2018年9月2日日曜日

特にフォローしている学術雑誌

日本で過ごした2年間の修士時代には、実際に米国で学術雑誌が読まれているコンテクストというのをあまりちゃんと理解しないで、どの学術雑誌も無意識に「等価」という前提で読んでいた。もちろんAmerican Journal of Sociology、American Sociological Review、Social Forces、European Sociological Reviewが特別なのはわかっていたが、自分がどの社会学のサブフィールドで戦って行くのかという認識(注1)と、その中でのジャーナルの評価を全然理解できていなかった(注2)ということだ。

しかし、1年間アメリカの社会学部に在籍して、サブ分野(e.g. 社会人口学、教育社会学)ごとにフォローしておくべき雑誌とそうでない雑誌に関して社会学者間で共通の理解があり、特に具体的な研究テーマや研究のリサーチクエスチョンを設定する際には「フォローしておくべき」とされている雑誌での議論にあわせる形でリサーチクエスチョンを設定しないと、学界できちんとは相手にされないということがわかってきた。

では「フォローしておくべき雑誌」とはどうやって決めればいいのか?一番いいのは自分の分野の専門の教員に聞くか、自分が受ける予定の分野のプレリム試験の文献リストに多く登場する雑誌をひたすら追うことであろう。Impact Factor(IF)でランクを調べる方法もあるかもしれないが、米国の社会学者の頭の中で平均的に思い描かれている評価とIFが一致していないことは多々あると思う。

ここ1年で編み出した自分にとって「フォローしておくべき」とされいる論文の中で、特に重要なリストは以下である。これらの雑誌は新しい号が出るたびにタイトルとアブストだけは読んで、どういう枠組みでどういう研究がなされているのかは頭に入れておくつもりだ。私の場合、移民研究にウェイトをおいているので、移民研究系の雑誌はいわゆる「フィールドトップ」とされるIMR以外にも入っている。なお、これ以外にも「フォローしておくべき雑誌」はあるが、逐次チェックするのはこの10雑誌である。

(1)総合
American Journal of Sociology
American Sociological Review
Social Forces

(2)移民・人種・エスニシティ
International Migration Review
Racial and Ethnic Studies
Journal of Ethnic and Migration Studies

(3)教育社会学
Sociology of Education

(4)社会階層論
Research in Social Stratification and Mobility

(5)社会人口学
Demography
Population and Development Review

この他に重要なジャーナルとしてAnnual Review of Sociology、European Sociological Review、Social Science ResearchSociology of Race and Ethnicity、Demographic Research、American Educational Research Journal、Child Development、Future of Children、Journal of Marriage and Familyなどがある。

もちろんテーマに関係する場合、上記以外の雑誌も読むし、読むべきだが、ウェイトは上記にあり、例えば人口学でプレリム試験を受ける準備をするには、予め指定される文献リストの100本程度(その殆どがDemographyPopulation and Development Reviewに掲載された過去30-40年の論文のうち強い影響力のあったもの)はしっかりと読み、さらにDemographyPopulation and Development Reviewの最近10年分の論文のアブストには全て目を通してどのような研究がなされているのか頭に入れておくことが必要だと聞いた。


注1・・・ブラウン大学社会学部では1年目に社会学の諸分野をサーベイするコースがあるのだが、その入学直後の課題が、社会学のサブフィールドをASAのサブセクションから調べ、それらを統合して減らす方法を考える(減らさない方が良いと思う場合は、その理由を書いて提出する)というものだった。また、自分の研究関心を位置付けるべきサブフィールドを、そのサブフィールドが今後も学会で生き残るか?という視点から戦略的に考えるという課題もあった。こうした課題の意図は今はわかるが、入学当時はいまいちわからなかったのは勉強不足・認識不足という他はない。

注2・・・例えば修士の時に一番読んでいたCitizenship Studiesという雑誌は、結構有名な先生も載せており、僕は個人的に好きで、とても参考にしていた(今でも良い論文が多いと思っている)。ただし、今になってなんとなくわかってきたのは、この雑誌を最初から目指して論文を執筆する人はあまりおらず、どこかに落ちた後に投稿する雑誌であり、掲載できても就職の時には例えばInternational Migration ReviewRacial and Ethnic Studiesのように評価されることはない。

追記(2018.09.03):この記事を書いた後にたまたまTwitterで「一定ランク(やIF)以下のジャーナルには価値がない」と思っている人に対する批判を目にした。確かにアメリカの社会科学(政治学、経済学、社会学)ではそういう意見を持っている研究者の割合が高いと感じ、私が「フォローすべきジャーナル」を決めているというのもそういう見方と親和性が高いかもしれない。しかし、これはアメリカで認められる研究をしたい(現在のところPh.D.を取れたらそのままアメリカのポスドクジョブマーケットでポジションを得ることを目指している)と考えている私の戦略であって、IFやランクの低いジャーナルの価値が低いとは思っていない。またこうした議論に意見する意図でこの記事を書いたわけではない(+まだPublicationが0の人間が意見をするべきでもないと思うし、最近私が指導教員と投稿したジャーナルもランクが高いとは言えないところだった)。

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