2018年1月17日水曜日

米生活ログ(4) 秋学期終了&冬休みもうすぐ終わり!

またまた投稿の間隔が空いてしまったが、簡単に近況報告をしておく。まず、先月12月15日に最後のレポートを提出して無事に1学期目(Fall Semester)が終了した。

ロックフェラー図書館の大学院生自習室からの眺め

冬休み中は12月23日から1月14日まで日本に帰国し、東京と京都でとにかく休んでいた。三日前に日本から戻って来てからは毎日ブラウンのロックフェラー図書館まで来て研究書を読んでいる。ちなみに上の写真は先ほどこの投稿を書きながら撮影した図書館の自習室からの写真だが、写真の右手奥に見える高い塔がある建物はFirst Baptist Churchで、アメリカ合衆国で一番初めに作られたバプテスト派の教会である。Wikiによるとロジャー・ウィリアムズはこの場所で説教していたらしい(ウィリアムズが説教していたのは17世紀だが、今の教会堂ができたのは18世紀)。ブラウンもこの教会と関係が深いようで、歴史的にはバプテスト派の学校である(ちなみにハーバードやイェールは会衆派、プリンストンは長老派、デュークがメソジスト派。日本だと関東学院がバプテスト派、同志社が会衆派、関学や青山学院がメソジスト派)。なお、南部バプテストのイメージでバプテストに神学的に保守的なイメージがある方もいると思うが、プロビデンスのバプテストはいわゆる北部バプテストで南部とは歴史的に一線を画している。塔の後ろにある(重なって見えている)大きな白い建物はロードアイランド州の州議会堂である。

成績も出て、全て最高評価のAがもらえた(ブラウンは他の多くの大学と違いGPAがなく、ABCの三段階評価もしくはPass/Failである)。また、昨日、社会学研究科からの僕のこれまでのパフォーマンス(成績や研究等の総合評価)の中間評価も送られて来て、"good standing"(四段階中で一番高い評価)とのことであったので、来学期も問題なく博士課程を継続できるとのことであった。ちなみに学期ごとに個々の授業の成績とは別に全体パフォーマンスの評価があるのは初めて知ったのだが、こちらの方が重要なようで、good、satisfactory、warning、terminationの4段階評価のうち、satisfactoryを取り続けるとwarningとなり、warningをとると給料(奨学金)が減額され、terminationで退学になる模様だった。なお、ここでの退学はパフォーマンス不良による退学であって、不正行為等によるものとはまた別概念である。ただ、おそらく1年生の段階ではほぼ全員が"good"なのではないかと思う。

来週から春学期(Spring Semester)が始まる。来学期のコースワークはもう確定していて以下を履修する予定である。

SOC 2050 Contemporary Sociological Theory(必修・木曜9時-12時) :現代社会学理論。先学期のClassical Sociological Theoryの続き。担当教員は学部長で、シニアの教授。先学期は主にマルクス、デュルケーム、ウェーバー、デュボイス、ポランニだったのだが、今学期はフーコー、ハーバマス、ブルデュー、グラムシらしい。主に言語的問題(英語読むの遅い)で、先学期は苦労した。今学期も一番苦労しそうな授業である(+一番興味がない)。

SOC 2020 Multivariate Statistical Methods Ⅱ(必修・火曜9-12時  Stata実習 火曜16-17時30分) :多変量解析。先学期のⅠの続き。先学期は基礎統計学を一通り勉強した後、重回帰分析の諸々とそのStataでの応用にひたすら時間が当てられていてとても簡単だった(ただし、日本で受けていた授業よりもしっかり体系化されていて将来社会調査を教える可能性を考えるととても役立った)。まだシラバスが出ていないので詳しいことはわからないが、おそらく今学期のⅡでは制限従属変数を用いた諸々の分析とそのStataでの応用をやるようだ。要するに二項・順序・多項ロジスティックモデルや、プロビットモデル、トービットモデル等を一通り学習するものと思われる。欠損値の処理の方法(多重代入とか)もやるっぽい。先学期に比べると少し重い内容になりそう。先学期も移民研究で比較的有名な教員が教えていたが、今学期は移民研究でさらに有名な教員が教える。

SOC 2210 Qualitative Methods(必修・月曜14-17時) :質的分析の方法論を教える授業。体系的に質的分析の方法論を勉強できた記憶がないので、期待しているが、まだシラバスが出ていないので何をするのか不明。リーディングがたくさんある模様で、若干不安。担当教員は若手の助教。

 SOC 2230 Techniques of Demographic Methods(選択必修・火曜13-16時) :人口学の分析の技法を教える授業。僕はブラウンの人口学研究センターの研修員としての身分も持っているので事実上の必修となっている。生命表の作り方とか、将来人口推計の手法等を実践的に学ぶことになる模様。一番面白そうな授業である。担当教員は先学期に多変量解析Ⅰを教えていた移民研究のシニアの教授。

以上、近況と今学期の予定。また時間ある時に更新します!

2017年11月19日日曜日

米生活ログ(3) 徒然なるままに

最近更新が途絶えていたのだが、生存報告。ひたすらコースワークのリーディングをこなしていく毎日である。最近の出来事や思っていることを徒然なるままに箇条書きで以下に記しておく。

・日本から送った荷物(箱2つ)が届かない。8/15に東京から船便で送ったものである。3ヶ月経ったので、さすがに痺れを切らして日本へ電話して調べてもらったところ9/26に米に到着しているが、その後の行方がわからないらしい。調査請求をする予定である。専門書がたくさん入っているので紛失となるととても残念である。あないみじきことである。

・コースワークの面白さは人口学>多変量解析>社会学諸分野のサーベイ>古典的社会学理論。多変量解析は教員が数学的な解説も丁寧に加えてくれるのでこれまでふわっとしか理解していなかったことがよりしっかりと定着してくる気がする。Waiveしなくて本当に良かった。

・中間テスト、中間レポートのシーズンが終わり、期末に向けて一直線。中間テスト、中間レポートは一応全て問題なくPassした。社会学の諸分野をサーベイする授業の中間レポートが担当教員に気に入ってもらえたようで、とても肯定的なコメントがしてあり、嬉しかった。一番苦しんだのは古典的社会学理論の中間レポート。それだけで丸三日費やし、他の授業の課題がおろそかになるほどだった。マルクス、デュルケーム、ウェーバーをそれぞれ比較しなければならなかったのだが、英語で彼らを読みこむのにとてもとても時間がかかったからである。今週からはデュボイスという黒人社会学者に突入なのだが、原典が英語で翻訳ではないことや、時代が比較的近いこともあり、とても読みやすくて嬉しい。

・トランプ政権下で与党の下院共和党が大学院生の学費免除を課税対象から外す特別措置の撤廃を検討しているらしく、当該税案が下院を通過してしまった。これが来週以降に上院も通過するとアメリカの高等教育は大打撃を受けることになる。特にアイビーリーグは名目上の学費が高い(年5万ドル前後が学費として計上されて、PhDのほとんど学生は自動的に全額免除される)。これまでは生活費として支給される年3万ドル程度だけが所得とみなされ課税されていたのだが、下院共和党案では所得とみなされる額が8万ドル(=5万+3万)に増えるので、課税額が大幅に増えそうだ。1ドル=100円として計算すると、これまでは年間所得300万円として課税されていたのが、一気に年間所得が800万円あるものとして課税されることになるということだ。上院でなんとか修正されることを願っている。

・所属する教会を探して2ヶ月ほど日曜日ごとにいろいろな教会の礼拝に参加してみた。もちろん、アメリカのキリスト教のことをもっと理解したいという知的欲求も背景にあった。米国聖公会2つ、米国長老教会(PC(USA))、米国合同教会、クエーカーの集会、Non-Denominationalな福音派の教会2つである。ちなみにクエーカーの集会はかなり熱心なクエーカーの大家さん夫婦に誘われて出席した。大家さん夫婦はアメリカ国旗への宣誓は偶像崇拝だと考えているようだった。日本のキリスト教の歴史的文脈では珍しくない考えかもしれないが、アメリカだとかなり珍しいと思われる。さすがクエーカーである。

結局、最近は家から一番近い長老教会に落ち着いている。黒人の牧師先生だからか、黒人の方が多い。またブラウンの教職員・学生も多く、今日は昼食時にブラウンの歴史学の教員が隣の席に座っていた。私はプロテスタントのとある教派の家庭で育ったのだが、多くの若い世代と同じく、祖父・親世代のようには特定の教派への拘りを強くはもっていない(拘りを持ちたいと思うことはあるが、強い理由が見出せない。)。もちろん、自分のパターンと真逆で、Non-Denominationalな教会(特定の教派に拘らない福音派の教会)で信仰をもったが、現在ではかなり明確に改革派神学を支持しているというブラウンの中国人大学院生と仲良くなった。プロテスタントの若い世代が全て教派に拘っていないというわけでもない。




2017年9月24日日曜日

米生活ログ(2)コースワーク開始とその他諸々

入学式の次の日の9月6日からコースワークが開始され、現在は3周目に終わったところである。

1. オフィスの様子


オフィスの机
自分のオフィスは社会学部の建物の一階にあり、他3人のPhD1年生とシェアしている。机はこんな感じで仕切られている。勉強・研究はなるべく仕事と割り切って、オフィスでするようにしたい(ちなみに本日は休日だが、午後から大学に来て課題を終わらせる予定)。

PhD1年目は全員このようなオフィスと机が社会学部にあてがわれるが、2年目以降はそれぞれの社会学部以外の所属先(人口学研究センターなど)にも机がもらえて、そちらに移る人も多いらしい。

2. 同期


ブラウンの社会学研究科は通常毎年約10名以下の入学者なのだが、今年は15名の入学者がいて、ここ数年では最大級のコーホートとのこと(毎年200名程度が出願、20名程度に合格を出して、約10名が来るようなのだが、今年は想像以上に蹴る人が少なかった模様。おそらく今年からFundingの条件が大幅に改善したことが関係している)。

留学生は自分を含めて7名いて、メキシコ1名、中国3名、インド1名、日本1名、ケニア1名。ただ、7名中5名が学部か修士で英米の教育機関(MIT1名、コーネル1名、LSE2名、シカゴ2名)を出ていて、純粋に非英語圏の学位持ちなのは僕ともう一人の同期(学部も修士も中国人民大)だけである。留学生の同期の英語力だが、一番英語で苦しんでる同期でもTOEFL110は持っていたので、英語でのCut offは大学公式HPに書いてあるものよりもかなり高いところでなされている気がした。

全体では学部卒と修士卒で半々だった。年齢は22から30代前半くらいまで。修士課程を経ないで学部卒で入学してきているのはハーバード、コーネル、コロンビア等のアイビーリーグ卒の学生だけだったのも印象的だった。やはり大学ブランドは大きく物を言うらしい。


3. 履修登録決定


履修登録が決定した。基本的には1つの学期には4つのコースの履修が求められる。ブラウンの社会学PhDプログラムでは1年目は秋学期も冬学期もほぼ必修で固められており、それぞれの学期に選択できるのは1つだけである。経済学PhDでは1年目は全て必修らしいので、それに比べると自由度が高い方かもしれない。ちなみにコースは以下の通り。


【必修】
SOC2040 Classical Sociological Theory(社会学の古典理論・必修)

月曜午前9-12時。名前からわかる通り、社会学理論の古典を学ぶ。課題文献が毎回膨大で、しかも古典(17c-19c末くらいまでが中心)で、かつ毎回リアクションペーパー提出の必要があるので今学期最も苦しめられるコースだと思う。とりあえず先週まではロックやホッブスやスミス、今週はひたすらマルクスを読んでいる。予習に予想される時間は毎週8時間くらいだろうか。再々来週くらいからはデュルケームのようだ。

教員は3年前にブラウンに来た若手のAssistant Professorで、経済社会学が専門。

SOC2430 Fields and Methods of Social Research(社会学研究の分野と方法・必修)

月曜午後2-5時。位置づけがイマイチわからなかったのだが、要するに社会学の各下位分野をサーベイするとともに、主要な方法論をざっくりとつかませるための演習らしい。例えばある週は「組織論と官僚制/Small NとMiddle N」、次の週は「家族と再生産/クロスセクションデータからパネルデータへの展開」みたいな感じで進んでいく。リーディングの量は圧倒的に多いが、古典と比べると、読みやすい論文(1960年代以降から現代)が多いので苦痛ではない。

教員は結構有名でシニアな歴史社会学のProfessor。かなり実証主義的なマインドセットの先生で、手法も計量に寄っていて、おそらく歴史社会学者の中では珍しいと思う。長らく前任校で政治学とのdual appointmentを経験している模様。

SOC2010 Multivariate Analysis I(多変量解析I・必修)+Stata Lab(Stata実習)

火曜午後1-4時と木曜午後6-8時。このコースは多変量解析の基本(回帰分析の諸々)と統計ソフトStataの入門的実習である。なお来学期のⅡはもう少し高度になって、パネルデータのモデリングとかもやるようだ。かなり初歩的な演習なので免除申請しようか迷ったが、これを免除申請すると他のコースを取らなければならなくなり、リーディングが大変なことになるので思いとどまった。簡単だと思っているのは自分だけではないようで、ほとんどの同期がStataにもある程度習熟しているし、授業の内容もほとんど知っているという感じだった。LSEで社会調査法の修士号を取得している同期はさすがに免除申請していたが、シカゴで社会学修士をとっている同期などは大人しくもう一度受けることにしていた。

教員はシニアで移民の人口学の分野では有名なProfessor。授業中に使うデータがアメリカの移民研究者が用いるデータばかりなのでそこはかなり勉強になる。

【選択必修】
SOC2080 Principles of Population(人口学理論・選択必修
火曜午前9-12時。人口学理論の基礎について学ぶコース。ブラウンの社会学部は伝統的に社会人口学が強みなので、今後は人口学アプローチもしっかり学んでおこうと思って履修している。人口学の分析方法の細かいことではなく、社会学における人口研究のざっくりとしたサーベイで、来学期の人口学Methodの授業で分析方法を学ぶとのこと。

教員は中堅のProfessorで、人口学が専門。アフリカの出生率の研究をメインにしている模様である。






2017年9月16日土曜日

米生活ログ(1)新居での生活と入学式まで

これから米国での生活の定期的な記録をつけてみることにした。ブログなのでパーソナルなことはあまり書けないが、覚えておくためにも良いと思っている(自分のために日記を書いてもいつも三日坊主に終わるので)。

1. エジプト学ハウスでの生活


新居
新生活は落ち着いて来た。ブラウン大学から北に歩いて15分くらいの高級住宅街の大きな一軒家の三階の一部屋を間借りしている。家をシェアしている他のメンバーは7人ほどいて、中国人のおじさん一人を除いて、全員ブラウンのPhD課程の留学生(オランダ人1名、イタリア人1名、スペイン人1名、ロシア人1名、イギリス人2名)である。そして、自分と下の階のイギリス人女性(現代文化・メディア学専攻)以外はエジプト学・アッシリア学・考古学専攻の博士課程の大学院生であった。ちなみに家は二世帯住宅のような構造になっており、大家さん夫婦も住んでいる。旦那さんの方がブラウンの古代史専門の司書さんで、息子さんがブラウンのエジプト学・アッシリア学部で博士号を取得された繋がりで、この家にはブラウン大学のエジプト学、アッシリア学、考古学の博士課程の学生が住んでいるとのことだった。リビングはエジプト学とアッシリア学関連の本で溢れており、会話もエジプトの碑文の解読とかの話題が多い。ちなみに先日庭で開催されたハウスメイトのBBQでは近所のおじいさんだと思っていたゲストがアラン・ジェームズ教授という古代エジプト研究の世界的権威らしかったので、エジプト学者にとっては素晴らしい環境だと思う(裏をとるためにwikiで調べたら6ヶ国語でエントリーがあり、国際エジプト学会の元会長だったので誇張ではないようだ)。

2. オリエンテーションとメール作法ワークショップ


到着後すぐに参加必須の留学生向けオリエンテーション(8/24-25)と米国での生活に関する参加自由のワークショップが入学式前に数日間(8/28-8/31)ほどあった。東大では考えられないほど丁寧なオリエンテーションで、2日間毎日朝ごはんと昼ごはんが提供され、全博士課程の留学生が集められて、様々な説明を受けた。色々驚いたが、夜は電話すれば大学のシャトルがキャンパスの現在地に迎えに来て、各自の家の前まで送ってくれること、大学の保険センターは無料で、留学前に日本で接種した数万円分の予防接種も全て無料だったこと(日本で接種したのを激しく後悔)、図書館の本が無制限に借りれ、延長も何回でもでき、かつ他のアイビーリーグ(ハーバード、イェール等)の図書館の本も無料で取り寄せられることなどである。ワークショップは細かいものが多く、その中でも米アカデミアにおけるメールの作法に関するワークショップは勉強になった。かなり細かい暗黙のルール(e.g. メールで名乗る時はI am...ではなく、My name is...がベター)や、アジアからの留学生がよくやる「先生を褒める挨拶」や「謙遜する表現」がマイナス効果になることなどを注意された。例えば以下のような文章は不適切で、アメリカのアカデミアでは真摯(genuine)ではないと受け取られるらしい。

不適切事例1:I appreciate your wonderful and amazing classes.
不適切事例2:You are a kind and generous professor for taking time to meet with me.
不適切事例3:I humbly request that you meet with me to discuss my questions.

米で礼儀正しくコミュニケーション取るためには、褒めたり、謙遜したりするのではなく、wouldやcouldを多用せよとのことであった。

3. 入学式とポカノケット族


ブラウン大学入学式の様子
ポカノケット族の抗議
入学式(Convocation)はブラウン大学の芝生で9/5に行われた。Van Wickle Gateという入学式と卒業式の日にしか開かない名物の門(東大でいう赤門)があるのだが、そこから全員が入場して、Main Greenというブラウン大学の中心にある芝生の広場で学部、大学院の入学生全員が一度に集められて執り行われる(東大は人数が多すぎて学部、大学院の入学者全員が一度に集まれる場所などないので新鮮だった)。

大学の外ではブラウン大学の土地の領有を主張し、大学の土地の一部を占拠中のネイティブアメリカンのポカノケット族が抗議していた。総長演説ではポカノケット族の抗議を民主主義社会における平和的なデモ行動の良い事例として取り上げていて、対応のうまさに関心するとともに、少し上から目線だとも感じた。

以上、最初の10日間ほどのダイジェスト。また数日ごとに記録をつけておきたい。




2017年8月29日火曜日

社会学PhD出願の記録(7) 合格後のtips


1. 前置き


ブラウン大学で一番古いHallらしい
(投稿の内容と直接的関連性はない)
米国社会学PhD課程への出願について色々と書いてきたが、そろそろ出願に関する投稿シリーズも終わらせて現地での生活や研究や趣味について書こうと思っている。ただ、合格から進学先を決めるまでの私なりのアドバイスをまとめておきたい。なお、これは私が得た情報や経験に基づくものであり、偏っていたり、間違っている可能性もある。このアドバイスのご利用は自己責任でお願いしたい。

2. 合格後のtips


米国社会学PhD課程では1月末から2月下旬にかけて合格が出る。合格するとまず大学から公式のメールが来る。その後、自分と研究関心があう教員数名から個人的なメールが送られてきて、Skype等で話さないかと誘われる。各大学は合格を出した学生に来てもらうことに必死である。だからこそ出願時に提出した論文等を絶賛されたり、なぜか経歴をひたすら褒められたりする(もちろんいい気分にさせるお世辞であろう)。

合格した日から4月15日までは合格している複数の大学の中から進学先を決める重要な期間だ。以下がアドバイスである。

(1)4月15日まで大学は「オワハラ」できないことを心得ておくこと


各学部は合格を出した学生に来てもらうことに必死だが、PhDの大学院生獲得競争過熱による「オワハラ」を防止するために4/15までは学生に進学先の選択を迫ってはいけないという協定を結んでいるようである。これは直接的には財政支援と関連してApril 15 Resolutionと呼ばれているようだ。教員にやんわりとオワハラされた場合でも、4/15までは決める義務はないということは頭に入れておこう(ただし、このApril 15 Resolutionに加盟していない大学院もあるかもしれないのでそこは調べた方が良い)。

少し面倒なのはイギリスやカナダの大学院にも同時合格していた場合である。4月15日というのはアメリカのメジャーな大学院間の協定なので、その協定に入ってない大学にとっては関係がない。例えば私の場合、カナダのトロント大学はウェイトリストに入ったままだったが、3月末ごろから「他の人に回答を急がせているので少し待って」的な連絡をされた。逆にいうと、ウェイトリストを経ずに合格した場合、4月15日よりも随分早く回答を迫られるのかもしれない。また、その他に合格した大学の中では、オックスフォード大学の回答期限は4月14日で、アメリカの大学院とほぼ同じ日に設定してあった。

(2)大学ごとに違う財政支援の内訳をしっかりと把握すること


どのPhD課程でも学費全額免除、医療・歯科保険、生活費が5年間支払われることは共通だが、これらの内実は大学ごとに大きく違う。しっかりと比較するべきである。特に前回の記事に書いた夏季サポートの有無、Fellowship期間の有無と年数、生活費総額、外部資金獲得のインセンティブの4点は確認しておくのが良いと思う。

(3)Recruitment Dayにキャンパス訪問をすること


合格すると合格者向けのキャンパス訪問に誘われる。3月中旬から下旬の特定の日が設定されていることが多く、一日中しっかりとプログラムが組まれている。Recruitment DayやVisit Day等と呼ばれることが多いと思う。この日には「なぜXX大学が良いか」をプレゼンされたり、大学見学があったりする。訪問のための航空券代やホテル代等は大学側に大部分が負担して貰える。進学先では最低でも5年間を過ごすことになる可能性が高いので、街の雰囲気等を含めて知るためにも、Recruitment Dayにはなるべく参加した方が良いと思われる。

また、Recruitment Dayでは教員や大学院生と面談もできる。指導教員と人間的にあいそうかや、大学院生から学部の「裏の事情」等を聞くのは重要だと思う。教員は綺麗事をいうが、大学院生は割と正直に話してくれる印象があった。

(4)Fellowshipとしての年数を伸ばせないかの交渉を試みること(もよいかもしれない)


大学からの財政支援の内容を合格時よりもより良い条件にするように交渉することも進学先決定までの期間(4/15まで)に行われる。

合格した大学からはほぼ必ずと言って良いほど他にどこに受かったか?("What other offers do you have?")と聞かれる。前回の投稿でも述べたが、額は同じでも、TA/RAとしてよりFellowshipとして生活費を支給してもらった方が自由度が高くて良い。第二志望の大学院にも合格していて、そちらでFellowshipが何年分か貰えており、もう一方の第一志望の大学院ではFellowshipが貰えていない場合、その旨を伝えて、1年目や2年目のTA/RAとしての生活費の支給をFellowshipとしての支給に変えてくれないか聞いてみるのはよいのではないか、と思う。もちろん、要望が通るかはわからないが、聞いてみることで損はないだろう。私の場合、外部資金獲得によるIncetive PlanのFellowshipなども合わせて、2年分のFellowshipを4年分のFellowshipにまでしてもらうことができた。

なお、毎月の生活費の額を上げてくれるように交渉した旨をオンライン掲示板(英語)でみたことがあるが、本当にこのようなことができるのかは不明である。僕の感覚からは無理なのではないかと思うし、あまりにgreedyな人間に見えるのも入学後の印象が良くないと思うので、PhDレベルではそのような交渉はお勧めできない(トライしてもみても良いかもしれないが、こういうのは教員になってからするものな気がする)。また、Fellowshipに関しても合格時にFellowshipが1年も約束されていないのに、一気に3年分をFellowshipに変えてくれというような要望は通らないのではないかと思う。

正直なところ、現地の感覚がわからないので、合格後の交渉はかなり難しい。無理に交渉する必要はないと思う。


社会学PhD出願の記録(6) 大学ごとの財政支援の違いについて



[2022年追記]:5年間でのインフレ調整や各大学の院生労組結成による影響で多くの私立大学の大学院生に対する給与は年間合計40000ドル程度まで上昇している。また学期中と夏季休暇中のサポートに額の違いを出さないところも出てきている。最新の情報を各自入手された方がよい。

1. 前置き


ブラウン大学の赤門的なサムシング
(この投稿の内容とは直接的な関係はない)
先週の8月21日(月)に渡米し、入学前オリエンテーション等で1週間が一瞬のうちに過ぎ去った。本ブログでは5回に渡って米国の社会学系のPhD課程出願に必要な情報を書いてきた。入学を控えてPhD出願について書くモチベーションが下がってきたのだが、大事なことだと思うので、本日は米国大学大学院の財政支援について書きたいと思う。なお、本ブログの留学に関する事項の諸注意(米国社会学PhDに関してで、必ずしも他のディシプリンの事情を反映しない)についてはこの記事の前置きを、私のプロフィールについてはこちらをご覧いただきたい。

2. 米国PhDの財政支援


まず1回目の投稿で書いた基本からおさらいしておくと、米国の上位大学院(USNewsRankingで30位以内くらい)の社会学PhD課程のほとんどでは5年間の学費、生活費、授業料、医療・歯科保険の奨学金の支給が約束される。もちろん、これは返済不要である(注1)。多くの大学の社会学研究科のホームページに「私たちはPhDの大学院生に対し、5年間全額サポートします」("We provide PhD students with five years of financial support")というようなことが書いてある。

ただし、5年間全額サポートと言ってもその内実が大学によって異なることに合格後に気付いた(合格時に届くレターにサポートの詳細が書いてあり、それ以前に情報を得ることが難しいため)。以下、合格後にサポート内容を比較したり、Visiting weekで他の大学院に合格した方々と話していてわかった大学ごとの違いを(1)夏季サポート、(2)Fellowshipの有無、(3)生活費総額、(4)外部資金獲得のインセンティブの4点にまとめて述べたい。

(1)夏季休暇期間中のサポートが保証されているかどうかが異なる。


米国大学院の5年間の財政支援(five years of full financial support)の「5年間」は大学によっては「5学年間」(five academic years)を意味することがある。多くの大学院が9月に始業して、5月に学期を終えるため、1 yearで9月から5月の8ヶ月間という意味だ。

夏季休暇期間中(6-8月)の財政支援はSummer Supportなどと呼ばれ、学期中のサポートとは別のことが多く、Summer Supportが保証されている大学とそうではない大学がある。とはいっても、ほとんどの上位大学で6-8月の夏休み期間中もサポートをほとんどの学生がもらえているようなのでそこまで心配しなくても良いかもしれない。

例えば、ブラウン大学ではPhD課程の全合格者に"five academic years"と"four summers"(注2)分の給与が保証されていたのに対し、合格をもらったその他の大学では夏季休暇中のサポートが保証されていないところがあった。よって、ブラウンは比較的サポートが良い大学なのだと認識している。ただし、学期中の給与が月額最低3000ドル程度であるのに対して、夏は3ヶ月合計で最低5000ドル程度(月額1650ドル程度)であったので、夏の方が給与が低い計算となる。

(2)TA/RAとしての支給かFellowshipとしての支給かどうかが異なる。


同じ額が約束されていても、それがTAやRAとして支給されることになっているか、Felowshipとして支給されることになっているかで大きく違う。TAやRAはご存知の通りTAやRAとして働くことであるが、Fellowshipの場合、働く義務はない。まだやったことがないのでTAやRAがどの程度面倒なのかは不明だが、義務がない方が良いのは確かだろう。

ブラウンの場合、PhDの1年目と5年目は全員Fellowshipとしての支給が確定している。ただ、ブラウンのような大学は限定的で、Fellowshipによる支給が約束されるか、TA/RAによる支給が約束されるかが入学時の評価によって変わってくるところもあるようである(この場合、Fellowshipをもらえる方が評価されているということになる)。例えば、私が合格をもらっていた別の州立大学では、1年目のFellowshipは全員に約束されているわけではなく、一部の学生だけに対するものであった。私は合格時にはこの1年目のFellowshipの約束はなかったが、進学先を迷っているという事実を伝えた2週間後に「あなたは優秀なので1年目をFellowshipにします」という旨の連絡がきた。おそらく先にFellowshipを与えることにしていた私より評価されていた学生が蹴ったので、次点候補の私にFellowshipを回して、入学するインセンティブを高めようとしたのだと思う。

なお、上記では1年目のFellowshipについて言及したが、より良い条件の場合、Fellowshipが2年目以降にもつく場合があるであろう。また入学後に学内Fellowshipに応募して2年目や3年目にFellowshipをつけることも可能なようである。下記にも書くが、私は色々と好条件が重なって現段階でFellowshipが4年間、TA/RAが2年間の合計6年間分の財政支援が約束されている。

(3)授業料と医療/歯科保険を除いた生活費総額が異なる。


米国では大学によって学費が大きく違う(私立だと年間500万円前後、州立大学への留学生だと200-300万円前後だと思う[2022年追記:インフレ、円高により私立で年間800万前後、州立で400−500万程度になっている]が、PhDプログラムの場合、授業料・医療/歯科保険は形式的にかかってくるだけで結局は大学側が全額負担してくれるのであまり考慮する必要はない。

考慮すべきは支給される生活費総額の違いである。これも大学によって大きく異なり、現地物価も含めて、しっかりとリサーチする必要がある。ちなみにブラウンは授業期間8ヶ月(9月-5月)が合計で25000ドル程度、夏季休暇中が合計5000ドル程度で年間30000ドルだった。私が合格していた別の州立大学は年間20000ドル強だった。なお、ブラウンは高い方だとは思うが、中には40000ドルに近づく大学もあるらしいので上には上がいる。[2022年追記:インフレ調整、労使交渉で博士課程の給与は年35000-45000ドルが標準になりつつある。] お金を稼ぐためにPhDをやるわけではないだろうが、私費での研究書購入のことや、日本への帰国時に必要なお金を考えるとお金に余裕があった方が良いであろう。また家族がいる場合、家族を養うのも大切である(私は独身で気楽だが、家族同伴のPhD大学院生はかなり多い)。生活費総額は大学間で年間5000-10000ドル程度の違いが出てくると思われるので、合格後にしっかりとリサーチされたい

(4)外部財団の奨学金を獲得した際の対応が異なる。

日本から出願される場合、合格前あるいは合格後に外部財団の奨学金を獲得される方も多いのではないかと思う(私も外部資金を獲得した)。前回の記事で外部財団奨学金獲得の事実が合否に影響を与えるかどうかは疑わしいので、「PhD課程への合否」という意味でのメリットは小さいと書いたが、外部財団の奨学金を獲得していると入学後に特典をつけてくる大学もあるので、外部財団奨学金を獲得するメリットは十分にある。

ブラウンやその他多くの米大学PhD課程では、比較的良好な生活費(年3万ドル以上)(2022年追記:2022年ごろからは、支給される生活費は3.5〜4.5万ドルが標準になってきている)が全合格者に対して5年間保証されているので、学生に外部資金へ応募するインセンティブを与えるために、外部資金を獲得した学生を特別に優遇するIncentive Planというのものが設けられている。Incentive Planの特典は色々とあるが、私にとっての一番大きなインセンティブは6年目にFellowshipが保証されるというものだった。社会科学系PhDはほとんどの人がPhD取得に6年かかるが、必ずしも6年目にサポートが保証されるとは限らないので、6年目が既に約束されているというのは大変安心できる。また、奨学金をもらっている期間中TA/RAが免除となりFellowとして扱われることや、外部財団の奨学金がブラウンがPhD学生に支給する額に満たない場合には大学が差額を補填(注3)してくれ、さらにそこに若干のボーナスを加えてくれることもあることなどがあげられる(もちろんであるが、大学に報告しないで外部奨学金と大学からの生活費の二重受給をすることは禁じられており、学生は外部奨学金獲得の事実を大学に報告しなければならない)。

なお、このIncentive Planがが存在しない大学もあるようである。外部資金を獲得できている場合、合格した学校の間でどのようなオプションがあるのかしっかりと調べることが重要であろう。

注1:アメリカでは奨学金(scholarship)とは返済不要のものを指し、返済の必要のあるものは学生ローン(student loan)と呼ばれるようだ。
注2: five summersではないのは、5年目の夏が始まる前に卒業しているはずのため。
注3:例えば年間3万ドルが大学から約束されており、その後に日本の奨学金財団から年間2万ドルの奨学金をもらうことになった場合、1万ドルの差額は大学が学生に対して支払うということ。ここに報酬として+αを上乗せする大学もある。日本の財団によっては、差額の支給に難色を示すこともあるので、規定等に注意を払って財団から許可をもらう必要がある。なお、獲得した外部奨学金が大学が当初約束している生活費を上回る場合は大学からの支給はもらえなくなる(しかしながらここまで良い生活費が出る奨学金は日本には存在しなく、アメリカの財団の奨学金を獲得する必要があるであろう)。


2017年7月26日水曜日

社会学PhD出願の記録(5)-今後検証が必要な米国PhD出願に関する都市伝説


1. 前置き


このブログではアメリカの社会学PhD課程への出願に関する情報を私の経験を基に執筆している。私のプロフールや連絡先はこちら、本ブログの背景や情報の利用の諸注意についてはこちらを参照のこと。前回までアメリカにおけるPhDとMAの違い出願校の決め方出願に必要な書類について記載してきた。

本日はアメリカPhD出願に関する都市伝説について書きたいと思う。ここで「都市伝説」とは、アメリカPhD出願者の間で広まっている情報のうち、情報が誇張されているか、情報の全部あるいは一部が間違いかもしれないと私が考えているものである。ここには、社会学以外の専攻やアメリカ以外の国にしか当てはまらない事実が、社会学やアメリカのPhDに一般化されて広まっているものも含まれる。もちろん、以下には部分的には正しい伝説もある。今後、日本からのPhD出願者の間で、より丁寧な事実確認や検証がなされることが望ましいと思っている。このためには日本で教育を受けた学生がアメリカのトップR1大学で教員となって、Admission Comitteeを経験し、情報共有する必要があるだろう。私の実力では向こうでPhDを取るだけで精一杯な気がするので、誰かこのブログを読んだ人の中でそういう優秀な人が出てくることを願っている。

検討するのは ⑴ 早く出願した方が合格しやすくなる、⑵ アメリカのPhD課程では全員に給料が出る、⑶ GREのVerbalは留学生には重要ではない、⑷ 外部財団の奨学金をもっていると合格しやすくなる、⑸ 出願先大学教員へ事前のコンタクトや訪問が必要である、の5つである。

2. 都市伝説


⑴ 早く出願した方が合格しやすくなる


この情報は、アメリカの社会学PhDに関していえば、ほとんどすべてのプログラムで当てはまらないので信用しない方が良い。おそらくこれはイギリスの大学院出願やアメリカの一部のTerminal Master課程の情報をアメリカPhDにも適用してしまったことによる勘違いだろう。アメリカのPhDでは明確な締め切り日(12月初旬ごろが多い)が決まっており、そこで出願を締め切った後に事務方が書類を整理して、Admission Comitteeの会議に一斉にかけるようだ。よって、締め切りまでに出せば、どれだけ早くても合否には特に関係ないと思われる。また締め切りに少し遅れても、Admission Comitteeの会議に間に合えば、審査してもらえる可能性もあるのではないかと思う(保証はできないが日本と違って交渉次第で融通がききそうである。ただ、心がけとして締め切りは守るようにしよう)。

イギリスでは、一部の大学院がRolling Admissionという方式をとっており、10月ごろに出願が可能となってから出願された順に審査して、5月ごろまでかけて枠を埋めていくところが多いらしい。つまり、一部のイギリスの大学院に限ってはこの都市伝説は正しく、より早く出願した方が有利になるようだ。【ただ、これも早ければ早いほど良いというよりは、審査の日付が複数回に分かれて決められているようなものだと私は思っている。例えば、10月ごろに出願可能となるオックスフォード大学社会学研究科は大学からの奨学金を得たい人のための締め切りが1月中旬に設定されており、それに間に合わなかった場合でも4月ごろまで出願できる仕組みだった。私はオックスフォード大学の締め切りギリギリ(1月中旬)に出し、3月初旬に問題はなく全額奨学金付きで合格をもらえた。大学院合格情報共有サイトでオックスフォードの最初の合格が報告されたのも同じころで、3月初旬以前に合格した人はいなかった可能性が高い。もしかするとオックスフォードが特別なのかもしれないが、例えRolling Admissionであったとしても早ければ早いほど良いというものではないだろう。】*

*【2017/7/27追記】:指摘があって調べたが、厳密にはオックスフォードのような方式はRolling Admissionとは言わないようだ。イギリスの大学院でもRolling Admissionは多くはないのかもしれない。

なお、アメリカでも、社会学のTerminal Masterプログラムでは、Rolling Admissionのところがあるらしい。アメリカと日本ではMasterとPhDの関係が異なるので十分に注意したい。


⑵ アメリカのPhD課程では全員に給料が出る


この情報は部分的に正しいが、いわゆる上位R1大学のPhD課程(30-40位以上くらい)に限ってのことであり、実際には学費のみが免除になって生活費が出なかったり、生活費を一部の大学院生にしか約束しない大学院もある。よって、出願時には出願先でFundingがどのようになっているかに細心の注意を払った方がいい。経験的には上位私立大学ではシンプルに一行で"We provide five-year funding for all admitted students"のように書かれてあり、怪しいところはやたら細かい条件が提示してあったり、"Many of our students recieve some kind of financial support"のような曖昧な表現に変わる。工学系や経済学のPhDだと、私費で進学しても、その後の民間への就職で金銭的リターンが見込める場合もあるだろうが、特に金銭的リターンが見込めない社会学・政治学や人文系のPhDをとるのに数千万円支払うのはおすすめできない。よく"Don't pay for PhD"というような表現を目にするが、アメリカ社会学に限っては全くその通りだと思う。外部財団から奨学金が約束されている場合は問題ないが、それ以外の場合に、奨学金(=生活費+学費)が出ないプログラムに進学するのは大きなリスクだと考えた方が良い。


⑶ GREのVerbalは留学生には重要ではない


GREのVerbalは留学生には難しすぎてそもそもできる人がいないので、選考側はあまり気にしていないという理論を聞いたことある人は多いのではないだろうか?この伝説は半分は真実だと思う。確かに留学生だからネイティブほどのスコアは求められないだろう。ただ、選考側が英語力を重視していないと考えてはいけないむしろ英語力は選考側にとても重視されており、GREやTOEFLでは大学が求める英語力が十分に測れずに問題になっている、というのが実情のようである。

PhDへの選抜プロセスを教育社会学的に研究したPosseltによると、アメリカのPhDプログラムではアジア(特に中国)からの留学生の英語力が大きな懸念となっているらしく、どの基準を用いれば留学生の英語力を正しく判断できるかに大きな関心が寄せられているという(Posselt, 2016 : pp.141-143)。TOEFLやGREが高くても参考材料にならないと考える教員が多いようだが、そのGREの点数でさえ低かったら英語ができないと推定されてしまうことは容易に想像される。GREのVerbalは難しいだろうが、やはり最低でも150点後半(70パーセンタイル以上)あった方が良いのではないだろうか。

なお、先のPosseltは良いGREやTOEFLのスコアだけでは英語力が判断できないため、アメリカの大学に在籍歴のある留学生が好まれるということを述べている(Posselt, 2016 : p.142)。これはアメリカでPhDを取得した私の大学院の指導教員も述べていたことで、PhDに不合格だったら、高額を払ってでもアメリカの1年制のMaster(Terminal)に進学して好成績をとり、その後にPhDにアプライするように勧められた(アメリカにおけるPhDとMasterについてはこの記事を参照)。まだ出願までに時間がある人なら、交換留学でアメリカの大学に行って向こうで良い成績をおさめるなど、TOEFLやGRE以外の部分でも、自分の英語力(+アメリカへの適応力)を証明する方法を考えることが重要なように思う。


⑷ 外部財団の奨学金をもっていると合格しやすくなる


アメリカの上位の大学院のPhD課程は合格者全員に5年間の全額奨学金(授業料+生活費+保険)を出すことから、大学側の合格者一人に対する経済的負担は相当大きい(1人に対して4000-5000万日本円以上の計算)。よって、それをいくらかでも外部資金でカバーできる出願者は選考において好まれるとされている。これは私も出願プロセスに入るまで信じきっており、だからこそ日本の奨学金に出願前に合格しようと必死で、実際に合格した。ただ、今から振り返ると、外部奨学金獲得がPhD合格に影響するというのはどこまで本当か疑わしく、ある程度の影響は想定されるにしても、一部で言われているように大きな影響があるかは疑わしいと思っている(もちろんないよりはある方が良いだろう)。

私がはじめに外部財団奨学金保持のPhD合格への正の影響を疑ったのは、いくつかの大学のオンラインでのPhD出願ページで明確に外部奨学金獲得の合否への影響を否定しているところあったことだ。外部奨学金を獲得していた方が有利であることを公言しないのは理解できるが、もしもインフォーマルに外部奨学金獲得者を有利に扱っているなら、わざわざ公式に否定する必要があるだろうか?

ちなみに私の場合、獲得した日本の某財団の奨学金は志望校を5校までリストしてよく、その他の大学に進学することになった場合には志望校変更の申請をしなければならないというルールだった。出願時に大学側に外部財団奨学金合格の旨を伝えて、財団側への志望校変更申請が事後的に不許可になった場合、虚偽記載として合格を取り消されるのではないかと恐れて、律儀に5校だけに奨学金合格を伝えた(今から考えると杞憂だった。全部に伝えても全く問題なかった)。結果は、奨学金合格を伝えていた5校は全て不合格となり、奨学金獲得について何も伝えなかった9校のうち3校に全額奨学金付きで合格した。もちろん、志望順位上位の5校の方が選考が厳しかった可能性は十分にある。また、奨学金獲得を伝えることが不利に働いたことはあり得なかった(=伝えないよりは伝えた方が良かった)と思っているが、少なくとも私にとって奨学金獲得と合否は関係がなかった。また、私が知っているPhD出願者の中にもそれぞれの経験から、奨学金合格との関連性を疑問視しておられる方が何人かいる。

もちろん、外部奨学金に受かっていると入学後に様々な特典があるので、受かっておくことに損はない。またもし受かっているのなら、とりあえず出願時にその旨を伝えた方がいいのは確かだろう(伝えることで何もデメリットはなさそうだ)。ただ、現段階の私の考えは、実際に外部奨学金獲得の事実がPhD合格へ正の影響を与えていたとしても、それは大学が出願者へのFundingを減らせるという大学への経済的効果で説明されるよりは、フルブライト奨学金等のセレクティブな奨学金に合格していることによる出願者のポテンシャルのシグナリング効果によって説明されるべきものなのではないか、というものである。

これから出願する人にとって重要なのは、例え外部奨学金に合格していなくてもPhDプログラムに合格できるし、逆に外部財団の奨学金に合格していてもPhDへの合格が保証されるわけではないということである(私以外にもフルブライトや各種日本の財団の奨学金獲得者をたくさん知っているが、多くの人がたくさんのPhDプログラムに落とされている)外部奨学金を持っていることに越したことはないが、例えダメでも、諦めずに出願してほしい。外部奨学金に関しては大学や研究科によっても大きく方針が違うだろう。アメリカの大学のAdmission Commiteeの内情を知っている人がいたら今後是非教えて欲しい。

⑸ 出願先大学教員へ事前のコンタクトや訪問が必要である


結論からいうと、アメリカの社会学PhDの場合、指導教員候補への事前連絡や訪問はなくても大丈夫なところの方が多いようだ(理系とはここが大きく異なる!)。もちろん、連絡してもマイナスになることはないだろう。私の場合、第一志望のUCバークレーの先生とのみ、私のことをとても評価して下さったドイツ人の先生(ベルリンで繋がった)に紹介されてコンタクトをとった。だが、バークレーは不合格となり、最終的に合格した全ての大学院の教員とは事前連絡を取ったことがなかった。バークレーの先生と連絡を取った際には私の論文に丁寧なコメントを下さって感動したが、「今年はAdmission Committeeのメンバーではないので出願に関しては何もできない」と告げられた(真偽は不明だし、仮にメンバーだった場合に私の益となるように何かしてくれたのかどうかはわからない)。

そもそもアメリカの社会学PhDでは事前の連絡を推奨していないところが多い(但し、UNC Chapel Hillのように一部で事前連絡を推奨しているところもある)。基本的には合格後のRecruitment Weekに訪問を要請されて、そこで教員と面談をする設定である。例えばハーバード社会学研究科のFAQのページにはこのように記載されている。

In the interest of treating all applicants equally, the Sociology Department at Harvard University has a policy of not scheduling meetings between faculty and prospective doctoral students until admissions decisions have been made.

また、例え強力なコネがあったとしても、社会学PhDは社会学研究科としてコーホートのバランス等も考えてPhDを受け入れるらしい(教員と学生の一対一ではない)。よって、コネがあり出願者のことを高く評価している教員がAdmission Comitteeにいてもできることは限られてくるのではないかと思う。もちろん、Admission Comitteeに入っていない教員も選考プロセスに関われる大学もあるようであるが、基本的には入学はAdmission Comitteeに最終権限があるようだ。

もちろん、連絡を取ってみることに損はないだろう。だから、連絡とってもいいかもしれない。ただ、10校程度に出す場合、出願校全部には必要ないかもしれない。また、返事がかえって来なくても落ち込まないようにしよう。

なお、イギリスや大陸欧州の社会学PhDの場合、事前のコンタクトは重要だと聞いた。またアメリカでも、理系では事前コンタクトが必須のところがあるらしい(各プログラムというよりはラボとの関係になるため)。よって、自分が受ける国やプログラムの実情を調べた上で、連絡するかどうか決めることが重要だと思う。なお、年配の先生方のお話を聞いていると、アメリカの社会学PhDもかつてはもっと一教員の裁量が大きい時代もあったのではないかと思うことがある。PhD選抜の歴史に詳しい人がいたら教えて欲しい。

<参考文献>
Posselt, J. R. (2016). Inside graduate admissions: Merit, diversity, and faculty gatekeeping. Harvard University Press.