えずに6年間全部フェローで過ごそうとしている人もチラホラいるが、教育経験を積むために最低1年はTAをすることが推奨されている。


2019年9月12日木曜日

近況0912: "Fun is mandatory, you know."

大学のブックストアで用事を済ませて出て行こうとしたところ、入口にいた警備員のおじさんに"Fun is mandatory, you know."と声をかけられた。月火水と忙しかったので、相当疲れた顔をしていたんだと思う。

以下、簡単に近況を記す。最初の週のティーチングアシスタント業務が終わった。ティーチングアシスタント業務は様々な種類があるが、私は多変量解析のコース担当で、水曜の教授のレクチャーとは別に、補完的なレクチャーを火曜に2時間し、さらに2時間オフィスアワーをもって学生への質問対応することが主な業務内容(+テスト採点)。初回のレクチャーは自分で話している途中で自信をなくしてしまい、英語がしどろもどろになってしまって、主観的には落第。前向きに自分の講義で修正すべきところを探して毎回改善していきたい。特に講義資料(スライド)を学生にあわせてもっと入念に準備する必要を感じた。

今学期、履修しているコースワークは月火水に集中していて結構忙しくて大変。ただ、興味を持てる組み合わせになったと思っている。特に移住のコースはエスニシティ学派とレース学派の人が両方いて、相手の視点から学び、かつ自分の立場も深められるコースだと思う。来学期はエスニシティ・レースのコースもあるので、できればそれもとりたい。

ブラウン大学の中心部のメイングリーン。奥のSayles Hallは、1911年に新渡戸稲造が日米交換教授として集中講義したこともある歴史ある建物。
警備員のおじさんに"mandatory"と言われた"fun"は持てているか?正直、Netflixと食べること以外は楽しみがなく、全く持てていない。学部生が楽しそうに芝生の上に座って雑談しているのを見ると、少し羨ましく感じる。

最後に。渡米してすぐの頃は、街中でよくある赤の他人からのユーモアを効かせた唐突な「声かけ」によく戸惑ったが、慣れて来た気がする。次のステップはこの「声かけ」をする側になることだと思っている。アメリカのユーモア感覚をもっとちゃんと身につけて滑らない会話を見知らぬ人とできるようにもなりたい。


2019年9月9日月曜日

今学期のコースワーク(博士課程3年目前半)

他の大学では2年目までのところもあるらしいのだが、私の所属する学部はカリキュラム設計上、博士の3年目の春までコースワークの単位を一定の範囲で取り続ける必要がある。今学期は以下のラインアップになることがほぼ確定した。全て大学院レベルのセミナー形式。

SOC 2460 Sociology Paper Writing Seminar/論文執筆セミナー [通年]

博士課程3年生向けに開講されている論文執筆のコース。修論を相互にフィードバックしながら改稿して、ジャーナル投稿までするのが目標とのこと。論文の書き方とともに、査読の仕方、査読対応の仕方等も学ぶらしい。担当教員はEmily Rauscher准教授。昨年度から院生の要望に応じて設置されたコース。

SOC 2320 Migration/移住

人口学トラックのオプションとして2年に1回程度の頻度で開講されるコース。このコースでは国内移住(Internal Migration)と国際移住(International Migration)の主要先行研究をテーマ別にサーベイする。履修者は社会学と人類学の院生7人で、ブラウン社会学らしく?、アメリカへの移民を研究している社会学徒は私だけだった。このコースは課題がかなり自由に設計できるので、博論プロポーザルの先行研究レビューに使うつもり。

ちなみに、人口学の基本原則として、任意の地域における人口変動の要因は出生(+)、死亡(−)、移住(+ or −)の3つしかあり得ないので、移住は人口研究のコアの一つである。しかしながら、出生や死亡と違って生物学的プロセスと切り離されており、「何が移住とみなされるか?」という定義問題から始まり、出生、死亡研究にはない難しさもある。担当教員はMichael White教授。

SOC 2610 Spatial Thinking in Social Science/社会科学における地理空間的思考法

このコースは研究テーマに地理空間的視点を持ち込むことを目的としてデザインされたコース。セグリゲーション、近隣効果、空間的拡散等、テーマに分けて社会学、人口学、経済学、政治学のレビューをする。なお、これはメソッドのコースではなく、それは別にある。担当教員はJohn Logan教授。ちなみに、エスニックエンクレーブやセグリゲーションの研究ではかなり有名な大御所で、Google総引用件数は3万近い。

ブラウンには人口学センターを筆頭に社会学部と強い繋がりをもつ研究センターがいくつかあり、その一つにSpatial Structures in Social Sciences(S4)という組織がある。これは20年近く前に作られた組織で、この組織を中心に社会学&人口学に地理空間分析を取り入れる研究がなされ、地理空間分析のメソッドコースも本当にたくさん開講されている。毎年新学期になる度に思うのだが、特にメソッドのコースは本家の社会学部からは履修者が少なく勿体無い気がするので、地理空間分析を勉強したい日本の学部生/院生はブラウン社会学部に出願するのは考えてみるのをオススメする。

SOC 2960S Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data/マルチレベル・パネルデータ分析法

タイトル通りマルチレベル・パネルデータ分析法を学ぶ。特にランダム効果モデルとその発展系(e.g., 成長曲線モデル)に重きがおかれるようだ。教科書はHox (2010)。最初の授業のイントロで「今学期は色々学ぶけど、実践ではクラスタロバスト標準誤差を事後的に計算するだけで事足りることが多い」と担当教員が言っていた。確かに大抵のRQではランダム効果自体に関心がない場合が多く、その通りだと思った。担当教員はMargot Jackson准教授。

フルブライトでvisitingしている院生の方をあわせると、履修者9人のうち4人が中国人民大出身者でとても興味深い。社会科学に強い大学らしく、日本でいう一橋大だと思われる。

ちなみにこのコースは社会学部の計量メソッドシークエンスの一貫。地理空間分析の諸々のメソッドコースと、来年から新設される計算社会科学のコースを除くと、常設されている計量メソッドのコースは多変量解析Ⅰ・Ⅱ(必修)、人口学的分析法、因果推論、マルチレベル/パネルデータ分析法、イベントヒストリー分析法の6つである。私の場合、イベントヒストリー分析のコースを履修すると社会学部のメソッドシークエンスは全てとり終わる。



2019年9月7日土曜日

夏季休暇中の生活費確保の方法

以下、いつか誰かのためになればと思い、米国博士課程の夏休みの生活費を確保する方法を記す。ただし、これは私が在籍するプログラムの事例である。人文社会科学系のPhD課程では、基本的には似ているだろうが、大学や所属学部によって違うところも多々あると思う。また、私は私立大学に所属しており、州立大学に所属している方に比べると、経済的には恵まれていると思われる。さらに、理工系の方とは大きく状況が異なるとも思う。

基本的に、アメリカの大学のアカデミックイヤーは9ヶ月(9月-5月)であるので、給料も9ヶ月分で計算されている。これは院生も教員も同じである。よって、教員は6-8月の3ヶ月は別の大学で勤務しても、企業で働いても、問題ないことになる(たぶん。詳しくは経験者のせんせ)。ちょっとよくわかっていないところもあるが、中国人のスーパースター教授が夏に長期で中国の大学で教えていることがあるのはこういうことだと思う。

さて、院生はどうなるか?もちろん、院生は教員のように高給取りではないので、夏に給料がなくなると困る。よって、入学前のオファーレターで夏季休暇の間のフェローシップ(=TAやRAとは関係なく貰えるお金)が保障されている。また、医療保険と歯科保険に関しては、最初から9ヶ月ではなく、1年分保証してくれている。とはいっても、給料は学期中は最低毎月3000ドル程度(2018年度)なのに対して、夏はその5割強程度の毎月1700ドル程度(2018年度)であり、家族構成やハウジングコストによっては夏の間の収支がマイナスになりかねない(日本の感覚だと院生にしては給与高く思われるかもしれないが、米の都市部は物価が高い!)。また、例えばエスノグラファーが夏にフィールドワークに行く(日本の博士課程と違い、学期中はコースワークで忙しいのでフィールドにいけない)には全く足りない。どうやって夏を乗り切るか?以下の解決策が考えられる。

(1)サマーメンタードリサーチ/RAをする
社会学部特有のプログラムで、主に博士課程1-4年生対象である。夏に入る前にアンケートがあり、希望に応じて、教員(メンター)と院生をマッチアップし、夏に10週間程度教員と共同研究をすることで、給与をプラスしてもらえる。場合によるが、学期中の80%くらいにまで給与が回復する。もちろん、RAとして働く人もおり、基本的には同じことである。教員との関係を築く良い機会にもなる。私もこのプログラムにお世話になっている。

(2)大学内部の機関のサマーフェローになる
大学内部には様々なセンターがある。こうした機関で夏のフェローを募集していることがあり、フェローとして採用されることで、学期並み?の給与が手に入る。例えばこれまでにみたものではSwearer Centerというブラウンの学生センターがサマーフェローを募集していた。こうしたセンターのフェローになることによって発生する義務は様々である。

(3)大学内部の機関のサマーグラントを獲得する
ブラウンにはInstitute at Brown for Environment and Society(IBES)、Watson Institute for International and Public Affairs (Watson)、Population Studies and Training Center(PSTC)等の社会学の院生がサブで所属している機関が多数ある。私もこの一つのPSTCの一員である。こうした機関では、院生用に夏の研究グラントを用意している場合が多い。特に海外(=米国外)でフィールドワークをするためのグラントはたくさんある。採用されれば、そのお金で、海外に行き、そこでフィールドワークをできる。もちろん研究グラントなので、直接生活費には当てることはできないだろう。しかし、「海外」と言っても、出身国に帰国することと同義な院生がほとんどで、留学生のエスノグラファーが多い私の同期では一番多い夏の生活費獲得方法である。なお、研究構想が固まっていないPhD一年生向けのフィールドワークグラントもある。

(4)高校生向けサマースクールで教える
アメリカの大学は、(世界中の高額所得者のご子息のお金を吸い取るために)夏にとてつもない学費がかかるサマースクールを実施しているところがある。ブラウンはその一つである。基本的な対象は高校生で、中国や韓国を含め、世界中から生徒が集まる。講師の一定数は大学院PhD課程の院生であり、結構良い給料がもらえるらしい。なお、サマースクールを受講した生徒から学部進学のための推薦状を頼まれることがあるとのこと(by ルームメイト談)。

(5)通年のフェローシップ(e.g., 日本の奨学金)を獲得する
これが一番理想だろう。留学生なら母国からの給付型奨学金がこれに当たるだろうし、アメリカに来てからでも応募できる日本/米国内の財団のフェローシップもある。大学から保証されているサマーフェローシップとの併給やサマーメンタードリサーチ/RAとの併給を許してもらえるかは交渉が必要な場合もある。

(6)大学外部で仕事/インターンを見つける
大学外でインターン等として雇われて過ごして、そこで+αを稼ぐ人もいる。特に非アカデミア就職を考えている場合や、自分自身の研究と関連する研究所で働ける場合にとても有効な手段となるであろう。アメリカ永住権やアメリカ国籍を持っていない場合は、ビザで問題が起こらないようにしなければならない。

2019年9月3日火曜日

夏が終わる(近況)

今日から新学期が始まったが、今日は入学式のため授業はない。明日から授業&TAで、少し気持ちを入れ替える必要がある。近況を項目に分けて記しておく。

・家
今年から家の管理人をやっている。主な仕事としては家のメンテナンスに責任を持つことと、新しいルームメイトを見つけることと、ルームメイトと大家さんの仲介をすることである。もともと去年まではルームメイトのオランダ人夫婦が長らくこの仕事をやっていたのだが、奥さんの方がNYUでテニュアトラックAPポジションを見つけたので引っ越し(おそらく業界のスーパースターなんだと思う)、僕に声がかかった。

ルームメイト四人は全員ブラウンのPhD課程の大学院生だ。エジプト・アッシリア考古学専攻五年生のイタリア人、比較文学専攻の新一年生の中国人、哲学専攻六年生のシンガポール人、生物学専攻新一年生のペルー人、社会学専攻新三年生の私という全員留学生のメンバーである。去年までの二年間一緒に住んだのは私以外ほぼ全員がヨーロッパ(イギリス二人、オランダ一人、イタリア一人、フランス一人)からの留学生かアメリカ出身で、人文系の専攻だったことを考えると大きな変化である。

家の管理は週に一から三時間程度の時間をとられるだけで、時間的な拘束は少ないのだが、ルームメイトと隣に住む大家さんの仲介をするのには、精神的な負担はある。また、今学期は10-1月の間のどこかの3週間で大規模な工事が入る予定で、それの調整が面倒臭い。ただ、東海岸の地方都市の白人中産階級のneighborhoodでの日常を垣間見れるという点ではとても面白い。また家の契約書の書類作成等も手伝っているのだが、意外と勉強になっている。管理人をやることによる家賃の割引も助かっている。

・遊び
息抜きがNetflixだけではよくないと思い、時々アウトドアもやっている。昨日までLabor DayのLong weekendだったので、ロードアイランド州南端のチャールズタウンのラグーンでシーカヤック/カヌー&クラム狩りに行ってきた。


クラムは二枚貝という意味だが、ニューイングランドではほぼ写真のホンビノス貝を指す。ニューイングランドクラムチャウダーに入っているアレだ。ちなみにたくさん獲れたのだが、僕は甲殻類アレルギーで食べられない。一緒にいって食べた友人によると大きいのより、小さい方が美味しかったらしい。

ラグーンでのカヌー:
腰くらいまでの浅瀬が続くので救命具はいらない。

ホンビノス貝(クラム):
計測器を持参し、州法の規定以下の大きさの貝は海に戻している。

最近痛感するのが車の免許の必要性だ。ニューポート、ボストン、ニューヨーク等の近隣都市へは電車やバスで安く&速くいけるが、色々な発見がありそうな田舎町へは車がないといけない(もちろんバスでいけるのだが、とりあえず時間がかかる)。今回の旅も友達が車を持っていたからこそできたわけだが、一人では無理だ。とりあえず来年のこの時点までには免許を取得することを心に固く決めた。

・研究
修論を投稿し終わって、無駄に長引いてしまった改稿も終わった(意味あったか不明)。これから一年かけて博論の「Big Question」(「漠然とした問い」という意味ではない)を生み出す必要がある。来年の12月に博論プロポーザルをディフェンスする予定。アメリカの移民二世のライフコースを出生コホートによって比較するという漠然とした考えはあるのだが、まだ精緻化できていないので、今学期はこれを具体化できるように、なおかつ教員も説得できるようにしたい。日本の研究もサイドで続けており、こちらも今年は少し頑張らねばならない。

博論の審査委員会は最低三人必要。来年のこの時期くらいまでに決める必要がある。既に三人はなんとなく決めているのだが、候補に入っていなかった先生から「私を入れないか?」という連絡がきた。曖昧な返事をしていたら、最近また連絡がきて少し対応に悩んでいる。よくよく考えると、確かにかなり関心は近いのだが、これまであまり関わりのなかった先生なので慎重に検討したいとともに、向こうからアプローチしてきた理由が気になっている。

・コースワーク
コースワークはあと1年分とる必要がある。今学期は社会学大学院の"Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data"というマルチレベル/パネルデータの分析法のコース、"Spatial Thinking in Social Science"という居住分離や近隣効果などの先行研究をサーベイするコース、"Migration"という国際&国内移住に関する先行研究を、人口学に重点をおいてサーベイするコースと、経済学大学院の"Applied Methods"という因果推論のコースの中からいくつか履修しようと思って迷っている。TAや社会階層論のプレリム試験を受験する必要があるので、あまりたくさんとるのは絶対にやめた方が良いことはわかっている。とりあえず今週中に決めてしまいたい。

・体調(消化器系)
先月の胃カメラ検査で原因が判明したのち、京都で3ヶ月分の薬を処方してもらっている。油断して薬を飲み忘れるとまだ気持ち悪くなるので、特に良くなってはなさそう。

・節約
来年度、ある程度の出費が予想されており、それを見据えて先月から節約している(目標は月1000ドルを貯め続けること)。巨大なアジア系スーパーが車で10分のところにできたこと、かつアジア系のルームメイトが2人できて一緒にuberをシェアできることで、Whole Foods(日本でいう成城石井)でしか買い物できなかった毎日とは違う生活ができるようになりそうだ。今週はアメリカではなかなか手に入らない豚バラ肉(しかも信じられないほど安い)やゴーヤを使ってゴーヤチャンプルなどを楽しんだ。とりあえず「一人での外食は禁止」というルールを自分に課し、弁当を毎日学校に持っていくようにしたい。



2019年8月29日木曜日

米博士課程におけるプロフェッショナルディベロップメント(プロセミ委員就任)

アメリカの社会学部(おそらく他の専攻でもあるだろう)の博士課程では、プロフェッショナル・ディヴェロップメント・セミナー(以下、プロセミ)やそれに類する名前のコースワークを1年生の秋に履修することが多い(大学によるが、単位になることもある)。

大学によって何をするかは異なると思うのだが、基本的には、博士課程で成功する上で持つべき価値観、博士課程での教員との関係の作り方・規範、Academic ConferenceやPublishingのノウハウ、Job Marketの基礎知識やナビゲートの仕方、学部におけるDiversityを維持する上で持つべき価値観、PoC(=People of Color)研究者としていかに成功するか等々、普段のコースワークでは教えられないが、プロの研究者を目指す上で重要だとされる知識・技能や価値観・規範を教えられる。教育社会学では、学校の授業では公式には教えられないが、在学中に生徒が習得する知識・技能や価値観・規範を「隠れたカリキュラム」と呼ぶ(注1)が、プロセミは大学院博士課程レベルにおける「隠れたカリキュラム」を「公式のカリキュラム」にして、院生間の「隠れたカリキュラム」習得格差を無くそうとする取り組みと考えることができるかもしれない。なお、最近のアメリカの大学院における「隠れたカリキュラム」に関する議論はこの有名な教育社会学者によるブログの投稿も参照されたい。

さて、実はブラウンの社会学部ではプロセミは公式のコースワークとしては存在しない。その代わり、それに代替する措置として、(1)1年生の秋学期の古典社会学理論(必修)の最初の15分で、毎週教員がプロフェッショナルディベロップメント用トピックを話し、質問を受ける措置が取られるとともに、(2)1-2年生は学期中の月曜の昼休みにプロセミランチへの参加が義務付けられている(1年に15回程度)。プロセミランチでは毎回トピックが決められ、1-2年生が教員や先輩の院生から学ぶということになっている。なお、3-6年生でも継続的に参加している人は多い。

さて、このプロセミランチであるが、院生二人からなるプロセミ企画委員によって運営される。私はブラウンに来てから二年間は何の委員にもならずにフリーライドしてしまっていたのだが(皮肉にも、「できる限り大学での役職につくのを避けろ」というのは一年目のプロセミで受けたアドバイスの一つだった!)、三年目にして断りきれずにこの役職が当たってしまった(他の役職は新任教員の公募に関わったり、ハラスメントの対策を考えたりせねばならない重いもので、さらに忙しそうだった)。なった以上は責任を持って職責を全うするつもりだ。とりあえず学部から2000ドルの予算が与えられ、その予算内で自由に企画して良いという連絡がきた。本日、二人で最初の会議をしたのだが、以下の路線で考えている。

・博士課程の1-2年目をどう過ごすか / 講師:3-6年生のパネリスト4名
・2nd Year Paper(=修論)の進め方と投稿・出版 / 講師:3-6年のパネリスト4名
・大学院における結婚・出産・育児 / 講師:育児中の3-6年のパネリスト4名
・学会について/ 講師:院生・教員のパネリスト数名
・アカデミックジョブマーケットの基礎知識とノウハウ / 講師:教員のパネリスト数名
・ノンアカデミックジョブマーケットの基礎知識とノウハウ/ 講師:未定
・新任教員を知る:新任Assistant Prof&Associate Prof 2名
・現役教員を知る:若手Assistant Prof&Associate Prof 2名
・2000ドルは全て各回のランチに使う

他にもアイデアを模索中である。2017年秋学期から二年間このイベントに出ていた経験から思うのは、就職したばかりの若手のAPを一人招いて、院生時代の経験とジョブマーケットの経験について話してもらい、そこからみんなで質問ぜめにするのが一番勉強になった。なので、僕が下手にテーマベースで企画しない方がいいのかもしれないとも思う。また、教員がいないことがプラスに働くことがある(教員との関係に関する質問をしやすい)ことだ。

最後に。このプロセミは企画側になると面倒だが、院生間における情報格差を小さくする方法としてはとても良い取り組みだと考えている。日本の文系大学院は指導教員とその指導学生を基礎とした「ゼミ」ベースでこうした知識や規範が伝達されることが期待されていると思うが、この方式では指導教員による格差が大きくなるという問題があるように思われる。アメリカの文系大学院の全てが良いとは思わないが、どのような形であれ、学部がバックアップする形でプロセミを開催して「隠れたカリキュラム」を「公式のカリキュラム」に変えていくやり方は取り入れたら良いのかもしれない。

注1)なお、この「隠れたカリキュラム」という言葉は、用いられ方にかなり幅がある。私のこの用法がおかしいと思う方がおられたら、すいません。


2019年8月27日火曜日

ロードアイランド州はほぼ「島」ではない

現在、全米で最小面積のロードアイランド州の州都プロビデンスに住んでいる。かなりマイナーな州で、アメリカ憲法や宗教史の研究者でない限り、ロードアイランドを知らなくても当然である。知らなくて当然なものの、「ロードアイランドに住んでいる」と言うと、「島に住んでいる」という誤解をよくされるようになり、少し気になったので、ここでその誤解を正しておきたい。

実は、ロードアイランド州の正式名称はロードアイランド州 (State of Rhode Island) ではなく、ロードアイランド州及びプロビデンス植民地* (State of Rhode Island and Providence Plantations)である。これは、もともとの英国から独立前には、ロード島(現在はアクィドネック島と呼ばれている)とプロビデンスにあった植民地が Colony of Rhode Island and Providence Plantationsとして英国王に認可される形で始まったことに背景がある。下の地図は現在のロードアイランド州である。州の大部分は大陸に属しており、なおかつ、州都のプロビデンスはロード島にはない。ただ、「ロードアイランド州及びプロビデンス植民地」と呼ぶのはあまりにも長いので、略して「ロードアイランド州」と呼ばれているということなのである。

ロードアイランドの地図
出典:フリー地図を筆者が加工


日本に無理やり例えると兵庫県が「淡路島と神戸植民地」として始まり、後に名前が長くてめんどくさいので「淡路島県」になったようなものだ。そして、そういう世界で、神戸に住んでいる人が「島には住んでない!」と言ってブログを書いているのを想像していただきたい。もちろん、例えが無理やりすぎるかもしれないが、実際にプロビデンスからロード島へは橋で繋がっており簡単に行ける(ブラウンの学生証あれば無料でバスで1時間で行ける)し、淡路島と神戸の関係に似ている気がする。

最後に、もう一つよくある間違えを正しておきたい。私の住んでいるのはプロビンス(Province)ではなく、プロビデンス(Providence)である。前者は英語ではカナダの州などに使われる行政区分を意味する単語であり、後者は神の導きや摂理という意味があって、全然違う。プロビデンスと名付けられた理由は、プロビデンス植民地の創設者のロジャー・ウィリアムズ牧師の興味深い歴史に関係しており、最終的には米国の政教分離や信教の自由とも関わっくるのだが、ロジャー・ウィリアムズについてはもう少し本格的に勉強してからまた書きたい。


*Plantationsは大農場を指す「プランテーション」と訳す場合もあるが、この文脈では「植民地」が適切であろうと思う。

2019年8月23日金曜日

渡米2周年記念

昨日が渡米二周年だった。羽田空港で飛行機に搭乗したのが2017年8月21日夕方、ロサンゼルス経由でプロビデンスに降り立ったのが東部時間の8月21日午後11時ごろ、今住んでいるカレッジヒルの自宅に到着したのが日が回って22日の午前1時前後。米で使える携帯番号をまだ持っていなかったので、タクシーに乗ってしまい、uberで15-20ドルの道のりで50ドルを請求された(が、何の疑いもなく支払った)のは今となっては良い思い出である。

二周年を機にこれまでを少し振り返りたい。ここ二年間の間に16科目分のコースワークが終わり、プレリム試験も1/2つ終わり、TAになるための模擬授業にもパスした。

留学して良かったか?研究者になることが現時点でのキャリア的な目標だと考えると、二つの点でとても良かったと考えている。一点目は知識・技術面である。残念ながら?、東大とブラウンでの学びを比べると、量・質ともにブラウンの方が上である。感覚的には東大の三年分がブラウンの一年分くらいである。「勉強ばかりするな」という批判はあるのだろうが、コースワークやプレリム試験準備で論文を多読して自分の専門のサブフィールドの先行研究の蓄積の体系的な理解を得ることや、計量分析や質的分析の手法に関してより正確な知識を得ることは、とても有益だった。もちろん、独学でできることを私の怠慢でやっていなかったという見方もできるが、アメリカにきて強制的に身に付く環境に身をおいたことは正解だったと考えている。

次に研究に関してだが、これもアメリカに来たことが正解だった。私はアメリカと西ヨーロッパにおける国際移民の社会統合に関心があって、修士時代はアメリカとヨーロッパの社会学の先行研究に自分の研究を位置付けようとしていたが、あまりうまくいかなかった。アメリカ及び西ヨーロッパの移民研究はアメリカ、オランダ、ドイツ、スウェーデン、イギリスにある30程度の大学/研究機関が中心となっており、そのネットワークの中にいる人たちから離れたところで欧米の研究者に相手にされるような研究をなすのは、少なくとも院生レベルでは、なかなか難しいことだと思う。もちろん類い稀な才能によってこれができる人もいるのだが、私には無理だった。東大の研究環境が悪かったというわけではなく、私の自分の能力に関する認識とテーマ設定の甘さにあったと思う。今から考えると、日本にいる間は日本への移民受け入れをテーマに設定しておくべきだった(ただ、日本に設定していたら海外留学しようと思っていなかったと思うので、日本の研究をしていなくて良かったのかもしれない)。なお、現時点で素晴らしい研究ができるいるわけではないのだが、少なくともアメリカの移民研究の中心ネットワーク(アメリカでの移民研究はUCLA、UCアーバイン、UCバークレー、ペンステート、コーネル、ブラウン、プリンストン、CUNYになるだろう)の中にいて、最先端の研究をしている人たちにすぐにコメントをもらいにいける状態に自分を置くことはできている。さらにはアメリカの移民研究の中でなされている研究テーマ群、有力研究者、大学/研究機関の相互関係が見えてくるようになって、「移民研究」にどこまで自分の研究を依拠するかについても考えが固まってきた(いつかこれについては別に書きたい)。

精神や身体の健康面でいうと、留学して本当に良かったかはまだわからない。今年に入ってから消化器系の調子を崩してアメリカ&日本で何度か精密検査を受け、先月ようやく原因がわかったことはすでにブログに書いたが、留学して色んな経験をして打たれ強くなった側面もあるのと共に、ダメージが蓄積して打たれやすくなった側面もある気がする。また、親しい友人や恋人との間に大陸と大洋があることで、辛いことや不都合なこともたくさんあった。長い目で見て絶対に良かったと思う点は、弱い人に対する共感力が格段に高まったことだ。演習での発言や研究発表で「アメリカのことを知らない奴」扱いされること(話を最後まで聞かずにそう判断されるととても悔しいし、米アクセントで肌がより白かったら話を聞いてくれたんじゃないか!?と思ってしまうことがある)、TAとして学生を外国語で教えなければならないこと、外国ですこぶる体調が悪くなること、などなど異国で現地の学生と対等に生き残ろうとする中で苦しいことはたくさんある。様々な場面で弱い立場におかれる中で、今まで頭では理解していても、身体では経験していなかった弱さを経験できたのは今後生きていく中でプラスになると思う。

また、こちらで新しい友人たちとの出会いを与えられていることも留学して良かったことだ。ブラウン社会学部は毎年8名前後しか入学させないのだが、僕の入学年だけ15人いたことで、留学生も多く、かなり仲がよくなることができた。また、一昨年の10月にニューハンプシャー州の森の中でのリトリートに参加した時にたまたま知り合った僕より一つ若い中国人の友人(計算機科学専攻)とは馬が合い、以降、毎週食事を一緒にしている。

最後に、信仰について。アメリカ行きが決定してから覚悟はしていたのだが、アメリカのキリスト教会には馴染めずにいる。近くの教会の礼拝には毎週出席しているが、なぜか自分が浮いている(皆と一致できていない)気がする。こう感じるのは自分の所属している教会の中だけではなく、オンライン等でアメリカのキリスト教会を代表するリーダーたちの書いたものを読んで覚える強い違和感も背景にある。もちろん、アメリカにも尊敬するクリスチャンはおり、多種多様なアメリカのキリスト教をこんなにざっくりくくって批判するのは稚拙であろうが、いわゆる「主流派」キリスト教に対しても、「福音派」キリスト教に対しても違和感を覚えてしまう。昨日まで朝の読書の時間を使って内村鑑三の自伝『余はいかにして基督信徒となりし乎』を再読していたのだが、内村が留学先のアメリカの「正統派」キリスト教を批判するところを読んで共感してしまった。おそらく自分の内面とも関係があるように思うので、また自分との対話が進んだら考えを書きたい。

ブラウンの社会学部では三年生最終学期までコースワークをとらなければならないので、Ph.D.取得までにはあとコースワーク一年分、プレリム試験一つ、博論計画書ディフェンス、実際の博論提出が残っている。あと四年くらいだと思うが、与えられている環境を大切にして、与えられた燃料分は丁寧に走りきるようにしたい。


最近は毎朝ゆっくり家のテラスで朝ごはんを食べ、読書をしている。
フレンチトースト&ミニトマト&ブルーベリーが定番メニューとして確立された。


2019年7月24日水曜日

一時帰国:高山と金沢と京都

一時帰国中である。最初の一週間は東京で過ごして諸々の仕事を済ませた後、事情があって岐阜県の高山市に3泊していた。自分にとってこれまで岐阜県は「通過」することはあっても「滞在」することはない場所だったのだが、予想以上に面白い場所で、また近いうちに今度は観光で行ってみたい。

高山市の中心部は昔ながらの街並みがきちんと残っており、さらには銀座や原宿にありそうなお洒落なカフェが立ち並んでいた。観光客は中国とヨーロッパ(特にスペインとフランス)からの観光客が驚くほど多く、平日の朝は日本語よりもスペイン語やフランス語や中国語の方が優勢だった。

高山市内
足を伸ばして白川郷へも行ってみたが、予想していた通りにかなり綺麗な場所だった。

白川郷

飛騨高山のレストランの食事はどれも驚くほど美味しく、特に最高クラスの飛騨牛をほうば味噌と一緒に食べる定食は最高だった。高山らーめんもシンプルで美味しかった。個人的には実家のある京都よりもおすすめできる観光場所である。

飛騨牛とほうば味噌定食

高山らーめん甚五郎

飛騨牛寿司


高山を去った後、霞ヶ関の某省キャリアの友人と金沢に旅行に行ってきた。1日目と2日目午前は金沢で金沢城、兼六園、21世美術館、和辻哲郎館を見学し、2日目午後からは和倉温泉に移動して海の前の温泉旅館で特に何もせずに過ごした。ゆっくりできた3日間だったと思う。

能登温泉の旅館「海望」からの景色


現在は実家のある京都市に戻って、今年の3月からの消化器不調の原因を調べている。1日目はアメリカでもやったエコー検査(腎臓、膵臓、肝臓)と血液検査、2日目は胃カメラによる食道と胃の検査で、現在は(念の為)胃の粘膜の組織検査の結果待ちである。幸いなことに胃カメラ検査で不調の原因がかなりはっきりわかり、詳しくはここでは述べないが、処方薬を一定期間(1−2ヶ月?)飲み続けることで対処可能という診断だった。3月は修論や学会で忙しい中、2週間ほどきちんとものが食べれずヨーグルトを飲んで過ごし、回復してからも1週間に2−3日は胃部の不快感に悩まされ、不定期に吐き気を催すという結構苦しい半年間だったが、なんとかなりそうな気がしてきた。

最後に近況報告。社会人口学のプレリム試験に無事に合格した。もう一つを来年の1月か6月に受験しなければならない。まだ社会階層論分野にするか国際移民・人種・エスニシティ分野にするかで迷い中だが、社会階層論でいく方が自分のためになり、かつ「事故」(=不合格)が起こる確率も低い気がしている。先生との共著論文も3回のR&Rの末にアクセプトされた。修正をしすぎていてまだ修論の方は投稿できていないが、早いうちにとりあえず最初の投稿をしてしまいたい。

日本に戻っていて完全に止まってしまっていたが、そろそろ研究に戻ろうと思う。

2019年6月13日木曜日

社会人口学文献リスト

社会人口学のプレリム試験の準備にあたり、学部からもらったリストがかなりoutdatedなので、勉強のために自分でも最低限の必読リストを作ることにした(注1)。と同時に、関心のある方の参考にもなれば良いと思って、少し解説も入れたりした。試験のために、このリストの論文はほぼ全部読んだ上で、文献情報だけを見て重要ポイントが頭に浮かんでくるようにしている(文献メモ作成)。なお、このリストは自分の試験目的であって、より代表性のあるリストが必要な方は別のリスト(この投稿の最後参照)を当たった方がいいかもしれない。また試験の性格上、歴史人口学の文献はほぼ入っていない。

以下、各セクションは独断と偏見と都合(僕が論文を覚えやすくする分け方、かつ過去問に答えやすい分類)により分類してあるが、それぞれ繋がっていて明確に分けるのは難しい。★は個人的におすすめな論文(おすすめな理由は様々)。


1. イントロ

Harper (2018)と河野(2007)は社会人口学を簡単につかむのに良い。河野先生は1950年代にブラウンで社会学のPhDを取得されている大先輩。人口学ハンドブックの改定後のBrown (2019)と改定前のHirschman and Tolnay (2005)は良い意味で被っていない。社会人口学の歴史を知りたい方は後者から読むべし。Preston et al. (2001)とRowland (2003)はメソッドの辞書のように用いると良いと思う。次の2. 人口転換論と出生セクションのDyson(2013)も社会人口学の核とも言える人口転換論を理解するためにおすすめである。なお、人口学を批判的に考える文献を求めている方は一気に飛ばして最後の批判的人口学の文献にあたってみていただきたい。

社会人口学分野の主要ジャーナル
社会人口学の代表ジャーナルはDemographyPopulation and Development Reviewで「二大誌」、ないしはPopulation Studiesも入れて「三大誌」とされるらしい(某先生談)。ちなみにブラウンのリストはほぼ全てが二大誌からだが、Population Studiesも目を通すようにという「注意書き」が存在する(昔はPopulation Studiesは今よりはるかに威信が高かった、とのこと)。またDemographic ResearchEuropean Journal of PopulationPopulation Research and Policy Reviewなどの有力ジャーナルにもかなり影響力の高い重要論文が載る (最近の印象では特にDemographic Research)。この他にJournal of Gerontology: Social SciencesStudies in Family PlanningInternational Migration Review、Population and Environment のような人口学の特定のテーマに関するジャーナルや、Journal of Population Economicsのような経済人口学のジャーナル、American Journal of SociologyAmerican Sociological ReviewSocial ForcesJournal of Marriage and Familyのような社会学のジャーナル、American Economic Review、 The Quarterly Journal of Economicsのような経済学のジャーナルも広く社会人口学と関わる重要論文を載せている可能性がある。


人口学入門
Harper, Sarah. 2018. Demography: A Very Short Introduction. Vol. 565. Oxford University Press.
★河野稠果. 2007. 人口学への招待少子・高齢化はどこまで解明されたか中央公論新社.

社会人口学の全体像
Brown, David L. 2019. “18 Social Demography, Space and Place.” Pp. 483–97 in Handbook of Population, edited by D. L. Poston. Cham: Springer International Publishing.
Hirschman, Charles and Stewart E. Tolnay. 2005. “Social Demography.” Pp. 419–449 in Handbook of Population, edited by D. L. Poston and M. Micklin. New Yrok: Kluwer Academic/Plenum Publishers.

2. 人口転換論と出生


人口転換論だけで一つのセクションを作るか迷ったが、出生とまとめた。なお、第二人口転換論関係の重要論文の一部(e.g., EspinAndersen et al. 2015やGoldscheider et al. 2015)は家族とジェンダーセクションにある。どれか一つだけ選ぶとしたらDyson(2013)を読むことがおすすめ。


Bongaarts,John. 1978. “A Framework for Analyzing the Proximate Determinants of Fertility.”Population and Development Review4(1):105.
Bongaarts, John and Griffith Feeney. 1998. “On the Quantum and Tempo of Fertility.” Population and Development Review24(2):271.
Bongaarts,John and Susan Cotts Watkins. 1996.“Social Interactions and Contemporary Fertility Transitions.”Population and Development Review22(4):639.
Bryant,John. 2007. “Theories of Fertility Decline and the Evidence from Development Indicators.”Population and Development Review33(1):101–27.
Caldwell,John C. 1976. “Toward A Restatement of Demographic Transition Theory.”Population and Development Review2(3/4):321.
Caldwell,John C. 2005. “On Net Intergenerational Wealth Flows: An Update.”Population and Development Review31(4):721–40.
Cleland, John and Christopher Wilson. 1987. “Demand Theories of the Fertility Transition: An Iconoclastic View.” Population Studies 41(1):5–30.
Coale,Ansley J. and Susan Cotts Watkins,eds. 1986. The Decline of Fertility in Europe. Princeton University Press.
Coleman,David. 2006. “Immigration and Ethnic Change in Low-Fertility Countries: A Third Demographic Transition.”Population and Development Review32(3):401–46.
Davis,Kingsley. 1963.“The Theory of Change and Response in Modern Demographic History.”Population Index29(4):345.
Dyson,Tim. 2013. Population and Development: The Demographic Transition. Zed Books Ltd.
Goldstein,Joshua,Wolfgang Lutz,and Maria Rita Testa. 2003. “The Emergence of Sub-Replacement Family Size Ideals in Europe.”Population Research and Policy Review22(5/6):479–96.
Goldstein, Joshua R., Tomáš Sobotka, and Aiva Jasilioniene. 2009. “The End of ‘Lowest‐Low’ Fertility?” Population and Development Review 35(4):663–699.
Kravdal, Øystein and Ronald R. Rindfuss. 2008. “Changing Relationships between Education and Fertility: A Study of Women and Men Born 1940 to 1964.” American Sociological Review73(5):854–73.
Lesthaeghe,Ron. 2010. “The Unfolding Story of the Second Demographic Transition.”Population and Development Review36(2):211–51.
Mason, Karen Oppenheim. 1997. “Explaining Fertility Transitions.” Demography34(4):443.
Morgan,S. Philip. 2003. “Is Low Fertility a Twenty-First-Century Demographic Crisis?”Demography40(4):15.
Sobotka,Tomáš. 2004. “Is Lowest-Low Fertility in Europe Explained by the Postponement of Childbearing?”Population and Development Review30(2):195–220.
Watkins,Susan Cotts. 1990.“From Local to National Communities: The Transformation of Demographic Regimes in Western Europe,1870-1960.”Population and Development Review16(2):241.
Zaidi,Batool and S. Philip Morgan. 2017. “The Second Demographic Transition Theory: A Review and Appraisal.”Annual Review of Sociology43(1):473–92.


3. 家族・教育と社会人口学

社会学には家族社会学と教育社会学いう巨大なサブフィールドがあり、そちらと一緒に勉強すると効率が良いのかもしれない。家族・結婚、ジェンダー、教育・再生産の3つのセクションに分けてみた。

家族・結婚
Cherlin, Andrew J. 2005. “American Marriage in the Early Twenty-First Century.” The Future of Children 15(2):33–55.
Hajnal, John. 1982. “Two Kinds of Preindustrial Household Formation System.” Population and Development Review 8(3):449–94.
Haskins, Ron and Isabel V. Sawhill. 2016. “The Decline of the American Family: Can Anything Be Done to Stop the Damage?” edited by L. M. Bartels. The ANNALS of the American Academy of Political and Social Science 667(1):8–34.
Kalmijn, Matthijs. 2013. “The Educational Gradient in Marriage: A Comparison of 25 European Countries.” Demography 50(4):1499–1520.
Kennedy, Sheela and Steven Ruggles. 2014. “Breaking Up Is Hard to Count: The Rise of Divorce in the United States, 1980–2010.” Demography51(2):587–98.
Ruggles, Steven. 2007. “The Decline of Intergenerational Coresidence in the United States, 1850 to 2000.” American Sociological Review 72(6):964–89.
Ruggles, Steven. 2015. “Patriarchy, Power, and Pay: The Transformation of American Families, 1800–2015.” Demography52(6):1797–1823.
Seltzer, Judith A. 2019. “Family Change and Changing Family Demography.” Demography 56(2):405–26.
Sweeney, Megan M. 2002. “Two Decades of Family Change: The Shifting Economic Foundations of Marriage.” American Sociological Review 67(1):132.
Qian, Zhenchao and Daniel T. Lichter. 2007. “Social Boundaries and Marital Assimilation: Interpreting Trends in Racial and Ethnic Intermarriage.” American Sociological Review 72(1):68–94.

ジェンダー
Cherlin (2016)Esping-Andersen (2015)Goldscheider (2015)への応答をしている。Esping-Andersen (2015)Goldscheider et al. (2015)Lesthaeghe (2010)とともに近年のPDR論文の中で最も引用を稼いでいる高インパクト論文である。

Cherlin, Andrew J. 2016. “A Happy Ending to a Half-Century of Family Change?” Population and Development Review 42(1):121–29.(なお、この論文はEspin-AndersenとGoldscheiderへの応答)
England, Paula. 2010. “The Gender Revolution: Uneven and Stalled.” Gender & Society 24(2):149–66.
Esping-Andersen, Gøsta and Francesco C. Billari. 2015. “Re-Theorizing Family Demographics.” Population and Development Review41(1):1–31.
Goldscheider, Frances, Eva Bernhardt, and Trude Lappegård. 2015. “The Gender Revolution: A Framework for Understanding Changing Family and Demographic Behavior.” Population and Development Review 41(2):207–39.
McDonald, Peter. 2000. “Gender Equity in Theories of Fertility Transition.” Population and Development Review 26(3):427–439.
Short, Susan E., Frances K. Goldscheider, and Berna M. Torr. 2006. “Less Help for Mother: The Decline in Coresidential Female Support for the Mothers of Young Children, 1880-2000.” Demography 43(4):617–29.

再生産・教育
修士時代は教育社会学を専攻するところにいたので、社会人口学的枠組みを教育社会学に本格的に取り入れるとどうなるのか考えることがあるのだが、その際にLam and Marteleto (2013)はとても参考になると思う。Reardonは世界の教育学者の中では一番人口学コミュニティで有名なのではないだろうか。Segregation研究でも有名なのだが、Whither Opportunityという結構有名な本に収められているこの(少しふわっとした)学力格差の論文(解説)が特に有名。先日ブラウンの人口学センターで講演をされた時に話す機会があり、どのディシプリンにアイデンティティを一番感じるのか聞いて見たら「教育経済学者と時々間違えられるが自分は教育社会学者」と言っていた(本人は教育学PhD)。今後スタンフォードのSEDAのデータからたくさん論文がでると思うので楽しみである。

Fomby, Paula and Andrew J. Cherlin. 2007. Family Instability and Child Well-Being. American Sociological Review 72(2):181204.
Kornrich, Sabino and Frank Furstenberg. 2013. Investing in Children: Changes in Parental Spending on Children, 19722007. Demography 50(1):123.
Lam, David and Letícia Marteleto. 2008. Stages of the Demographic Transition from a Childs Perspective: Family Size, Cohort Size, and Childrens Resources. Population and Development Review 34(2):22552.
Mare, Robert D. 2011. A Multigenerational View of Inequality. Demography 48(1):123.
McLanahan, Sara. 2004. Diverging Destinies: How Children Are Faring under the Second Demographic Transition. Demography 41(4):607627.
Reardon, Sean F. 2011. The Widening Academic Achievement Gap between the Rich and the Poor: New Evidence and Possible Explanations. Whither Opportunity 91116.

4. 健康と死亡

 この分野は日本で社会学を専攻した経験のある自分には馴染みが一番薄かったのだが、人口転換論の主力説では死亡率の低下が出生率の低下、都市化、高齢化、等々の全ての遠因であると考えられており、極めて重要。また、こちらの社会学者・人口学者・経済学者が健康を研究しまくっているもう一つの原因は有力な資金源がアメリカ国立衛生研究所(NIH)なことも背景にありそう。

健康と格差(幼少期の健康状態の影響中心)
Blackwell, Debra L., Mark D. Hayward, and Eileen M. Crimmins. 2001. “Does Childhood Health Affect Chronic Morbidity in Later Life?” Social Science & Medicine52(8):1269–84.
Eileen M. Crimmins, Mark D. Hayward, Aaron Hagedorn, Yasuhiko Saito, and Nicolas Brouard. 2009. “Change in Disability-Free Life Expectancy for Americans 70 Years Old and Older.” Demography46(3):627–46.
Elo, Irma T. 2009. “Social Class Differentials in Health and Mortality: Patterns and Explanations in Comparative Perspective.” Annual Review of Sociology35(1):553–72.
Finch, C. E. 2004. “Inflammatory Exposure and Historical Changes in Human Life-Spans.”Science305(5691):1736–39.
Jackson, M. I. 2010. “A Life Course Perspective on Child Health, Cognition and Occupational Skill Qualifications in Adulthood: Evidence from a British Cohort.” Social Forces89(1):89–116.
Hayward, Mark D. and Bridget K. Gorman. 2004. “The Long Arm of Childhood: The Influence of Early-Life Social Conditions on Men’s Mortality.” Demography41(1):87–107.
Palloni, Alberto. 2006. “Reproducing Inequalities: Luck, Wallets, and the Enduring Effects of Childhood Health.” Demography43(4):587–615.
Smith, James P. 2004. “Unraveling the SES Health Connection.” Population and Development Review.
Yang, Y. and L. C. Lee. 2009. “Sex and Race Disparities in Health: Cohort Variations in Life Course Patterns.” Social Forces87(4):2093–2124.

死亡率
Caldwell, John C. 1986. “Routes to Low Mortality in Poor Countries.” Population and Development Review12(2):171.
Cutler, David and Grant Miller. 2005. “The Role of Public Health Improvements in Health Advances: The Twentieth-Century United States.” Demography42(1):1–22.
Garenne, Michel. 2006. “Health Transitions in Sub-Saharan Africa: Overview of Mortality Trends in Children under 5 Years Old (1950-2000).” Bulletin of the World Health Organization84(6):470–78.
McKeown, Thomas and R. G. Record. 1962. “Reasons for the Decline of Mortality in England and Wales during the Nineteenth Century.” Population Studies16(2):94–122.
Preston, Samuel H. 1975. “The Changing Relation between Mortality and Level of Economic Development.” Population Studies29(2):231.
Kuhn, Randall. 2010. “Routes to Low Mortality in Poor Countries Revisited.” Population and Development Review36(4):655–92.
Lutz, Wolfgang and Endale Kebede. 2018. “Education and Health: Redrawing the Preston Curve: Education and Health.” Population and Development Review44(2):343–61.
Soares, Rodrigo R. 2005. “Mortality Reductions, Educational Attainment, and Fertility Choice.” American Economic Review95(3):580–601.
Soares, Rodrigo R. 2007. “On the Determinants of Mortality Reductions in the Developing World.” Population and Development Review33(2):247–287.

HIV/AIDS
Bongaarts, John, Thomas Buettner, Gerhard Heilig, and François Pelletier. 2008. “Has the HIV Epidemic Peaked?” Population and Development Review34(2):199–224.
Heuveline, Patrick. 2014. “Impact of the HIV Epidemic on Population and Household Structure: The Dynamics and Evidence to Date.” AIDS18(2):45–53.

5. 高齢化


この分野はGerontologyという別の学問としてかなり独立しているのだが、社会人口学の一部と考えられなくもない気がする。僕が読んだものは少なめ。Preston (1984)は会長講演で日本の現状にとてもrelevantな気がする。VaupelはScienceNatureに何本も載せているのでそちらを読んだ方がいいもしれないが、このVaupel (2004)は彼のライフストーリーが研究と絡む形で出てきて面白いのでおすすめ。


Bongaarts, John. 2006. “How Long Will We Live?” Population and Development Review605–628.
Crimmins, Eileen M., Mark D. Hayward, Aaron Hagedorn, Yasuhiko Saito, and Nicolas Brouard. 2009. “Change in Disability-Free Life Expectancy for Americans 70 Years Old and Older.” Demography46(3):627–46.
Preston, Samuel H. 1984. “Children and the Elderly: Divergent Paths for America’s Dependents.” Demography21(4):435–457.
Preston, Samuel H. and Andrew Stokes. 2012. “Sources of Population Aging in More and Less Developed Countries.” Population and Development Review38(2):221–36.
Vaupel, James W. 2004. “The Biodemography of Aging.” Population and Development Review30:48–62.

6. 国際移住


以下、かなりアメリカ中心な独断と偏見に基づいたリスト。国際移住の研究には移動そのものを研究するもの (e.g., Massey and Espinosa 1997)と移住後の同化/統合を研究するもの (e.g., Alba and Nee 1997)に大別できるが、前者の研究が多めになっている。経済学の論文は、メソッドで有名なもの(e.g., Card 1990→DID、Card 2001→Shift Share IV、Munshi 2003→雨IV)をあげておいた。なお、国内移住と国際移住は連続的に考えた方が良いかもしれないが、便宜上分けた。

Abel, Guy J. 2018. “Estimates of Global Bilateral Migration Flows by Gender between 1960 and 2015.” International Migration Review 809–52.
Alba, Richard and Victor Nee. 1997. “Rethinking Assimilation Theory for a New Era of Immigration.” The International Migration Review 31(4):826–74.
Bean, Frank D., Susan K. Brown, and James D. Bachmeier. 2015. Parents Without Papers: The Progress and Pitfalls of Mexican American Integration. Russell Sage Foundation.
Borjas, George J. 1985. “Assimilation, Changes in Cohort Quality, and the Earnings of Immigrants.” Journal of Labor Economics 3(4):463–89.
Card, David. 1990. “The Impact of the Mariel Boatlift on the Miami Labor Market.” Industrial and Labor Relations Review 43(2):245–57.
Card, David. 2001. “Immigrant Inflows, Native Outflows, and the Local Labor Market Impacts of Higher Immigration.” Journal of Labor Economics 19(1):43.
Curran, Sara R. and Estela Rivero-Fuentes. 2003. “Engendering Migrant Networks: The Case of Mexican Migration.” 40(2):19.
Czaika, Mathias, Hein de Haas, and María Villares-Varela. 2018. “The Global Evolution of Travel Visa Regimes: The Global Evolution of Travel Visa Regimes.” Population and Development Review 44(3):589–622.
Feliciano, Cynthia. 2005. “Educational Selectivity in U.S. Immigration: How Do Immigrants Compare to Those Left Behind?” Demography42(1):131–52.
Feliciano, Cynthia and Yader R. Lanuza. 2017. “An Immigrant Paradox? Contextual Attainment and Intergenerational Educational Mobility.” American Sociological Review 82(1):211–41.
Fussell, Elizabeth and Douglas S. Massey. 2004. “The Limits to Cumulative Causation: International Migration From Mexican Urban Areas.” Demography41(1):151–71.
Garip, Filiz. 2012. “Discovering Diverse Mechanisms of Migration: The Mexico-US Stream 1970-2000.” Population and Development Review38(3):393–433.
Gordon, Milton Myron. 1964. Assimilation in American Life: The Role of Race, Religion, and National Origins. Oxford University Press.
Hirschman, Charles. 2005. “Immigration and the American Century.” Demography 42(4):595–620.
Massey, Douglas S., Joaquin Arango, Graeme Hugo, Ali Kouaouci, Adela Pellegrino, and J. Edward Taylor. 1993. “Theories of International Migration: A Review and Appraisal.” Population and Development Review 19(3):431.
Massey, Douglas S. and Kristin E. Espinosa. 1997. “What’s Driving Mexico-U.S. Migration? A Theoretical, Empirical, and Policy Analysis.” American Journal of Sociology 102(4):939–99.
Massey, Douglas S., Luin Goldring, and Jorge Durand. 1994. “Continuities in Transnational Migration: An Analysis of Nineteen Mexican Communities.” American Journal of Sociology 99(6):1492–1533.
Massey, Douglas S. and Karen A. Pren. 2012. “Unintended Consequences of US Immigration Policy: Explaining the Post-1965 Surge from Latin America.” Population and Development Review38(1):1–29.
Munshi, K. 2003. “Networks in the Modern Economy: Mexican Migrants in the U. S. Labor Market.” The Quarterly Journal of Economics 118(2):549–99.
Park, Julie and Dowell Myers. 2010. “Intergenerational Mobility in the Post-1965 Immigration Era: Estimates by an Immigrant Generation Cohort Method.”Demography 47(2):369–392.
Portes, Alejandro and Min Zhou. 1993. “The New Second Generation: Segmented Assimilation and Its Variants.” The ANNALS of the American Academy of Political and Social Science530(1):74–96.
White, Michael J. and Jennifer E. Glick. 2009. Achieving Anew: How New Immigrants Do in American Schools, Jobs, and Neighborhoods. Russell Sage Foundation. 
Zhou, Min. 1997. “Segmented Assimilation: Issues, Controversies, and Recent Research on the New Second Generation.” International Migration Review31(4):975.


7. 都市化と国内移住


  この分野はブラウン社会学部の伝統的な強みなのだが、残念ながら私はかなり弱い。加えて、都市化と国内移住のための別のプレリム試験が存在するようなので、社会人口学の試験ではここが問われる可能性は低いだろうと思ってまだちゃんと勉強できずにいる。なのでこのリストは参考程度にして欲しい。人口転換論と都市化の関係を簡潔に示したDyson (2011)と最新の人口学ハンドブックのWhite and Lindstrom (2019)は参考になる気がする。

Bruch, Elizabeth E. and Robert D. Mare. 2006. “Neighborhood Choice and Neighborhood Change.” American Journal of Sociology112(3):667–709.
Dyson, Tim. 2011. “The Role of the Demographic Transition in the Process of Urbanization.” Population and Development Review37:34–54.
Fussell, Elizabeth, Narayan Sastry, and Mark VanLandingham. 2010. “Race, Socioeconomic Status, and Return Migration to New Orleans after Hurricane Katrina.” Population and Environment31(1–3):20–42.
Garip, Filiz. 2008. “Social Capital and Migration: How Do Similar Resources Lead to Divergent Outcomes?” Demography45(3):591–617.
Gray, Clark and Richard Bilsborrow. 2013. “Environmental Influences on Human Migration in Rural Ecuador.” Demography50(4):1217–41.
Korinek, Kim, Barbara Entwisle, and Aree Jampaklay. 2005. “Through Thick and Thin: Layers of Social Ties and Urban Settlement among Thai Migrants.” American Sociological Review70(5):779–800.
Liang, Zai and Zhongdong Ma. 2004. “China’s Floating Population: New Evidence from the 2000 Census.” Population and Development Review30(3):467–88.
Logan, John R., Brian J. Stults, and Reynolds Farley. 2004. “Segregation of Minorities in the Metropolis: Two Decades of Change.” Demography41(1):1–22.
Luke, Nancy. 2010. “Migrants’ Competing Commitments: Sexual Partners in Urban Africa and Remittances to the Rural Origin.” American Journal of Sociology115(5):1435–79.
Massey, Douglas S. and Nancy A. Denton. 1988. “Suburbanization and Segregation in U.S. Metropolitan Areas.” American Journal of Sociology94(3):592–626.
Quillian, Lincoln. 1999. “Migration Patterns and the Growth of High‐Poverty Neighborhoods, 1970‐‐1990.” American Journal of Sociology105(1):1–37.
Ravallion, Martin, Shaohua Chen, and Prem Sangraula. 2007. “New Evidence on the Urbanization of Global Poverty.” Population and Development Review33(4):667–701.
Sampson, Robert J. and Patrick. Sharkey. 2008. “Neighborhood Selection and the Social Reproduction of Concentrated Racial Inequality.” Demography45(1):1–29.
Stark, Oded and David E. Bloom. 1985. “The New Economics of Labor Migration.” The American Economic Review75(2):173–78.
Tolnay, Stewart E. 1998. “Educational Selection in the Migration of Southern Blacks, 1880–1990.” Social Forces77(2):487–514.
White, Michael J. and David P. Lindstrom. 2019. “15 Internal Migration.” Pp. 383–419 in Handbook of Population, edited by D. L. Poston. Cham: Springer International Publishing.

8. 人口と開発


このトピックは社会人口学というよりは経済人口学や開発学のトピックだと思う。論文中に"demographic dividend"とか出てきたらだいたいそれ系。かなり苦手意識のあるテーマだが、所属大学が開発経済学/開発社会学に強いためにこういう研究も一応読まされるのかもしれない。かなりざっくりいうと他のセクションの研究は人口学的変数(e.g., 出生、死亡、移住)を従属変数としているが、このセクションの一連の研究はマクロな人口学的な変数(特に人口増加と年齢構造)を独立変数としていると考えるとわかりやすいだろう。マルサスの『人口論』や国際移民セクションのCard(1990)のマイアミのボート難民や、Card (2001)のシフトシェアIVによる移民の労働市場への影響の研究もこのセクションにいれてもいいかもしれない。


Bloom, David and David Canning. 2008. “Global Demographic Change: Dimensions and Economic Significance.” Population and Development Review34:17–51.
Bloom, David E. and Jeffrey G. Williamson. 1998. “Demographic Transitions and Economic Miracles in Emerging Asia.” The World Bank Economic Review12(3):419–55.
Coale, Ansley J. 1978. “Population Growth and Economic Development: The Case of Mexico.” Foreign Affairs56(2):415.
Crespo Cuaresma, Jesús, Wolfgang Lutz, and Warren Sanderson. 2014. “Is the Demographic Dividend an Education Dividend?” Demography51(1):299–315.
Lee, Ronald and Andrew Mason. 2010. “Fertility, Human Capital, and Economic Growth over the Demographic Transition.” European Journal of Population26(2):159–82.
Mason, Andrew and Ronald Lee. 2006. “Reform and Support Systems for the Elderly in Developing Countries: Capturing the Second Demographic Dividend.” Genus62(2):11–35.


9. 人口学と方法論

このセクションはテーマがでかすぎるのだが、基本的な目的は自分の試験にメソッドセクションがあり、それに対応するため。人口学における因果推論についてどう考えるかとか、質的調査をどう取り入れるかを考えさせたりするような問題が多い印象なのでここら辺を読んで勉強している。勝手な都合で5つのセクションに分けた。


人口学の方法(教科書)
Preston, S., Patrick Heuveline, and Michael Guillot. 2000. “Demography: Measuring and Modeling Population Processes. 2001.” Malden, MA: Blackwell Publishers.
Rowland, Donald T. 2003. “Demographic Methods and Concepts.” OUP Catalogue.


人口学と因果推論
Bhrolcháin, Máire Ní and Tim Dyson. 2007. “On Causation in Demography: Issues and Illustrations.” Population and Development Review33(1):1–36.
Duncan, Greg J. 2008. “When to Promote, and When to Avoid, a Population Perspective.” Demography45(4):763–84.
Engelhardt, Henriette, Hans-Peter Kohler, and Alexia Prskawetz, eds. 2009. Causal Analysis in Population Studies: Concepts, Methods, Applications. Dordrecht: Springer.
Moffitt, Robert. 2003. “Causal Analysis in Population Research: An Economist’s Perspective.” Population and Development Review29(3):448–58.
Moffitt, Robert. 2005. “Remarks on the Analysis of Causal Relationships in Population Research.” Demography42(1):91–108.
Smith, Herbert L. 2003. “Some Thoughts on Causation as It Relates to Demography and Population Studies.” Population and Development Review29(3):459–69.
Winship, Christopher and Stephen L. Morgan. 1999. “The Estimation of Causal Effects from Observational Data.” Annual Review of Sociology25(1):659–706.


APCモデル

因果推論は経済学から入ってきたメソッドと言えるだろうが、APCモデル的な考え方は人口学に特有な気がするので、特別に取り上げておく。特にコホートの考え方を洗練させたこと(Ryder 1965)と、その歴史(Elder and George 2016)は重要な気がする。APCはいくつか方法が提唱されているが、自分も細かいことはわかっていない。APCモデルによる分析のイメージを掴みたい方はYang (2008)の幸福感に関するASR論文が一番良いと思う。このテーマでの最近の白熱バトルをみたい方はYang et al. (2008)とLuo (2013)とそれについたたくさんのコメントを読むと面白いと思う。APCモデルはいわゆる統計的因果推論とは縁がなさそうだと思っていたのだが、Winship and Harding (2008)は因果推論セクションのEngelhardt et al.の本にSmithが寄稿した論文(Smith 2009)で取り上げられている。Decompositionも人口学に特有なメソッド(&考え方)だと思うが、勉強不足で対応できていない。


Elder, Glen H. and Linda K. George. 2016. “Age, Cohorts, and the Life Course.” Pp. 59–85 in Handbook of the Life Course, edited by M. J. Shanahan, J. T. Mortimer, and M. Kirkpatrick Johnson. Cham: Springer International Publishing.
Luo, Liying. 2013. “Assessing Validity and Application Scope of the Intrinsic Estimator Approach to the Age-Period-Cohort Problem.” Demography 50(6):1945–67.
Ryder, Norman B. 1965. “The Cohort as a Concept in the Study of Social Change.” American Sociological Review 30(6):843–61.
Yang, Yang. 2008. “Social Inequalities in Happiness in the United States, 1972 to 2004: An Age-Period-Cohort Analysis.” American Sociological Review 73(2):204–26.
Yang, Yang and Kenneth C. Land. 2008. “Age–Period–Cohort Analysis of Repeated Cross-Section Surveys: Fixed or Random Effects?” Sociological Methods & Research 36(3):297–326.
Yang, Yang, Sam Schulhofer‐Wohl, Wenjiang J. Fu, and Kenneth C. Land. 2008. “The Intrinsic Estimator for Age‐Period‐Cohort Analysis: What It Is and How to Use It.” American Journal of Sociology 113(6):1697–1736.
Winship, Christopher and David J. Harding. 2008. “A Mechanism-Based Approach to the Identification of Age–Period–Cohort Models.” Sociological Methods & Research36(3):362–401.


人口学における質的調査&非伝統的なデータ

必読というほどではないのでこのリストには入れていないが、質的調査を用いた人口学研究は結構たくさんあり、かなり興味深い研究をたくさんうんでいると思う。基本的には社会/文化人類学と人口学の接点となり、人類学者が活躍しているが、この分野で質的な調査を行う社会学者もいる(例えばミシガンのMargaret Fryeの研究はどれもとても面白いと思う)。Anthropological Demography(人類人口学?人口人類学?)という分野も存在し、Kertzer (2019)が詳しい(今学期はKertzer教授のAnthropological Demographyのセミナーを受けていた)。ちなみにこのリスト全体に複数回登場するJohn Caldwellも人類学者である。さらに人類学者と社会人口学者がタグを組んだ一番の有名なプロジェクトしてMexican Migration Project(MMP)があげられると思う。このプロジェクトについてはMassey (1987)とMassey and Zentaro (2000)と共に、国際移民セクションのMasseyやGarlipの論文も読んで欲しい。



Cesare, Nina, Hedwig Lee, Tyler McCormick, Emma Spiro, and Emilio Zagheni. 2018. “Promises and Pitfalls of Using Digital Traces for Demographic Research.” Demography55(5):1979–99.
Coast, Ernestina. 2003. “An Evaluation of Demographers’ Use of Ethnographies.” Population Studies57(3):337–46.
Couper, Mick P. 2017. “New Developments in Survey Data Collection.” Annual Review of Sociology43(1):121–45.
Heckathorn, Douglas D. and Christopher J. Cameron. 2017. “Network Sampling: From Snowball and Multiplicity to Respondent-Driven Sampling.” Annual Review of Sociology43(1):101–19.
Kertzer, David I. 2019. “23 Anthropological Demography.” Pp. 619–41 in Handbook of Population, edited by D. L. Poston. Cham: Springer International Publishing.
Massey, Douglas S. 1987. “The Ethnosurvey in Theory and Practice.” International Migration Review 21(4):1498–1522.
Massey, Douglas S. and René Zenteno. 2000. “A Validation of the Ethnosurvey: The Case of Mexico-U.S. Migration.” International Migration Review34(3):766–93.
Randall, Sara, Ernestina Coast, Natacha Compaore, and Philippe Antoine. 2013. “The Power of the Interviewer: A Qualitative Perspective on African Survey Data Collection.” Demographic Research28:763–92.
Randall, Sara and Todd Koppenhaver. 2004. “Qualitative Data in Demography: The Sound of Silence and Other Problems.” Demographic Research11:57–94.

国勢調査
Coleman, David. 2012. “The Twilight of the Census.” Population and Development Review38:334–51. 
Hirschman, Charles, Richard Alba, and Reynolds Farley. 2000. “The Meaning and Measurement of Race in the U.S. Census: Glimpses into the Future.” Demography37(3):381.
Kukutai, Tahu, Victor Thompson, and Rachael McMillan. 2015. “Whither the Census? Continuity and Change in Census Methodologies Worldwide, 1985–2014.” Journal of Population Research32(1):3–22.
Ruggles, Steven and Susan Brower. 2003. “Measurement of Household and Family Composition in the United States, 1850–2000.” Population and Development Review 29(1):73–101.
Snipp, C. Matthew. 2003. “Racial Measurement in the American Census: Past Practices and Implications for the Future.” Annual Review of Sociology 29(1):563–88.


10.  批判的人口学


プレリム試験の準備のために先生に個別指導をしていただいたのだが、その際、「人口学自体を批判的に捉える論文も読みたい」とリクエストしたところ、先生に「そういう研究も大事だが、それは『社会人口学』ではなくて、『知識社会学』なので試験範囲ではない」と言われてしまった。ただ、その後に丁寧にメールで参照すべき文献を複数教えてくださった。Hirschman (2004)は僕のセレクションで、Raceというカテゴリーを社会人口学で使うべきではない(全てethnicityで代替するべき)というアメリカの社会人口学者としてはかなり珍しい主張をしている。本人は有名な国際移民の大御所。なおGreenhalgh(1996)によるとConcered Demographers という人口学を批判的に捉えるジャーナルが院生を中心にウィスコンシン大で作られていた時代があるらしい(Duncan等の当時の年配人口学者に批判されて後に廃刊)のだが、この初代エディターは若き日のHirschmanとのことだった。

Greenhalgh, Susan. 1996. “The Social Construction of Population Science: An Intellectual, Institutional, and Political History of Twentieth-Century Demography.” Comparative Studies in Society and History38(1):26–66.
Greenhalgh, Susan. 1997. “Methods and Meanings: Reflections on Disciplinary Difference.” Population and Development Review23(4):819.
Hirschman, Charles. 2004. “The Origins and Demise of the Concept of Race.” Population and Development Review30(3):385–415.
Hodgson, Dennis. 1991. “The Ideological Origins of the Population Association of America.” Population and Development Review17(1):1.
Szreter, Simon. 1993. “The Idea of Demographic Transition and the Study of Fertility Change: A Critical Intellectual History.” Population and Development Review19(4):659.


11. 文献リスト


ブラウンのは非公開だが、その他の大学の社会学研究科博士課程のプレリム/コンプ試験のリストを公開しているところがあるのでここに載せておく。

メリーランド大学社会学研究科博士課程の人口学試験のリスト
カリフォルニア大学アーバイン校博士課程の人口学試験のリスト


(注1)  なお、リストの作成に当たってはブラウンの試験のための必読リスト、これまでの社会人口学系のコースのシラバスや個別指導の際に渡された文献リスト、UCIrvineのリスト、私が2年間こちらで研究・勉強する中で見つけた重要文献を参考にしている。試験に対応するために私の関心がある分野の論文たくさん入れたり、関心のない分野を少なくしたりしているので、バランスの良いリストを見たい方は多分UCアーバインのリストをみるのがいいと思う(ブラウンのは非公開)し、他の大学も同じようなリストをあげているところが多い。