前回の投稿で、今学期読んだ論文をupすると書いたが、結局あの後で忙しくなってなかなかできないでいた。Thanks Giving休暇に入ったので今日discussした論文(先月公表されたWorking Paper)を一つ紹介しておく。
Alesina, Alberto, Armando Miano, and Stefanie Stantcheva, 2018. “Immigration and Redistribution.” NBER Working paper 24733
要旨:
WPでは、たくさんのことがなされているが、主に①調査国のネイティブ回答者(定義:調査国で出生した者)の「移民」(定義:調査国外で出生した者)についての認識(e.g.調査国に移民は何割いるか?、貧困層の移民は何割いるか?、移民はどの地域から来ているか?)の「現実」(著者らが政府統計から計算したデータ)からのズレの程度と、そのズレと回答者の社会人口学的特性との関連、②「移民について考えること」の「再配分態度」への因果効果、③「移民についての正確&肯定的な情報に接すること」の「移民に関する認識の正しさ」への因果効果、④「移民についての正確&肯定的な情報に接すること」の「再配分態度」への因果効果の4点が主に論じられる。
データは著者らによって独自に設計された5カ国(フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、イギリス、アメリカ)でのサーベイからで、n=22506(各国で4000ケースほど)。調査票は(i)社会人口学的属性についてのセクション、(ii)調査国での移民の現状認識を問うセクション、(iii)再配分態度のセクションの3つに別れている。調査票中の(ii)と(iii)のセクションの順番を回答者ごとにランダムに入れ変えることによって②の因果効果を推定する。また③と④に関しては質問中にランダムに一部の回答者に対してinformation treatmentを与えて因果効果を推定している。Information treatmentというのは調査国の真の移民の割合、移民の出身国の分布、そして貧しいながらも頑張って働いている移民のストーリーである。
分析結果として、①どの調査国においても回答者は正確な値よりもはるかに移民の人口比を過大推定する傾向にあり、また「文化的に」離れた国からよりたくさんの移民が来ていると思いこむ傾向にある。学歴が低い層ほどこうした傾向は強い。②移民について単に考えること(=移民に関する質問に先に答えること)の再配分への態度への負の効果が認められる。③④移民についての正確&肯定的情報への接触の移民の現状認識への正(=現実に近い値への修正)の効果はあるが、この正の接触効果は移民について考えること(=移民の現状を問う質問に回答すること)で打ち消される。
コメント:
・少し論点が拡散しすぎていてわかりにくくなっている気がした。まあ最近公開されたばかりのWPでこれから直していくと思うので仕方ないと思うが、、
・著者らも指摘している通り、政治学と社会学でこういう研究はすでに一定数あり、①の新規性はそこまでないかもしれないと思った。
・②に関して、「移民への認識」と「再配分に関する態度」の質問の順序を回答者ごとにランダムに変えて、移民について考えることの効果を推定するというのは面白いデザインだが、再配分に関する質問に一番最後に答えなければならないことの効果と移民の質問に先に答えたことの効果をどう識別するかに問題がある気がした。順番を変えたグループとともに、順番が変わるのではなく、同じ長さで同じ程度の負担の全く関係ない質問を移民の質問の代わりに答えなければならないコントロールグループを入れた方が良かったかもしれない。例えば、長い質問紙に少しイライラしてきて再配分に関する質問に厳しめに答えることの効果が混じるということが想定できなくもない(考えすぎかもしれないが)。
・また、移民の現状についての認識を問う質問を先に答えることの効果を、著者らが「移民について考えること」の効果として解釈していること自体があまり納得できなかった。著者らはTable9で移民に関する質問に先に答えることと社会人口学的属性の交互作用をとって、効果の異質性を検討しているが、そもそも認識の内容自体に分散が大きいため、認識の内容上での効果の異質性を検討しても良いのではないかと思った。
・これはどんな移民研究にも当てはまるかもしれないが、社会科学系の研究者が通常使う「移民」の定義と、日常用語で使われる「移民」の意味が異なることが、この研究ではより大きな問題になる気がした。調査票では冒頭で移民は調査国外で生まれて合法的に調査国に居住している人、と定義されているが、回答者がすぐにその定義を覚えてその定義に回答中に従えたかどうかは疑わしい気がする。また、この調査自体が出生地主義の強いアメリカだけでなく、血統主義的な考え方も混じるヨーロッパ諸国をも対象としているために、なおさら問題かもしれない。なお著者の3人ともハーバード所属で、調査はアメリカ発である。
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