2019年12月26日木曜日

『海外で研究者になる』を読んだ

大学院生の間で話題になっていた以下の本を読んだ。




著者の増田先生は東大情報理工学系研究科の准教授を経て(博士号も海外ではなく東大)、イギリスの大学へ移られた方で、海外で研究者として働くことについてご自身の経験を中心に、他に海外で働く十数名の日本人研究者へのインタビューも交えて、解説されている(先生は2019年夏からはイギリスからアメリカの大学に移籍されたようである)。

私が気に入った点は以下3点である。

(1)アメリカ・ヨーロッパに偏っておらず、中国、香港、韓国、シンガポール等の大学で働く日本人研究者の事情も詳しく取材されていること。今後の日本人研究者の活躍場所が日本以外のアジアとなると増田先生がお考えになっているかららしい。

(2)理工系に限らず、人文・社会科学系の研究者の事例も紹介してあること。最初この本が出たときには「理工系だけの事例を集めた本」だという勘違いをしてしまったが、実際に読むと経済学、社会心理学、考古学、演劇学等の社会科学や人文学系の研究者の事例もきちんと取り上げてあった。

(3)日本で博士号を取ってから、ポスドク以降に海外に移り、そのまま現地就職した事例も取り上げていること(そもそも、この本ではこのルートがメインに考えられている)。

私がアメリカの博士課程に出願する前には可能性を考えなかったのだが、この本に取り上げられている諸先輩方のように、日本国内の大学で博士号を取得した後に、ポスドクから日本国外に出るという選択肢もあり得たのかもしれない。もちろん、社会科学系の場合は理工系に比べると研究そのものや博士の学位に地域性がある気がするので壁はより高いかもしれないが、この本でとりあげられている諸事例のように成功例も一定数あり、不可能ではないのだろう。

2019年12月25日水曜日

近況1226:今学期の振り返りとスタートレック

学生のレポート採点と自分のレポート提出を完了し、とうとう冬休みに入った。といっても、この休みの間に終わらなせないといけない仕事がまだあるので完全に休むことはできなさそうだが。。。今学期を振り返る。

1. コースワーク

前にも書いたが、今学期は(1) Migration、(2) Spatial Thinking in Social Science、(3) Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data、(4)  Sociology Paper Writing の4つのコースを履修した。特にSpatial Thinkingのコース(メソッドではなく、サブスタンスのコースだったのが良かった)は強く印象に残ったので、すぐに(=博論に)に空間的視点を取り入れられるかは別として、この分野は開拓して行きたいと思う。

6月に2つ目のプレリム試験を受けなければならない。来学期は1つしかコースを履修しない予定なので、残りは研究とプレリム試験準備に使いたい。


2. 研究

ジャーナルDへ投稿して3週間以上過ぎた。掲載率10%程度のトップジャーナルで、万が一これに載せられたらアメリカのアカデミアでの就職も夢ではなくなる(くらいには掲載されるのが夢なジャーナルである)。これまでDはデスクリジェクト率が20%弱だったらしいのだが、それをさらにupさせていくことを新編集長がTwitterにて示唆していたのでここ数日はメールを見るのが少し怖かった。査読されるまでに辿りつければ、2月下旬ごろに結果が返って来る。致命的なミス等が指摘されずにリジェクトされた場合、3月下旬までにIMRに投稿するつもりである。

ワシントンDCで4月にあるアメリカ人口学会(PAA)は二つ出していたのだが、どちらともポスターで通った(オーラルは落ちた)。フィンランドである社会階層論研究会(RC28)はオーラルで通った。発表内容的にはどちらかというと完成しているPAAの方をオーラルで、新しく始めたRC28の方をポスターでやりたかったので逆の結果になって少し残念。

ここ3年間で学会について思うことは、該当学会参加者に認知されているジャーナルに論文がないとネットワーキングしようと思っても相手にしてもらえないということだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、とりあえず出せるように頑張りたい。

博論については前にも書いた気がするが二択まで絞った。どちらにするかによってコミティーの選択が変わってくる。再来年(2021年)の4月までにプロポーザルを書いてディフェンスする必要があり、自分の中の目標としては来年(2020年)の夏までにコミティーを確定させ、12月までにディフェンスを終わらせたい。

3. スタートレック

今年に入ってからだが、NetflixでStart Trek Discovery(2017-)を観てから、Star Trek: Enterprise(2001-2005)を全シーズン観て、今はStar Trek: The Next Generation(1987-94)をちょびちょび観ている。Star Trek: The Original Series(1966-69)もシーズン1の途中まで観たのだが、古いこともあって陳腐に感じる設定が多く、途中でやめてしまった(いつか再挑戦するかもしれない)。Star TrekはSFとして面白いだけではなく、ドラマ中のジェンダー・人種の表象や、植民地主義的発想に基づく設定などがシーズンごとに変化していくのはドラマが放映された時代ごとのアメリカ社会を反映しており、アメリカという「帝国」の勉強にもなる。

Big Bang Theoryシリーズの影響もあって元々興味はあった(シェルダンは時々クリンゴン語で話したり、ヴァルカン星人の"Live long and prosper!"という挨拶をしたりする)のだが、自分がここまでハマるのは意外だった。健康なのか不健康なのかわからないが、一日のうち30分くらい現実逃避できるSFやファンタジー世界があることで随分とメンタルが保たれることにも気づいた。

もし興味ある方がいれば最新のDiscoveryからみるのがおすすめ。時代設定ではEnterprise(22世紀)→Discovery(23世紀)→Original Series(23世紀)→New Generation(24世紀)、Deep Space Nine (24世紀)、Voyager(24世紀)となっているようだが、Discoveryからみるのがおすすめ。

4. 本

冬休み中に読もうといくつか研究とは全く関係ない本を買った。一つ目は『岩倉使節団『米欧回覧実記』』(田中彰著)、二つ目は『トマス・アクィナス――理性と神秘』(山本芳久著)。できるだけ積ん読にならないように日本にいる間に読み切りたい。

2019年12月16日月曜日

今年面白かった社会学論文10選(2019)

学生のレポートの採点が残っていてこんなことをしている場合ではないのだが、クリスマス前には終わらせたかったジャーナルDへの投稿も完了し、自分の期末レポート(D3にもなって、3本も書かないといけなかった、、)も終わりが見えてき、明後日から一時帰国に入るので、その前に今年一年で読んで面白かった論文を10選あげておく(順不同)。一年といっても、昔読んだものほど印象が薄れてしまうので、ここ二ヶ月くらいで読んだ論文にバイアスがかかっている。なお、今年僕が読んだ論文で、今年出た論文ということではない。

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Rissing, B. A., & Castilla, E. J. (2014). House of green cards: Statistical or preference-based inequality in the employment of foreign nationals. American Sociological Review, 79(6), 1226-1255.

Auditデータをとてもうまく使って、米国のグリーンカードの審査で起こっている「差別」が「選好による差別」ではなく、「統計的差別」であることをとてもわかりやすく示している。今年になるまでこの論文を知らなかったことは勉強不足としかいいようがない。この論文は移民研究してない人でも絶対面白いので是非読んで欲しい。分析もシンプル。
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Brinton, M. C., & Oh, E. (2019). Babies, Work, or Both? Highly Educated Women’s Employment and Fertility in East Asia. American Journal of Sociology, 125(1), 105-140.

東アジア(日本と韓国)で出産/育児と女性の就労継続が難しいとされる背景を、160人以上のインタビューデータを基に明らかにした社会人口学の論文。人口学で質的データを使った論文は相対的に少ないので貴重な気がする。
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Torche, F. (2018). Prenatal exposure to an acute stressor and children’s cognitive outcomes. Demography, 55(5), 1611-1639.

胎児期に母親が受けるストレスがどのように子どもの出生後の発達に影響を与えるかというのはよく知られていない。この論文ではチリで2005年に発生した地震による母親の被災と、どの胎児期に母親が被災したかのバリエーション(第一、第二胎児期は子どもの発達に大きな影響があるが、第三胎児期は影響が少ないことが知られているらしい)を利用してストレスの影響を分析している。分析の結果、貧困家庭の子どもにおいては第一、第二胎児期に母親がストレスを受けることが7歳時点の学力に負の影響を与えることが示されている。Torcheは日本でも教育社会学界隈ではよく知られているチリ人社会学者である(スタンフォード大教授)。この論文に限らないが、文章をわかりやすく書くのがとてもうまいと思う。
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Catron, P. (2019). The Melting-Pot Problem? The Persistence and Convergence of Premigration Socioeconomic Status During the Age of Mass Migration. Social Forces.

移民の移住前のSES(社会経済的地位)は移住後の移民(1世)とその子ども(2世)の社会経済的地位達成にどう影響するのか?移民の移住前のSES関するデータはなかなか見つけるのが大変だが、Catronは19世紀後半のヨーロッパからアメリカに来た移民(1世)の船の乗客リストの名簿の名前と職業を1910年の国勢調査データの名前にマッチし、さらに1910年に0-18歳だった移民の子ども(2世)の名前を1940年の国勢調査の名前にマッチすることで、この問いに答えられるデータを作成した(Note:当時はヨーロッパからは船でしか来ることができない)。結果、移住前のSESは移住後の移民1世のSESと関連するものの、その子どもの世代にはほぼ関連がなくなるという結論を出している。これは19世紀後半に移住したヨーロッパ移民の「同化」が速く進んだという既存の研究の知見と一致する。この論文は以前に発表を聞いたのだが、最終稿はOnline Firstで出たばかりでちゃんと読めてないので冬休みに熟読したい。
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Logan, J. R., & Martinez, M. J. (2018). The spatial scale and spatial configuration of residential settlement: Measuring segregation in the postbellum South. American Journal of Sociology, 123(4), 1161-1203.

南北戦争後の米南部においては、「白人」と「黒人」のResidential Segregation(居住分離)は北部に比べてとても低かったとされてきた。しかし、これで北部よりも南部の方が「白人」と「黒人」の社会的距離が近かったと結論づけるには問題がある。なぜなら、分離を測るスケールの設定で分離指数は高くもなりし、低くもなるからだ。この研究では1880年の米国の国勢調査の100%データ(ピンポイントで誰がどこに住んでいたかを地図上に再現できる)を用いて家レベルでの居住分離のパターンを明らかにし、最小のスケールで居住分離を測ると先行研究とは全く違うパターンが見えてくることを示している。また居住分離の空間形態(e.g.,「白人」は大通りに面して住み、「黒人」は路地に面して住む)の諸パターンも示されている。とても記述的な論文で、空間分析におけるスケールの大切さを知るためにはとても良い勉強材料だと思う。なお、今学期は筆頭著者のSpatial Thinking in the Social Sciencesという授業を受けて、とても色々考えさせられた。筆頭著者のこのAnnual Review論文は空間分析における空間(space)と場所(place)の違いを考えるのにとても役立つので関心のある方はおすすめである。
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Song, X., Massey, C. G., Rolf, K. A., Ferrie, J. P., Rothbaum, J. L., & Xie, Y. (2019). Long-term decline in intergenerational mobility in the United States since the 1850s. Proceedings of the National Academy of Sciences.

米国の国勢調査と各種社会調査データをマッチさせて、1830年から1980年の出生コホートの世代間職業移動の長期トレンドを示している。農業からの転出を除いて分析すると、相対移動率は150年間で安定しており、いわゆる「FJH仮説」(論文中ではLZ仮説の方が引用されている)を支持している。絶対移動をみると、上昇移動は1900年出生コホートまでは増加するものの、1940年以降は下降している。この論文は、2年前に米国における世代間所得移動の長期トレンドを示してScienceに載ったChetty, Grusky, Hell, Hendren, Manduca and Narang (2017)(あえてet al.を使わない!)の職業版と言えると思う。筆頭著者と最終著者は両者とも大学院からの留学組としてアメリカに来て、様々なハンデを乗り越えながら今のポジションを手に入れて、米国の長期トレンドをクリアに示す重要な論文を、社会学を超えて影響力のあるPNASに載せている。留学生の鏡である。
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Tolnay, S. E., Deane, G., & Beck, E. M. (1996). Vicarious violence: Spatial effects on southern lynchings, 1890-1919. American Journal of Sociology, 102(3), 788-815.

米国では、19世紀末から20世紀初頭にかけて南部でたくさんの黒人がリンチによって殺害された。群(county)レベルの時系列データを使い、リンチが起きると、その後、その郡の近くの郡ではリンチが減少することを示している。推定された「負の効果」はリンチが「熱狂」によるものではなく、社会経済的な目的を持って「計算」されたものだったからだ、と解釈している(この解釈は若干飛躍しているように私は感じている)。1996年の論文で空間ラグモデルを用いているのはアメリカ社会学のすごいところだと思う。
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Legewie, J., & Fagan, J. (2019). Aggressive policing and the educational performance of minority youth. American Sociological Review, 84(2), 220-247.

NYCではOperation Impactという犯罪が起きやすい地区(ビルなどのかなり細かい単位の場合もある)を指定し、その指定地区(Impact Zone)に警察を集中配備する政策を2000年代初頭に実施した。Impact Zone指定地区の指定期間中、警察は職務質問を積極的にすると共に、かなりマイナーな犯罪でも逮捕を積極的にしたとされる。米国に住んでいれば想像はつくが、当然、Central Cityの「黒人」の青少年は警察に差別的に扱われたことが推察される。当論文では、地区間で警察が集中的に配備されたタイミングが異なる(Impact Zoneはかなり頻繁に移動されたようだ)ことを利用して、警察の配備と子どものテストスコアの因果関係を分析している。ちなみにデータは住所と紐づいたNYCの9-15歳(25万人分!)のテストスコアのデータである。分析の結果、Operation ImpactはImpact Zone指定エリアに指定期間中に住んでいる「黒人」の子どもの学力に負の効果があることが示されている。子どもの年齢が高ければ高いほど強い負の効果がある。マルチレベル/パネルデータの授業で文献指定されたのだが、結果が綺麗すぎて少しびっくりした。もう一つびっくりしたのはこの政策の雛形となる政策を実施したのが2001年までNYC市長をつとめたRudy Giuliani氏(現在トランプ大統領の顧問弁護士でウクライナ疑惑の中心人物)であることだった。
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Frye, M. (2017). Cultural meanings and the aggregation of actions: The case of sex and schooling in Malawi. American Sociological Review, 82(5), 945-976.

マラウィにおいて混合研究(高校生のパネル調査&生徒と教師へのインタビュー)を行い、性的関係をもつことと高校中退の関係を「文化」概念を通して明らかにしている。パネルデータからは性的関係の開始と高校中退は関連は認められるものの、高校中退の重要な要因となるはずの欠席、成績、非行はなんら関連が認められない。筆者は生徒や教師との綿密なインタビューやフィールドワークを通して高校教師や生徒の間で性的行為と高校退学が強く結びついて理解されていることを示し、こうした性的関係の開始と高校中退を結びつける「文化」そのものが高校中退の原因になっていると結論づける。この論文は「文化人類学の人口学」(Anthropological Demography)の「文化」(Hammel 1990, Population and Development Review)を量的&質的データ両方を用いて検証可能な形に落とすことに成功した論文のように思う。論文の著者は人口学若手のスター的存在で、「文化」を人口学に取り入れる点では来年夏頃にASRのエディターのOmar Lizardo等と共著でMeasuring Cultureという本が出すらしい。
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Baum-Snow, N. (2007). Did highways cause suburbanization?. The Quarterly Journal of Economics, 122(2), 775-805.

タイトルの通り高速道路の建設が郊外化の原因となったことを示した論文。実際の高速道路の操作変数に国防省が国土防衛のために作成していた高速道路の計画を持ってくるアイデアが斬新だった。なお、これは社会学ではなく、経済学の論文である。Spatial Thinkingのコースワークの課題文献だった。
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Calarco, J. M. (2014). Coached for the classroom: Parents’ cultural transmission and children’s reproduction of educational inequalities. American Sociological Review, 79(5), 1015-1037.

東海岸大都市近郊の小学校のとあるコホート(4学級)を3から5年生までの3年間、学級と家庭で継時的に観察したエスノグラフィ。親が子に教える「クラス内で困った時の適切な振る舞い」が白人労働者階級と白人中産階級で異なることを論じている。前者の親は教師を権威ある存在とみなし、問題があっても教師を煩わせずに自分で解決することを求める。一方、後者の親は教師よりも学歴があることも多く、積極的に教師に助けを求めて解決を目指すように助言する。基本的に教師は中産階級の子がとる行動を肯定的に受け止め、対応をする。著者はペンシルヴァニア大のラローの弟子(現在は既にインディアナ大で教えている)。



以上。2017年に渡米した頃はESR(European Sociological Review)の方がASR、AJS、SFよりも面白く感じていたのだが、最近はASR、AJS、SFの方が面白いと感じるようになってきたので、アメリカに染まってきたんだと思う。

2019年11月24日日曜日

ティーチングアシスタント業務で学んでること

久々の更新。相変わらずかなり忙しく、全く更新できなかった。

今日は今学期のティーチングアシスタント業務(TA業務)についてまとめる。担当しているコースは東大でいうところの初等統計の講義(駒場の「基礎統計」や本郷の社会学の「社会調査法」)にあたり、OLSの初歩的なところまでを一通りカバーして、来学期の実習コース(東大でいう「社会調査実習」的なサムシング)に繋ぐものである。履修しているのは主に学部2年生だ。

週に2回担当教員による講義(1回につき1.5時間)があり、そのクラス(50人)を3分割して、TAによるセクションが週に3回ある。

僕の仕事はオフィスアワーを持つこと(週1時間)、セクションを教えること(週1時間)、宿題、中間・期末テスト、レポートを採点すること、学生からのメールへの対応である。もう1人学部生のTAがおり、そのTAはオフィスアワーを週2時間、セクションを週2時間教える(学部生TAは採点できないというブラウン独自のルールがある)。

セクションを毎週教えるのはそんなに負担ではないし、オフィスアワーは予想以上に学生がやってきて自己肯定感が上がる(笑)。ただ、採点(ただ点数つけるだけでなく、細かいコメントも必要)は学期中に統計の練習問題の宿題9回、中間テスト2回、期末テスト1回、レポート提出4回あり、なかなか大変である。

大変だが、学生の側からみるととても勉強になると思う。最終レポートはACS(American Community Survey)か GSS(General Social Survey)かATUS(American Time Use Survey)を使って二次分析をするというものだが、最終提出までに3回ドラフトを提出する仕組みになっている。提出の度に10程度のGrading Rubricごとのコメントを(教員と僕が)して、学生は改稿・再分析していく。50人と受講者が多めなので担当教授も部分的にやってくれるのだが、なかなか時間のかかる仕事だ。今週末はそれでほぼ時間がなくなった。ただ、学生のプロジェクトが進化するのをみるのもはやりがいを感じる。

教え方は学ぶところが多い。いつか自分が教えるときに使おうと思った点をまとめると以下のようなものだ。

(1)最終レポートの模範例とStataコードを教員が事前に配布することにより、学生が最終レポートをイメージしやすくする。
(2)学生が分析しなければならないデータを指定する(特別な許可があれば他のデータも可能)。
(3)リサーチクエスチョンを出した時点で第一回目の提出をさせて適切な「介入」を行う。
(4)レポート提出の数日前の授業で、レポートを相互に交換させて見せ合い、相互にフィードバックさせて改善させる。
(5)レポートの細かい採点基準(Grading Rubric)を作って、それを公開する。

(4)と(5)に関しては、今学期受講しているファカルティディベロップメントのコース(博士課程修了までに全員必修)でも取り上げられている方法だが、実際に自分がTAしている文脈でやるのはいつか教員になった場合のための学びにとても効果的だった。

とりあえず、残り数週間、頑張りたい。

2019年10月23日水曜日

近況10月前半:28歳になった。

久しぶりの近況報告。とりあえず、とてもとても忙しい。ここ2週間平日は午前2-4時の間に寝て、8時に起きて大学に行っている。日本から栄養ドリンクやサプリメントを持参して正解だった(アメリカのはなぜか気持ち的に飲みたくない)。金曜に重めのペーパーの提出があるが、今日はゆっくり寝るつもりである。

10月7日で28歳になった。大きな心境の変化などはない気がする。「加齢した感覚」というのは誕生日を重ねるごとに線型的に増加するわけではなく、非線形的に増加するものだと思う。過去数年を振り返ると26、27、28歳は、誕生日を迎えることによって歳をとった感覚は薄かったし、29歳も薄い気がする。逆に、30歳になった時にいろいろと感じるものがありそうだ。直近で「とても歳をとった」と感じた誕生日は23歳になった5年前と、25歳になった3年前だった。

誕生日は授業についていけていない学生相手に中間テスト対策の特別補習講義(中心極限定理)をしたあと、中国人の友人数人とプロビデンスで自分がおきに入りの中華に行った。

コースワークは順調だが、研究と同時並行でやるのはかなり大変である。ただ、Ph.D.の修了までに空間分析のシークエンスを終わらせてGraduate Certificate in Spatial Analysisを取得しようと決めたので、そのためには仕方ない。今学期のMigration、Hierarchical Data Analysis、Spatial Thinkingのコースは全てSpatialシークエンスの一部である。

先週の人口学センターのトークはハーバードからMario Small教授がきて、Neighborhood effectに関するビッグデータを使った壮大な新プロジェクトの構想を発表していた。とても面白く、Spatial Analysisはもっと深めたいと思った。ブラウンには経済学部/人口学センターにJohn Friedman教授(アルファベット順的な理由からか?、"et al."に吸収されてあまり知られていないが、ハーバードのChettyのプロジェクトのCo-Directorである)がいて、経済学でもNeighborhood effectに関心を持っている人が多いので、昨日は教室に人が入りきらなくなった。

Migrationのコースはブラウンに来てからとった授業の中で1番刺激になっている。Migrationのコースを開講している社会学大学院は多いと思うが、Race&Ethnicityとセットのところが多い気がする。Migrationの社会人口学的側面に特化したコースワークを、Race&Ethnicityとは別に単独で用意しているプログラムは少数派なのではないか。担当教員は国内移民(Internal Migrant)/都市化(urbanization)の研究から、国際移民(International Migrant)の研究に移り、最近はまた国内移民の研究に戻っている移民の専門家だ。人口の空間的分布の変動という観点から「国内移民」と「国際移民」を同じ理論的枠組みで考えようとすることにはとても新鮮さを感じている。


先々週の土曜から月曜まではNYCに行っていた。初めてのAmtrak(高速列車)でのNYCだったのだが(1ヶ月前に予約したため片道39ドルと安かった)、電車が1時間遅れて到着し、さらに途中でエンジンが故障したためニューヘブンでエンジンを修理していて、さらに2時間遅れた。アメリカクオリティ?である。

NYCのSushidenというとても美味しい日本料理はあいにく潰れてしまったみたいなのだが、代わりに遅い自分への誕生日プレゼントとして、Nare Sushiというマンハッタンの高級寿司を堪能してきた。チップいれて100ドルだったので、月曜以降はひたすら節約をしている。ただ、とても美味しかった。



Nare Sushiのセット

M論を基にした論文が先週ASRからRejectされた。レフェリーレポートは3通で、書き方的には、1st ReviewerがReject、2nd Reviewerと3rd ReviewerがR&Rだったのではないかと思う。ありがちだと思うが、「理論的貢献が少ない」「移民研究の外に対するインプリケーションがない」というのがRejectの理由だった。ASRはレフェリー全員がR&RやAcceptを進言しても落ちる可能性があるようなところ(Rejection Letterによると最新の掲載率は6%らしい)なので、自分の論文はR&Rのレベルにはほど遠かった=実力不足としかいいようがない。ただ、レフェリーは3人とも丁寧で、合わせて3500単語分の細かい修正ポイントも頂けた。1st Reviewerはもっと"demography-oriented"なDemographyIMRに再投稿するようにと、わざわざジャーナルも紹介してくれた。どちらかを次の目標に、11月中に再投稿できるようにしたい。

指導教員との共著論文が人口学系のフィールドジャーナルPRPRに掲載された。移民の子どもの健康(=母親による主観的健康評価)の学歴格差のライフコース上の推移に関する内容である。個人的には論述や分析などが、全体的にわかりにくいと思っており、満足していない。ただ、この論文を通して得たものはいろいろあったと思うので、良かったと思っている。

今後の研究に関して。当初はアメリカにおける帰化(=市民権の取得)について研究したいと思っていたのだが、アメリカにきてからアメリカでは全くhotなトピックではないということを半年で悟り研究を封印してきた(例えば、PAAのアブストをnaturalizationやcitizenshipで検索しても大学所属の研究者の研究はほぼ出てこなく、ASAでも質的研究がほとんどである)。これは、アメリカでは1千万程度いるとされる非正規移民(=不法滞在者)の問題が大きく、正規移民が帰化しようがするまいがsocial inequalityにはそんなに大きな問題ではない、と考えられているという背景がある。しかし、最近AJSにCatron(2019)が出て、フレームワークをうまく工夫すればむしろ競争相手が少ない未開拓分野に思えてきた。これまでは考えていなかったフレームワークでデータを探し始め、いくつかpreliminaryな分析をしてみている。もしうまく行けば、11月締め切りのRC28に出そうか迷っている(フィンランド遠いので未定)。ただ、博論に関してはこれとは別の形で進めようと思っている。

以上、2週間でちょびちょび書いた文章なので時系列等におかしいところがあるかもしれないが、近況である。更新してなくて心配してくださった方、ありがとうございました。



2019年9月29日日曜日

近況0929:色々

今学期は想像以上に忙しい。コースワークの他に、TA、TAトレーニング(全大学院博士課程の院生が3年生までに必修の教授法に関するトレーニング)等々がある。近況を簡単にまとめる。

コースワーク
今学期のコースワークは全て自分の関心に直結しており、とても楽しい。特にMigrationのコースを履修できたのはよかった。まだ3週目が終わったところだが、かなり勉強になっているし、最終課題はliterature reviewなので、博論プロポーザルを始めようと思っている。Hierachical/Panel Data Analysisコースも既に知っていることは多いが、知らないことも結構あり、知識を埋めるのにとても役立っている。今週も、ランダム係数モデルについての自分の誤理解が訂正できた。Spatial Thinkingもとても面白い。今週はneighborhood effectsについて読んでいる。

TA&TAトレーニング
先週書いた通り、急遽仕事が変更になり、社会統計学(学部1-2年生中心)入門を教えている。グレーディング中心なので、体系化されたレクチャーはする必要ないが、毎週火曜に1時間学生の前に立って質問に答える+1時間オフィスアワーをする必要がある。

ブラウンは博士課程の院生全員にTAトレーニングを実施している。修了までにonlineでのレクチャー&学期に5回程度のin classの演習があるのだが、課題をこなしているうちに、教員の観点から、効果的な教え方や、学生がつまずくポイントをよく考えるようになった。

例えば、社会統計学の入り口で学生がつまずく初歩的ポイントの一つに、"population distribution"、"sample distribution"、"sampling distribution"の違いがあるのではないかと思う。この違いを理解していない学生が多い。"sampling distribution"という理論的な分布を仮定する必要性を「体感」してもらう(=レクチャーじゃなくて、実際にコンピュータ等で自ら実験させてみる)ことが重要だと思った。これがしっかりわかっていると標準誤差とか検定とかもかなりスムーズに頭に入ってくるんだと思う。

研究
博論:また来年詳しく書くが、博論計画書を来年の9月から再来年の5月(学部の期限)の間に提出&公開ディフェンドせねばならない。とりあえずMigrationのコースで具体化させて行こうと考えている。

学会:日本における移民の労働市場への統合について研究(共著)をPAAのAnnual Meetingにサブミットした(今日の午前3時くらいまでかかった)。ちょっと色々手続きがあって見送ろうと思っていたのだが、アメリカの移民の研究を単著でもサブミットした。流石にどちらかはポスターには通ると思うのだが、もしかしたら新しく博論用に始めた研究も出した方が良かったかもしれない。

論文:M論を基にしたアメリカの移民二世の子どもに関する研究を某トップジャーナル(掲載率7%程度) に投稿して1ヶ月以上経った。まだAwaiting Reviewer Scoresになっているので、デスクリジェクト(全投稿の25%ほど)にはならなかったということだと思う(←喜ぶところが違う)。指導教員のすすめで「回転が速い方」に出しているので、あと2-3週間以内には結果がくると思われる。レビュワーに徹底的に論文を壊されたら諦めるのも考えるが、レビュワーコメントの建設的な部分を取り入れて大幅修正して1月半ばまでには別のところに再投稿するのが目標だ。論文執筆法のクラスを教えてくれている先生は、「はっきり言って、この論文は某サブフィールドに対して害悪である」というレビュワーコメントを最近もらったと言って学生に見せてくれた。気にせず別のところに再投稿するらしかった。こういう不屈の精神が必要なのかもしれない。

昨年調査に関わった日本のデータを使って、1月末までに永住・帰化に関する論文を書き上げることを目標としている。資料がこちらでは手に入らないものも多いので、12月は早めに帰国して少し執筆に時間を割きたい。

節約と節制
かなりうまくいっている。昼はセミナーのランチを食べるか、チャイニーズスーパーマーケットで安く仕入れた豚バラ肉/牛スライスを使った料理(もやし塩豚、キムチ豚、牛丼、肉うどん)を弁当として持参、夜はズッキーニ、ナス、ミニトマト、ホワイトマッシュルームをお椀にもり、そこにモッツェレラチーズ、塩、トリュフオイルをかけた上で圧力鍋で蒸してそれを食べている(下の写真)。

圧力鍋で蒸す前

圧力鍋で蒸した後

運動(=水泳)は学期が始まる前は毎日できていたが、忙しくなってまた全然行けなくなった。なんとか時間を作りたい。家と大学の中間地点(どちらからも徒歩7.5分ほど)に大学のジムがあり、その地下に温水プールがある。

その他
予定では2020年1月に2つ目のプレリム試験を受験予定だったのを、2020年6月に回すことを検討し始めた。これは自分の当初の計画からは遅れてしまうのだが、博士課程の標準からは遅れているわけではなく、2つ目のプレリム試験は6月に受験する設定になっている。社会階層論のプレリム試験を受けようと思うのだが、プレリム試験の前提となる社会階層論のコースワークが来学期あるので、それと一緒に勉強するのが効率が良いと感じているためだ。

冬は1ヶ月くらい帰省しようと思い始めた。来年の3月で高校を卒業して10年になるにあたり、クラス同窓会が開かれるらしい。とりあえず冬休みを楽しみにして駆け抜ける。