2017年8月29日火曜日

社会学PhD出願の記録(7) 合格後のtips


1. 前置き


ブラウン大学で一番古いHallらしい
(投稿の内容と直接的関連性はない)
米国社会学PhD課程への出願について色々と書いてきたが、そろそろ出願に関する投稿シリーズも終わらせて現地での生活や研究や趣味について書こうと思っている。ただ、合格から進学先を決めるまでの私なりのアドバイスをまとめておきたい。なお、これは私が得た情報や経験に基づくものであり、偏っていたり、間違っている可能性もある。このアドバイスのご利用は自己責任でお願いしたい。

2. 合格後のtips


米国社会学PhD課程では1月末から2月下旬にかけて合格が出る。合格するとまず大学から公式のメールが来る。その後、自分と研究関心があう教員数名から個人的なメールが送られてきて、Skype等で話さないかと誘われる。各大学は合格を出した学生に来てもらうことに必死である。だからこそ出願時に提出した論文等を絶賛されたり、なぜか経歴をひたすら褒められたりする(もちろんいい気分にさせるお世辞であろう)。

合格した日から4月15日までは合格している複数の大学の中から進学先を決める重要な期間だ。以下がアドバイスである。

(1)4月15日まで大学は「オワハラ」できないことを心得ておくこと


各学部は合格を出した学生に来てもらうことに必死だが、PhDの大学院生獲得競争過熱による「オワハラ」を防止するために4/15までは学生に進学先の選択を迫ってはいけないという協定を結んでいるようである。これは直接的には財政支援と関連してApril 15 Resolutionと呼ばれているようだ。教員にやんわりとオワハラされた場合でも、4/15までは決める義務はないということは頭に入れておこう(ただし、このApril 15 Resolutionに加盟していない大学院もあるかもしれないのでそこは調べた方が良い)。

少し面倒なのはイギリスやカナダの大学院にも同時合格していた場合である。4月15日というのはアメリカのメジャーな大学院間の協定なので、その協定に入ってない大学にとっては関係がない。例えば私の場合、カナダのトロント大学はウェイトリストに入ったままだったが、3月末ごろから「他の人に回答を急がせているので少し待って」的な連絡をされた。逆にいうと、ウェイトリストを経ずに合格した場合、4月15日よりも随分早く回答を迫られるのかもしれない。また、その他に合格した大学の中では、オックスフォード大学の回答期限は4月14日で、アメリカの大学院とほぼ同じ日に設定してあった。

(2)大学ごとに違う財政支援の内訳をしっかりと把握すること


どのPhD課程でも学費全額免除、医療・歯科保険、生活費が5年間支払われることは共通だが、これらの内実は大学ごとに大きく違う。しっかりと比較するべきである。特に前回の記事に書いた夏季サポートの有無、Fellowship期間の有無と年数、生活費総額、外部資金獲得のインセンティブの4点は確認しておくのが良いと思う。

(3)Recruitment Dayにキャンパス訪問をすること


合格すると合格者向けのキャンパス訪問に誘われる。3月中旬から下旬の特定の日が設定されていることが多く、一日中しっかりとプログラムが組まれている。Recruitment DayやVisit Day等と呼ばれることが多いと思う。この日には「なぜXX大学が良いか」をプレゼンされたり、大学見学があったりする。訪問のための航空券代やホテル代等は大学側に大部分が負担して貰える。進学先では最低でも5年間を過ごすことになる可能性が高いので、街の雰囲気等を含めて知るためにも、Recruitment Dayにはなるべく参加した方が良いと思われる。

また、Recruitment Dayでは教員や大学院生と面談もできる。指導教員と人間的にあいそうかや、大学院生から学部の「裏の事情」等を聞くのは重要だと思う。教員は綺麗事をいうが、大学院生は割と正直に話してくれる印象があった。

(4)Fellowshipとしての年数を伸ばせないかの交渉を試みること(もよいかもしれない)


大学からの財政支援の内容を合格時よりもより良い条件にするように交渉することも進学先決定までの期間(4/15まで)に行われる。

合格した大学からはほぼ必ずと言って良いほど他にどこに受かったか?("What other offers do you have?")と聞かれる。前回の投稿でも述べたが、額は同じでも、TA/RAとしてよりFellowshipとして生活費を支給してもらった方が自由度が高くて良い。第二志望の大学院にも合格していて、そちらでFellowshipが何年分か貰えており、もう一方の第一志望の大学院ではFellowshipが貰えていない場合、その旨を伝えて、1年目や2年目のTA/RAとしての生活費の支給をFellowshipとしての支給に変えてくれないか聞いてみるのはよいのではないか、と思う。もちろん、要望が通るかはわからないが、聞いてみることで損はないだろう。私の場合、外部資金獲得によるIncetive PlanのFellowshipなども合わせて、2年分のFellowshipを4年分のFellowshipにまでしてもらうことができた。

なお、毎月の生活費の額を上げてくれるように交渉した旨をオンライン掲示板(英語)でみたことがあるが、本当にこのようなことができるのかは不明である。僕の感覚からは無理なのではないかと思うし、あまりにgreedyな人間に見えるのも入学後の印象が良くないと思うので、PhDレベルではそのような交渉はお勧めできない(トライしてもみても良いかもしれないが、こういうのは教員になってからするものな気がする)。また、Fellowshipに関しても合格時にFellowshipが1年も約束されていないのに、一気に3年分をFellowshipに変えてくれというような要望は通らないのではないかと思う。

正直なところ、現地の感覚がわからないので、合格後の交渉はかなり難しい。無理に交渉する必要はないと思う。


社会学PhD出願の記録(6) 大学ごとの財政支援の違いについて



[2022年追記]:5年間でのインフレ調整や各大学の院生労組結成による影響で多くの私立大学の大学院生に対する給与は年間合計40000ドル程度まで上昇している。また学期中と夏季休暇中のサポートに額の違いを出さないところも出てきている。最新の情報を各自入手された方がよい。

1. 前置き


ブラウン大学の赤門的なサムシング
(この投稿の内容とは直接的な関係はない)
先週の8月21日(月)に渡米し、入学前オリエンテーション等で1週間が一瞬のうちに過ぎ去った。本ブログでは5回に渡って米国の社会学系のPhD課程出願に必要な情報を書いてきた。入学を控えてPhD出願について書くモチベーションが下がってきたのだが、大事なことだと思うので、本日は米国大学大学院の財政支援について書きたいと思う。なお、本ブログの留学に関する事項の諸注意(米国社会学PhDに関してで、必ずしも他のディシプリンの事情を反映しない)についてはこの記事の前置きを、私のプロフィールについてはこちらをご覧いただきたい。

2. 米国PhDの財政支援


まず1回目の投稿で書いた基本からおさらいしておくと、米国の上位大学院(USNewsRankingで30位以内くらい)の社会学PhD課程のほとんどでは5年間の学費、生活費、授業料、医療・歯科保険の奨学金の支給が約束される。もちろん、これは返済不要である(注1)。多くの大学の社会学研究科のホームページに「私たちはPhDの大学院生に対し、5年間全額サポートします」("We provide PhD students with five years of financial support")というようなことが書いてある。

ただし、5年間全額サポートと言ってもその内実が大学によって異なることに合格後に気付いた(合格時に届くレターにサポートの詳細が書いてあり、それ以前に情報を得ることが難しいため)。以下、合格後にサポート内容を比較したり、Visiting weekで他の大学院に合格した方々と話していてわかった大学ごとの違いを(1)夏季サポート、(2)Fellowshipの有無、(3)生活費総額、(4)外部資金獲得のインセンティブの4点にまとめて述べたい。

(1)夏季休暇期間中のサポートが保証されているかどうかが異なる。


米国大学院の5年間の財政支援(five years of full financial support)の「5年間」は大学によっては「5学年間」(five academic years)を意味することがある。多くの大学院が9月に始業して、5月に学期を終えるため、1 yearで9月から5月の8ヶ月間という意味だ。

夏季休暇期間中(6-8月)の財政支援はSummer Supportなどと呼ばれ、学期中のサポートとは別のことが多く、Summer Supportが保証されている大学とそうではない大学がある。とはいっても、ほとんどの上位大学で6-8月の夏休み期間中もサポートをほとんどの学生がもらえているようなのでそこまで心配しなくても良いかもしれない。

例えば、ブラウン大学ではPhD課程の全合格者に"five academic years"と"four summers"(注2)分の給与が保証されていたのに対し、合格をもらったその他の大学では夏季休暇中のサポートが保証されていないところがあった。よって、ブラウンは比較的サポートが良い大学なのだと認識している。ただし、学期中の給与が月額最低3000ドル程度であるのに対して、夏は3ヶ月合計で最低5000ドル程度(月額1650ドル程度)であったので、夏の方が給与が低い計算となる。

(2)TA/RAとしての支給かFellowshipとしての支給かどうかが異なる。


同じ額が約束されていても、それがTAやRAとして支給されることになっているか、Felowshipとして支給されることになっているかで大きく違う。TAやRAはご存知の通りTAやRAとして働くことであるが、Fellowshipの場合、働く義務はない。まだやったことがないのでTAやRAがどの程度面倒なのかは不明だが、義務がない方が良いのは確かだろう。

ブラウンの場合、PhDの1年目と5年目は全員Fellowshipとしての支給が確定している。ただ、ブラウンのような大学は限定的で、Fellowshipによる支給が約束されるか、TA/RAによる支給が約束されるかが入学時の評価によって変わってくるところもあるようである(この場合、Fellowshipをもらえる方が評価されているということになる)。例えば、私が合格をもらっていた別の州立大学では、1年目のFellowshipは全員に約束されているわけではなく、一部の学生だけに対するものであった。私は合格時にはこの1年目のFellowshipの約束はなかったが、進学先を迷っているという事実を伝えた2週間後に「あなたは優秀なので1年目をFellowshipにします」という旨の連絡がきた。おそらく先にFellowshipを与えることにしていた私より評価されていた学生が蹴ったので、次点候補の私にFellowshipを回して、入学するインセンティブを高めようとしたのだと思う。

なお、上記では1年目のFellowshipについて言及したが、より良い条件の場合、Fellowshipが2年目以降にもつく場合があるであろう。また入学後に学内Fellowshipに応募して2年目や3年目にFellowshipをつけることも可能なようである。下記にも書くが、私は色々と好条件が重なって現段階でFellowshipが4年間、TA/RAが2年間の合計6年間分の財政支援が約束されている。

(3)授業料と医療/歯科保険を除いた生活費総額が異なる。


米国では大学によって学費が大きく違う(私立だと年間500万円前後、州立大学への留学生だと200-300万円前後だと思う[2022年追記:インフレ、円高により私立で年間800万前後、州立で400−500万程度になっている]が、PhDプログラムの場合、授業料・医療/歯科保険は形式的にかかってくるだけで結局は大学側が全額負担してくれるのであまり考慮する必要はない。

考慮すべきは支給される生活費総額の違いである。これも大学によって大きく異なり、現地物価も含めて、しっかりとリサーチする必要がある。ちなみにブラウンは授業期間8ヶ月(9月-5月)が合計で25000ドル程度、夏季休暇中が合計5000ドル程度で年間30000ドルだった。私が合格していた別の州立大学は年間20000ドル強だった。なお、ブラウンは高い方だとは思うが、中には40000ドルに近づく大学もあるらしいので上には上がいる。[2022年追記:インフレ調整、労使交渉で博士課程の給与は年35000-45000ドルが標準になりつつある。] お金を稼ぐためにPhDをやるわけではないだろうが、私費での研究書購入のことや、日本への帰国時に必要なお金を考えるとお金に余裕があった方が良いであろう。また家族がいる場合、家族を養うのも大切である(私は独身で気楽だが、家族同伴のPhD大学院生はかなり多い)。生活費総額は大学間で年間5000-10000ドル程度の違いが出てくると思われるので、合格後にしっかりとリサーチされたい

(4)外部財団の奨学金を獲得した際の対応が異なる。

日本から出願される場合、合格前あるいは合格後に外部財団の奨学金を獲得される方も多いのではないかと思う(私も外部資金を獲得した)。前回の記事で外部財団奨学金獲得の事実が合否に影響を与えるかどうかは疑わしいので、「PhD課程への合否」という意味でのメリットは小さいと書いたが、外部財団の奨学金を獲得していると入学後に特典をつけてくる大学もあるので、外部財団奨学金を獲得するメリットは十分にある。

ブラウンやその他多くの米大学PhD課程では、比較的良好な生活費(年3万ドル以上)(2022年追記:2022年ごろからは、支給される生活費は3.5〜4.5万ドルが標準になってきている)が全合格者に対して5年間保証されているので、学生に外部資金へ応募するインセンティブを与えるために、外部資金を獲得した学生を特別に優遇するIncentive Planというのものが設けられている。Incentive Planの特典は色々とあるが、私にとっての一番大きなインセンティブは6年目にFellowshipが保証されるというものだった。社会科学系PhDはほとんどの人がPhD取得に6年かかるが、必ずしも6年目にサポートが保証されるとは限らないので、6年目が既に約束されているというのは大変安心できる。また、奨学金をもらっている期間中TA/RAが免除となりFellowとして扱われることや、外部財団の奨学金がブラウンがPhD学生に支給する額に満たない場合には大学が差額を補填(注3)してくれ、さらにそこに若干のボーナスを加えてくれることもあることなどがあげられる(もちろんであるが、大学に報告しないで外部奨学金と大学からの生活費の二重受給をすることは禁じられており、学生は外部奨学金獲得の事実を大学に報告しなければならない)。

なお、このIncentive Planがが存在しない大学もあるようである。外部資金を獲得できている場合、合格した学校の間でどのようなオプションがあるのかしっかりと調べることが重要であろう。

注1:アメリカでは奨学金(scholarship)とは返済不要のものを指し、返済の必要のあるものは学生ローン(student loan)と呼ばれるようだ。
注2: five summersではないのは、5年目の夏が始まる前に卒業しているはずのため。
注3:例えば年間3万ドルが大学から約束されており、その後に日本の奨学金財団から年間2万ドルの奨学金をもらうことになった場合、1万ドルの差額は大学が学生に対して支払うということ。ここに報酬として+αを上乗せする大学もある。日本の財団によっては、差額の支給に難色を示すこともあるので、規定等に注意を払って財団から許可をもらう必要がある。なお、獲得した外部奨学金が大学が当初約束している生活費を上回る場合は大学からの支給はもらえなくなる(しかしながらここまで良い生活費が出る奨学金は日本には存在しなく、アメリカの財団の奨学金を獲得する必要があるであろう)。