2018年2月18日日曜日

米生活ログ(5)自家製カレーと送迎車、授業、人口学会、太った火曜日=Fat Tuesdayとパンケーキ

数週間ぶりの更新。今日は土曜日。来週の月曜は大統領の日(President's Day)で大学が休みで、火曜日も休みなので今日は少し余裕があってデパートで靴の買い物をしてきた。ちなみに、中国人の同期たちは旧正月を祝っている。最近、冷静に考えるとそこまで根拠はないのになぜか落ち込み気味なのだがとりあえず気を取り直していこうと思っている。

近況などを以下の7つの小項目にまとめて書いておく。

(1)自家製カレーと送迎車

まだ東京で趣味だったお菓子作りは再開できてないが、節約のためにカレーやミートソースを時間のある時に大量に作り、何食分か小分けして冷凍保存し、夜ご飯用に大学に持っていって研究室で食べている(最近はほぼ毎日帰りが0時近くなっているので平日は学校で夜ご飯を食べている)。

二日前に作ったカレー。隠し味はダークチョコ、ヨーグルト、
コーヒー。ワインは地元(ロードアイランド州)産。

学校の帰りによく利用しているのはブラウン大学のBrown on Callという送迎車サービスである。PM5時からAM3時までネットor電話で予約をとると市内を巡回している大学のワゴン車が予約した10-20分後には学内の自分が指定した位置(e.g.図書館の前)まで迎えに来て、学外にある自分の家の目の前まで送迎してくれる。土日祝日もこのサービスは使え、しかも無料である。他の学生と相乗りで相手の家が先になることもあるが、一人のことの方が多く、無料で使えるタクシーみたいなかんじである。ドライバーに聞いたところ、常時5-6台がプロビデンスの大学周辺を巡回しているようである。ブラウン大学周辺は高級住宅街でかなり治安の良い地域なのに、さすがは全米のお金持ちの子弟が通う学校だと感心してしまった(この記事によるとブラウン大学はアイビーリーグ8校の中でも学部生の親の所得の中央値が高く、日本円換算すると親の所得の中央値は年2000万円を上回って一番である)。

(2)現代社会学理論とグラムシ

リーディングが膨大で、二週間に一回レポートもあり、かなり大変だが最初思っていたより面白い。今学期はグラムシ、フーコー、ブルデュー、ハーバーマスが2:3:3:3の比率で扱われている。フーコー、ブルデュー、ハーバーマスは日本でも社会学理論の定番だと思うのだが、日本でグラムシを社会学理論に影響を与えた主要人物として捉えている人は少ないと思う。僕も名前は聞いたことはあったが「ヨーロッパのどこかの国の革命家」というくらいのイメージだった。このイメージは間違いではなく、彼は実際にイタリア共産党の主要リーダーで、今学期は彼が獄中から書いた膨大なメモを編集した『Prison Notebooks』と呼ばれているものを読んだ。ただ、アメリカではグラムシは共産党の運動家とともに、社会・政治理論の主要人物として認識されているようで、ブラウンだけでなく、別のアメリカの主要社会学PhDプログラムにいる友人も必修の理論の授業でグラムシを扱ったとのことだった。ここからは推測もかなり入るが、UCバークレーの社会学者でアメリカ社会学会(ASA)や国際社会学会(ISA)の会長もつとめたブラヴォイはグラムシの市民社会論にかなり影響を受けており(彼が提唱している"Public Sociology"はグラムシの言う「有機的知識人」のイメージと少し関係ある気がしてならない)、アメリカの大学院の社会学教育の中でグラムシが読まれているのはブラヴォイの影響も相当あるのではないかと思った。

ちなみに先学期の古典理論ではマルクス、ウェーバー、デュルケーム、デュボイス、ポランニがメインで扱われたが、ポランニも日本ではほとんど扱われない気がする(もちろんデュボイスも扱われないが)。ポランニもグラムシもかなり独特な市民社会論を構想しており、どちらもマルクスを批判してマルクスから距離を保ちながらも、マルクスの視点を多少受け継いでいる。二人が必修となっているのがとても興味深い。

なお、日本は20世紀の一時期に社会科学がマルクス主義の影響を強く受けすぎてその反発から現代ではほぼ完全にマルクス主義とそれに関係のあるものが追い出されているが、アメリカの社会科学は今に至るまでマルクス主義に強い影響を受けなかったがために逆にマルクス主義とそれに影響を受けている思想に寛容で「教養としては知っておこう」ということなのかもしれない、と思った。

(3)多変量解析ⅡとGLM

多変量解析Ⅱの授業は制限従属変数の分析を一般化線形モデル(GLM)の枠組みで習っている。先週まででロジット分析まで進んだ。ちなみに、先学期の多変量解析Ⅰでは基礎統計学を一通りやった後に徹底的に最小二乗法(OLS)を用いた重回帰分析の習得に時間が割かれていた。要するに1学期目でOLS、2学期目で制限従属変数の分析、残り(階層モデル、イベントヒストリーetc.)は選択科目で2年目以降にやる、ということのようだ(聞くところによると、これは他のアメリカの社会学PhDプログラムでも同じようなかんじらしい)。

日本で受けた授業のように「従属変数が二値の時にはロジットモデルにしましょう」と言われてそれだけを習うのと、今学期の授業のようにGLMの一形態として線形確率モデル、二項・順序・多項ロジットモデル、プロビットモデル、ポアソンモデル、負の二項モデル、トービットモデル、へーキットモデル(ヘックマンの二段階推定)を並行して教えられるのとでは理解の深さが全然違う気がした(←シラバスによると操作変数法とかもやるみたいなのだが、正直今の進度で最後まで行くのか不明)。これが社会学大学院1年目の必修の入門授業で、学部生にさえ履修許可されており、彼らが今後大学院に進学すると自分と差がつくのはわかる。遅れを取り戻すために頑張ろうとも思った(ただ、これまで独学をある程度してきたので、正直同期と比べると自分はまあまあできる方だと思う)。

(4)質的調査法と返事がこない問題

質的調査法の授業が大変である。毎回課題で読まねばならない論文が多い上に、どこかで実際にエスノグラフィーをして2週間に1回フィールドノーツを提出しなければならないのだが、なかなか調査希望先から返信がこなく頭を抱えている(二度メール送ったのでそろそろ諦めて他を当たった方がいいかもしれない)。なお、エスノグラフィー重視派とインタビュー重視派の論争があるのをこの授業で初めて知った。どちらかというと前者が後者を批判し(e.g.Jerolmack and Khan 2014)、それに後者が反論する(e.g.Lamont and Swidler 2014)というかんじのようだ。もっと質的調査法にも詳しくなりたい。

(5)人口学方法論はまた別の機会に

人口学方法論は期待通り面白い。これについてはまた別の機会に書きたいと思う。

(6)米人口学会とコロラド州

四月にコロラド州デンバーで開かれるアメリカ人口学会(PAA)の報告を申し込んでいたのだが、結果が返ってきてポスター報告できることになった(口頭報告は落ちた)。口頭報告はかなり倍率は高いみたいで、一緒に出した人の中で通っていたのは1人だけ、ポスターは周りで何人か落ちていたが、8割型は通っていた。

(7)太った火曜日=Fat Tuesdayとパンケーキ

水曜日はAsh Wednesdayで、Lentが始まったわけだが、前日の火曜日にFat Tuesdayというパンケーキを皆で食べるイベントが教会であってちょうど現代社会学理論のレポートを提出した翌日で時間あったので行ってきた。日本の教会だとFat Tuesdayとか一度も聞いたことなかったが、Shrove TuesdayとかPancake TuesdayとかMardi grasとかとも呼ばれ、Lentの期間の断食をする前に行われるイベントらしい。フランスの影響を受けた地域で特にこの慣行が盛んで、ルイジアナでは一大イベントとのことだった。教会暦を含む「制度的なるもの」に対する反発から19世紀初頭に英国で興った教派の枠組みの中で育ったので僕はLentの断食はしたことないのだが、来年はLentをobserveしてみてもいいかもしれないと思った(なお、個人的には4年ほど前からある長期的経験がきっかけで教会暦はとても大事だと思うようになった)。

教会で食べたパンケーキ

参考文献
Jerolmack, C., & Khan, S. (2014). Talk is cheap: Ethnography and the attitudinal fallacy. Sociological Methods & Research, 43(2), 178-209.
Lamont, M., & Swidler, A. (2014). Methodological pluralism and the possibilities and limits of interviewing. Qualitative Sociology, 37(2), 153-171.

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