2020年2月17日月曜日

TAのトレーニング(ファカルティ・ディベロップメント)

日本でも大学院生のファカルティディベロップメントが流行りであるが、アメリカの大学(注1)でもTAのスキルアップを目的として様々なプログラムが組まれている。私が所属するブラウン大学社会学部博士課程の大学院生が最低限しなければならないのは、Ph.D.取得までに大学が運営する1学期分のトレーニングプログラムに参加して、Teaching Certificate Ⅰ を取得することである。なお、ブラウンでは、この資格は社会学部を含む多くの学部で「必修」(但し、罰則なし)扱いとなっている。

ブラウンのTeaching Certificate Ⅰ を修了するためには、(1)4回のオンライン講義の受講、(2)4回の課題の提出、(3)4回のセミナー(1回1.5時間程度)への参加、(4)TAとして授業をしているところを1回「授業参観」されてフィードバックを受ける必要がある。オンライン講義、課題、セミナーは毎回テーマが決まっており、テーマに合わせた論文等も読まされて、割と気合いを入れてプログラムが練られていた。特に印象に残ったことの一つが、大学における教育実践事例の報告サイトから、他分野(e.g., 物理学)の教育実践で、自らの分野(e.g., 社会学)の授業に取り入れたいアクティビティを選んで、授業への組み込み方をチームで検討するというものであった。上記サイトはアイデアの宝庫なので、大学関係者の方は参考になるアクティビティを探してみると良いと思う。

私は、先学期に(1)オンライン講義、(2)課題、(3)セミナー参加は既に終わらせてあり、残りの(4)TAとして講義しているところを「授業参観」されてフィードバックを受ける、というのも最近終わらせた。今学期は大学院生の多変量解析のコースのTAを担当しており、担当教授の3時間の授業とは別に、TAとして週1.5時間程度の授業(主に実習)を担当しているので、その私の1.5時間の授業を「授業参観」され、フィードバックを受けた。フィードバックはとても丁寧で、具体的には以下のプロセスで行われた。

2週間前:シラバスを送付(TAでも1人で毎週セクション等を担当する場合はシラバスを独自に作成している)
1週間前:事前面談(フィードバックが欲しい点を事前に申告できる)
当日: 授業参観される(かなりじっくり「参観」され、希望があればビデオ撮影もされる)
翌日: 良かった点 &悪かった点のフィードバック

授業翌日のフィードバックの際には図1と図2のようなメモ(エスノグラファーのフィールドノーツのようだった)を基に、次のTA講義での改善点を指摘された。特に有り難かったのは質問に答えるのが一部の学生に限定されていたことを指摘された上で、全員の発言を促すための具体的アドバイス(案)を複数いただけたことだった。

図1:クラスの座席配置と発言回数に関するフィードバック

図2:フィードバックフォーム
(何時何分に私が何をして、その行動のどこが良かったかor悪かったかが記されている)

丁寧なフィードバックはとても役にたった。特に人前で話すことに苦手意識を持って生きてきたので、今回のフィードバックをきちんと生かしてさらにより上手く教えることができるようにしたい。

なお、TAにフィードバックをする仕事をしているのは特別なトレーニングを受けた大学院生であった(これをすることで大学から給料を支給されているらしい)。私の担当の方は某外国文学の専攻のD6の方で、博士号取得後は大学のファカルティディベロップメントに関わる仕事につくことを検討しているらしかった。私もさらにトレーニングを受けてこの仕事をするのも良いかもしれないと思った。

(注1)ほとんどの大学で何らかの形でのTAトレーニングは行われているであろうが、大学によって事情は大きく異なる。ここに書かれているのはあくまでブラウン大学というアメリカの一大学の事例で、過度な一般化はしないで欲しい。

2020年2月4日火曜日

近況報告0204:生活、差別、TA、研究、コースワーク

アメリカに戻ってきて3週間ほどがたった。ちょっと想像以上に忙しく全く更新できていなかったが、今日は第一回目のTAも終わって、少し落ち着いたので記録を残しておく。

生活
3年もいると、どんどんプロビデンスのような中規模都市(日本基準では「地方都市」)に慣れてきて、東京は人が多すぎると感じるようになった。車の免許さえとれ、かつご飯が美味しければ、もっと田舎町もいけるかもしれない。食事だけは日本が恋しく、最近は写真のような品々をよく食べている。冷凍が多く、東京の水準には達しないものの、NYCやボストンやシアトルに住んでいないのに、これら食材を定期的に確保できるのは上出来な気がする(自画自賛)。特に牛丼の味は全く日本と変わらず、並・汁だくの吉野家牛丼である。自分は松屋派なのだが、そこは我慢しておく。

今川焼(あんこ)(冷凍)

吉野家牛丼(冷凍)

炊き込みご飯

明太子スパゲッティ

差別経験
先日ワシントンDCにいた時に、大柄の男性二人から"Coronavirus!!"(意味:「コロナウイルス 野郎!」) "Your name is Wuhan!!"(「お前の名前は武漢だ!」)と執拗に絡まれた。NYCなどの大都市を歩いている時に"Go back to North Korea"(「北朝鮮へ帰れ!」)とか"Go back to China"「中国へ帰れ!」とか言われたことはあるのだが、罵声を浴びせながら歩く後をついてこられたのは初の経験だった。夜道で、一人で、かつ大きな荷物を持っていたので少し怖かったが、英語がわからないふりをしてポーカーフェースを保っていたら去って行った。いつもは全く何も思わないのだが、今回は少し疲れていたのと、罵声が長時間にわたったので少しだけ言い返すことを考えたのも、冷静に対処して正解だった。

ちなみに日本人として「正しく」差別されたのはハワイで"Fucking Jap!"(くそジャップ!)的なことを言われた時("Jap"が入ってきたのは覚えているのだが、正確には覚えていない)だけである。なお、大学の周辺では一度もこういう経験はないのは嬉しい。

ちなみに、これは特殊な経験である可能性があるので、過度な一般化はしないで欲しい。実際にアジアからの留学生の友人で、二年半でまだ一度もこういうことを言われたことがないという友人もいた。


ティーチングアシスタント(TA)
今学期は大学院博士課程1年生の必修の多変量解析のコースのTAになった。アメリカの社会学部の博士課程では、1年生秋学期にOLSの基礎を徹底的に叩き込み、1年生春学期に一般化線形モデルに拡張をする。

僕の仕事は週1時間半のレクチャー、週2時間のオフィスアワー、提出物の採点である。人数は20名以下と少ないものの、博士課程の院生を相手に1時間半話すことを用意するのは結構大変で、準備は丸一日かかった。来週はTAに対してfeedbackする専門の委員が自分の授業参観をしにくるらしく、それも少し緊張している)。

研究
Dからリジェクトされた。しかも、1ヶ月半経ってのデスクリジェクトで少しびっくりしたが、仕方ない。次に出すジャーナルを検討中。指導教員には(6年生でジョブマーケットに出ると仮定して)「4年の秋が終わるまで」は「強気」でより評価の高いジャーナルにいくようにアドバイスされたのだが、少し疲れてきたので、どうしようか考えている。

今年は日本にいる外国人移民の研究も徐々に研究を始めていく予定で、先行研究とかを集め始めた。今年中に一本論文を書きたい。

博論は(1)ローリスクローリターンなテーマと(2)ハイリスクハイリターンなテーマ(主観)で迷っている。まだ決められない。。

コースワーク
今学期は先学期から履修している(1)論文執筆法のコースと(2)GISのメソッドコースの2つだけである。あとは自分の研究を進めるのとプレリム試験の勉強に時間を割こうと思う。

2019年12月26日木曜日

『海外で研究者になる』を読んだ

大学院生の間で話題になっていた以下の本を読んだ。




著者の増田先生は東大情報理工学系研究科の准教授を経て(博士号も海外ではなく東大)、イギリスの大学へ移られた方で、海外で研究者として働くことについてご自身の経験を中心に、他に海外で働く十数名の日本人研究者へのインタビューも交えて、解説されている(先生は2019年夏からはイギリスからアメリカの大学に移籍されたようである)。

私が気に入った点は以下3点である。

(1)アメリカ・ヨーロッパに偏っておらず、中国、香港、韓国、シンガポール等の大学で働く日本人研究者の事情も詳しく取材されていること。今後の日本人研究者の活躍場所が日本以外のアジアとなると増田先生がお考えになっているかららしい。

(2)理工系に限らず、人文・社会科学系の研究者の事例も紹介してあること。最初この本が出たときには「理工系だけの事例を集めた本」だという勘違いをしてしまったが、実際に読むと経済学、社会心理学、考古学、演劇学等の社会科学や人文学系の研究者の事例もきちんと取り上げてあった。

(3)日本で博士号を取ってから、ポスドク以降に海外に移り、そのまま現地就職した事例も取り上げていること(そもそも、この本ではこのルートがメインに考えられている)。

私がアメリカの博士課程に出願する前には可能性を考えなかったのだが、この本に取り上げられている諸先輩方のように、日本国内の大学で博士号を取得した後に、ポスドクから日本国外に出るという選択肢もあり得たのかもしれない。もちろん、社会科学系の場合は理工系に比べると研究そのものや博士の学位に地域性がある気がするので壁はより高いかもしれないが、この本でとりあげられている諸事例のように成功例も一定数あり、不可能ではないのだろう。

2019年12月25日水曜日

近況1226:今学期の振り返りとスタートレック

学生のレポート採点と自分のレポート提出を完了し、とうとう冬休みに入った。といっても、この休みの間に終わらなせないといけない仕事がまだあるので完全に休むことはできなさそうだが。。。今学期を振り返る。

1. コースワーク

前にも書いたが、今学期は(1) Migration、(2) Spatial Thinking in Social Science、(3) Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data、(4)  Sociology Paper Writing の4つのコースを履修した。特にSpatial Thinkingのコース(メソッドではなく、サブスタンスのコースだったのが良かった)は強く印象に残ったので、すぐに(=博論に)に空間的視点を取り入れられるかは別として、この分野は開拓して行きたいと思う。

6月に2つ目のプレリム試験を受けなければならない。来学期は1つしかコースを履修しない予定なので、残りは研究とプレリム試験準備に使いたい。


2. 研究

ジャーナルDへ投稿して3週間以上過ぎた。掲載率10%程度のトップジャーナルで、万が一これに載せられたらアメリカのアカデミアでの就職も夢ではなくなる(くらいには掲載されるのが夢なジャーナルである)。これまでDはデスクリジェクト率が20%弱だったらしいのだが、それをさらにupさせていくことを新編集長がTwitterにて示唆していたのでここ数日はメールを見るのが少し怖かった。査読されるまでに辿りつければ、2月下旬ごろに結果が返って来る。致命的なミス等が指摘されずにリジェクトされた場合、3月下旬までにIMRに投稿するつもりである。

ワシントンDCで4月にあるアメリカ人口学会(PAA)は二つ出していたのだが、どちらともポスターで通った(オーラルは落ちた)。フィンランドである社会階層論研究会(RC28)はオーラルで通った。発表内容的にはどちらかというと完成しているPAAの方をオーラルで、新しく始めたRC28の方をポスターでやりたかったので逆の結果になって少し残念。

ここ3年間で学会について思うことは、該当学会参加者に認知されているジャーナルに論文がないとネットワーキングしようと思っても相手にしてもらえないということだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、とりあえず出せるように頑張りたい。

博論については前にも書いた気がするが二択まで絞った。どちらにするかによってコミティーの選択が変わってくる。再来年(2021年)の4月までにプロポーザルを書いてディフェンスする必要があり、自分の中の目標としては来年(2020年)の夏までにコミティーを確定させ、12月までにディフェンスを終わらせたい。

3. スタートレック

今年に入ってからだが、NetflixでStart Trek Discovery(2017-)を観てから、Star Trek: Enterprise(2001-2005)を全シーズン観て、今はStar Trek: The Next Generation(1987-94)をちょびちょび観ている。Star Trek: The Original Series(1966-69)もシーズン1の途中まで観たのだが、古いこともあって陳腐に感じる設定が多く、途中でやめてしまった(いつか再挑戦するかもしれない)。Star TrekはSFとして面白いだけではなく、ドラマ中のジェンダー・人種の表象や、植民地主義的発想に基づく設定などがシーズンごとに変化していくのはドラマが放映された時代ごとのアメリカ社会を反映しており、アメリカという「帝国」の勉強にもなる。

Big Bang Theoryシリーズの影響もあって元々興味はあった(シェルダンは時々クリンゴン語で話したり、ヴァルカン星人の"Live long and prosper!"という挨拶をしたりする)のだが、自分がここまでハマるのは意外だった。健康なのか不健康なのかわからないが、一日のうち30分くらい現実逃避できるSFやファンタジー世界があることで随分とメンタルが保たれることにも気づいた。

もし興味ある方がいれば最新のDiscoveryからみるのがおすすめ。時代設定ではEnterprise(22世紀)→Discovery(23世紀)→Original Series(23世紀)→New Generation(24世紀)、Deep Space Nine (24世紀)、Voyager(24世紀)となっているようだが、Discoveryからみるのがおすすめ。

4. 本

冬休み中に読もうといくつか研究とは全く関係ない本を買った。一つ目は『岩倉使節団『米欧回覧実記』』(田中彰著)、二つ目は『トマス・アクィナス――理性と神秘』(山本芳久著)。できるだけ積ん読にならないように日本にいる間に読み切りたい。

2019年12月16日月曜日

今年面白かった社会学論文10選(2019)

学生のレポートの採点が残っていてこんなことをしている場合ではないのだが、クリスマス前には終わらせたかったジャーナルDへの投稿も完了し、自分の期末レポート(D3にもなって、3本も書かないといけなかった、、)も終わりが見えてき、明後日から一時帰国に入るので、その前に今年一年で読んで面白かった論文を10選あげておく(順不同)。一年といっても、昔読んだものほど印象が薄れてしまうので、ここ二ヶ月くらいで読んだ論文にバイアスがかかっている。なお、今年僕が読んだ論文で、今年出た論文ということではない。

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Rissing, B. A., & Castilla, E. J. (2014). House of green cards: Statistical or preference-based inequality in the employment of foreign nationals. American Sociological Review, 79(6), 1226-1255.

Auditデータをとてもうまく使って、米国のグリーンカードの審査で起こっている「差別」が「選好による差別」ではなく、「統計的差別」であることをとてもわかりやすく示している。今年になるまでこの論文を知らなかったことは勉強不足としかいいようがない。この論文は移民研究してない人でも絶対面白いので是非読んで欲しい。分析もシンプル。
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Brinton, M. C., & Oh, E. (2019). Babies, Work, or Both? Highly Educated Women’s Employment and Fertility in East Asia. American Journal of Sociology, 125(1), 105-140.

東アジア(日本と韓国)で出産/育児と女性の就労継続が難しいとされる背景を、160人以上のインタビューデータを基に明らかにした社会人口学の論文。人口学で質的データを使った論文は相対的に少ないので貴重な気がする。
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Torche, F. (2018). Prenatal exposure to an acute stressor and children’s cognitive outcomes. Demography, 55(5), 1611-1639.

胎児期に母親が受けるストレスがどのように子どもの出生後の発達に影響を与えるかというのはよく知られていない。この論文ではチリで2005年に発生した地震による母親の被災と、どの胎児期に母親が被災したかのバリエーション(第一、第二胎児期は子どもの発達に大きな影響があるが、第三胎児期は影響が少ないことが知られているらしい)を利用してストレスの影響を分析している。分析の結果、貧困家庭の子どもにおいては第一、第二胎児期に母親がストレスを受けることが7歳時点の学力に負の影響を与えることが示されている。Torcheは日本でも教育社会学界隈ではよく知られているチリ人社会学者である(スタンフォード大教授)。この論文に限らないが、文章をわかりやすく書くのがとてもうまいと思う。
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Catron, P. (2019). The Melting-Pot Problem? The Persistence and Convergence of Premigration Socioeconomic Status During the Age of Mass Migration. Social Forces.

移民の移住前のSES(社会経済的地位)は移住後の移民(1世)とその子ども(2世)の社会経済的地位達成にどう影響するのか?移民の移住前のSES関するデータはなかなか見つけるのが大変だが、Catronは19世紀後半のヨーロッパからアメリカに来た移民(1世)の船の乗客リストの名簿の名前と職業を1910年の国勢調査データの名前にマッチし、さらに1910年に0-18歳だった移民の子ども(2世)の名前を1940年の国勢調査の名前にマッチすることで、この問いに答えられるデータを作成した(Note:当時はヨーロッパからは船でしか来ることができない)。結果、移住前のSESは移住後の移民1世のSESと関連するものの、その子どもの世代にはほぼ関連がなくなるという結論を出している。これは19世紀後半に移住したヨーロッパ移民の「同化」が速く進んだという既存の研究の知見と一致する。この論文は以前に発表を聞いたのだが、最終稿はOnline Firstで出たばかりでちゃんと読めてないので冬休みに熟読したい。
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Logan, J. R., & Martinez, M. J. (2018). The spatial scale and spatial configuration of residential settlement: Measuring segregation in the postbellum South. American Journal of Sociology, 123(4), 1161-1203.

南北戦争後の米南部においては、「白人」と「黒人」のResidential Segregation(居住分離)は北部に比べてとても低かったとされてきた。しかし、これで北部よりも南部の方が「白人」と「黒人」の社会的距離が近かったと結論づけるには問題がある。なぜなら、分離を測るスケールの設定で分離指数は高くもなりし、低くもなるからだ。この研究では1880年の米国の国勢調査の100%データ(ピンポイントで誰がどこに住んでいたかを地図上に再現できる)を用いて家レベルでの居住分離のパターンを明らかにし、最小のスケールで居住分離を測ると先行研究とは全く違うパターンが見えてくることを示している。また居住分離の空間形態(e.g.,「白人」は大通りに面して住み、「黒人」は路地に面して住む)の諸パターンも示されている。とても記述的な論文で、空間分析におけるスケールの大切さを知るためにはとても良い勉強材料だと思う。なお、今学期は筆頭著者のSpatial Thinking in the Social Sciencesという授業を受けて、とても色々考えさせられた。筆頭著者のこのAnnual Review論文は空間分析における空間(space)と場所(place)の違いを考えるのにとても役立つので関心のある方はおすすめである。
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Song, X., Massey, C. G., Rolf, K. A., Ferrie, J. P., Rothbaum, J. L., & Xie, Y. (2019). Long-term decline in intergenerational mobility in the United States since the 1850s. Proceedings of the National Academy of Sciences.

米国の国勢調査と各種社会調査データをマッチさせて、1830年から1980年の出生コホートの世代間職業移動の長期トレンドを示している。農業からの転出を除いて分析すると、相対移動率は150年間で安定しており、いわゆる「FJH仮説」(論文中ではLZ仮説の方が引用されている)を支持している。絶対移動をみると、上昇移動は1900年出生コホートまでは増加するものの、1940年以降は下降している。この論文は、2年前に米国における世代間所得移動の長期トレンドを示してScienceに載ったChetty, Grusky, Hell, Hendren, Manduca and Narang (2017)(あえてet al.を使わない!)の職業版と言えると思う。筆頭著者と最終著者は両者とも大学院からの留学組としてアメリカに来て、様々なハンデを乗り越えながら今のポジションを手に入れて、米国の長期トレンドをクリアに示す重要な論文を、社会学を超えて影響力のあるPNASに載せている。留学生の鏡である。
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Tolnay, S. E., Deane, G., & Beck, E. M. (1996). Vicarious violence: Spatial effects on southern lynchings, 1890-1919. American Journal of Sociology, 102(3), 788-815.

米国では、19世紀末から20世紀初頭にかけて南部でたくさんの黒人がリンチによって殺害された。群(county)レベルの時系列データを使い、リンチが起きると、その後、その郡の近くの郡ではリンチが減少することを示している。推定された「負の効果」はリンチが「熱狂」によるものではなく、社会経済的な目的を持って「計算」されたものだったからだ、と解釈している(この解釈は若干飛躍しているように私は感じている)。1996年の論文で空間ラグモデルを用いているのはアメリカ社会学のすごいところだと思う。
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Legewie, J., & Fagan, J. (2019). Aggressive policing and the educational performance of minority youth. American Sociological Review, 84(2), 220-247.

NYCではOperation Impactという犯罪が起きやすい地区(ビルなどのかなり細かい単位の場合もある)を指定し、その指定地区(Impact Zone)に警察を集中配備する政策を2000年代初頭に実施した。Impact Zone指定地区の指定期間中、警察は職務質問を積極的にすると共に、かなりマイナーな犯罪でも逮捕を積極的にしたとされる。米国に住んでいれば想像はつくが、当然、Central Cityの「黒人」の青少年は警察に差別的に扱われたことが推察される。当論文では、地区間で警察が集中的に配備されたタイミングが異なる(Impact Zoneはかなり頻繁に移動されたようだ)ことを利用して、警察の配備と子どものテストスコアの因果関係を分析している。ちなみにデータは住所と紐づいたNYCの9-15歳(25万人分!)のテストスコアのデータである。分析の結果、Operation ImpactはImpact Zone指定エリアに指定期間中に住んでいる「黒人」の子どもの学力に負の効果があることが示されている。子どもの年齢が高ければ高いほど強い負の効果がある。マルチレベル/パネルデータの授業で文献指定されたのだが、結果が綺麗すぎて少しびっくりした。もう一つびっくりしたのはこの政策の雛形となる政策を実施したのが2001年までNYC市長をつとめたRudy Giuliani氏(現在トランプ大統領の顧問弁護士でウクライナ疑惑の中心人物)であることだった。
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Frye, M. (2017). Cultural meanings and the aggregation of actions: The case of sex and schooling in Malawi. American Sociological Review, 82(5), 945-976.

マラウィにおいて混合研究(高校生のパネル調査&生徒と教師へのインタビュー)を行い、性的関係をもつことと高校中退の関係を「文化」概念を通して明らかにしている。パネルデータからは性的関係の開始と高校中退は関連は認められるものの、高校中退の重要な要因となるはずの欠席、成績、非行はなんら関連が認められない。筆者は生徒や教師との綿密なインタビューやフィールドワークを通して高校教師や生徒の間で性的行為と高校退学が強く結びついて理解されていることを示し、こうした性的関係の開始と高校中退を結びつける「文化」そのものが高校中退の原因になっていると結論づける。この論文は「文化人類学の人口学」(Anthropological Demography)の「文化」(Hammel 1990, Population and Development Review)を量的&質的データ両方を用いて検証可能な形に落とすことに成功した論文のように思う。論文の著者は人口学若手のスター的存在で、「文化」を人口学に取り入れる点では来年夏頃にASRのエディターのOmar Lizardo等と共著でMeasuring Cultureという本が出すらしい。
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Baum-Snow, N. (2007). Did highways cause suburbanization?. The Quarterly Journal of Economics, 122(2), 775-805.

タイトルの通り高速道路の建設が郊外化の原因となったことを示した論文。実際の高速道路の操作変数に国防省が国土防衛のために作成していた高速道路の計画を持ってくるアイデアが斬新だった。なお、これは社会学ではなく、経済学の論文である。Spatial Thinkingのコースワークの課題文献だった。
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Calarco, J. M. (2014). Coached for the classroom: Parents’ cultural transmission and children’s reproduction of educational inequalities. American Sociological Review, 79(5), 1015-1037.

東海岸大都市近郊の小学校のとあるコホート(4学級)を3から5年生までの3年間、学級と家庭で継時的に観察したエスノグラフィ。親が子に教える「クラス内で困った時の適切な振る舞い」が白人労働者階級と白人中産階級で異なることを論じている。前者の親は教師を権威ある存在とみなし、問題があっても教師を煩わせずに自分で解決することを求める。一方、後者の親は教師よりも学歴があることも多く、積極的に教師に助けを求めて解決を目指すように助言する。基本的に教師は中産階級の子がとる行動を肯定的に受け止め、対応をする。著者はペンシルヴァニア大のラローの弟子(現在は既にインディアナ大で教えている)。



以上。2017年に渡米した頃はESR(European Sociological Review)の方がASR、AJS、SFよりも面白く感じていたのだが、最近はASR、AJS、SFの方が面白いと感じるようになってきたので、アメリカに染まってきたんだと思う。

2019年11月24日日曜日

ティーチングアシスタント業務で学んでること

久々の更新。相変わらずかなり忙しく、全く更新できなかった。

今日は今学期のティーチングアシスタント業務(TA業務)についてまとめる。担当しているコースは東大でいうところの初等統計の講義(駒場の「基礎統計」や本郷の社会学の「社会調査法」)にあたり、OLSの初歩的なところまでを一通りカバーして、来学期の実習コース(東大でいう「社会調査実習」的なサムシング)に繋ぐものである。履修しているのは主に学部2年生だ。

週に2回担当教員による講義(1回につき1.5時間)があり、そのクラス(50人)を3分割して、TAによるセクションが週に3回ある。

僕の仕事はオフィスアワーを持つこと(週1時間)、セクションを教えること(週1時間)、宿題、中間・期末テスト、レポートを採点すること、学生からのメールへの対応である。もう1人学部生のTAがおり、そのTAはオフィスアワーを週2時間、セクションを週2時間教える(学部生TAは採点できないというブラウン独自のルールがある)。

セクションを毎週教えるのはそんなに負担ではないし、オフィスアワーは予想以上に学生がやってきて自己肯定感が上がる(笑)。ただ、採点(ただ点数つけるだけでなく、細かいコメントも必要)は学期中に統計の練習問題の宿題9回、中間テスト2回、期末テスト1回、レポート提出4回あり、なかなか大変である。

大変だが、学生の側からみるととても勉強になると思う。最終レポートはACS(American Community Survey)か GSS(General Social Survey)かATUS(American Time Use Survey)を使って二次分析をするというものだが、最終提出までに3回ドラフトを提出する仕組みになっている。提出の度に10程度のGrading Rubricごとのコメントを(教員と僕が)して、学生は改稿・再分析していく。50人と受講者が多めなので担当教授も部分的にやってくれるのだが、なかなか時間のかかる仕事だ。今週末はそれでほぼ時間がなくなった。ただ、学生のプロジェクトが進化するのをみるのもはやりがいを感じる。

教え方は学ぶところが多い。いつか自分が教えるときに使おうと思った点をまとめると以下のようなものだ。

(1)最終レポートの模範例とStataコードを教員が事前に配布することにより、学生が最終レポートをイメージしやすくする。
(2)学生が分析しなければならないデータを指定する(特別な許可があれば他のデータも可能)。
(3)リサーチクエスチョンを出した時点で第一回目の提出をさせて適切な「介入」を行う。
(4)レポート提出の数日前の授業で、レポートを相互に交換させて見せ合い、相互にフィードバックさせて改善させる。
(5)レポートの細かい採点基準(Grading Rubric)を作って、それを公開する。

(4)と(5)に関しては、今学期受講しているファカルティディベロップメントのコース(博士課程修了までに全員必修)でも取り上げられている方法だが、実際に自分がTAしている文脈でやるのはいつか教員になった場合のための学びにとても効果的だった。

とりあえず、残り数週間、頑張りたい。