2020年2月18日火曜日

博士課程修了者の就職先の把握

私の所属する博士課程に合格したという方とSkypeで話す機会があって、その時に少し思ったことを、2年前に書いた大学院出願に関する諸々の記事に追加という形で記しておく。出願校を選択する前または入学先を迷っている時には、直近のプレースメント情報(博士号取得者の就職先)「も」調べた方が良いと思う。なぜか私は3年前にそんなに気にしてなかったが、今だったら絶対に調べる。

どうやってこの情報を探すか?大学名+学部名+Placementでネット検索すれば出てくるはずである。なお、東海岸のHやPや、西海岸のSのようなほとんどどの分野でもトップ・オブ・ザ・トップの大学以外の大学で、この情報がどこにも見つからないとか、非公開の場合は、少し慎重になった方が良い気がする。ただ、もちろん、単純に更新してないだけかもしれないのでまずはメールで問い合わせるのがいいだろう。

大雑把な指標だが、このプレースメント情報を調べることで、出願先の大学から博士号をとったあとに自分が行き着く初職のイメージがつくはずである。例えばブラウン社会学部の過去10年のプレースメント情報はこのリンクに載っており、直近10年の全ての博士号取得者の名前と初職(注1)が公開されている。もちろん、民間就職した人の名前と就職先も載っている。過去10年の博士号取得者の初職は、40%程度がAP(助教授)、40%程度がポスドクやその他研究職、残りが民間(世界銀行等の国際機関含む)といったところで、それぞれの就職先もわかる。さらに名前をググりさえすればそれぞれのその後のキャリアもわかる。

もちろん、最終的には自分の実績と空いているポジション次第なことは確かだ。ただ、進学予定の学部のプレースメント情報はプログラムの雰囲気や教員が院生に抱く期待も反映していると思われるので、知っておいて損はないはずである。

プレースメント情報からもう一つ推測できるのはPhDプログラムの規模である(注2)。例えば、私の所属学部は毎年5-10名受け入れている小規模な学部なので、毎年の修了生もそんなに多くない(私のコホートはたまたま15名ととても大きかったが、私の前後のコホートは5-6名である)。規模が小さいPhDプログラムと大きいPhDプログラムにはそれぞれの良し悪しがある。小さいプログラムは研究分野にかかわらず同期の結束がかなり強いと思う。また、内部でのリソースをめぐる競争が激しくなく、かつ、先輩・後輩をも含め、全員と知り合いになることが標準であろう。一方、研究関心がぴったりの同僚は見つけにくいかもしれず、かつ、大きなプロジェクトはそんなに大学内で走っていないかもしれない。自分の性格にあうのがどういうプログラムかをしっかり考えるのをオススメする。

(注1)なお、ポスドクとAP(助教授)が併記してある場合は、ポスドクとAPのオファーを両方受けた上で、APになるのを送らせて、ポスドクを先にやっているものと思われる。こういう人たちはいわゆる完全な「勝ち組」である。
(注2)もちろん、途中でやめる人が多いために、修了生が少なくなっているということも考えられる。こういう内部情報は各大学院の大学院生にメールして聞こう。

2020年2月17日月曜日

TAのトレーニング(ファカルティ・ディベロップメント)

日本でも大学院生のファカルティディベロップメントが流行りであるが、アメリカの大学(注1)でもTAのスキルアップを目的として様々なプログラムが組まれている。私が所属するブラウン大学社会学部博士課程の大学院生が最低限しなければならないのは、Ph.D.取得までに大学が運営する1学期分のトレーニングプログラムに参加して、Teaching Certificate Ⅰ を取得することである。なお、ブラウンでは、この資格は社会学部を含む多くの学部で「必修」(但し、罰則なし)扱いとなっている。

ブラウンのTeaching Certificate Ⅰ を修了するためには、(1)4回のオンライン講義の受講、(2)4回の課題の提出、(3)4回のセミナー(1回1.5時間程度)への参加、(4)TAとして授業をしているところを1回「授業参観」されてフィードバックを受ける必要がある。オンライン講義、課題、セミナーは毎回テーマが決まっており、テーマに合わせた論文等も読まされて、割と気合いを入れてプログラムが練られていた。特に印象に残ったことの一つが、大学における教育実践事例の報告サイトから、他分野(e.g., 物理学)の教育実践で、自らの分野(e.g., 社会学)の授業に取り入れたいアクティビティを選んで、授業への組み込み方をチームで検討するというものであった。上記サイトはアイデアの宝庫なので、大学関係者の方は参考になるアクティビティを探してみると良いと思う。

私は、先学期に(1)オンライン講義、(2)課題、(3)セミナー参加は既に終わらせてあり、残りの(4)TAとして講義しているところを「授業参観」されてフィードバックを受ける、というのも最近終わらせた。今学期は大学院生の多変量解析のコースのTAを担当しており、担当教授の3時間の授業とは別に、TAとして週1.5時間程度の授業(主に実習)を担当しているので、その私の1.5時間の授業を「授業参観」され、フィードバックを受けた。フィードバックはとても丁寧で、具体的には以下のプロセスで行われた。

2週間前:シラバスを送付(TAでも1人で毎週セクション等を担当する場合はシラバスを独自に作成している)
1週間前:事前面談(フィードバックが欲しい点を事前に申告できる)
当日: 授業参観される(かなりじっくり「参観」され、希望があればビデオ撮影もされる)
翌日: 良かった点 &悪かった点のフィードバック

授業翌日のフィードバックの際には図1と図2のようなメモ(エスノグラファーのフィールドノーツのようだった)を基に、次のTA講義での改善点を指摘された。特に有り難かったのは質問に答えるのが一部の学生に限定されていたことを指摘された上で、全員の発言を促すための具体的アドバイス(案)を複数いただけたことだった。

図1:クラスの座席配置と発言回数に関するフィードバック

図2:フィードバックフォーム
(何時何分に私が何をして、その行動のどこが良かったかor悪かったかが記されている)

丁寧なフィードバックはとても役にたった。特に人前で話すことに苦手意識を持って生きてきたので、今回のフィードバックをきちんと生かしてさらにより上手く教えることができるようにしたい。

なお、TAにフィードバックをする仕事をしているのは特別なトレーニングを受けた大学院生であった(これをすることで大学から給料を支給されているらしい)。私の担当の方は某外国文学の専攻のD6の方で、博士号取得後は大学のファカルティディベロップメントに関わる仕事につくことを検討しているらしかった。私もさらにトレーニングを受けてこの仕事をするのも良いかもしれないと思った。

(注1)ほとんどの大学で何らかの形でのTAトレーニングは行われているであろうが、大学によって事情は大きく異なる。ここに書かれているのはあくまでブラウン大学というアメリカの一大学の事例で、過度な一般化はしないで欲しい。

2020年2月4日火曜日

近況報告0204:生活、差別、TA、研究、コースワーク

アメリカに戻ってきて3週間ほどがたった。ちょっと想像以上に忙しく全く更新できていなかったが、今日は第一回目のTAも終わって、少し落ち着いたので記録を残しておく。

生活
3年もいると、どんどんプロビデンスのような中規模都市(日本基準では「地方都市」)に慣れてきて、東京は人が多すぎると感じるようになった。車の免許さえとれ、かつご飯が美味しければ、もっと田舎町もいけるかもしれない。食事だけは日本が恋しく、最近は写真のような品々をよく食べている。冷凍が多く、東京の水準には達しないものの、NYCやボストンやシアトルに住んでいないのに、これら食材を定期的に確保できるのは上出来な気がする(自画自賛)。特に牛丼の味は全く日本と変わらず、並・汁だくの吉野家牛丼である。自分は松屋派なのだが、そこは我慢しておく。

今川焼(あんこ)(冷凍)

吉野家牛丼(冷凍)

炊き込みご飯

明太子スパゲッティ

差別経験
先日ワシントンDCにいた時に、大柄の男性二人から"Coronavirus!!"(意味:「コロナウイルス 野郎!」) "Your name is Wuhan!!"(「お前の名前は武漢だ!」)と執拗に絡まれた。NYCなどの大都市を歩いている時に"Go back to North Korea"(「北朝鮮へ帰れ!」)とか"Go back to China"「中国へ帰れ!」とか言われたことはあるのだが、罵声を浴びせながら歩く後をついてこられたのは初の経験だった。夜道で、一人で、かつ大きな荷物を持っていたので少し怖かったが、英語がわからないふりをしてポーカーフェースを保っていたら去って行った。いつもは全く何も思わないのだが、今回は少し疲れていたのと、罵声が長時間にわたったので少しだけ言い返すことを考えたのも、冷静に対処して正解だった。

ちなみに日本人として「正しく」差別されたのはハワイで"Fucking Jap!"(くそジャップ!)的なことを言われた時("Jap"が入ってきたのは覚えているのだが、正確には覚えていない)だけである。なお、大学の周辺では一度もこういう経験はないのは嬉しい。

ちなみに、これは特殊な経験である可能性があるので、過度な一般化はしないで欲しい。実際にアジアからの留学生の友人で、二年半でまだ一度もこういうことを言われたことがないという友人もいた。


ティーチングアシスタント(TA)
今学期は大学院博士課程1年生の必修の多変量解析のコースのTAになった。アメリカの社会学部の博士課程では、1年生秋学期にOLSの基礎を徹底的に叩き込み、1年生春学期に一般化線形モデルに拡張をする。

僕の仕事は週1時間半のレクチャー、週2時間のオフィスアワー、提出物の採点である。人数は20名以下と少ないものの、博士課程の院生を相手に1時間半話すことを用意するのは結構大変で、準備は丸一日かかった。来週はTAに対してfeedbackする専門の委員が自分の授業参観をしにくるらしく、それも少し緊張している)。

研究
Dからリジェクトされた。しかも、1ヶ月半経ってのデスクリジェクトで少しびっくりしたが、仕方ない。次に出すジャーナルを検討中。指導教員には(6年生でジョブマーケットに出ると仮定して)「4年の秋が終わるまで」は「強気」でより評価の高いジャーナルにいくようにアドバイスされたのだが、少し疲れてきたので、どうしようか考えている。

今年は日本にいる外国人移民の研究も徐々に研究を始めていく予定で、先行研究とかを集め始めた。今年中に一本論文を書きたい。

博論は(1)ローリスクローリターンなテーマと(2)ハイリスクハイリターンなテーマ(主観)で迷っている。まだ決められない。。

コースワーク
今学期は先学期から履修している(1)論文執筆法のコースと(2)GISのメソッドコースの2つだけである。あとは自分の研究を進めるのとプレリム試験の勉強に時間を割こうと思う。