2018年12月28日金曜日

PhD2年目前半戦終了–冬休み到来–

課題を全部出して冬休みが来たので今学期の振り返りを少ししておく。

1. コースワーク
今学期は社会学大学院から2つ(「因果推論」と修論個別指導)、経済学大学院から2つ(「労働経済学」という看板の統計的因果推論の講義と「公共経済学」の演習)という設定だった。先学期と比べると著しくメソッドにフォーカスした学期だったように思う。なお、ブラウンの社会学大学院の人口学センター所属の院生は指定された経済学or文化人類学or公衆衛生学大学院のコースワークが選択必修になっているので他学部履修するのは特別なことではなく、社会学大学院の同期も3人一緒に経済学大学院のコースワークを履修した。成績は全てAをとれて、それは嬉しかった。

今学期のコースワークの大きな成果としては(1)計量分析に関する理解が大幅に進歩したこと、(2)経済学の論文の読解能力が増したこと、(3)経済学者がどんなことを考えていて、何を大切にしているかがわかり、社会学との違いについて考えを巡らせることができたことである。(1)に関してはいかに自分が今まで適当な理解をしていたかがわかって色々恥ずかしくなった。とりあえずあまり話したくない。(2)に関しては最近は社会学が伝統的に研究してきた分野への経済学が進出しており(特に教育社会学が伝統的に扱ってきた分野においてその傾向が強いのではないだろうか)、今後この力は役に立つのではないかと思う。ただ、一番重要だったのは(3)な気がする。学期中は毎週の木曜の昼休みに人口学センターで研究発表(出席必須)があり、外部/内部の経済学と社会学のスピーカーが交互に発表している。両学部から教員も聴衆として参加してのイベントなのだが、経済学の人が社会学の発表に対してする質問の背景が理解できるようになった。自分もいつか発表することになるかもしれないし、今後もPAAなどでは経済学者に応答をしなければならないと思うので、貴重な学期となったと思う(前回のPAAではUCLAの経済学の院生に結構クリティカルに突っ込まれたが、今はようやくその意味がフルに理解できる)。


ただ、経済学の因果推論だけにとらわれてしまうと何か重要なものを失う気がしている(何を失うのかの言語化はまだきちんとできていない。すいません)し、メソッドを極めるのは自分には無理なので正しく応用できるレベルにとどめようと思っている。ということで、来学期はメソッドのコースワークから離れて文化人類学部の人口学のコースワーク(Anthropological Demography)と、社会学部の教育社会学のコースワークの2つを取ろうと考えている。ちなみに文化人類学部の人口学のコースワークの教員は質的手法を使う人口学者としてとても有名であり(Demography、PDRに論文多数)、文化人類学者としても有名であり(ブラウン文化人類学部でテニュア持っている)、イタリア史の研究でも有名であり(著書多数)、かつ小説も書いてピューリッツァー賞を受賞・スピルバーグによって今度その小説が映画化されるというとてつもない人のようである。教えるのも上手いのに期待する。

2. 研究
2月末に下書きを提出しなければならない。米国における1990年代前半に出生コホートの5歳から14歳(7時点)、15-18歳(3時点)の二つのパネルデータを使って、移民の子どものテストスコアの母学歴による推移を成長曲線モデルで比較をしている。5-14歳のデータの方のpreliminaryな分析結果のアブストを国際社会学会のRC28の春季ミーティングに出していたのだが、口頭報告でアクセプトされたので、できるだけ行きたいと思う(大学からのfundingを調整中)。出そうと思った時すでに締め切りから数時間すぎており、しかも受付番号521番で、ポスターになるだろうと思っていたので嬉しい。一つ悩んでいるのは成長曲線モデルである。学力や体重など子どもの成長を記述的にみるには適しているとは思うのだが、推定する成長曲線のfunctional formが正しいという仮定が強すぎる気がしているのと共に、口頭発表で成長曲線モデルに詳しくない人に理解してもらうのが本当に難しい。特に難しいことをしているわけではないのだが、かなり複雑なことをしている印象を与えてしまうのをどうにか解決したい。

夏に某誌に指導教員と書いて投稿した論文がR&Rで戻ってきて、4月末までにまた再提出しなければならない。Reviewer1がとてつもなく細かく、先生も「ここまで細かいのは見たことがない」と驚いていた。。個人的にはかなりmajor revisionで厳しいのではないかと感じているのだが、なぜか先生はeasyと楽観的だった。まあどうなるにせよ、missing dataの勉強にはなった。

3. メサイア
今年はこちらでできた働きながらブラウンで計算機科学(CS)のマスターをやっている中国人の友人とメサイアをプロビデンスの退役軍人ホールへ観にいった。会場でマフィンやコーヒーが売っていて、それを食べながら聴いている人がいるのは衝撃だった。また拍手の際に「ヒューヒュー」のような声を出すのも驚きである。アメリカがこうなのか、たまたま今回のことなのかはわからない。

退役軍人ホールでのメサイア

メサイアに一緒に行った友人とは昨秋のIVCFのリトリートであったのだが、最近は1週間に一回はあっていて、気晴らしになる。会話で社会科学の話が出てこないのでコースワークや研究のことも思い出す必要がなく、社会学&近い学問やらない友人を作ることの大切さを痛感している。CSメジャーなのに英語の詩が大好きで、休日にわざわざNYCまで詩の朗読会にいくなどしている。意外なことに僕がすすめたNetflixのテラスハウス軽井沢篇にはまってしまい、鍋セットを購入までしてSeason1 Episode1で作られていた水炊きを再現してくれと頼まれたので頑張った。テラスハウスは、ゆっくりな日本の恋愛と同時に、日々映し出される食べ物が受けているようである。

友人宅で作った鍋

今年のイブ礼拝は大家さんに連れられてQuakerのMeetingに参加した。1703年に創立されたRI州ではかなり古い方のQuakerのMeeting Houseであった。予想通り途中で「内なる光」に導かれた方が突然歌い出して皆が続いたこと(おそらくQuakerの間で有名な賛美歌だと思われるが、歌詞的に賛美歌ではない可能性もある)、一人が短く話したこと(何を話したかは覚えていない)を除いては1時間ひたすら沈黙が守られていた。

クリスマスイブに行ったRI州LincolnのQuakerのMeeting House

さて、この辺にしたい。今日から休暇でハワイで1週間ほどゆっくりしてくる。






2018年12月9日日曜日

近況1209

最近の近況を少し。今週は大忙しだった。月曜には模擬授業をビデオで撮影され、英語で教える能力の審査(来年TAとして授業を担当できるかを判定するため)があった(二回目)。おそらく明日には結果が出る予定だ。社会学理論についてのレクチャーをしようかと思ったのだが、結局Assimilation theoryの研究動向についてのレクチャーをした。審査委員は英語の専門家二人と学部生二人。ABCDEの5段階評価で、Aだと合格、B、Cが条件付き合格、DとEが不合格。前回はCで、今回はできればAが欲しいのだが、少し硬くなってしまってBになる可能性もある気がして落ち込んでいる(Bになったら来学期マンツーマンの発音トレーニングを受けなければならない)。Cのままだったら全然笑えない。

火曜は前回の投稿で紹介した税のペーパーを公共経済学のセミナーで発表した。あらかじめ"I'm not an econ major"なので"theory"をわかってなかったらすいません、という宣言をしたので気が楽だった。発表も問題なく終わったし、毎週の課題も平均以上取れているし、単位はくるだろう。

水曜は因果推論(社会学部)の授業の最終課題の発表だった。修論の基となっている分析を発表したのだが、いまいち納得してもらえなかったみたいで、フレームワークを見直す必要がありそうだ。今週の金曜にペーパーの提出だ。道は長い、、

金曜は因果推論(経済学部)のproblem setの提出だった。月曜から毎日2問ずつ答えて行ったのだが、まあまあ難しくて、最終的に木曜日は1日をほぼ全てこれに使うことになった。

土曜(昨日)はブラウンのクリスチャン大学院生のクリスマスパーティーに顔を出してきた。コードネームというボードゲームで遊んだのだが、意外と面白いし、大人数でもできるのでオススメ。この集まりには物静かなブラウンの応用数学部の准教授がよく参加してくれる(全く知らなかったのだが、かなり有名な人らしい)。先生が「人文・社会科学系の教員にはクリスチャンはほぼいないが、理工系だと少しはいる」って言っていたのが印象的だった。僕も同じ現状認識だ。。セレクション効果(クリスチャンは社会科学の研究者になるのを避ける)なのかもしれないし、トリートメント効果(社会科学をしていると信仰からクリスチャンじゃなくなるor自然科学をしているとクリスチャンになる)なのかもしれない。僕は両方だと思っているが、トリートメント効果の方が大きいかもしれない。

今日はコンピュータサイエンス学部の中国人の友人とフェデラルヒル(プロビデンスの別の地区)のLeMei Hot Potという店に火鍋を食べに行った。二人で100ドルを超えてしまったが、かなり美味しくて満足した。やはりご飯のクオリティは重要。少し元気になった。


明日から(今週)は因果推論(社会学部)のタームペーパーが金曜にあり、また金曜には指導教員とR&Rになった共著論文の打ち合わせと修論の方向性の打ち合わせをしなければならない。また、再来週には因果推論(経済学部)のproblem set(problem setは学期に複数回ある)の提出がある。あと2週間ほど気を抜かずに頑張りたい。

2018年12月3日月曜日

消費税は本当に逆進的か?-ガゾリン税の価格転嫁率の地域間の異質性を考慮して-(Stolper 2018)

以下、明日の格差のセミナーで30分間で発表(要約&批判)しなければならないワーキングペーパー(WP)を紹介しておく。本当は教育系のテストスコアを分析した論文が当たる予定だったのだが、順番がずれてこれになってしまった、、、苦笑 このWPは2016年にハーバード経済学部でPhDをとって、ミシガンでAPになった方がジョブマーケットペーパーとして執筆したものらしい。そこからさらに修正をかけて3ヶ月前に改訂版として発表されていて、もう投稿中なのかもしれない。私は経済学をちゃんと勉強したことがないので、万が一間違った理解をしていたら許して欲しい。専門とはあまり関係ないが、面白かったのと、社会学でも課税の分析はもっとあっても良いかもしれないと思った(何回かみたことはあるが、、)。

Stolper, Samuel., 2018, "Local Pass-Through and the Regressivity of Taxes: Evidence from Automotive Fuel Markets.", Harvard Environmental Economics Program Discussion Paper 16-70 (May 2016) [updated in June 2018]

要旨:
 税の転嫁と帰着を巡る研究では、税の逆進性は相対的な消費量(relative quantity)を基に決定されることが前提とされているが、実際には相対的な価格(relative price)の分析も必要であり、増税の価格転嫁率(pass through rate)の異質性を考慮する必要がある。本WPでは2009年から州レベルで複数回にわたって増税が実施されたスペインを事例に、価格転嫁率には地域ごとに大きな分散があることと、住宅価格が高い地域ほど価格転嫁率が高いこと(=ガソリン税は逆進的ではなく累進的である)ことを示す。
 スペインでは2007年からガソリンの売店(station)の週ごと(weekly)の価格を公開するシステムが整備されており、全国のstationのガソリンのstation-week価格データの作成が可能である。WPでは、このガソリン価格のstation-weekデータに州レベルのガソリン税の情報(観察期間中に何度か州ごとに上昇する)、売店レベルの情報(5分のドライブ圏における他のガソリン売店の数、ガソリン店のブランド、運営形態 etc.)、社会人口学的特性(municipality-yearレベルの人口密度、平均教育レベル、平均住宅価格 etc.)を紐付け、転嫁率を分析する。
 WP中での分析は(i)スペインの全国レベルでのガソリン税の平均価格転嫁率の分析、(ii)価格転嫁率の異質性の分析の二部構成である。(i)と(ii)のどちらの分析でもまずはイベントスタディーモデルを用いて、増税前後の価格の変動がmean shiftである(増税の前後以外の時点では価格はパラレルトレンドである)ことを確認し、その後価格転嫁率を推定する。station-week固定効果モデルでtaxをretail priceに回帰し、taxの係数に100をかけたものが価格転嫁率である。転嫁率の異質性の分析に当たっては競合店の数や平均住宅価格とtaxの交互作用をとり、交互作用の係数をみる。その後、推定した結果を使って地域ごとの転嫁率の分布やstationのある地域の平均SESと転嫁率との関連を分析する。
 分析結果として、(i)全国レベルでの平均転嫁率は95%前後で、100%と統計的に有意な差は認められないこと、(ii)転嫁率には地域ごとに大きな異質性があり、75から115%程度に95%の転嫁率が収まること、平均住宅価格と転嫁率は正の関係にあり、ガソリン税は累進的な課税となっていること等が示された。

コメント:
・消費税が逆進的ではなく、累進的な場合もあるというのは面白い。経済学をちゃんと勉強していないのでおそらくこれは専門家の間では長らく知られてきたことなのだろうが、「消費税が逆進的である」という高校の教科書的な知識?の理論ではなくデータからのエビデンスはどういうところにあるのか知りたくなった。
・ただ、「累進的である」ことの根拠は平均住宅価格ととtaxの交互作用が正に有意であること(=平均住宅価格と価格転嫁率は正の関係にあること)で主に判定されており、かなり限界がある気がした。平均住宅価格は地域のSESの一つの指標にすぎない。
・地域の平均的な人口学的特性の情報が得られないからという理由でurban areaだけに分析が絞られ、rural areaがカットされているのだが、rural areaの人の方が車を使う可能性は高い訳で、かなり問題がある気がした。
・上記と関連して、ガソリン売店のある市の学歴分布とtaxの交互作用もモデルに投入しているのにその結果を表で省略していることがとても特に気になった。例えば大卒割合とtaxの交互作用も正に有意(=価格転嫁率と学歴に正の関係が存在する)であれば「累進的である」という結論は強化されるように感じるが、その逆の場合はかなり弱いmixedなfindingということになるだろう。
・価格転嫁率が75-115%というのはそこまで驚くべきことなのかわからなかった。どんなに完全な価格転嫁(100%)が想定されていたとしても、ある程度のバラツキがあることを先行研究は想定していなかったのだろうか。ここら辺は経済学が専門ではないので全くわからない。
・イベントスタディー(社会学でよくみる"event history=survival analysis"ではなく"event study"分析)というのは自分には新しい分析方法の名前だったが、別に何か特別なことをしているわけではなく、ガソリン税の増税のある州の増税前後の時間のリードとラグを示すダミー変数を作成し、それにガソリン価格を回帰して増税の効果をpick upして図示することを目的としていた。DIDのトレンド分析には有用なのかもしれない。なぜ単純に平均を時間ごとにプロットしなかったのかはよくわからない。調べたところイベントスタディー 分析はコーポレートファイナンス等の分野でよく使われるらしい。

2018年11月20日火曜日

移民に対するネイティブの認識と再配分への態度(Alesina et al. 2018)

前回の投稿で、今学期読んだ論文をupすると書いたが、結局あの後で忙しくなってなかなかできないでいた。Thanks Giving休暇に入ったので今日discussした論文(先月公表されたWorking Paper)を一つ紹介しておく。

Alesina,  Alberto,  Armando  Miano,  and  Stefanie  Stantcheva,  2018.  “Immigration  and  Redistribution.”  NBER  Working  paper  24733


要旨:
 WPでは、たくさんのことがなされているが、主に①調査国のネイティブ回答者(定義:調査国で出生した者)の「移民」(定義:調査国外で出生した者)についての認識(e.g.調査国に移民は何割いるか?、貧困層の移民は何割いるか?、移民はどの地域から来ているか?)の「現実」(著者らが政府統計から計算したデータ)からのズレの程度と、そのズレと回答者の社会人口学的特性との関連、②「移民について考えること」の「再配分態度」への因果効果、③「移民についての正確&肯定的な情報に接すること」の「移民に関する認識の正しさ」への因果効果、④「移民についての正確&肯定的な情報に接すること」の「再配分態度」への因果効果の4点が主に論じられる。
 データは著者らによって独自に設計された5カ国(フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、イギリス、アメリカ)でのサーベイからで、n=22506(各国で4000ケースほど)。調査票は(i)社会人口学的属性についてのセクション、(ii)調査国での移民の現状認識を問うセクション、(iii)再配分態度のセクションの3つに別れている。調査票中の(ii)と(iii)のセクションの順番を回答者ごとにランダムに入れ変えることによって②の因果効果を推定する。また③と④に関しては質問中にランダムに一部の回答者に対してinformation treatmentを与えて因果効果を推定している。Information treatmentというのは調査国の真の移民の割合、移民の出身国の分布、そして貧しいながらも頑張って働いている移民のストーリーである。
 分析結果として、①どの調査国においても回答者は正確な値よりもはるかに移民の人口比を過大推定する傾向にあり、また「文化的に」離れた国からよりたくさんの移民が来ていると思いこむ傾向にある。学歴が低い層ほどこうした傾向は強い。②移民について単に考えること(=移民に関する質問に先に答えること)の再配分への態度への負の効果が認められる。③④移民についての正確&肯定的情報への接触の移民の現状認識への正(=現実に近い値への修正)の効果はあるが、この正の接触効果は移民について考えること(=移民の現状を問う質問に回答すること)で打ち消される。

コメント:
・少し論点が拡散しすぎていてわかりにくくなっている気がした。まあ最近公開されたばかりのWPでこれから直していくと思うので仕方ないと思うが、、
・著者らも指摘している通り、政治学と社会学でこういう研究はすでに一定数あり、①の新規性はそこまでないかもしれないと思った。
・②に関して、「移民への認識」と「再配分に関する態度」の質問の順序を回答者ごとにランダムに変えて、移民について考えることの効果を推定するというのは面白いデザインだが、再配分に関する質問に一番最後に答えなければならないことの効果と移民の質問に先に答えたことの効果をどう識別するかに問題がある気がした。順番を変えたグループとともに、順番が変わるのではなく、同じ長さで同じ程度の負担の全く関係ない質問を移民の質問の代わりに答えなければならないコントロールグループを入れた方が良かったかもしれない。例えば、長い質問紙に少しイライラしてきて再配分に関する質問に厳しめに答えることの効果が混じるということが想定できなくもない(考えすぎかもしれないが)。
・また、移民の現状についての認識を問う質問を先に答えることの効果を、著者らが「移民について考えること」の効果として解釈していること自体があまり納得できなかった。著者らはTable9で移民に関する質問に先に答えることと社会人口学的属性の交互作用をとって、効果の異質性を検討しているが、そもそも認識の内容自体に分散が大きいため、認識の内容上での効果の異質性を検討しても良いのではないかと思った。
・これはどんな移民研究にも当てはまるかもしれないが、社会科学系の研究者が通常使う「移民」の定義と、日常用語で使われる「移民」の意味が異なることが、この研究ではより大きな問題になる気がした。調査票では冒頭で移民は調査国外で生まれて合法的に調査国に居住している人、と定義されているが、回答者がすぐにその定義を覚えてその定義に回答中に従えたかどうかは疑わしい気がする。また、この調査自体が出生地主義の強いアメリカだけでなく、血統主義的な考え方も混じるヨーロッパ諸国をも対象としているために、なおさら問題かもしれない。なお著者の3人ともハーバード所属で、調査はアメリカ発である。

2018年10月10日水曜日

失われたアインシュタイン?(Bell et al. 2018)

今学期の格差の授業で2018年に出た未出版のワーキングペーパーを毎週サマライズして評価(擬似査読)しなければならない。毎回できるとは思わないが、時々そのメモを残しておこうと思う。


Bell,  Alex,  Raj  Chetty,  Xavier  Jaravel,  Neviana  Petkova  and  John  van  Reenen,  2018.  “Who  Becomes  an  Inventor  in  America?  The  Importance  of  Exposure  to  Innovation.”NBER Working Paper No. 24062


要旨:
 論文では特許をもつ人が「発明家」と定義され、発明家になる人の人口特性と発明家になる環境要因が検討される。データは3つのデータの組み合わせで、(i)1976年から2014年にアメリカで受理された特許申請、(ii)1996年から2012年までの米の税データ、(iii)1988年から2009年までのニューヨーク市における3年生から8年生までの学力テストデータである。論文中では目的に応じて(i)(ii)(iii)がマッチングされている。ちなみにマッチングには特許申請に記載されている開発者の名前と居住地、租税データ中の名前(被扶養者含む)と居住地を使っており(さすがチェティ!)、80%以上マッチングできたらしい。ちなみに、他にもニューヨークのテストデータのサンプルがどの大学に行ったか等もマッチして分析しているのだが、それは本論にはあまり関係ない。
 分析では出生時の人口学的特性(人種、親の所得、性別)は、数学のテストスコアを統制した後も発明の確率に一定の影響をもっていることが示され、環境要因の分析に移る。分析で示されるのは親が発明をしていることや親の同僚(同じ地区で同じ産業で働いている人)が発明をしていることは、成人後の発明に影響すること、子供の頃に住んでいた地区(ZIPコード)の発明家率は、後に発明家になる確率に影響しており、これは引っ越しを経験したサブサンプルで、引っ越し後の地区の発明家率や親が発明をしていることをコントロールしても見出される。さらには445の発明の技術区分(特許が申請された技術区分)ごとに同じ分析を行うと、特定の区分に該当する特許が申請される率が高い地域に子供時代に住んでいたことが、後に同じ区分に分類される特許を申請する確率に影響する。また女性にとっては、子供時代に女性の発明家比率が高い地区に住んでいたことが、成人後に発明家になることに影響することが示される。この他に高インパクト発明(被引用率が高い発明)に関する同様の分析も行ない、人口学的特性や居住地区が影響していることが示される。
 最後に、人種、親の所得、性別た居住地区によって発明の機会を奪われた人(「失われたアインスタイン」)に関してかなりざっくりした議論が行われる。

コメント:
・正直、445の技術区分の効果が出たあたりで「本当かよ?」と思ったし、授業での評判も悪かったが、まあこんだけデータあったら何か結果は出せるものなのかもしれない。チェティー の論文のデータはどれもすごいことは認めざるを得ない(ブラウンにもチェティー とよく論文を書いている人がいて何度か発表を聞いたのだが、本当にすごい)。3-5年後に論文として出ると思われるので、どういう形で出るのか気になるところだ。
・著者らは近隣効果を学校の質やネットワークの効果と解釈しているが、その妥当性も気になった。
・経済学部の授業をとり始めてから感じるのだが、社会学者が安易?にロジットモデルとか使うところも経済学論文は大抵OLSで推定している(なるべくシンプル!)。この論文も従属変数は発明家になること(ダミー変数)だったが、線形確率モデルで推定されていた。確かにロジットモデルだと複数のモデル間の係数を比較することもできないし、解釈もほんのちょっと面倒くさいので、特殊な理由がない限りは線形確率モデルを推定して誤差を修正する方が良いのかもしれない。というか最近はマルチレベル分析とかもなるべくしないで大抵の誤差のクラスタリングの問題もOLSでクラスターロバスト標準誤差を事後的に計算する方が良い(早くて簡単)気がしてきているがこれはまた別の話である。。

2018年9月11日火曜日

今学期の履修ほぼ確定

新学期が始まった。コース選択だが、以下の5コースで固まりそうである。標準は1学期中に4つのコースなので5つは多いと思われるかもしれないが、EINTは週2回で1回50分、かつ単位が出ない英語のコースで負担は少なく、修論準備のコースも2週間に1回指導教員と面談をするだけなので実質3つのコースである(修論は進めないといけないが)。本当は生物統計学部で生存分析(イベントヒストリー分析)のコースを取ろうと思ったのだが、経済学部で開講されることになった格差と公共政策のコースがより今の自分のためになりそうだと思い、そっちをとることにした。

EINT 2400:Speaking Professionally for Internationals (留学生のための英語)
日時:月 9:00-9:50 水 9:00-9:50
内容:学部生を教えるために英語のアクセントとボディーランゲージを矯正したり、アメリカの学部生と接し方を練習するための特訓講座。文法や話す内容のコースではないことは初回で結構強調された。1月に英語の専門家および複数の学部生の前で模擬授業をして、「条件付き合格」だった人がこのコースを割り振られる。「不合格」だった場合はもっと低いレベルのコースから始まるらしい。ちなみに社会学部の留学生はほとんどの人が「合格」で、EINTのコースを受けなければならない人は珍しい(僕を含めて4/8人)。ただ、EINTのコースを受けることになった人もアクセント矯正のみのコースの人がほとんどで、このボディーランゲージや学部生との接し方までレクチャーされるコースを取らねばならないのはおそらく自分だけである。少し落ち込んだが、こんなことで凹んでいたらPhD生活やってられないのでとりあえず次の模擬授業で合格できるようにしたい。

ECON 2330:Topics in Labor Economics (因果推論)
日時:月 13:00-15:30
内容:労働経済学とあるが、コースの内容は統計的因果推論。今学期同時に履修する社会学部の因果推論のコースよりも少しアドバンストな気はする(知識をかなり持っていることが前提とされている)が、シラバスを見た限り内容は結構かぶっている。違いはこちらは経済学の論文の購読とレクチャー中心で社会学部の方は教科書中心のスタイルということか。社会学部のだけを履修してもいいのだが、このコースを取らなければ人口学センター所属の院生としての要件を満たさなくなってしまうこともあり履修することにした。

ECON 2350B:Inequality and Public Policies(格差と公共政策)
日時:火 9:00-11:30
内容:このコースは学期が始まって新しく追加されたスウェーデンのストックホルム大学の若手のVisiting Professorによるコース。広く格差(Inequality)に関連する経済学のワーキングペーパーを毎回読んで論評する。基本的にはIncomeとwealth inequalityに関するペーパーが多いが、Educational inequalityもあった。なお、経済学では論文として出版する前にワーキングペーパーとして論文がネットに上がることが多く、最新のワーキングペーパーを追うことで今後の学界の動向を追えるようだ。リーディングの一部(Chettyとか)は社会階層論のプレリム試験のリーディングリストとかぶっており、プレリム試験の準備になることを期待している。ただ、もしも論文が難しすぎて理解不能だったりしたら、10月に切るかもしれない。

SOC 2960Y:Causal Analysis (因果推論)
日時:水 13:00-16:00
内容:統計的因果推論。正直、経済学部の方の因果推論と内容が丸かぶりなのだが、これを受けないと社会学部のコースが0になり印象よろしくないのと共に、今までアドホックにしか因果推論を勉強したことがなかったので二つ受けてよりしっかり基礎固めしたいと思った。教科書はこちらの経済学部の学部生向けのStock & Watsonの計量経済学の教科書の必要箇所を読んで、その後に定番のMorgan and Winshipの教科書を読むという設定の模様。後者は日本の社会学者の間でも結構読まれていると思うので知っている方もいると思う。

SOC 2980:Reading and Research (修士論文準備)
日時:不定期に個人面談
内容:修論はようやく動き始めた。本提出は来年の4月末。仮提出は2月末。本日1ヶ月かかってようやくデータへのアクセス権を手に入れられた。米国の教育データを使って移民の世代間移動に関連するテーマにすることを検討している。日本の修論と比べるとかなり軽い。投稿論文一本分の長さを求められ、みんな実質1学期で書いている。

ご覧の通り今学期はメソッド重視の内容でリーディングは軽いが、修論のために先行研究レビューをたくさんすることを考えるとコースワークでのリーディングは軽いの方が良いという判断だ。





2018年9月2日日曜日

特にフォローしている学術雑誌

日本で過ごした2年間の修士時代には、実際に米国で学術雑誌が読まれているコンテクストというのをあまりちゃんと理解しないで、どの学術雑誌も無意識に「等価」という前提で読んでいた。もちろんAmerican Journal of Sociology、American Sociological Review、Social Forces、European Sociological Reviewが特別なのはわかっていたが、自分がどの社会学のサブフィールドで戦って行くのかという認識(注1)と、その中でのジャーナルの評価を全然理解できていなかった(注2)ということだ。

しかし、1年間アメリカの社会学部に在籍して、サブ分野(e.g. 社会人口学、教育社会学)ごとにフォローしておくべき雑誌とそうでない雑誌に関して社会学者間で共通の理解があり、特に具体的な研究テーマや研究のリサーチクエスチョンを設定する際には「フォローしておくべき」とされている雑誌での議論にあわせる形でリサーチクエスチョンを設定しないと、学界できちんとは相手にされないということがわかってきた。

では「フォローしておくべき雑誌」とはどうやって決めればいいのか?一番いいのは自分の分野の専門の教員に聞くか、自分が受ける予定の分野のプレリム試験の文献リストに多く登場する雑誌をひたすら追うことであろう。Impact Factor(IF)でランクを調べる方法もあるかもしれないが、米国の社会学者の頭の中で平均的に思い描かれている評価とIFが一致していないことは多々あると思う。

ここ1年で編み出した自分にとって「フォローしておくべき」とされいる論文の中で、特に重要なリストは以下である。これらの雑誌は新しい号が出るたびにタイトルとアブストだけは読んで、どういう枠組みでどういう研究がなされているのかは頭に入れておくつもりだ。私の場合、移民研究にウェイトをおいているので、移民研究系の雑誌はいわゆる「フィールドトップ」とされるIMR以外にも入っている。なお、これ以外にも「フォローしておくべき雑誌」はあるが、逐次チェックするのはこの10雑誌である。

(1)総合
American Journal of Sociology
American Sociological Review
Social Forces

(2)移民・人種・エスニシティ
International Migration Review
Racial and Ethnic Studies
Journal of Ethnic and Migration Studies

(3)教育社会学
Sociology of Education

(4)社会階層論
Research in Social Stratification and Mobility

(5)社会人口学
Demography
Population and Development Review

この他に重要なジャーナルとしてAnnual Review of Sociology、European Sociological Review、Social Science ResearchSociology of Race and Ethnicity、Demographic Research、American Educational Research Journal、Child Development、Future of Children、Journal of Marriage and Familyなどがある。

もちろんテーマに関係する場合、上記以外の雑誌も読むし、読むべきだが、ウェイトは上記にあり、例えば人口学でプレリム試験を受ける準備をするには、予め指定される文献リストの100本程度(その殆どがDemographyPopulation and Development Reviewに掲載された過去30-40年の論文のうち強い影響力のあったもの)はしっかりと読み、さらにDemographyPopulation and Development Reviewの最近10年分の論文のアブストには全て目を通してどのような研究がなされているのか頭に入れておくことが必要だと聞いた。


注1・・・ブラウン大学社会学部では1年目に社会学の諸分野をサーベイするコースがあるのだが、その入学直後の課題が、社会学のサブフィールドをASAのサブセクションから調べ、それらを統合して減らす方法を考える(減らさない方が良いと思う場合は、その理由を書いて提出する)というものだった。また、自分の研究関心を位置付けるべきサブフィールドを、そのサブフィールドが今後も学会で生き残るか?という視点から戦略的に考えるという課題もあった。こうした課題の意図は今はわかるが、入学当時はいまいちわからなかったのは勉強不足・認識不足という他はない。

注2・・・例えば修士の時に一番読んでいたCitizenship Studiesという雑誌は、結構有名な先生も載せており、僕は個人的に好きで、とても参考にしていた(今でも良い論文が多いと思っている)。ただし、今になってなんとなくわかってきたのは、この雑誌を最初から目指して論文を執筆する人はあまりおらず、どこかに落ちた後に投稿する雑誌であり、掲載できても就職の時には例えばInternational Migration ReviewRacial and Ethnic Studiesのように評価されることはない。

追記(2018.09.03):この記事を書いた後にたまたまTwitterで「一定ランク(やIF)以下のジャーナルには価値がない」と思っている人に対する批判を目にした。確かにアメリカの社会科学(政治学、経済学、社会学)ではそういう意見を持っている研究者の割合が高いと感じ、私が「フォローすべきジャーナル」を決めているというのもそういう見方と親和性が高いかもしれない。しかし、これはアメリカで認められる研究をしたい(現在のところPh.D.を取れたらそのままアメリカのポスドクジョブマーケットでポジションを得ることを目指している)と考えている私の戦略であって、IFやランクの低いジャーナルの価値が低いとは思っていない。またこうした議論に意見する意図でこの記事を書いたわけではない(+まだPublicationが0の人間が意見をするべきでもないと思うし、最近私が指導教員と投稿したジャーナルもランクが高いとは言えないところだった)。