2018年12月3日月曜日

消費税は本当に逆進的か?-ガゾリン税の価格転嫁率の地域間の異質性を考慮して-(Stolper 2018)

以下、明日の格差のセミナーで30分間で発表(要約&批判)しなければならないワーキングペーパー(WP)を紹介しておく。本当は教育系のテストスコアを分析した論文が当たる予定だったのだが、順番がずれてこれになってしまった、、、苦笑 このWPは2016年にハーバード経済学部でPhDをとって、ミシガンでAPになった方がジョブマーケットペーパーとして執筆したものらしい。そこからさらに修正をかけて3ヶ月前に改訂版として発表されていて、もう投稿中なのかもしれない。私は経済学をちゃんと勉強したことがないので、万が一間違った理解をしていたら許して欲しい。専門とはあまり関係ないが、面白かったのと、社会学でも課税の分析はもっとあっても良いかもしれないと思った(何回かみたことはあるが、、)。

Stolper, Samuel., 2018, "Local Pass-Through and the Regressivity of Taxes: Evidence from Automotive Fuel Markets.", Harvard Environmental Economics Program Discussion Paper 16-70 (May 2016) [updated in June 2018]

要旨:
 税の転嫁と帰着を巡る研究では、税の逆進性は相対的な消費量(relative quantity)を基に決定されることが前提とされているが、実際には相対的な価格(relative price)の分析も必要であり、増税の価格転嫁率(pass through rate)の異質性を考慮する必要がある。本WPでは2009年から州レベルで複数回にわたって増税が実施されたスペインを事例に、価格転嫁率には地域ごとに大きな分散があることと、住宅価格が高い地域ほど価格転嫁率が高いこと(=ガソリン税は逆進的ではなく累進的である)ことを示す。
 スペインでは2007年からガソリンの売店(station)の週ごと(weekly)の価格を公開するシステムが整備されており、全国のstationのガソリンのstation-week価格データの作成が可能である。WPでは、このガソリン価格のstation-weekデータに州レベルのガソリン税の情報(観察期間中に何度か州ごとに上昇する)、売店レベルの情報(5分のドライブ圏における他のガソリン売店の数、ガソリン店のブランド、運営形態 etc.)、社会人口学的特性(municipality-yearレベルの人口密度、平均教育レベル、平均住宅価格 etc.)を紐付け、転嫁率を分析する。
 WP中での分析は(i)スペインの全国レベルでのガソリン税の平均価格転嫁率の分析、(ii)価格転嫁率の異質性の分析の二部構成である。(i)と(ii)のどちらの分析でもまずはイベントスタディーモデルを用いて、増税前後の価格の変動がmean shiftである(増税の前後以外の時点では価格はパラレルトレンドである)ことを確認し、その後価格転嫁率を推定する。station-week固定効果モデルでtaxをretail priceに回帰し、taxの係数に100をかけたものが価格転嫁率である。転嫁率の異質性の分析に当たっては競合店の数や平均住宅価格とtaxの交互作用をとり、交互作用の係数をみる。その後、推定した結果を使って地域ごとの転嫁率の分布やstationのある地域の平均SESと転嫁率との関連を分析する。
 分析結果として、(i)全国レベルでの平均転嫁率は95%前後で、100%と統計的に有意な差は認められないこと、(ii)転嫁率には地域ごとに大きな異質性があり、75から115%程度に95%の転嫁率が収まること、平均住宅価格と転嫁率は正の関係にあり、ガソリン税は累進的な課税となっていること等が示された。

コメント:
・消費税が逆進的ではなく、累進的な場合もあるというのは面白い。経済学をちゃんと勉強していないのでおそらくこれは専門家の間では長らく知られてきたことなのだろうが、「消費税が逆進的である」という高校の教科書的な知識?の理論ではなくデータからのエビデンスはどういうところにあるのか知りたくなった。
・ただ、「累進的である」ことの根拠は平均住宅価格ととtaxの交互作用が正に有意であること(=平均住宅価格と価格転嫁率は正の関係にあること)で主に判定されており、かなり限界がある気がした。平均住宅価格は地域のSESの一つの指標にすぎない。
・地域の平均的な人口学的特性の情報が得られないからという理由でurban areaだけに分析が絞られ、rural areaがカットされているのだが、rural areaの人の方が車を使う可能性は高い訳で、かなり問題がある気がした。
・上記と関連して、ガソリン売店のある市の学歴分布とtaxの交互作用もモデルに投入しているのにその結果を表で省略していることがとても特に気になった。例えば大卒割合とtaxの交互作用も正に有意(=価格転嫁率と学歴に正の関係が存在する)であれば「累進的である」という結論は強化されるように感じるが、その逆の場合はかなり弱いmixedなfindingということになるだろう。
・価格転嫁率が75-115%というのはそこまで驚くべきことなのかわからなかった。どんなに完全な価格転嫁(100%)が想定されていたとしても、ある程度のバラツキがあることを先行研究は想定していなかったのだろうか。ここら辺は経済学が専門ではないので全くわからない。
・イベントスタディー(社会学でよくみる"event history=survival analysis"ではなく"event study"分析)というのは自分には新しい分析方法の名前だったが、別に何か特別なことをしているわけではなく、ガソリン税の増税のある州の増税前後の時間のリードとラグを示すダミー変数を作成し、それにガソリン価格を回帰して増税の効果をpick upして図示することを目的としていた。DIDのトレンド分析には有用なのかもしれない。なぜ単純に平均を時間ごとにプロットしなかったのかはよくわからない。調べたところイベントスタディー 分析はコーポレートファイナンス等の分野でよく使われるらしい。

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