2016年6月8日水曜日

社会学者ピーター・バーガー自伝

Berger, P. L. (2011). Adventures of an Accidental Sociologist: How to Explain the World without Becoming a Bore. New York: Prometheus Books.

最後の方まで読んでストップしてしまっていたピーター・バーガーの社会学者としての自伝を読了。日本語でも『退屈せずに社会を説明する方法』として訳が出版されたらしい。

教科書的にはA.シュッツの「現象学的社会学」を引き継いだ社会学者として有名なピーター・バーガー。学部3年時に宗教学研究室の演習にいれてもらっていた時に『聖なる天蓋』を購読したのは覚えているが、個人的にはシュッツやバーガーの系統の社会学の流れに身をおいてはおらず(方法論的な意味で)、バーガーの社会学というよりはバーガーが「クリスチャン」として公的発言を続ける数少ない社会学者であることが気になっていた(注1)。

タイトルは"Accidental Sociologist"となっているが、"Accidental"なのは彼がもともと社会学者になるつもりがなく、ルター派の牧師を目指して移民としてアメリカ社会をよりよく理解するために社会学を学び始めたことが由来のよう。

個人的に興味深かったのは、ブッシュ政権を支えた保守的なカトリック神学者リチャード・ノイハウス(ルター派牧師から改宗)との友情と決別や、『脱学校の社会』で知られるイヴァン・イリイチとの親交、修士論文で扱ったニューヨークのペンテコステ運動、日本政治研究者となった息子のことなど。ちなみに有名なFirst Thingsという宗教・政治に関する保守系のジャーナルはバーガーがノイハウスとはじめたものらしい。

若い頃は随分いろいろと信仰の問題と葛藤したようで、長らく新正統主義的な立場(本の中ではその代表としてボンヘッファーをあげている)にあったが、ある時期にリベラルな信仰(Liberal Lutheranism)に移行していったと回顧している。バーガーらしいと思うのはリベラルプロテスタント×社会学者のミックスからは想像できない保守的な立場(政治)と、アメリカの福音主義者やペンテコステ運動に示す肯定的な態度。

彼は自伝の最後でアイデンティティのハイラーキーで一番重要なのが自己形成、二番目が宗教、三番目が社会学だと述べている。つまり、社会学者の側面を主に扱ったこの本はバーガーについての一番重要な部分を語っていないということらしい。是非、バーガーの信仰の遍歴についても本を出してほしい。

注1:バーガーはQuestions of Faith:A Skeptical Affirmation of Christianity(邦訳『現代人はキリスト教を信じられるか?-懐疑と信仰の狭間で-』)という使徒信条を1句ずつ彼なりに解釈する本まで出している。

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