2018年9月11日火曜日

今学期の履修ほぼ確定

新学期が始まった。コース選択だが、以下の5コースで固まりそうである。標準は1学期中に4つのコースなので5つは多いと思われるかもしれないが、EINTは週2回で1回50分、かつ単位が出ない英語のコースで負担は少なく、修論準備のコースも2週間に1回指導教員と面談をするだけなので実質3つのコースである(修論は進めないといけないが)。本当は生物統計学部で生存分析(イベントヒストリー分析)のコースを取ろうと思ったのだが、経済学部で開講されることになった格差と公共政策のコースがより今の自分のためになりそうだと思い、そっちをとることにした。

EINT 2400:Speaking Professionally for Internationals (留学生のための英語)
日時:月 9:00-9:50 水 9:00-9:50
内容:学部生を教えるために英語のアクセントとボディーランゲージを矯正したり、アメリカの学部生と接し方を練習するための特訓講座。文法や話す内容のコースではないことは初回で結構強調された。1月に英語の専門家および複数の学部生の前で模擬授業をして、「条件付き合格」だった人がこのコースを割り振られる。「不合格」だった場合はもっと低いレベルのコースから始まるらしい。ちなみに社会学部の留学生はほとんどの人が「合格」で、EINTのコースを受けなければならない人は珍しい(僕を含めて4/8人)。ただ、EINTのコースを受けることになった人もアクセント矯正のみのコースの人がほとんどで、このボディーランゲージや学部生との接し方までレクチャーされるコースを取らねばならないのはおそらく自分だけである。少し落ち込んだが、こんなことで凹んでいたらPhD生活やってられないのでとりあえず次の模擬授業で合格できるようにしたい。

ECON 2330:Topics in Labor Economics (因果推論)
日時:月 13:00-15:30
内容:労働経済学とあるが、コースの内容は統計的因果推論。今学期同時に履修する社会学部の因果推論のコースよりも少しアドバンストな気はする(知識をかなり持っていることが前提とされている)が、シラバスを見た限り内容は結構かぶっている。違いはこちらは経済学の論文の購読とレクチャー中心で社会学部の方は教科書中心のスタイルということか。社会学部のだけを履修してもいいのだが、このコースを取らなければ人口学センター所属の院生としての要件を満たさなくなってしまうこともあり履修することにした。

ECON 2350B:Inequality and Public Policies(格差と公共政策)
日時:火 9:00-11:30
内容:このコースは学期が始まって新しく追加されたスウェーデンのストックホルム大学の若手のVisiting Professorによるコース。広く格差(Inequality)に関連する経済学のワーキングペーパーを毎回読んで論評する。基本的にはIncomeとwealth inequalityに関するペーパーが多いが、Educational inequalityもあった。なお、経済学では論文として出版する前にワーキングペーパーとして論文がネットに上がることが多く、最新のワーキングペーパーを追うことで今後の学界の動向を追えるようだ。リーディングの一部(Chettyとか)は社会階層論のプレリム試験のリーディングリストとかぶっており、プレリム試験の準備になることを期待している。ただ、もしも論文が難しすぎて理解不能だったりしたら、10月に切るかもしれない。

SOC 2960Y:Causal Analysis (因果推論)
日時:水 13:00-16:00
内容:統計的因果推論。正直、経済学部の方の因果推論と内容が丸かぶりなのだが、これを受けないと社会学部のコースが0になり印象よろしくないのと共に、今までアドホックにしか因果推論を勉強したことがなかったので二つ受けてよりしっかり基礎固めしたいと思った。教科書はこちらの経済学部の学部生向けのStock & Watsonの計量経済学の教科書の必要箇所を読んで、その後に定番のMorgan and Winshipの教科書を読むという設定の模様。後者は日本の社会学者の間でも結構読まれていると思うので知っている方もいると思う。

SOC 2980:Reading and Research (修士論文準備)
日時:不定期に個人面談
内容:修論はようやく動き始めた。本提出は来年の4月末。仮提出は2月末。本日1ヶ月かかってようやくデータへのアクセス権を手に入れられた。米国の教育データを使って移民の世代間移動に関連するテーマにすることを検討している。日本の修論と比べるとかなり軽い。投稿論文一本分の長さを求められ、みんな実質1学期で書いている。

ご覧の通り今学期はメソッド重視の内容でリーディングは軽いが、修論のために先行研究レビューをたくさんすることを考えるとコースワークでのリーディングは軽いの方が良いという判断だ。





2018年9月2日日曜日

特にフォローしている学術雑誌

日本で過ごした2年間の修士時代には、実際に米国で学術雑誌が読まれているコンテクストというのをあまりちゃんと理解しないで、どの学術雑誌も無意識に「等価」という前提で読んでいた。もちろんAmerican Journal of Sociology、American Sociological Review、Social Forces、European Sociological Reviewが特別なのはわかっていたが、自分がどの社会学のサブフィールドで戦って行くのかという認識(注1)と、その中でのジャーナルの評価を全然理解できていなかった(注2)ということだ。

しかし、1年間アメリカの社会学部に在籍して、サブ分野(e.g. 社会人口学、教育社会学)ごとにフォローしておくべき雑誌とそうでない雑誌に関して社会学者間で共通の理解があり、特に具体的な研究テーマや研究のリサーチクエスチョンを設定する際には「フォローしておくべき」とされている雑誌での議論にあわせる形でリサーチクエスチョンを設定しないと、学界できちんとは相手にされないということがわかってきた。

では「フォローしておくべき雑誌」とはどうやって決めればいいのか?一番いいのは自分の分野の専門の教員に聞くか、自分が受ける予定の分野のプレリム試験の文献リストに多く登場する雑誌をひたすら追うことであろう。Impact Factor(IF)でランクを調べる方法もあるかもしれないが、米国の社会学者の頭の中で平均的に思い描かれている評価とIFが一致していないことは多々あると思う。

ここ1年で編み出した自分にとって「フォローしておくべき」とされいる論文の中で、特に重要なリストは以下である。これらの雑誌は新しい号が出るたびにタイトルとアブストだけは読んで、どういう枠組みでどういう研究がなされているのかは頭に入れておくつもりだ。私の場合、移民研究にウェイトをおいているので、移民研究系の雑誌はいわゆる「フィールドトップ」とされるIMR以外にも入っている。なお、これ以外にも「フォローしておくべき雑誌」はあるが、逐次チェックするのはこの10雑誌である。

(1)総合
American Journal of Sociology
American Sociological Review
Social Forces

(2)移民・人種・エスニシティ
International Migration Review
Racial and Ethnic Studies
Journal of Ethnic and Migration Studies

(3)教育社会学
Sociology of Education

(4)社会階層論
Research in Social Stratification and Mobility

(5)社会人口学
Demography
Population and Development Review

この他に重要なジャーナルとしてAnnual Review of Sociology、European Sociological Review、Social Science ResearchSociology of Race and Ethnicity、Demographic Research、American Educational Research Journal、Child Development、Future of Children、Journal of Marriage and Familyなどがある。

もちろんテーマに関係する場合、上記以外の雑誌も読むし、読むべきだが、ウェイトは上記にあり、例えば人口学でプレリム試験を受ける準備をするには、予め指定される文献リストの100本程度(その殆どがDemographyPopulation and Development Reviewに掲載された過去30-40年の論文のうち強い影響力のあったもの)はしっかりと読み、さらにDemographyPopulation and Development Reviewの最近10年分の論文のアブストには全て目を通してどのような研究がなされているのか頭に入れておくことが必要だと聞いた。


注1・・・ブラウン大学社会学部では1年目に社会学の諸分野をサーベイするコースがあるのだが、その入学直後の課題が、社会学のサブフィールドをASAのサブセクションから調べ、それらを統合して減らす方法を考える(減らさない方が良いと思う場合は、その理由を書いて提出する)というものだった。また、自分の研究関心を位置付けるべきサブフィールドを、そのサブフィールドが今後も学会で生き残るか?という視点から戦略的に考えるという課題もあった。こうした課題の意図は今はわかるが、入学当時はいまいちわからなかったのは勉強不足・認識不足という他はない。

注2・・・例えば修士の時に一番読んでいたCitizenship Studiesという雑誌は、結構有名な先生も載せており、僕は個人的に好きで、とても参考にしていた(今でも良い論文が多いと思っている)。ただし、今になってなんとなくわかってきたのは、この雑誌を最初から目指して論文を執筆する人はあまりおらず、どこかに落ちた後に投稿する雑誌であり、掲載できても就職の時には例えばInternational Migration ReviewRacial and Ethnic Studiesのように評価されることはない。

追記(2018.09.03):この記事を書いた後にたまたまTwitterで「一定ランク(やIF)以下のジャーナルには価値がない」と思っている人に対する批判を目にした。確かにアメリカの社会科学(政治学、経済学、社会学)ではそういう意見を持っている研究者の割合が高いと感じ、私が「フォローすべきジャーナル」を決めているというのもそういう見方と親和性が高いかもしれない。しかし、これはアメリカで認められる研究をしたい(現在のところPh.D.を取れたらそのままアメリカのポスドクジョブマーケットでポジションを得ることを目指している)と考えている私の戦略であって、IFやランクの低いジャーナルの価値が低いとは思っていない。またこうした議論に意見する意図でこの記事を書いたわけではない(+まだPublicationが0の人間が意見をするべきでもないと思うし、最近私が指導教員と投稿したジャーナルもランクが高いとは言えないところだった)。