2019年9月12日木曜日

近況0912: "Fun is mandatory, you know."

大学のブックストアで用事を済ませて出て行こうとしたところ、入口にいた警備員のおじさんに"Fun is mandatory, you know."と声をかけられた。月火水と忙しかったので、相当疲れた顔をしていたんだと思う。

以下、簡単に近況を記す。最初の週のティーチングアシスタント業務が終わった。ティーチングアシスタント業務は様々な種類があるが、私は多変量解析のコース担当で、水曜の教授のレクチャーとは別に、補完的なレクチャーを火曜に2時間し、さらに2時間オフィスアワーをもって学生への質問対応することが主な業務内容(+テスト採点)。初回のレクチャーは自分で話している途中で自信をなくしてしまい、英語がしどろもどろになってしまって、主観的には落第。前向きに自分の講義で修正すべきところを探して毎回改善していきたい。特に講義資料(スライド)を学生にあわせてもっと入念に準備する必要を感じた。

今学期、履修しているコースワークは月火水に集中していて結構忙しくて大変。ただ、興味を持てる組み合わせになったと思っている。特に移住のコースはエスニシティ学派とレース学派の人が両方いて、相手の視点から学び、かつ自分の立場も深められるコースだと思う。来学期はエスニシティ・レースのコースもあるので、できればそれもとりたい。

ブラウン大学の中心部のメイングリーン。奥のSayles Hallは、1911年に新渡戸稲造が日米交換教授として集中講義したこともある歴史ある建物。
警備員のおじさんに"mandatory"と言われた"fun"は持てているか?正直、Netflixと食べること以外は楽しみがなく、全く持てていない。学部生が楽しそうに芝生の上に座って雑談しているのを見ると、少し羨ましく感じる。

最後に。渡米してすぐの頃は、街中でよくある赤の他人からのユーモアを効かせた唐突な「声かけ」によく戸惑ったが、慣れて来た気がする。次のステップはこの「声かけ」をする側になることだと思っている。アメリカのユーモア感覚をもっとちゃんと身につけて滑らない会話を見知らぬ人とできるようにもなりたい。


2019年9月9日月曜日

今学期のコースワーク(博士課程3年目前半)

他の大学では2年目までのところもあるらしいのだが、私の所属する学部はカリキュラム設計上、博士の3年目の春までコースワークの単位を一定の範囲で取り続ける必要がある。今学期は以下のラインアップになることがほぼ確定した。全て大学院レベルのセミナー形式。

SOC 2460 Sociology Paper Writing Seminar/論文執筆セミナー [通年]

博士課程3年生向けに開講されている論文執筆のコース。修論を相互にフィードバックしながら改稿して、ジャーナル投稿までするのが目標とのこと。論文の書き方とともに、査読の仕方、査読対応の仕方等も学ぶらしい。担当教員はEmily Rauscher准教授。昨年度から院生の要望に応じて設置されたコース。

SOC 2320 Migration/移住

人口学トラックのオプションとして2年に1回程度の頻度で開講されるコース。このコースでは国内移住(Internal Migration)と国際移住(International Migration)の主要先行研究をテーマ別にサーベイする。履修者は社会学と人類学の院生7人で、ブラウン社会学らしく?、アメリカへの移民を研究している社会学徒は私だけだった。このコースは課題がかなり自由に設計できるので、博論プロポーザルの先行研究レビューに使うつもり。

ちなみに、人口学の基本原則として、任意の地域における人口変動の要因は出生(+)、死亡(−)、移住(+ or −)の3つしかあり得ないので、移住は人口研究のコアの一つである。しかしながら、出生や死亡と違って生物学的プロセスと切り離されており、「何が移住とみなされるか?」という定義問題から始まり、出生、死亡研究にはない難しさもある。担当教員はMichael White教授。

SOC 2610 Spatial Thinking in Social Science/社会科学における地理空間的思考法

このコースは研究テーマに地理空間的視点を持ち込むことを目的としてデザインされたコース。セグリゲーション、近隣効果、空間的拡散等、テーマに分けて社会学、人口学、経済学、政治学のレビューをする。なお、これはメソッドのコースではなく、それは別にある。担当教員はJohn Logan教授。ちなみに、エスニックエンクレーブやセグリゲーションの研究ではかなり有名な大御所で、Google総引用件数は3万近い。

ブラウンには人口学センターを筆頭に社会学部と強い繋がりをもつ研究センターがいくつかあり、その一つにSpatial Structures in Social Sciences(S4)という組織がある。これは20年近く前に作られた組織で、この組織を中心に社会学&人口学に地理空間分析を取り入れる研究がなされ、地理空間分析のメソッドコースも本当にたくさん開講されている。毎年新学期になる度に思うのだが、特にメソッドのコースは本家の社会学部からは履修者が少なく勿体無い気がするので、地理空間分析を勉強したい日本の学部生/院生はブラウン社会学部に出願するのは考えてみるのをオススメする。

SOC 2960S Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data/マルチレベル・パネルデータ分析法

タイトル通りマルチレベル・パネルデータ分析法を学ぶ。特にランダム効果モデルとその発展系(e.g., 成長曲線モデル)に重きがおかれるようだ。教科書はHox (2010)。最初の授業のイントロで「今学期は色々学ぶけど、実践ではクラスタロバスト標準誤差を事後的に計算するだけで事足りることが多い」と担当教員が言っていた。確かに大抵のRQではランダム効果自体に関心がない場合が多く、その通りだと思った。担当教員はMargot Jackson准教授。

フルブライトでvisitingしている院生の方をあわせると、履修者9人のうち4人が中国人民大出身者でとても興味深い。社会科学に強い大学らしく、日本でいう一橋大だと思われる。

ちなみにこのコースは社会学部の計量メソッドシークエンスの一貫。地理空間分析の諸々のメソッドコースと、来年から新設される計算社会科学のコースを除くと、常設されている計量メソッドのコースは多変量解析Ⅰ・Ⅱ(必修)、人口学的分析法、因果推論、マルチレベル/パネルデータ分析法、イベントヒストリー分析法の6つである。私の場合、イベントヒストリー分析のコースを履修すると社会学部のメソッドシークエンスは全てとり終わる。



2019年9月7日土曜日

夏季休暇中の生活費確保の方法

以下、いつか誰かのためになればと思い、米国博士課程の夏休みの生活費を確保する方法を記す。ただし、これは私が在籍するプログラムの事例である。人文社会科学系のPhD課程では、基本的には似ているだろうが、大学や所属学部によって違うところも多々あると思う。また、私は私立大学に所属しており、州立大学に所属している方に比べると、経済的には恵まれていると思われる。さらに、理工系の方とは大きく状況が異なるとも思う。

基本的に、アメリカの大学のアカデミックイヤーは9ヶ月(9月-5月)であるので、給料も9ヶ月分で計算されている。これは院生も教員も同じである。よって、教員は6-8月の3ヶ月は別の大学で勤務しても、企業で働いても、問題ないことになる(たぶん。詳しくは経験者のせんせ)。ちょっとよくわかっていないところもあるが、中国人のスーパースター教授が夏に長期で中国の大学で教えていることがあるのはこういうことだと思う。

さて、院生はどうなるか?もちろん、院生は教員のように高給取りではないので、夏に給料がなくなると困る。よって、入学前のオファーレターで夏季休暇の間のフェローシップ(=TAやRAとは関係なく貰えるお金)が保障されている。また、医療保険と歯科保険に関しては、最初から9ヶ月ではなく、1年分保証してくれている。とはいっても、給料は学期中は最低毎月3000ドル程度(2018年度)なのに対して、夏はその5割強程度の毎月1700ドル程度(2018年度)であり、家族構成やハウジングコストによっては夏の間の収支がマイナスになりかねない(日本の感覚だと院生にしては給与高く思われるかもしれないが、米の都市部は物価が高い!)。また、例えばエスノグラファーが夏にフィールドワークに行く(日本の博士課程と違い、学期中はコースワークで忙しいのでフィールドにいけない)には全く足りない。どうやって夏を乗り切るか?以下の解決策が考えられる。

(1)サマーメンタードリサーチ/RAをする
社会学部特有のプログラムで、主に博士課程1-4年生対象である。夏に入る前にアンケートがあり、希望に応じて、教員(メンター)と院生をマッチアップし、夏に10週間程度教員と共同研究をすることで、給与をプラスしてもらえる。場合によるが、学期中の80%くらいにまで給与が回復する。もちろん、RAとして働く人もおり、基本的には同じことである。教員との関係を築く良い機会にもなる。私もこのプログラムにお世話になっている。

(2)大学内部の機関のサマーフェローになる
大学内部には様々なセンターがある。こうした機関で夏のフェローを募集していることがあり、フェローとして採用されることで、学期並み?の給与が手に入る。例えばこれまでにみたものではSwearer Centerというブラウンの学生センターがサマーフェローを募集していた。こうしたセンターのフェローになることによって発生する義務は様々である。

(3)大学内部の機関のサマーグラントを獲得する
ブラウンにはInstitute at Brown for Environment and Society(IBES)、Watson Institute for International and Public Affairs (Watson)、Population Studies and Training Center(PSTC)等の社会学の院生がサブで所属している機関が多数ある。私もこの一つのPSTCの一員である。こうした機関では、院生用に夏の研究グラントを用意している場合が多い。特に海外(=米国外)でフィールドワークをするためのグラントはたくさんある。採用されれば、そのお金で、海外に行き、そこでフィールドワークをできる。もちろん研究グラントなので、直接生活費には当てることはできないだろう。しかし、「海外」と言っても、出身国に帰国することと同義な院生がほとんどで、留学生のエスノグラファーが多い私の同期では一番多い夏の生活費獲得方法である。なお、研究構想が固まっていないPhD一年生向けのフィールドワークグラントもある。

(4)高校生向けサマースクールで教える
アメリカの大学は、(世界中の高額所得者のご子息のお金を吸い取るために)夏にとてつもない学費がかかるサマースクールを実施しているところがある。ブラウンはその一つである。基本的な対象は高校生で、中国や韓国を含め、世界中から生徒が集まる。講師の一定数は大学院PhD課程の院生であり、結構良い給料がもらえるらしい。なお、サマースクールを受講した生徒から学部進学のための推薦状を頼まれることがあるとのこと(by ルームメイト談)。

(5)通年のフェローシップ(e.g., 日本の奨学金)を獲得する
これが一番理想だろう。留学生なら母国からの給付型奨学金がこれに当たるだろうし、アメリカに来てからでも応募できる日本/米国内の財団のフェローシップもある。大学から保証されているサマーフェローシップとの併給やサマーメンタードリサーチ/RAとの併給を許してもらえるかは交渉が必要な場合もある。

(6)大学外部で仕事/インターンを見つける
大学外でインターン等として雇われて過ごして、そこで+αを稼ぐ人もいる。特に非アカデミア就職を考えている場合や、自分自身の研究と関連する研究所で働ける場合にとても有効な手段となるであろう。アメリカ永住権やアメリカ国籍を持っていない場合は、ビザで問題が起こらないようにしなければならない。

2019年9月3日火曜日

夏が終わる(近況)

今日から新学期が始まったが、今日は入学式のため授業はない。明日から授業&TAで、少し気持ちを入れ替える必要がある。近況を項目に分けて記しておく。

・家
今年から家の管理人をやっている。主な仕事としては家のメンテナンスに責任を持つことと、新しいルームメイトを見つけることと、ルームメイトと大家さんの仲介をすることである。もともと去年まではルームメイトのオランダ人夫婦が長らくこの仕事をやっていたのだが、奥さんの方がNYUでテニュアトラックAPポジションを見つけたので引っ越し(おそらく業界のスーパースターなんだと思う)、僕に声がかかった。

ルームメイト四人は全員ブラウンのPhD課程の大学院生だ。エジプト・アッシリア考古学専攻五年生のイタリア人、比較文学専攻の新一年生の中国人、哲学専攻六年生のシンガポール人、生物学専攻新一年生のペルー人、社会学専攻新三年生の私という全員留学生のメンバーである。去年までの二年間一緒に住んだのは私以外ほぼ全員がヨーロッパ(イギリス二人、オランダ一人、イタリア一人、フランス一人)からの留学生かアメリカ出身で、人文系の専攻だったことを考えると大きな変化である。

家の管理は週に一から三時間程度の時間をとられるだけで、時間的な拘束は少ないのだが、ルームメイトと隣に住む大家さんの仲介をするのには、精神的な負担はある。また、今学期は10-1月の間のどこかの3週間で大規模な工事が入る予定で、それの調整が面倒臭い。ただ、東海岸の地方都市の白人中産階級のneighborhoodでの日常を垣間見れるという点ではとても面白い。また家の契約書の書類作成等も手伝っているのだが、意外と勉強になっている。管理人をやることによる家賃の割引も助かっている。

・遊び
息抜きがNetflixだけではよくないと思い、時々アウトドアもやっている。昨日までLabor DayのLong weekendだったので、ロードアイランド州南端のチャールズタウンのラグーンでシーカヤック/カヌー&クラム狩りに行ってきた。


クラムは二枚貝という意味だが、ニューイングランドではほぼ写真のホンビノス貝を指す。ニューイングランドクラムチャウダーに入っているアレだ。ちなみにたくさん獲れたのだが、僕は甲殻類アレルギーで食べられない。一緒にいって食べた友人によると大きいのより、小さい方が美味しかったらしい。

ラグーンでのカヌー:
腰くらいまでの浅瀬が続くので救命具はいらない。

ホンビノス貝(クラム):
計測器を持参し、州法の規定以下の大きさの貝は海に戻している。

最近痛感するのが車の免許の必要性だ。ニューポート、ボストン、ニューヨーク等の近隣都市へは電車やバスで安く&速くいけるが、色々な発見がありそうな田舎町へは車がないといけない(もちろんバスでいけるのだが、とりあえず時間がかかる)。今回の旅も友達が車を持っていたからこそできたわけだが、一人では無理だ。とりあえず来年のこの時点までには免許を取得することを心に固く決めた。

・研究
修論を投稿し終わって、無駄に長引いてしまった改稿も終わった(意味あったか不明)。これから一年かけて博論の「Big Question」(「漠然とした問い」という意味ではない)を生み出す必要がある。来年の12月に博論プロポーザルをディフェンスする予定。アメリカの移民二世のライフコースを出生コホートによって比較するという漠然とした考えはあるのだが、まだ精緻化できていないので、今学期はこれを具体化できるように、なおかつ教員も説得できるようにしたい。日本の研究もサイドで続けており、こちらも今年は少し頑張らねばならない。

博論の審査委員会は最低三人必要。来年のこの時期くらいまでに決める必要がある。既に三人はなんとなく決めているのだが、候補に入っていなかった先生から「私を入れないか?」という連絡がきた。曖昧な返事をしていたら、最近また連絡がきて少し対応に悩んでいる。よくよく考えると、確かにかなり関心は近いのだが、これまであまり関わりのなかった先生なので慎重に検討したいとともに、向こうからアプローチしてきた理由が気になっている。

・コースワーク
コースワークはあと1年分とる必要がある。今学期は社会学大学院の"Statistical Methods for Hierarchical and Panel Data"というマルチレベル/パネルデータの分析法のコース、"Spatial Thinking in Social Science"という居住分離や近隣効果などの先行研究をサーベイするコース、"Migration"という国際&国内移住に関する先行研究を、人口学に重点をおいてサーベイするコースと、経済学大学院の"Applied Methods"という因果推論のコースの中からいくつか履修しようと思って迷っている。TAや社会階層論のプレリム試験を受験する必要があるので、あまりたくさんとるのは絶対にやめた方が良いことはわかっている。とりあえず今週中に決めてしまいたい。

・体調(消化器系)
先月の胃カメラ検査で原因が判明したのち、京都で3ヶ月分の薬を処方してもらっている。油断して薬を飲み忘れるとまだ気持ち悪くなるので、特に良くなってはなさそう。

・節約
来年度、ある程度の出費が予想されており、それを見据えて先月から節約している(目標は月1000ドルを貯め続けること)。巨大なアジア系スーパーが車で10分のところにできたこと、かつアジア系のルームメイトが2人できて一緒にuberをシェアできることで、Whole Foods(日本でいう成城石井)でしか買い物できなかった毎日とは違う生活ができるようになりそうだ。今週はアメリカではなかなか手に入らない豚バラ肉(しかも信じられないほど安い)やゴーヤを使ってゴーヤチャンプルなどを楽しんだ。とりあえず「一人での外食は禁止」というルールを自分に課し、弁当を毎日学校に持っていくようにしたい。



2019年8月29日木曜日

米博士課程におけるプロフェッショナルディベロップメント(プロセミ委員就任)

アメリカの社会学部(おそらく他の専攻でもあるだろう)の博士課程では、プロフェッショナル・ディヴェロップメント・セミナー(以下、プロセミ)やそれに類する名前のコースワークを1年生の秋に履修することが多い(大学によるが、単位になることもある)。

大学によって何をするかは異なると思うのだが、基本的には、博士課程で成功する上で持つべき価値観、博士課程での教員との関係の作り方・規範、Academic ConferenceやPublishingのノウハウ、Job Marketの基礎知識やナビゲートの仕方、学部におけるDiversityを維持する上で持つべき価値観、PoC(=People of Color)研究者としていかに成功するか等々、普段のコースワークでは教えられないが、プロの研究者を目指す上で重要だとされる知識・技能や価値観・規範を教えられる。教育社会学では、学校の授業では公式には教えられないが、在学中に生徒が習得する知識・技能や価値観・規範を「隠れたカリキュラム」と呼ぶ(注1)が、プロセミは大学院博士課程レベルにおける「隠れたカリキュラム」を「公式のカリキュラム」にして、院生間の「隠れたカリキュラム」習得格差を無くそうとする取り組みと考えることができるかもしれない。なお、最近のアメリカの大学院における「隠れたカリキュラム」に関する議論はこの有名な教育社会学者によるブログの投稿も参照されたい。

さて、実はブラウンの社会学部ではプロセミは公式のコースワークとしては存在しない。その代わり、それに代替する措置として、(1)1年生の秋学期の古典社会学理論(必修)の最初の15分で、毎週教員がプロフェッショナルディベロップメント用トピックを話し、質問を受ける措置が取られるとともに、(2)1-2年生は学期中の月曜の昼休みにプロセミランチへの参加が義務付けられている(1年に15回程度)。プロセミランチでは毎回トピックが決められ、1-2年生が教員や先輩の院生から学ぶということになっている。なお、3-6年生でも継続的に参加している人は多い。

さて、このプロセミランチであるが、院生二人からなるプロセミ企画委員によって運営される。私はブラウンに来てから二年間は何の委員にもならずにフリーライドしてしまっていたのだが(皮肉にも、「できる限り大学での役職につくのを避けろ」というのは一年目のプロセミで受けたアドバイスの一つだった!)、三年目にして断りきれずにこの役職が当たってしまった(他の役職は新任教員の公募に関わったり、ハラスメントの対策を考えたりせねばならない重いもので、さらに忙しそうだった)。なった以上は責任を持って職責を全うするつもりだ。とりあえず学部から2000ドルの予算が与えられ、その予算内で自由に企画して良いという連絡がきた。本日、二人で最初の会議をしたのだが、以下の路線で考えている。

・博士課程の1-2年目をどう過ごすか / 講師:3-6年生のパネリスト4名
・2nd Year Paper(=修論)の進め方と投稿・出版 / 講師:3-6年のパネリスト4名
・大学院における結婚・出産・育児 / 講師:育児中の3-6年のパネリスト4名
・学会について/ 講師:院生・教員のパネリスト数名
・アカデミックジョブマーケットの基礎知識とノウハウ / 講師:教員のパネリスト数名
・ノンアカデミックジョブマーケットの基礎知識とノウハウ/ 講師:未定
・新任教員を知る:新任Assistant Prof&Associate Prof 2名
・現役教員を知る:若手Assistant Prof&Associate Prof 2名
・2000ドルは全て各回のランチに使う

他にもアイデアを模索中である。2017年秋学期から二年間このイベントに出ていた経験から思うのは、就職したばかりの若手のAPを一人招いて、院生時代の経験とジョブマーケットの経験について話してもらい、そこからみんなで質問ぜめにするのが一番勉強になった。なので、僕が下手にテーマベースで企画しない方がいいのかもしれないとも思う。また、教員がいないことがプラスに働くことがある(教員との関係に関する質問をしやすい)ことだ。

最後に。このプロセミは企画側になると面倒だが、院生間における情報格差を小さくする方法としてはとても良い取り組みだと考えている。日本の文系大学院は指導教員とその指導学生を基礎とした「ゼミ」ベースでこうした知識や規範が伝達されることが期待されていると思うが、この方式では指導教員による格差が大きくなるという問題があるように思われる。アメリカの文系大学院の全てが良いとは思わないが、どのような形であれ、学部がバックアップする形でプロセミを開催して「隠れたカリキュラム」を「公式のカリキュラム」に変えていくやり方は取り入れたら良いのかもしれない。

注1)なお、この「隠れたカリキュラム」という言葉は、用いられ方にかなり幅がある。私のこの用法がおかしいと思う方がおられたら、すいません。


2019年8月27日火曜日

ロードアイランド州はほぼ「島」ではない

現在、全米で最小面積のロードアイランド州の州都プロビデンスに住んでいる。かなりマイナーな州で、アメリカ憲法や宗教史の研究者でない限り、ロードアイランドを知らなくても当然である。知らなくて当然なものの、「ロードアイランドに住んでいる」と言うと、「島に住んでいる」という誤解をよくされるようになり、少し気になったので、ここでその誤解を正しておきたい。

実は、ロードアイランド州の正式名称はロードアイランド州 (State of Rhode Island) ではなく、ロードアイランド州及びプロビデンス植民地* (State of Rhode Island and Providence Plantations)である。これは、もともとの英国から独立前には、ロード島(現在はアクィドネック島と呼ばれている)とプロビデンスにあった植民地が Colony of Rhode Island and Providence Plantationsとして英国王に認可される形で始まったことに背景がある。下の地図は現在のロードアイランド州である。州の大部分は大陸に属しており、なおかつ、州都のプロビデンスはロード島にはない。ただ、「ロードアイランド州及びプロビデンス植民地」と呼ぶのはあまりにも長いので、略して「ロードアイランド州」と呼ばれているということなのである。

ロードアイランドの地図
出典:フリー地図を筆者が加工


日本に無理やり例えると兵庫県が「淡路島と神戸植民地」として始まり、後に名前が長くてめんどくさいので「淡路島県」になったようなものだ。そして、そういう世界で、神戸に住んでいる人が「島には住んでない!」と言ってブログを書いているのを想像していただきたい。もちろん、例えが無理やりすぎるかもしれないが、実際にプロビデンスからロード島へは橋で繋がっており簡単に行ける(ブラウンの学生証あれば無料でバスで1時間で行ける)し、淡路島と神戸の関係に似ている気がする。

最後に、もう一つよくある間違えを正しておきたい。私の住んでいるのはプロビンス(Province)ではなく、プロビデンス(Providence)である。前者は英語ではカナダの州などに使われる行政区分を意味する単語であり、後者は神の導きや摂理という意味があって、全然違う。プロビデンスと名付けられた理由は、プロビデンス植民地の創設者のロジャー・ウィリアムズ牧師の興味深い歴史に関係しており、最終的には米国の政教分離や信教の自由とも関わっくるのだが、ロジャー・ウィリアムズについてはもう少し本格的に勉強してからまた書きたい。


*Plantationsは大農場を指す「プランテーション」と訳す場合もあるが、この文脈では「植民地」が適切であろうと思う。

2019年8月23日金曜日

渡米2周年記念

昨日が渡米二周年だった。羽田空港で飛行機に搭乗したのが2017年8月21日夕方、ロサンゼルス経由でプロビデンスに降り立ったのが東部時間の8月21日午後11時ごろ、今住んでいるカレッジヒルの自宅に到着したのが日が回って22日の午前1時前後。米で使える携帯番号をまだ持っていなかったので、タクシーに乗ってしまい、uberで15-20ドルの道のりで50ドルを請求された(が、何の疑いもなく支払った)のは今となっては良い思い出である。

二周年を機にこれまでを少し振り返りたい。ここ二年間の間に16科目分のコースワークが終わり、プレリム試験も1/2つ終わり、TAになるための模擬授業にもパスした。

留学して良かったか?研究者になることが現時点でのキャリア的な目標だと考えると、二つの点でとても良かったと考えている。一点目は知識・技術面である。残念ながら?、東大とブラウンでの学びを比べると、量・質ともにブラウンの方が上である。感覚的には東大の三年分がブラウンの一年分くらいである。「勉強ばかりするな」という批判はあるのだろうが、コースワークやプレリム試験準備で論文を多読して自分の専門のサブフィールドの先行研究の蓄積の体系的な理解を得ることや、計量分析や質的分析の手法に関してより正確な知識を得ることは、とても有益だった。もちろん、独学でできることを私の怠慢でやっていなかったという見方もできるが、アメリカにきて強制的に身に付く環境に身をおいたことは正解だったと考えている。

次に研究に関してだが、これもアメリカに来たことが正解だった。私はアメリカと西ヨーロッパにおける国際移民の社会統合に関心があって、修士時代はアメリカとヨーロッパの社会学の先行研究に自分の研究を位置付けようとしていたが、あまりうまくいかなかった。アメリカ及び西ヨーロッパの移民研究はアメリカ、オランダ、ドイツ、スウェーデン、イギリスにある30程度の大学/研究機関が中心となっており、そのネットワークの中にいる人たちから離れたところで欧米の研究者に相手にされるような研究をなすのは、少なくとも院生レベルでは、なかなか難しいことだと思う。もちろん類い稀な才能によってこれができる人もいるのだが、私には無理だった。東大の研究環境が悪かったというわけではなく、私の自分の能力に関する認識とテーマ設定の甘さにあったと思う。今から考えると、日本にいる間は日本への移民受け入れをテーマに設定しておくべきだった(ただ、日本に設定していたら海外留学しようと思っていなかったと思うので、日本の研究をしていなくて良かったのかもしれない)。なお、現時点で素晴らしい研究ができるいるわけではないのだが、少なくともアメリカの移民研究の中心ネットワーク(アメリカでの移民研究はUCLA、UCアーバイン、UCバークレー、ペンステート、コーネル、ブラウン、プリンストン、CUNYになるだろう)の中にいて、最先端の研究をしている人たちにすぐにコメントをもらいにいける状態に自分を置くことはできている。さらにはアメリカの移民研究の中でなされている研究テーマ群、有力研究者、大学/研究機関の相互関係が見えてくるようになって、「移民研究」にどこまで自分の研究を依拠するかについても考えが固まってきた(いつかこれについては別に書きたい)。

精神や身体の健康面でいうと、留学して本当に良かったかはまだわからない。今年に入ってから消化器系の調子を崩してアメリカ&日本で何度か精密検査を受け、先月ようやく原因がわかったことはすでにブログに書いたが、留学して色んな経験をして打たれ強くなった側面もあるのと共に、ダメージが蓄積して打たれやすくなった側面もある気がする。また、親しい友人や恋人との間に大陸と大洋があることで、辛いことや不都合なこともたくさんあった。長い目で見て絶対に良かったと思う点は、弱い人に対する共感力が格段に高まったことだ。演習での発言や研究発表で「アメリカのことを知らない奴」扱いされること(話を最後まで聞かずにそう判断されるととても悔しいし、米アクセントで肌がより白かったら話を聞いてくれたんじゃないか!?と思ってしまうことがある)、TAとして学生を外国語で教えなければならないこと、外国ですこぶる体調が悪くなること、などなど異国で現地の学生と対等に生き残ろうとする中で苦しいことはたくさんある。様々な場面で弱い立場におかれる中で、今まで頭では理解していても、身体では経験していなかった弱さを経験できたのは今後生きていく中でプラスになると思う。

また、こちらで新しい友人たちとの出会いを与えられていることも留学して良かったことだ。ブラウン社会学部は毎年8名前後しか入学させないのだが、僕の入学年だけ15人いたことで、留学生も多く、かなり仲がよくなることができた。また、一昨年の10月にニューハンプシャー州の森の中でのリトリートに参加した時にたまたま知り合った僕より一つ若い中国人の友人(計算機科学専攻)とは馬が合い、以降、毎週食事を一緒にしている。

最後に、信仰について。アメリカ行きが決定してから覚悟はしていたのだが、アメリカのキリスト教会には馴染めずにいる。近くの教会の礼拝には毎週出席しているが、なぜか自分が浮いている(皆と一致できていない)気がする。こう感じるのは自分の所属している教会の中だけではなく、オンライン等でアメリカのキリスト教会を代表するリーダーたちの書いたものを読んで覚える強い違和感も背景にある。もちろん、アメリカにも尊敬するクリスチャンはおり、多種多様なアメリカのキリスト教をこんなにざっくりくくって批判するのは稚拙であろうが、いわゆる「主流派」キリスト教に対しても、「福音派」キリスト教に対しても違和感を覚えてしまう。昨日まで朝の読書の時間を使って内村鑑三の自伝『余はいかにして基督信徒となりし乎』を再読していたのだが、内村が留学先のアメリカの「正統派」キリスト教を批判するところを読んで共感してしまった。おそらく自分の内面とも関係があるように思うので、また自分との対話が進んだら考えを書きたい。

ブラウンの社会学部では三年生最終学期までコースワークをとらなければならないので、Ph.D.取得までにはあとコースワーク一年分、プレリム試験一つ、博論計画書ディフェンス、実際の博論提出が残っている。あと四年くらいだと思うが、与えられている環境を大切にして、与えられた燃料分は丁寧に走りきるようにしたい。


最近は毎朝ゆっくり家のテラスで朝ごはんを食べ、読書をしている。
フレンチトースト&ミニトマト&ブルーベリーが定番メニューとして確立された。